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世界中の本好きのために

日垣隆

Profile

1958年、長野県生まれ。東北大学法学部卒業。販売、配送、書籍の編集、コピーライターなどを経て87年より作家、ジャーナリストへ。『辛口評論家の正体』で編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞・作品賞、『そして殺人者は野に放たれる』で新潮ドキュメント賞を受賞。海外取材70カ国。有料メルマガ『ガッキィファイター』を発行するなど、多方面で活躍中。世界各地への取材、単行本とメルマガの執筆に専念している。近著に『つながる読書術』(講談社現代新書)、『世間のウソ』(新潮新書)、『ラクをしないと成果は出ない』(だいわ文庫)、『情報への作法』(講談社+α文庫)など多数。

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電子時代の到来を予告、でもその当時はだれも耳を傾けなかった



日垣 隆さんは作家であり、トレーダーや英語教師、電子書籍の販売など、リアルからネットの世界まで幅広くご活躍されています。『電子書籍を日本一売ってみたけれど、やっぱり紙の本が好き。』『情報への作法』『つながる読書術』など著書は100冊を超え、販売している電子書籍は180冊。2012年には自ら開発した英語学習法をネットを通して教える英語教育も開始されました。自ら紙の本、電子書籍ともに活用されている日垣さんに、紙の本について、電子書籍についてのお考えを伺いました。

2012年からはメールでの英語スパルタ塾を開始、国際化に対応する人材を育てる


――電子書籍の販売やクレド会の開催も含め、色々なことに挑戦されていますが、2012年からは「ほぼ毎日スパルタ英語強化塾」という英語塾もはじめられたのですね。


日垣隆氏: 僕自身は英語の教師ではないんですけれどね。「ほぼ毎日スパルタ英語強化塾」は電子の配信で英語を大量に勉強してもらうという塾なんです。毎日メールで配信されてくるMP3を聞き取ってディクテーションの課題をしたり、英文エッセイやエッセイ和訳をやって、翌日提出すると言うスパルタ方式で、毎日英語を勉強します。僕自身は書くのも聞くのもあんまり苦労しなかった。でもずっと会話が苦手でしたね。ですから通訳がいれば何の苦労もなかったんですが、でもいま世界中で、ものすごい数で書く人と話す人が大量に増えたと感じています。ネイティブの数は3億5千万ですから、10倍くらい増えた。そういう状況に対応するにはどうしたら良いか、考えたわけですね。英語はもう国際共通語になっている。ファーストリテイリングと楽天だけが社内共通語を英語にしたのが有名ですけれど、実際には色々な職場でそういう現象が起きているわけです。

――今後は間違いなく語学ができる人が採用されるようになるでしょうか?


日垣隆氏: 僕もアフリカや南米、ヨーロッパをここ2年間くらい、かなり意欲的に回ったつもりなんですけれども、やっぱり英語を国民がしゃべっている国は発展していますね。アフリカのジンバブエみたいなものすごい最貧国でも、英語をしゃべれる人は必ず外貨を稼いできます。そういう厳しい現実を見て、日本があまりにのんびりなので危機感を感じて。だからと言って、何かものすごい高い教材を作ってもしょうがない。極端に言えば、教材の質はともかく毎日5時間×4ヶ月くらい継続してやらないと英語は伸びない。その4時間とか5時間っていうのは働きながらやるのはものすごいしんどいことなんだけれども、それをやるためにどうするかっていう工夫はしたつもりです。それで全員ではないですけど、ほとんどの人が続いているので、ゴールがもうすぐなんです。要するに量ですよね。



――英語を習得するには、量が重要なんですね。


日垣隆氏: 量ですね。いくら良い先生がいて1時間8000円も払っていても、それを毎日5時間やれば意味があるかもしれないんですけれども、週1時間とか2時間ではどんな優秀な先生でも、言語である以上は無理だと思うんですよね。そのレッスンを普段どれだけ生かすかっていう様なことがうまい先生だったらいいと思うんですけども。英語の先生が良過ぎると、レッスンでものすごく気持ち良くなってよくしゃべれても、いざ実践では通じないってことがあるんですね。なぜかというと、こちらの英語がめちゃくちゃでも、理解しようとしてくれるんですよ。それが現実にはそんなことはない。とにかく量を勉強するのが大事なんですね。

なぜ英語を勉強しようと思ったのか


――英語を勉強すると、見えてくる世界は何か変化がありますか?


日垣隆氏: 自分の場合は会話が苦手だっていうことで、ある意味話すことを放棄していたわけです。「通訳さえいればいい」って。ある時、ソマリアに行かなくちゃいけない時があったのですが、その時に日本語通訳の争奪戦になってしまった。それで、現地に入るのに日本語通訳ができる人がナイロビに1人いたんです。そうしたらその人が内戦で亡くなっちゃったんです。日本語が話せる通訳は希少価値なわけですよね。でも英語がしゃべれる人だったら通訳は現地にいくらでもいる。そのころからうすうす英語の必要性には気付いていたんですけれども、学習に掛ける時間的なコストを考えると、「これはちょっと」という感じで二の足を踏んでいました。いまはその制約がほとんど全部取れたので。

――日垣さんは短期集中で英語を学習されて、TOEIC900点越えをされたんですよね。


日垣隆氏: この年で去年8ヶ月を費やして学習しました。僕は皆に「5時間学習せよ」と言っているんですが、働いてる人は、この時間が限度だとは思います。12月31日と1月1日も休まずやりました。こないだ亡くなられた団十郎さんが、「1日休めば自分が下手だと分かる」と。「2日休めば相手役がその下手さに気付く」と。「3日休めばひいき筋が見破ってしまう」という言葉を残しています。英会話も英語も多分そうなんだろうなと思うんですよね。そういう意味では1月1日に日本語を休みませんよね。12月28日に仕事納めだからって日本語を休みませんよね(笑)

――いや、それは凄い鬼気迫るというか、本当に真剣にやるんだっていう心構えの表れですよね。


日垣隆氏: 去年の4月は僕は完全な劣等生で、もうドンケツから入ったくらいなので、まさか人さまに配信する立場になるとは思わなかったんです。これもひろい意味ではメールマガジンとかそういう通信のものなんですが、それを英語学習で配信するというのは、電子書籍の一部みたいなものですね。

父は数学教師、母も姉も読書家だった


――いまに至るまでの日垣さんの履歴をお聞かせいただきたいと思います。


日垣隆氏: うちの父は高校の数学教師だったんですけれども、ただ大学では哲学を専攻していました。戦争中に、大学生にだーっと赤紙が行ったんですが、建築と数学科は残された。建築科は復興のために必要だったし、数学は暗号解読のために必要だということだったみたいですね。うちの父親はたまたまそういう学科にいたので赤紙が来なかった。それで戦争が終わった。上と下の男の兄弟は当然戦争に取られて戦死していたという状況だったので、自分だけ生き残った不条理を感じたんじゃないんでしょうか。そういう理由でその後哲学を学んだようです。哲学へ行ったおかげで西田幾多郎やプラトンとかソクラテスとか、そういう全集を読んでいたようで、そのおかげもあって家も本だらけだったんですね。母も姉も読書家で、反面教師で僕は全然本を読まなかったんです。例えばアンナ・カレーニナとかを読んでいないと、「あんたばかじゃないの」とか、「もうこういう人とは絶対私は結婚したくない」とか、姉にばかにされまして。そんなこんなでとにかく中学高校までは本はあんまり読まなかったですね。

――いつくらいから本を読まれるようになったんですか?


日垣隆氏: そのころも冒険小説とかルパンとかそういう皆が読む様なものは読んでましたけど。その代わりコンプレックスは蓄積してるので、「大学へ行ったらとにかくこいつらを追い越してやろう」っていう気持ちがものすごくありましたね。最初に大学の下宿を見つけて整理する前に、本屋巡りでガンガン本を買いあさりました。そのころは1日1冊っていうのを自分で決めて、1日も欠かさなかったですね。

蔵書は7万冊、もちろん電子デバイスも使いこなす


――蔵書はいまこちらにあるだけで何冊くらいですか?


日垣隆氏: ここは7万冊くらいあると思うんですけど。上が全部書庫なんですよね。こういう状態が良いかどうかっていうのはやっぱり迷いますよね。年齢的にも、いま30歳なのと70歳というのじゃもう全然違うと思うんですね。70歳だったらもう何も迷わずにこのまま行きますよね。30歳だったら何も迷わずに電子書籍化して自分の所有物にすると思います。だからその中間の年齢で股裂き状態みたいな感じですよね(笑)。金曜日まで、15日くらいイスラエルへ行ってきたんですけれど、その間にもやっぱり本を持ってっちゃうんです。しかも途中で買ったりするので、40キロくらいになる。40キロって結構重いんですよ。デバイスは基本的に一通り使いましたけれども、なんだかんだ言って分けちゃうとやっぱり使いづらいわけですよ。

――iPadだ、Kindleだ、iPhoneだと分けてしまうと使いづらくなるんですね。


日垣隆氏: そうですね。「これはKindle」かとかね、「これはリーダー」とかね、そういうのが段々増えてくるとね。全部持っていくと、あんまり本の時代と変わらないですね(笑)

作家になったのは偶然、でも学生の時に大量に原稿を書いてきた


――書くお仕事をされるようになったきっかけを伺えますか?


日垣隆氏: この職業に就いたのも全く偶然なんですね。前の会社が4つ倒産したり失業したりして、最後に出版社にいて辞めたんです。そのころは就職率4倍とかいう様な良い時代だったんですけど、皆が好景気の時に1人だけ沈んでるっていうのも結構大変なんですよ(笑)。その時に声を掛けられてテレビの番組制作とかコピーライターをやったりする様になって、ずっと書く仕事をしていたんですね。何年かたった時に大学の先輩に会った時、「お前学生の時にあれだけ大量にものを書いていたら、そりゃあ鍛えられるわ」って(笑)。「だからそれは適職だわ。お前の天職だわ」とかって新聞記者の先輩に言われたんです。

25年前から、電子時代の到来を予告していた



日垣隆氏: あとは営業をやってたのがやっぱり自分にとっては大きくて、自分の中で、電子書籍を個人で売るということに関して、全く壁がないんですね。25年くらい前から電子書籍や課金システムのことを皆に言ってきたんです。でも全然だれも反応してくれなかった。理屈は分かるわけですよ。だって紙の本がこのまま伸び続けると思うか、YESかNOかって。その当時、電話回線でFAXが送れたりNIFTY SERVEっていうものができていた。アメリカではとかね、そこの記事が検索ができると。では5年10年先にこれと同じことが、朝日新聞でできると思わないかと。「この流れは不改悪だと思いませんか」って言ったら「まぁできるだろうね」と。「じゃあ僕らが書く文章も電話回線なりそういう空を舞う時代になると思わないか」と。そうすると僕らにとって何が最大の問題かって言うと、本や雑誌に乗っけている原稿がタダになってしまうのか、課金をどうやってできるのかっていうことに掛かってくると。もしすべてが電子になっちゃったら、大衆にメリットはある。それは書くことを本職にしていない人が、たくさんものを書くことができる。だけどそれで食っているわれわれはどうする?と同業者に聞いていたんですね。

――どういう回答が返ってきましたか。


日垣隆氏: そしたら「別にいま困ってませんから」って言うわけです。だから「困ってないっていうのはアリとキリギリスもそう言ってたよね」みたいな。かなり色々と宣教師的に、「やっぱり自分のメールマガジンを持って、自分の媒体を持ってないと色んな意味で苦労すると思うよ」って僕は言っていて、聞いていてくれた人は1人2人いたんですけれども、大抵の人は「もういい、面倒くさい」って言いましたね。でもいまになって「話を聞かせてくれ」とか(笑)それはちょっと違うんじゃないのって思います。

なぜ自分の本は売れ続けたのか、それは「おまけ」を付けたから


――いま「電子書籍は売れない」と言われていますが、日垣さんの本は売れ続けていらっしゃいます。どこに違いがあると思いますか?販売戦略なんでしょうか?


日垣隆氏: 1つは煩雑さですね。何か買いたい時、楽天に行くかASKLEへ行くかAmazonに行くかって言った時に、やっぱりAmazonのワンクリックにかなわない。ワンクリックの特許があるので、いまのとこAmazonだけがワンクリックです。でもAmazonが独占してくれてるおかげで、Amazon以外のところはワンクリックではないので、ワンクリックにどれだけ近づけるかっていう戦いになっていると思います。僕のとこは1回買った場合には6けたの暗証番号を入れれば、もうあと一切必要がないというところまでは来ていますけど、本当はワンクリックにしたいわけですよね。でも多分、10億払っても手に入らないです、いまは。

――Amazonの特許なんですね。


日垣隆氏: はい。Amazon以外はそれをやってないので、何とか個人でも戦ができていますけれど、それが多くの人が、例えば10億なら手に入るってなったら大企業が手出しをてきますよね。実質的に個人でやるにも考え方の違いで、紀伊國屋であれ東販であれAmazonであれ、しょせんユーザーにとっては1つの選択肢でしかない。そうすると紀伊國屋書店も三省堂もAmazonもこの一個人ライターのウェブサイトも、ここでしか買えなければ買いにくるわけですよね。問題はここにしかないということをどうやって告知するかということと、その水路をどうやって開くかということだと思うんですね。水路がないと来ないですから。検索っていう方法はもちろんあるにしても、ここで電子書籍を売っているっていうことを、それはメールマガジンの読者には知らせたり、SNSを通じて知らせるっていうことはできるかもしれないんですけど。それよりは僕の場合はおまけでしたね。

――おまけですか。


日垣隆氏: グリコのおまけですよ。いまの大人がちっちゃい時っていうのは何か買う時におまけが付いてくるのが好きだったわけですよね。ふりかけにも。そういうおまけが付いてくるとかね、ジャーナルに何か付いてくるとか、そのおまけを集めるとかね。そういうのってあんまりほかの国に聞かないんですけど。いまは「これを買ったら何か音声が付いてきます」とか、「別の付録のPDFが付いてきます」とかありますよね。でも本にそういうものが付いてきてもそれはちょっと違う。「キャラメルにガムが付いてきたってしょうがないんだよね」っていうのが僕の中にはあったんです。全然違うもので、ほかでは手に入らないものがいいなと思った。

――ここでしか手に入れることができない希少価値のある「おまけ」ということですね。


日垣隆氏: 最初にイラクへ行った時に、フセイン紙幣ってあるんですけど、それがもう大暴落していた。そしたら当然イラク紙幣っていうのは、25ディナール、10ディナール、50、100、1000とかあったんですけど、もう大暴落して紙同然になっちゃっていた。僕はそれを持って帰っちゃったわけです。そしたらそれが、フセインが裁判にかかって処刑されて、Yahoo!オークションで暴騰したわけですよ。どんどんどんどん希少価値になった。その紙幣を『イラクへの遠い道のり』(サイト限定電子書籍)に付けて、壊れちゃった国家に入るための苦労話も面白いということで、メールのやり取りとかそのまま載せちゃって、写真も載せて、最後に付録で、回った時の写真も付けて、9.11の様子も付けて売ったんですね。「これを買ってくれた人には、フセイン紙幣をプレゼント」と。そういう風にプレゼント付けたのがデカいんじゃないかなと思うんですよ。



厳密には分析できないですけど、その後も色々おまけ作戦をしまして。キューバの3ペソを2000枚くらい持って帰ってきてそれを2000円以上電子書籍を買ってくれた人には、世界的なアイコンとして知られるゲバラの3ペソをきれいなプラスチックケースに入れてプレゼントしますっていうキャンペーンをやりました。それが2、3日で2000枚はけましたので、それはプレゼント効果ですよね。

――売っているものは電子書籍ですが、そこにライブ感のある本物と組み合わせるっていうのは発想としては凄い面白いなと思いました。やっぱりそこが秘訣だったんですね。


日垣隆氏: 自分で言っちゃいますけど、凄いですよね、その先見の明は(笑)。

良いものを作ったからって売れるわけじゃない



日垣隆氏: さっきの英語じゃないですけれど、良いものを作ったら皆英語ができる様になるとか、皆買ってくれるっていうことはないと思うんです。営業をやっていた時に、やっぱりもちろん良いものは売りたいけれども、良いからっていって売れるとは絶対限らないということは思っていた。大事なのはおまけ(笑)。みんな、自分で良いと思って作ったものを自ら売ってみて、相手に感謝されるっていうことがどれだけ楽しいことかっていうことは経験した方が良いと思います。僕はたまたま学生時代はたくさん書いてきて、その後に営業マンをやったりしていて、その両方が合わさって、電子書籍を喜んで買ってもらうっていう時に工夫しようと思ったのが、おまけということだったんでしょうね。

――ホームページの中で、絶版になった本も読める様にしていますね。あちらはいかがでしょうか?


日垣隆氏: 絶版は、自分にとっては発想の転換で。僕の本は百何十冊出して2割くらいは絶版になっていると思うんですけど、やっぱり絶版になると嫌なんですね。「確かに出版社が絶版を決めたっていうことは、その寿命が尽きたとも考えられるな。けどそこまでクールになれないだろ」って、ずっとひっかかっていたんです。「これどう考えても出版社の都合だよね」っていうのがあって。確かにあと3000部刷るとかっていうことはないかもしれない。だけど800人くらい欲しいかもしれないじゃんっていう。そこが採算が取れないだけの話ですよね。だから電子書籍っていうものができたので、もう発想自体を変えて、「おしっ、来た!」みたいな(笑)。最近は電子書籍の権利についてもうるさくなってきたので、とにかく先に「もう絶版をしたらこっちのもので売らせてもらうね」って言うんです。前に自分でも1番この本が大切だって思ってた本が絶版になったんですね。それを電子書籍にして、その時はおまけを付けなくて、「僕の代表作で、すべてはこの本から始まった」って、「自分の原点」っていう風に書いて電子書籍を売ったら1万部売れちゃったんですよ。「1万部売れるのに何絶版してんだよ」とかちょっと思いますよね。それで1万部売れたっていうのを聞きつけて今度は違う出版社の文庫になってますね。

人のせいにしない、最大限「売る」努力をすること



――日垣さんがいま思う、電子書籍、電子のメディアの状況と、今後の可能性について伺えますか?


日垣隆氏: 問題だなと思っているのは、いまの状態を皆が人のせいにしていること。例えば書店は出版社のせいにしていたり、いわゆる出版業界は、究極的には「本を買わない」とか読者のせいにしていたり。あとはAmazonのせいにしてたりとか。そういう何か自分たちの窮状に関して人のせいにしてる。いまの書店員さんって、僕が書店員をやっていた時から比べたらものすごくよく働いてるし、給料も低いですよね。よく頑張ってると思いますけど、でも決壊しますよ。優秀な人材はやっぱり低賃金のところに集まらないですから。限界がもう来ちゃってる。一言で言えば、お互いに人のせいにしちゃってるっていうところはあらためて、Twitterをやってみるとかね、Facebookやってみるとかした方がいい。でもその一方で、書店ではものすごい古い体質を持ってて、1人のお客さまに電話1時間くらいかけて、この本はないか、あの本ないかとか対応してるとかってやってる。それはコスト的に全然見合わないですよね。

――そうですね。


日垣隆氏: 例えば自分のところになかったら、明日までにお届けしますってAmazonで注文しちゃったっていいんじゃないのかって思います。そしたら、「ここは何でも買えるんだな」とかって思ってくれるわけですよね。裏では全然もうけてなくても、そういう努力をする。それから実際に本屋さん同士だったら1割引で買える制度があるわけですから、すぐ「ないです」とか言わないようにする。ジュンク堂や紀伊國屋か何か走ってって、「明日までにお届けに上がりますから」って言って、住所聞いて、翌日に電話して、「お届けに来ました」とかって、そういう様なことを僕だったらやるなとは思うんです。

――それも大きな意味で、先ほどお話しいただいた売り方の問題ですよね。


日垣隆氏: シンプルな話だと思うんですよ。そしたら「いまありませんけど、明日までにはご用意できると思います」と。それのやり方がもしバレたとしてもですよ、「この店員は仕事を退けてから紀伊國屋に行って買ってきてくれたんだ」と思ってくれるかもしれない。それがもし分かったとしても、感動につながるわけですよね。

多数派にはできないことを、新たなハードルを目指してチャレンジする


――最後の質問になりますが、今後の展望を伺えますか?


日垣隆氏: どうやって答えたらいいんでしょう。何か出版界に飽きちゃったっていうか。最後にこれかよって感じですけど(笑)。個人的には、ちょっと難しそうだな、自分にはできそうもないなっていうことをやるのは割と好きなんですね。それから、どうも多数派ではないなっていうことは段々分かってきたんです。あとノンフィクションも一時の勢いはないですよね。そうすると、週刊誌でルポを2年連載するってこともちょっと考えられないですし。もう媒体がない。ネットで色んな専門家が書く様になったことは、僕は良いことだと思うんです。大学の先生とか、あるいは総研の人とかね。昔はプロと素人が明確に分かれていたわけですよね。カメラとかものを書くということに関しては。いまでは色々な人が撮ったり書いたりする様になったために、その状況は良いことなんだろうけれども、プロにとってみたら危ない状況なわけです。



そこでどうやって生き抜くかは、それぞれの得意技を出すしかない。書店もそうですよね。Amazonは仕組みはうまいけれども、実際に配送している社員の人がものすごく本好きだとかそういうことはないですし。やっぱり時代環境が大きく変わって、時間もお金もネットに使う時間とお金が圧倒的になっている中で、しかも収入がそれの分増えるんだったらいいけれども、サラリーマンの場合は固定だし、むしろ減っている。そういう中での分配の問題ですから。編集者の劣化とか本屋の劣化とかっていう風な考え方ではなくて、新聞記者もね、明らかに優秀になってると思いますね。でも、良いものを書けば売れるっていう勘違いは止めた方がいい。もちろん良いものを書くんだけれども、とにかく売れることに関して全意識を傾けないと、全勢力を傾けないと淘汰されちゃう。だから電子書籍に関して、意外に大したことないって皆で思い合ってるんじゃないかなってちょっと感じますよね。でもハーレクイン的なものって結構売れてますでしょ。漫画も結構いいところにいっていますし、ハーレクインも世界的にかなり市場あります。この不況を打開する、克服する術っていうのは、1つはマーケットを世界に広げるっていうことと、ネットで自分のメディアを持つことの意識を持っていれば、三脚できっちり自力で立っていけると思うんです。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 日垣隆

この著者のタグ: 『ジャーナリスト』 『英語』 『哲学』 『作家』 『勉強法』 『売り方』

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