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世界中の本好きのために

岡部恒治

Profile

1946年、北海道に生まれる。東京大学理学部数学科卒業、同大学院修士課程修了。2011年、埼玉大学教授を退職。現在の計算偏重の算数・数学教育に異論を投げかけ、独自の算数・数学教育を実践する。その一環として、理科・数学の魅力を伝える体感型ミュージアム「リスーピア」(パナソニックセンター東京内)を監修している。著書に、『考える力をつける数学の本』(日経ビジネス人文庫)、『分数ができない大学生』(共著、東洋経済新報社)、『マンガ・微積分入門』 (講談社ブルーバックス)、『大人の算数』(梧桐書院)、『通勤数学1日1題』『もっと通勤数学1日1題 和算も』(亜紀書房)などがある。

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子どもたちに、もっと数学の世界を広めたい



岡部 恒治さんは、北海道札幌市に生まれ、1969年、東京大学理学部数学科を卒業。東京大学大学院修士課程修了後、埼玉大学教授を経て、数学者として数学に関する著書を多数出されています。『考える力をつける数学の本』、『分数ができない大学生』、『マンガ・微積分入門』、『大人の算数』などが著名です。そんな岡部さんに、電子書籍について、本とのかかわりについてインタビューしました。

東大に受かったのは「運」が良かった?


――岡部さんは、北海道で高校生まで過ごされたそうですね。


岡部恒治氏: そうですね。札幌南高校を出て、すぐ東京に来たんですけれども。東大に受かったのは、運が良かったという風に思っています(笑)。僕が入った次の年、「岡部でも入れるんだ」って、無理と思われる生徒がどんどん受験して、みんなが散ってしまったといううわさがありまして。

――子どものころは、どんなお子さんだったんですか?


岡部恒治氏: いやあ、小学校のころは、算数は全然できなかったんです(笑)。算数が2だっていうのも、よく引き合いに出されます。ウチはそんな教育に熱心な家庭じゃなくて、とにかく子どもは商売のための人手としか見られていなかった。僕も含め10人兄弟がいるんだけれど、忙しい時は「全員働け」という(笑)、「働かざる者は食うべからず」っていう厳しい家庭でしたね。結局、僕は高校3年の夏休みの時も、ウチの八百屋の店で売るとうもろこしを毎日朝から晩までとうもろこしをゆでる釜の番をしていました。ものすごく売れたんですよ。本当に1日1000本以上売れたと思います。

――1日1000本ですか!?


岡部恒治氏: ええ。買いにくるのは近所の人とか地元の人ですね。東七丁目っていう当時の札幌の東のハズレのほうにいたんですけども、わざわざ中心部を通り過ぎて、西のほうからも、買いに来てくれた人もいました。結構評判でしたね。美味しくするコツがあったんです。秘伝のタレというか、大きい窯で煮ていたので、とうもろこしから出た汁がおいしくしてくれるのかなって思っていたんですけどね。

――やっぱり大きい鍋でやらないとなかなかその味は出ないんですね。


岡部恒治氏: うまくやるとすごく美味しくできたんです。「大通り公園で売っているものなんかよりずっと美味しい」って言って買いに来てくれましたね、20本30本って。だから夏休みなんて、本当に休む暇なく、釜から煮あがったとうもろこしを出したら、すぐ次のを入れてっていう感じで。でも受験よりかは「稼げ」ということだったんです。しょうがないので、勉強は釜ゆでをしながら、豆単語帳を覚えていました。だからね、ウチの子どもを見ていて感じるのは、スポイルされて、楽をすると、勉強でもハングリー精神が足りなくなるというように感じます。

この件に関して、尾木ママと言われる方が、『日本の論点』に「学力低下論者は小さいころから塾に通わされ、中高一貫に行った者ばかりのようであった」として、「学力低下論は強者の論理」と非難していたのは、全くのデタラメです。むしろ、「貧乏人の息子でも東大に行けるように普通の学校の授業を充実してほしい」というのが私たちの主張です。

算数は2、国語は5、計算が苦手な子どもだった


――岡部さんは小学生の時、算数が2だったんですか?


岡部恒治氏: そう。算数は2だったけど、国語だけはずっと5だったんです。小学校から一貫してね。高校2年の時に、「東大模試」っていうのがあって、2年の段階で国語が100番以内に入っちゃってね。国語は自信があった。中学校の先生がかわいがってくれて、「漢字とかそういうものは、後でもできる。今は本を読むことをよくやったほうがいい」と教えてくださった。それで毎週図書館へ通って本を抱え込んで来て、それを読んだんです。中学2年の時は、『戦争と平和』を全部読んだんですけれども、子どもだから、「何でこんなバカなことをやっているんだろう」と思っていた(笑)。とにかく読むことが大事だといわれて読んでいたけれど、そのときは、たくさん本を読むことの意味がわかってなかったんです。ただ、なんとなく、「読んだ!」っていう充実感はありましたね(笑)。

――中学2年生で読むというと、すごい達成感ですよね。


岡部恒治氏: 当時の岩波文庫は旧漢字なんですよ。最初それを読むのも大変でした。読めない漢字がいっぱいあって、今なら、パソコンとか何かでなんとかできるんだろうけど、家が八百屋だったので、そういう漢字を引く辞書もなかったんです。でも、いい勉強になりましたよ。なんとなく前後の関係から、「これはこうだな」と読めるようになって、わからないものを読む非常にいい勉強になりました。1番上の兄はバリバリの文系で、2番目の国語が苦手な兄に、「国語がわからなかったら、難しい落語の本でもいいから、読みにくい本を読んで勉強すればいいんだ」って言っていましたしね。それから中学校の先生に、とにかく本をいっぱい読んで、連続にどんどん乱読しろと言われて、本当に乱読をしました。1週間に3冊ぐらい必ず読むようにしていました。あの経験はすごく役に立ちましたね。今でも、例えば本を書く時にも、すごく自分でも役に立っていると思いますよ。書くのが全然苦じゃないですからね。

高校3年の時、「南高新聞」のたった一人の執筆者だった


――岡部さんの本は、普通の数学書と違って、すごく読みやすいというか、語りかけるように話してくださるような読み物が多いですね。


岡部恒治氏: 有難うございます。実は、高校の時は生徒会の役員をやって、新聞会が潰れていたのを再建したんです(笑)。それで新聞会の南高新聞というのを一人で全部書いていました。それが大きいかもしれません。

――普通チームで作りますね。


岡部恒治氏: その高校はみんな3年ぐらいになると勉強しなきゃと言うんで、なかなか活動が大変で、それで新聞会が潰れたんです。僕、受験に関しては2年の時にだいたい大丈夫だと思ったので、3年になるとやることがなくなったんです。2年の国語がよかったんだけど、当時、一番苦手だったのは社会で、「覚えりゃどうってことないや」ってことになって。それで覚えるのは、とにかく高校の試験前の3ヶ月でやろうと決めていたんですよ。記憶系は全然ダメだったんですね。英数国だけなら、2年のころから合格圏内に入ったけど、社会がね、年号を覚えたりするのはすごく苦手だったから、それは直前にやったほうがいいって決めたんです。その入試の直前に1日何百個ずつ年号を覚えたんですね。

――今、お話をお伺いする限りでは、ご兄弟、みなさん大学に進まれているんじゃないですか?


岡部恒治氏: 男は、長男は家をついで八百屋をやっていますけれど、ほかの4人の男は全員進学しましたね。

八百屋の手伝いから逃げたいがために「東大」へ進学を決めた


――岡部さんは大学に行くこと自体は許されたんですね。


岡部恒治氏: ただ、北大なんかに行くと、お盆とかお正月の忙しい時期に、図書館で勉強していても呼び出しに来るんですよ。長男がね、長靴のままドタドタドタって入ってきて、「おぉ~い、ツネハル!」とかって呼び出される。それがイヤで、逃げるとしたら東京しかないというんで東大に進んだんです(笑)もう本当に逃げなんですよね。

――それで東京大学に入られたんですね。


岡部恒治氏: 最初は北大へ行こうと思ったんだけど、ある日、バスで一緒になったどこかのおじさんに、「行くんなら東大にしな」って言われて、まあそういうものかと思って。それで東大なら、北海道を出るのを許してくれるらしいとなってね。だから大学は東大しか受けなかったんですよ。入試の時はね。あと、予備校の願書を用意していて、落ちたらそこを受けるんだって。わりと背水の陣でね(笑)。



――それで東大の理学部の数学科ですよね?数学者になろうというのはその時から思っていたんですか?


岡部恒治氏: 実はそうではない(笑)。お話したように、国語のほうが得意で。そういう感じは最初は全然していなかったんです。ただ、色々とそういう高校の生徒会活動なんかをやっていると、マセたのがいるんですよね。そのマセたのが、「バートランド・ラッセルをうち負かさなきゃ」とか言って、それならやっぱり数理的論理をやらなきゃダメだなっていう話になって。じゃあ、数学をやって、数理的論理学をやって対抗しようという話になっちゃったんです。

――そこに数学者でありノーベル文学賞を受賞したバートランド・ラッセルが出てくるわけですね(笑)。


岡部恒治氏: 最初はバートランド・ラッセルを倒すっていきがっていたけど、だんだんバートランド・ラッセルはなかなかいいやつじゃないかと思うようになったんですね(笑)。あと、東大に逃げたのは、さっきも言いましたが、八百屋の手伝いがすごくイヤだったからです。何がイヤだったかって言うとね、同級生の女の子が買いに来る時がありますよね。近所に、すごくきれいな女の子がいて、そういう子が買いにくるわけだよね。向こうはわりとちゃんとした格好をして来るのに、こちらは八百屋のための汚れた格好だし。そういうのが恥ずかしかったですね。

出張授業では、小学生や中学生に「手」を動かして数学のデモをさせる


――お仕事の話に戻りますが、岡部さんは出張授業も行われるということですが、どんなことをされるんですか?


岡部恒治氏: 小中高の中でも、高校と小学校が多いかな。パズルみたいなのを作って、数学っていうのはこんな風に役に立つんだよっていう話をします。苦手という意識をまずときほぐすというのが大事だと思いますね。メビウスの帯を応用した数学手品をしたりします。小学生では、正三角形を習うけど、いったい何に使うのかわからない。「いっぱいある三角形のうち、どれが正三角形でしょうか?」という問題をいくらやったって面白くないでしょう。でも、「正三角形は、こういう面白いパズルに使われるんだよ」という話をすると、非常に喜ぶんですね。

――やっぱり、何に使うかわからないまま勉強をしても面白くないんですね。


岡部恒治氏: これは直角2等辺三角形を16個つないでできるパズルなんだけど、「これをセロハンテープのところだけ曲げて裏返しなさい。厚紙のところは曲げてはいけません」という面白いパズルなんですね。赤い色を外側にすればできあがり。さらにこっちは、われわれがそれを一般化して作ったパズルで。それは三角形をちょっと変えたものです。ちょっと変えるとこんなに変わるかと驚くくらいです。

――そうですよね、ちょっと分解して考えてみます。えっと…。

(パズルをやる)



――こういうことで、数学とか算数というものに対するアレルギーみたいなものは減りますよね。


岡部恒治氏: 減りますよ。すごく効果的です。特にこういうものは小学生のほうがいいんです。中学生と小学生を一緒に授業をやったら、だいたい小学生のほうが先にできるしね。やっぱりそんなもんですよ。われわれは年をとると、なかなか頭が固くなって、余計なことを考えますからね。

自分が計算が苦手だからこそ、計算を減らそうという工夫をする


――授業が終わった後に、「先生、ありがとう!」という子どもが多いんじゃないですか?


岡部恒治氏: そうですね。数学の新しい面に気付いてもらえるんです。僕は算数が全然ダメだったけれど、数学が好きになったというのはそこなんですね。算数だと計算を最後までやらないといけないし、計算を間違えて、それで算数2になってイヤだったんです、それは偽りのない事実です。今度中学に進学したときに、数学を学ぶようになって、もっと難しくてイヤだなと思ったけど、中学になると文字式になっちゃって計算はいらない。だから、それがすごくうれしかったですね(笑)

――計算だけをやらせるのが算数とか数学じゃないですもんね。


岡部恒治氏: そうそう、それが大事なんですよね。僕はそこに気が付いたから、すごくうれしくなって、数学に進んだ。でも計算しなくていいと思われると困ります。やっぱり計算する経験はちゃんとしておいたほうがいいと思います。計算に苦しめられると、計算を減らすことがいかにすごいかがよくわかるんですよね。例えば、ちょっとした変形をすると、すごく簡単に計算をできることがありますよね。何でもパンパンパンってやっちゃう人は、その恩恵がわからない。

――苦しんでいる人ほどありがたみがわかるんですね。


岡部恒治氏: 例えば、分配法則を使うとすごく楽になるとか、色々なことがあるわけなんだけど、そろばんなんかをやっている人なんかは、もちろんそんなのは計算をやっちゃったほうが早いじゃないかと思うわけだよね。だからある意味で、計算が苦手だったから数学科に行ったと言うほうが正しいのかもと、このごろ思うようになりましたよね。「こういう風にやると簡単になるだろう」とか、そういう見方が本当は大事ですね。

読者へ伝えたいと思うメッセージとは


――岡部さんは本を書かれる時に、一貫して伝えたい思いというのはありますか?


岡部恒治氏: やっぱり数学はすごく自分のためになっているわけだから、それを伝えたいですよね。実は数学的思考というのは、自分の根本にあるような気がします。要するに、これは覚えたほうがいいか、これは覚えなくていいかとかの整理をするとか。そういう時も、数学的な考え方ってすごく大事ですね。

――数学的思考ですね。生きていく上でとても大事なんですね。


岡部恒治氏: ええ。そこが一番言いたいところなんですが、伝えるのが難しいんですよね。文章で「数学はこういう風に役に立ちますよ」っていう話をしていても面白くないんですよ(笑)。

――岡部さんの本は図解が多く入っていますが、そういう意味での工夫をされていらっしゃるんでしょうか?


岡部恒治氏: ええ、基本的に図版は僕のところの事務局長に書いてもらっています。最初、『マンガ・微積分入門』は相当よく売れて、初版4万部だったんですが、店頭に出る前にさらに4万部増刷したんです。8万部一気に出たんだけれど、それが実は、図が間違っていた(笑)。y=sinxっていうサインカーブのグラフが原点を通っていなかった。特急のスケジュールでやっていたから、しょうがないんですが(笑)。

――誤植は、版を重ねるごとに修正されるのですか?


岡部恒治氏: 普通は、1回目の増刷で修正しちゃうんだけど、ところが1回目の増刷は、僕の手元に渡っていない状態で増刷が決まっていた。手元に来た時ビックリしたんです。だけれど、僕もギリギリまで書いていたので責められないんですね。大みそかに原稿をあげて、2月10日にはもう発売されていたんですから。

――大みそかまで執筆されてたんですね。


岡部恒治氏: いや、大みそかまで働くのはいつものことだから。まあ、時々、「缶詰にしますよ。ホテルで過ごしてもらう」とか脅かされたりします。今年も可能性はあるよね(笑)

練り過ぎた原稿はベストセラーにはならない


――『マンガ・微分積分』もとてもよく売れましたね。


岡部恒治氏: あれも売れましたね。僕の経験なんだけども、だいたいの場合、ものすごく準備周到にして、きっちり時間をかけた本ってダメですね(笑)。『マンガ・微分積分』なんていう本は、本当に2~3週間で書き上げたからね。でも経験としては、短時間のやっつけ仕事って、よく売れる(笑)。

――でもベストセラーで終わらず、ロングセラーされてますね。


岡部恒治氏: 『マンガ・微分積分』なんていうのは、その年のベストセラー新書部門の第2位に入ったこともあるんだけど、いまだに増刷してくれますよね。年金生活になるとそれはありがたい(笑)。あと、『微分と積分なるほどゼミナール』っていうのがロングセラーで、この本も三十何万部売れた本なんですけど、原稿を出した当時はそんな感じでね。あの時はワープロも何もないから、原稿用紙に手書きで書きなぐって、原稿を直すときは、はさみで切ってノリでペーストして(笑)っていう、激しい追い込みだったんです。1週間何ページずつ出せって言われて、最後のほうになると、本当に徹夜でしたね。だからああいうのも、何か短期間で集中して仕上げたほうがいいのかなっていう感じがしますね。あの本は、本当に色々な人から手紙をもらいましたね。タクシーの運転手さんとか灯台守の人とかね。色々と面白い方の意見もサジェストになってくれて、非常によかったです。野球評論家で、2軍選手の教科書になったという本を書いた方とも、随分長い間親しくさせていただいたんですけどね。わりとそういう方たちに、意外なところに読まれましたね。あの時から、微分の教科書が変わったと思います。その前は微分って面白くなかったんですよね。ただ計算するか、あるいはただ文章で説明するだけだったのが、あの本で根本的に変えられたんじゃないかと僕は自負していますね。

電子書籍は、高校生までは考えて使うべき


――今回は電子書籍のお話もお聞かせいただければと思います。


岡部恒治氏: 電子書籍ね。すごく便利な面もあるけれど、便利をあんまり追求すると、例えば教育の側面から言うと、かなり問題があると思います。僕たちのころはコピーさえ満足にできなくて、手書きで写して勉強したこともありました。色々厚い本を、一語一語を手で書くなんて、今では考えられないでしょうね。でも今の学生がなんとなくコピーをとって、勉強したつもりになるのとは、えらい違いだと僕は思う。それで、特に高校ぐらいになるとしょうがいないかなと思うけど、小学校から電子教科書を使うというのは、僕はやめたほうがいいと思う。電子教科書っていうのは基本的にiPadみたいなものを想定しているんだけど、あれはネットにつながるでしょう? ネットと子どもの関係って、危ないしね。それからiPadとかああいう物って、まあいわゆる電子計算機の小型版なわけだから計算もやってくれるし、図もすぐ出せます。でも、あんまり機械に計算させたり、図を描かせないほうがいいんです。僕は、計算嫌いだったけど、計算はやっぱり自分でやったほうがいいと思います。

――嫌いだからこそ見えてくるものとかありますね。


岡部恒治氏: 嫌いならなおさらやらなきゃいけないんですよ。それを何か、パッと電卓でやるっていうのはよくない。アメリカとかイギリスの教育って電卓を与えてやっているから、算数はいつまでたってもよくならないでしょう。それはやめたほうがいいと思うね。高校以上になると、ああいうものもありかなと思いますよ。ただ小学校、中学校の途中まではやめたほうがいいですよね。

電子書籍やネットは、教える側は有効活用すべき



岡部恒治氏: 今の学生もね、ウィキペディアとかああいう物で、レポート課題をコピーペーストしますね。ああいうコピーペーストするような人間には与えないほうがいいと僕は思っている(笑)。電子教材というのは、自分が使いこなせる立場になれれば、非常に有益だと僕は思う。例えば教師がそれを使うのは、問題なく便利だと思いますよ。僕自身も液晶プロジェクターとか使っていますしね。OHPが使えるようになって、随分進歩したなと思ったけれど、今は液晶プロジェクターで済む。USBメモリを1個もっていけばよくなって、全然重さが違う。特にぎっくり腰になったら手放せないですね(笑)

――そう考えると恩恵がたくさんあるわけですね。


岡部恒治氏: そう、恩恵はたくさんある。この機械から隔離すべきだと言うのは難しい、でも、それを使いこなせない人にパッパと与えると、目も悪くなるし良くないことも多い。一時期、数学教育の大会に行くと、何の意味もなく2つの教室をインターネットにつないで、それを得意そうに発表していました。それによって何か2つの教室の間で意見交換がうまくいっているかとか、そういう話だったら意味があります。でも、そうじゃない。つないだっていうことを誇っている、そんな感じだったから。確かに、電子化は便利ですよね、小さい媒体に、本が何万冊も入る。毎週図書館に行って5冊ずつ借りてくるという手間が省けるわけだから。

――教育領域は、振り分け時期っていうのが大事ですね。


岡部恒治氏: そうですね。本を中学校の時、借りてきて、自分のカバンに入れてもっていって、読んで、また返すっていう、あの操作が僕には限りなく貴重に思えるんだけど。

デジタルは便利で美しいが、実感がない



岡部恒治氏: デジタルはすごくいい面もあるんだけど、ただ仮想空間なんですよね。教育の場においても。コンピュータグラフィックって、「そうなのか、なるほど」と思うかもしれないけど、頭を素通りしてしまう。むしろ物を実際に操作したほうがいいと思う。これは『通勤数学1日1題』っていう僕の本なんですけども、「すいの体積がなぜ底面積×高さ×1/3か」という長年苦労して教えていた問題があるんです。この本で提案した、実験のために作った教材があるんですよ。

――こういう教材を作ろうとおっしゃったのは、自分の手を動かして理解させるためですか?


岡部恒治氏: うん。自分の手を動かすことはやっぱり大事。手を動かしてやったことって、なかなか忘れないですよね。こうですよと、例えばCGできれいに見せられても、きれいだったなあで終わっちゃうから。だからこういう体験をぜひ、子どもたちにさせたいということもあります。生徒に一つ一つ渡してやらせるというのが一番効果的なんですけどね。文科省もこういうのに予算をつけてくれないかなと思います。

手で扱える電子教材などは、アイデアとして面白い


――今、数学離れとか理系離れと言われていますが、実際に体験することが大事ですね。


岡部恒治氏: うん。だからやったことが身に付かないという話をしても、こういうのでやるのと全然違う。自分の手で触ってできるという、それがすごくいいかなと思っているんですね。

――便利な物は便利な物として活用していく必要がありますね。


岡部恒治氏: そうですね。電子媒体とか何かも含めて、良い物は良い物としてそれぞれの特徴を利用するのはすごく大事だと思いますね。僕なんかは、あのワープロが売り出されたばかりのときに、本当にありがたいと思って、オフィスのデスクほどもあるワープロを二百何十万出して買ったんです。それが、5年もしないうちに10万ぐらいで、性能としては同じような物が出た。その投資は無駄だったかというと、やはりそれなりの意味があったと思うんですよね。

――よく今、紙対電子というように言われているんですけど、共存していくべきものだと思われますか?


岡部恒治氏: そうですよ。本に限って言うと紙対電子というような形になるかもしれない、でもやっぱりある程度紙もあったほうがいいと僕は思いますね。ただ、だんだん若い人が多くなると、いずれは電子が多数派になるだろうなとは思いますけどね。だけど、意味もなく電子にしないほうがいいと思います。

――岡部さんから見て、電子書籍の可能性というのは、どういうことができると思いますか?


岡部恒治氏: グラフィックとかは、電子媒体は得意だと思うんですよね。だから、利用しない手はないと思います。で、動きのあるもの例えば、極性を見せたり、実際には見ることのできないものを再現するのは、高校生の年代になれば、それはいいと思いますね。

今後は、アジアに「リスーピア」を広めていきたい


――最後に、岡部さんが今後やっていきたいことを教えていただけますか?


岡部恒治氏: 数学をわかりやすく広めていければなと思っています。今、実は「リスーピア」というところでは、色々とワークショップをやっているんです。もうちょっと広められればなと思っています。実はベトナムにリスーピアを作ったんだけれど、全世界にそういう場を作りたい。フランスには前からそれに近いものがあるから、それよりもむしろアジア、たとえばインドにそういうものを作ったらいいのにと思っています。そういう場で、子どもたちにもっと数学を好きになってもらいたい。それが僕の思い描いている理想像なんです(笑)

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 岡部恒治

この著者のタグ: 『思考』 『数学』 『考え方』 『生き方』 『教育』 『デジタル』 『ロングセラー』 『使い方』

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