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世界中の本好きのために

岡部恒治

Profile

1946年、北海道に生まれる。東京大学理学部数学科卒業、同大学院修士課程修了。2011年、埼玉大学教授を退職。現在の計算偏重の算数・数学教育に異論を投げかけ、独自の算数・数学教育を実践する。その一環として、理科・数学の魅力を伝える体感型ミュージアム「リスーピア」(パナソニックセンター東京内)を監修している。著書に、『考える力をつける数学の本』(日経ビジネス人文庫)、『分数ができない大学生』(共著、東洋経済新報社)、『マンガ・微積分入門』 (講談社ブルーバックス)、『大人の算数』(梧桐書院)、『通勤数学1日1題』『もっと通勤数学1日1題 和算も』(亜紀書房)などがある。

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電子書籍やネットは、教える側は有効活用すべき



岡部恒治氏: 今の学生もね、ウィキペディアとかああいう物で、レポート課題をコピーペーストしますね。ああいうコピーペーストするような人間には与えないほうがいいと僕は思っている(笑)。電子教材というのは、自分が使いこなせる立場になれれば、非常に有益だと僕は思う。例えば教師がそれを使うのは、問題なく便利だと思いますよ。僕自身も液晶プロジェクターとか使っていますしね。OHPが使えるようになって、随分進歩したなと思ったけれど、今は液晶プロジェクターで済む。USBメモリを1個もっていけばよくなって、全然重さが違う。特にぎっくり腰になったら手放せないですね(笑)

――そう考えると恩恵がたくさんあるわけですね。


岡部恒治氏: そう、恩恵はたくさんある。この機械から隔離すべきだと言うのは難しい、でも、それを使いこなせない人にパッパと与えると、目も悪くなるし良くないことも多い。一時期、数学教育の大会に行くと、何の意味もなく2つの教室をインターネットにつないで、それを得意そうに発表していました。それによって何か2つの教室の間で意見交換がうまくいっているかとか、そういう話だったら意味があります。でも、そうじゃない。つないだっていうことを誇っている、そんな感じだったから。確かに、電子化は便利ですよね、小さい媒体に、本が何万冊も入る。毎週図書館に行って5冊ずつ借りてくるという手間が省けるわけだから。

――教育領域は、振り分け時期っていうのが大事ですね。


岡部恒治氏: そうですね。本を中学校の時、借りてきて、自分のカバンに入れてもっていって、読んで、また返すっていう、あの操作が僕には限りなく貴重に思えるんだけど。

デジタルは便利で美しいが、実感がない



岡部恒治氏: デジタルはすごくいい面もあるんだけど、ただ仮想空間なんですよね。教育の場においても。コンピュータグラフィックって、「そうなのか、なるほど」と思うかもしれないけど、頭を素通りしてしまう。むしろ物を実際に操作したほうがいいと思う。これは『通勤数学1日1題』っていう僕の本なんですけども、「すいの体積がなぜ底面積×高さ×1/3か」という長年苦労して教えていた問題があるんです。この本で提案した、実験のために作った教材があるんですよ。

――こういう教材を作ろうとおっしゃったのは、自分の手を動かして理解させるためですか?


岡部恒治氏: うん。自分の手を動かすことはやっぱり大事。手を動かしてやったことって、なかなか忘れないですよね。こうですよと、例えばCGできれいに見せられても、きれいだったなあで終わっちゃうから。だからこういう体験をぜひ、子どもたちにさせたいということもあります。生徒に一つ一つ渡してやらせるというのが一番効果的なんですけどね。文科省もこういうのに予算をつけてくれないかなと思います。

手で扱える電子教材などは、アイデアとして面白い


――今、数学離れとか理系離れと言われていますが、実際に体験することが大事ですね。


岡部恒治氏: うん。だからやったことが身に付かないという話をしても、こういうのでやるのと全然違う。自分の手で触ってできるという、それがすごくいいかなと思っているんですね。

――便利な物は便利な物として活用していく必要がありますね。


岡部恒治氏: そうですね。電子媒体とか何かも含めて、良い物は良い物としてそれぞれの特徴を利用するのはすごく大事だと思いますね。僕なんかは、あのワープロが売り出されたばかりのときに、本当にありがたいと思って、オフィスのデスクほどもあるワープロを二百何十万出して買ったんです。それが、5年もしないうちに10万ぐらいで、性能としては同じような物が出た。その投資は無駄だったかというと、やはりそれなりの意味があったと思うんですよね。

――よく今、紙対電子というように言われているんですけど、共存していくべきものだと思われますか?


岡部恒治氏: そうですよ。本に限って言うと紙対電子というような形になるかもしれない、でもやっぱりある程度紙もあったほうがいいと僕は思いますね。ただ、だんだん若い人が多くなると、いずれは電子が多数派になるだろうなとは思いますけどね。だけど、意味もなく電子にしないほうがいいと思います。

――岡部さんから見て、電子書籍の可能性というのは、どういうことができると思いますか?


岡部恒治氏: グラフィックとかは、電子媒体は得意だと思うんですよね。だから、利用しない手はないと思います。で、動きのあるもの例えば、極性を見せたり、実際には見ることのできないものを再現するのは、高校生の年代になれば、それはいいと思いますね。

今後は、アジアに「リスーピア」を広めていきたい


――最後に、岡部さんが今後やっていきたいことを教えていただけますか?


岡部恒治氏: 数学をわかりやすく広めていければなと思っています。今、実は「リスーピア」というところでは、色々とワークショップをやっているんです。もうちょっと広められればなと思っています。実はベトナムにリスーピアを作ったんだけれど、全世界にそういう場を作りたい。フランスには前からそれに近いものがあるから、それよりもむしろアジア、たとえばインドにそういうものを作ったらいいのにと思っています。そういう場で、子どもたちにもっと数学を好きになってもらいたい。それが僕の思い描いている理想像なんです(笑)

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『思考』 『数学』 『考え方』 『生き方』 『教育』 『デジタル』 『ロングセラー』 『使い方』

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