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世界中の本好きのために

夏野剛

Profile

1988年早稲田大学卒、東京ガス入社。95年ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン)卒。ベンチャー企業副社長を経て、97年NTTドコモ入社。99年に「iモード」、その後「おサイフケータイ」などの多くのサービスを立ち上げた。2005年執行役員、08年にドコモ退社。現在は慶應義塾大学政策メディア研究科客員教授のほか、ドワンゴ、セガサミー、ぴあ、トランスコスモス、GREEなどの取締役を兼任。World Economic Forum “Global Agenda Council on Social Media”メンバー。客員教授を務める慶應大学政策メディア研究科では「ネットワーク産業論」をテーマに講義する。2001年ビジネスウィーク誌にて世界のeビジネスリーダー25人の一人に選ばれる。

Book Information

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変化を恐れず、「即決」し続けることで道は開ける



夏野剛さんは、NTTドコモでiモードの企画を手がけるなど活躍。数々の企業の役員を歴任し、情報通信業界の第一線で培った見識を各社の経営にも生かされています。また慶應義塾大学大学院の客員教授としての後進の育成、幅広いテーマでの言論活動も注目されています。夏野さんに、重責のある膨大な仕事を並行して行う方法、人生観、また電子書籍を含めた本や出版業界についてのお考えを伺いました。

仕事は持ち帰らずその場で判断する


――多くの企業で役員をされていますが、普段のお仕事はどのようにされていますか?


夏野剛氏: 上場企業5 社を含めて、取締役を複数兼務しているので、スケジュールに応じて移動は欠かせません。

――それでは決まったお仕事場所というものはないのでしょうか?


夏野剛氏: ないですね。プロジェクト会議やそれぞれの役員会議に出席したり、頂いた取材の対応など、スケジュールにあわせて仕事場は変わっていきます。執筆などは、自宅も含めてオフィスが3つあるので、そのいずれかでやっています。例えば1時間空いた時に、その時に一番近いオフィスに行って執筆するという感じですね。

――オフィス同士の情報の共有などで、電子ツールを駆使することになりますね。


夏野剛氏: 常にiPad miniを持っているので、移動中はブラウジングで情報収集したり、メールの返信、Twitter、Facebookで気になったことを発信したり、飲んだワインをアップロードしたりしています。3カ所のオフィスにはそれぞれMacBook Airが置いてあって、Gmailや、クラウドで全て環境を整えてあります。ローカルディスクには何も置いていないので、全く問題なく仕事ができます。

――様々な企業での仕事を並行して行う特別な方法はありますか?


夏野剛氏: 持ち帰らないで、その場で判断するということです。会議の中で出てきた情報に基づいて、その会議中に即決する。5 分で判断できないようなことは、5時間かけたって判断できないものです。なぜ判断できないかというと、情報量が不足しているか、本当にどちらがいいか分からないケースです。判断材料不足の場合は、判断材料がそろうまで考えるのを一時延期と決めてだらだらと考えない。どっちがいいか分からないものであれば、極端な話、サイコロを振っても構わないくらいです(笑)。

――判断材料となる情報は、常日ごろ準備しておかないといけないのですか?


夏野剛氏: 判断を迫られる相談を受けている時、僕がその情報をそろえる必要はないですね。相談してくる時点で、クライアント側が資料を用意しています。そこで、気になったことはその場で解決するということにしているので、iPad miniのLTEでTwitterやFacebookなど、あるいはインターネット上の様々なメディア、新聞記事などをその場で検索して、情報を集約、精査して自分の頭の中のデータベースにおとしこむ。一番強力なのはTwitterでしょうね。Twitterで、自分が非常にリスペクトしている人たちをフォローしているので、その方々がどんどん新たな情報を教えてくれるから、全く問題がない。情報は持っている間に腐ってしまいます。自分も忘れてしまう。だからメールも後で返そうと思うと忘れますので、すぐに返信します。

――「即決」する仕事のスタイルはどのように身につけたのでしょうか?


夏野剛氏: iモードをやっている時も、いわゆる定型業務ではないので、仕事がどんどん膨らむんです。そうすると時間をかけて裏取りして、部下のやったことを二重チェックして、ということはできない。部下のマネジメント方法も、できるだけ大きな単位で任せて、自分なりに考えて進めてもらう。僕が考えた通りにやってもらおうとするとチェックが必要になるので、ゴールを設定して大きな単位で任せて、パフォーマンスが残せない人はなるべく早くポジションを変えて、成果で判断をするということを徹底していました。僕はドコモ在籍中も自分で作った会社で10社ぐらい取締役を兼務していましたから、このように決断して前に進めないと仕事が回らなかったし、そうすることによって大きな成果を出せることを実感しました。
サラリーマンでも、ベンチャー企業の経営でも、いろんな経験の中でどれも仕事の本質は変わらないということを体感しました。自分がサボったらサボっただけだめなんです。「ベンチャーだからこう」とか「大企業だからこう」なんていうのもない。要は自分がどれだけやるかが全てです。時間があってゆっくり考えて出した結論と、5 分で即決したことの違いもないというのを各所で感じて、それで今こうなっているということではないでしょうか。

――誰に教えられたわけでもなく、自然に出来上がっていったものなのですね。


夏野剛氏: 「仕事術」とか、通り一編のものはあまり好きじゃないんです。仕事のやり方も個性の1つだと思うので、人のやり方を真似ても絶対うまくいかないと思う。自分なりに一番効率が良くて成功率が高いやり方を、試行錯誤していくことだと思うんです。僕の場合は、今のやり方が一番成功率が高いです。それも後から振り返って「ああ、そうだったんだな」と思うぐらいで、あまり意識もしていません。

――大きな決断が迫られる節目もいくつもあったのではないですか?


夏野剛氏: 節目はたくさんあります。大事なことは、変化を選ぶか、選ばないかでいうと、必ず変化するほうを選択していたことです。ドコモを辞める時も、「辞めないでいれば、安定していてそれなりにいいかもしれないけれど、変化するほうを取ったほうがきっと幸せだ」と思いました。後で後悔したくありません。人生の目標は何かというと、たぶん死ぬ間際に「まあ、これ以上は、もうやりようがなかったな」と思えること。ですから、辞めてだめでも、辞めたほうが後悔しないだろうなと思うわけです。環境が変化しているので、今と10年前では働き方そのものが全然違うのに、全く同じように働いていたらそれは「退化している」ということです。

Twitterの「まとめ」に見る電子書籍の可能性


――環境の変化というお話がありましたが、出版業界では電子書籍の登場が大きな変化として語られています。電子書籍についてはどのようにお考えでしょうか?


夏野剛氏: 日本の出版業界はやっぱり電子書籍への対応が遅れましたよね。でもユーザー側から見れば、書籍が電子化されなくてもほかに楽しいものがいっぱいあるので、そういう意味では「ご自由に衰退してください」という感じです。なくても生きていけるので。

――出版業界が電子書籍にうまく対応できていないとすれば、理由は何でしょうか?


夏野剛氏: できないっていうのは、本当にできないのではなく、やる気がないということだと思います。特にリーダーはやる気になれば何でもできますからね。本気じゃない人は職を変えたほうがいいと思います。仕事は本気で取り組んだ時に最も充実感があって、そして後悔しないと思います。「本当はやりたい」とか言いながらやらないという人は、結局本気じゃない。
僕は出版業界の人間ではないので、一般的に言うと、別に出版社側が電子書籍が嫌いなら、もう別にそれでいいんじゃないかと思います。Twitterが出てきて、本より面白いじゃないですか。本を書くのは半年とか1年後なのに、ある物事に対してこの人はこう感じたとか、リアルタイムで共感できるので、こんな素晴らしいことはない。しかも無料で。
だけど、電子書籍には実はすごく可能性があって、Twitterには、Twilogとかツイナビで、まとめたものっていうのは価値があるわけですよ。だから電子書籍化して、書物の形でパッケージとしてまとまったものはすごく価値があると思います。だからどんどん取り込んでいったらいいと思いますね。

――紙と電子は対立概念として語られますが、どう思いますか?


夏野剛氏: 敵対というのが、僕は全く分からない。新しい物が出てくるとすぐ敵だとか味方とか、そういうのは意味がないと思います。国で閉じこもっているならまだいいですけれど、自分の仕事に閉じこもっているだけですから、それは本当にミクロですよね。
物事はシンプルです。最終的に全てのビジネスにおいて、結局対価を支払ってくれる人の満足度を上げられるかどうかだけなんですよ。そこに小売りのビジネスとかは関係ない。供給側の論理を優先することが、全ての間違いなんです。対価を支払う人への提供価値が最大になるように努力することが、経営者として必須のことで、それができないのだったら辞めたほうが社会のためになる。辞めれば今後はベンチャーにチャンスがあるので、全然問題はないと思います。

本は読みたい時が「読みどき」


――夏野さんご自身は電子書籍のご利用はされていますか?


夏野剛氏: していますよ。漫画も持っていますし、小説も何冊か入っています。でも、紙の本も好きなのでたくさん買います。

――書店に行かれたりもしますか?


夏野剛氏: よく行っています。今、電子書籍が出てきて、ますます装丁にこだわる本が出てきているので、たくさん購入しています。今週も渋谷東急のジュンク堂で2万5000円分ぐらい買いました。

――書店ではどのような本の探し方、買い方をしていますか?


夏野剛氏: いつも行くエリアというのは決まっています。ビジネス書とか小説は書評で読んだものを買いに行くので、本屋で探すということはしない。後は、ワインの専門書のコーナーには、新刊が出ているかもしれないですから必ず寄ります。本は読みたい時が読みどきなので、欲しいと思った時に買わないと一生買わない。それに買ってから3日以内に読み始めないと「積ん読」になりますね。3日過ごしちゃうと、同じ本を2冊買ったりすることもよくあります(笑)。

――本を買う時も即決ですね。


夏野剛氏: 即決です。本との出会いは一期一会だと思います。電子書籍もそうなんです。iBookstoreで見つけたり、どこかで紹介されたりするのを欲しいと思った時に買わなかったら、もう買わない。持ち越しちゃうと、そのほかに考えなければいけないことがたくさんあるから、結局忘れてしまいます。

――書店の良さ、役割はどのようなところにあるとお考えですか?


夏野剛氏: 本屋さんは出会いの場になっていると思います。平積みとかPOPの「店長のおすすめ」とか、ベストセラーランキングがありますね。自分が読みたい本というのが決まっている場合はAmazonで買ったほうがいいですが、何となく「本でも読もうかな」という時には大型の本屋さんに行って、ディスプレイや装丁を見ながら、「あ、これがいいな」というものを買えますから、一番いいですね。だから、大型の本屋さんというのはずっと生き残れると思います。紙の本というのは、手に取った質感を実際に感じたり、読むモチベーションを高めてくれます。装丁や紙質もすごく大事です。本当にいい本は紙と電子の両方で持っていたい。テレビドラマで見ていたものをDVDでもう1回買うというのと同じです。タブレットの中だけではなくて「本」としても持っておきたいわけです。



――夏野さんにはいつも持ち歩くような「座右の書」はありますか?


夏野剛氏: 僕はないですね。何かそれぞれのジャンルごとに「ああ、あの本が役に立ったな」とかがあるくらいです。感銘を受けたものはいっぱいありますが、人生のこの部分はこの本に影響を受けているし、この部分はこの本に影響を受けているという感じで、人生全部が1つの本だけに影響を受けているということはないですね。

全ては「天命」、楽観的でも悲観的でもない


――夏野さんの活動の展望をお聞かせください。


夏野剛氏: 一寸先は闇だと思っているので分かりません。3年後に何をやっているかが、自分でも分からない。そもそも、ドコモに勤めようと思ったこともないし、早稲田出身なのに慶応の教授になるとも思っていなかった。道は色々なことから開けてくるので、その場に行ってみないと視界が得られない。はるか後方から「そこに行ったらこういう視界だろうな」なんて予想することは不可能なので、何となく東の方向に行きたいとか、何となく西の方向に行きたいっていう方角ぐらいは決められますけれど、それ以上はもう行ってみないと分からない。とにかく前に進むしかないですよね。前進しないと風景が変わらない。留まっていてはだめです。僕は目標に向かって一生懸命頑張って、達成しましたみたいな人生ではなくて、翻弄されて生きている。計画しても計画した通りに物事はいかないので、しょうがないですね。いい意味でも悪い意味でも「一寸先は闇」なので、何が起こるか分からない。本人が分からないのだから、周りにも分かるわけはないですよね。



――先が見えないことは不安でもあると思いますが、迷いがある人にメッセージをお願いします。


夏野剛氏: 僕は何かの宗教を特別信じているわけではありませんが、何かの機会が与えられるというのも、一種の「天命」だと思います。その時の社会環境や、その時の役回りが必ず誰にでも巡ってくる時が人生何回もあるわけです。それをやろうと思うか、「危ないかな」と思ってやらないかの違いだと思います。僕は天命に翻弄されて生きていくしかないと思っていて、決して楽観的でもないし、悲観的でもない。これが人生かなと思っています。変化しない人生なんて、望んでも無理です。安定させようと思って努力するぐらいだったら、飛び込んでいって変化の波に乗ったほうがきっと実りは多い。守ろうとしても環境が変化するので守れない。無理な努力をするぐらいだったら、飛び込んでいったほうがチャンスもありますよ。

(聞き手:沖中幸太郎)

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