出版社の社長がブログに目をつけ作家デビュー
――そのようにコンビニの業界で着実に力をつけていた倉下さんですが、作家活動をはじめられたきっかけはどのようなことだったのでしょうか?

倉下忠憲氏: 私自身にも結構謎なんですけれども(笑)、20歳ぐらいからインターネットとISDNが普及して、個人でもホームページが持てるという時代になりましたので、定期的に内緒な内容の日記をウェブに上げていたんです。そこでたまたまEvernoteについて書いた記事が人気になりまして、それがある出版社さんの目に留まって、2年ほど前、30歳ぐらいのときに「この内容をベースに本を書きませんか?」といわれて、1冊目の『Evernote「超」仕事術』(シーアンドアール研究所)が出たんです。だから別に始めから物書きになろうとしていたわけではないんです
――WEBサイトはアルバイトのころからずっと続けられているのですね。当時は今ほど自分のサイトを持つのは簡単ではありませんでしたよね。
倉下忠憲氏: ブログ以前は自分でHTMLを書いていました。ホームページビルダーなんかも高かった時代なので、テキストを書いて、自分でタグをつけることを勉強するところから始めました。昔はコードを打てる人が少なかったので、ある小さい旅館から「ホームページを作ってくれへんか」といわれて、副業で請け負ったりしたこともあります。今はブログという便利なツールができましたが、昔学んだ知識がブログでも役に立っていますし、遠回りをしたとは感じませんね。
――マネジメントとWEBの技術という現在の執筆活動においても重要なスキルを磨かれたのが学生時代ということですね。倉下さんはどんな学生だったのでしょうか?
倉下忠憲氏: 大学は京都の国公立大学の夜間に行っていたんです。情報工学部というところだったのですが、ほぼ講義に出ずにずっと本を読んでいたという不良大学生でした。
――主にどんな本を読まれていたのですか?
倉下忠憲氏: そのころは小説と哲学書をむさぼり読んでいました。要するに、昔の文学少年がよく読んでいるような本を、あこがれてなぞっていたような感じです。
――好きな作家を挙げるとするとどなたですか?
倉下忠憲氏: 村上春樹さんの小説はやはり今でもずっと読んでいますね。
――書籍はどのように購入されていますか?
倉下忠憲氏: 9割ぐらいは書店で買っています。仕事で今日明日必要だけどどうしても手に入らないという場合はAmazonに頼りますけれど、そうじゃないときは基本的に本屋さんですね。頻繁に本屋に行って、毎回数冊買って帰ります。結構暇人というか、約束事の少ない仕事をしているので(笑)。
本屋は「書店員になりたい若者」を採用せよ
――ブログで、わざわざ書店に足を運ぶことの意義について言及されていますが、倉下さんは、本屋さんはどんな存在であってほしいと思われますか?
倉下忠憲氏: ある種の知的空間というか、「知の欲望を刺激する」空間であってほしいです。本を読みたくさせなければ本屋としては機能していないですね。本を探すだけだったらAmazonでいい。本来自分が読まないはずの本と出会える場でないと、わざわざ物理的スペースを使う意味というのはないと思っているんです。本屋がだんだん没個性化していって、わざわざその店に行く価値が今は少なくなっていけば、どんどん潰れていくと思います。
――知的空間としての書店であるために、何が必要になってくるでしょうか?
倉下忠憲氏: まず簡単なところをいえば、本棚の通路の幅ですよね。狭いともうその時点でゆっくり本を見られないですから。棚差しして本の種類を増やすよりは、本を面で置くスペースを増やして出会いの印象を強くするほうがいいかなと思っています。あとは、店員さんのおすすめとか、「ああ、この人は分かっているな」というPOPがあったら期待できますよね。
――お気に入りの書店を挙げるとどこでしょうか?
倉下忠憲氏: 京都駅前だと大きい店が2つありまして、「アバンティブックセンター」と、最近できたイオンモール京都の「大垣書店」はなかなか面白い本棚を作っていますね。あとは四条に行ったら、小さい店も大きいお店もあってバラエティーがありますね。最近はちょっと潰れつつあるみたいですけれど。ただ、私にとって究極の本屋は、もう潰れましたけれど「松丸本舗」ですね。編集者の松岡正剛さんが東京駅前のオアゾの4階にオープンされていたんですけれど、9月で閉まったんです。3年ぐらいのオープン期間だったかな。そこは、普通の本屋さんの本棚だと例えば「文庫」とか「新書」とかの棚がありますけれど、そういうのがない。松岡さんがカテゴリーを決めて、しかもカテゴリーが独特なんです。
例えば、これは勝手につけたカテゴリーの名前ですが、「欲望の文体」というカテゴリーがあったとすると、松岡さんが考える関連する本が並んでいる。そこに行くと本を手に取りたくなるんですよね、その文脈でその本がどんな意味を持っているかが気になってくるんです。そこまでいくと本屋自体がメディアなんですよね。メディアというのは作る人の価値観が影響するので、普通のアルバイト店員には難しい。だから本屋についての根本的な考え方を変えていかないときっと無理ですよね。本屋になりたくてなっている店員の割合が低くなると、その書店の価値はどんどん下がってきます。本屋もそういう若者をピックアップしなくてはいけません。