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世界中の本好きのために

平野啓一郎

Profile

1975年6月22日、愛知県蒲郡市生。京都大学法学部卒業。大学在学中に発表した『日蝕』で第120回芥川賞を受賞。小説作品は『葬送』、『滴り落ちる時計たちの波紋』、『顔のない裸体たち』、『あなたが、いなかった、あなた』、『決壊』、『ドーン』など。他に新書『本の読み方 スロー・リーディングの実践』、『マイルス・デイヴィスとは誰か』(共著)などがある。近著に『私とは何か――「個人」から「分人」へ』、『空白を満たしなさい』(ともに講談社)がある。
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本にも「学割」を!


――電子書籍の話をお聞きしたいのですが、平野さんは電子書籍の利用はされていますか?


平野啓一郎氏: アメリカ版のKindleを買いましたし、日本の電子書籍端末もあらかた買いそろえました。iPadで青空文庫を読むこともあります。ただ、まだ紙で読む方が多いですね。iPadは重たいですよね。現状では文庫一冊手に持って読む方が手軽ですね。

――そういう意味では、最高のデバイスは文庫本ですか?


平野啓一郎氏: 現時点ではまだ、文庫でしょうね。マーケットプレイスとかで安く出たりしていますから。その状況は少しアメリカとは違うんですよね。アメリカは本が高いですから。

――電子書籍の方が読者の声はダイレクトに伝わりやすいということはありますか?


平野啓一郎氏: 電子書籍だから読者の反応がどうっていうのは、現状ではないです。システムを作ることはできると思いますが。あと、つくづく感じたのは、リッチコンテンツ化は全く望まれていないことがよく分かりました。つまり、絵や動画などをつけられるということが最初随分と語られていましたが、通常のいわゆる小説っていう概念で書かれたものに、音楽や絵をつけてほしいと思っている人はほとんどいないと思いますね。村上龍さんの『歌うクジラ』(講談社)はそういう試みがあって、僕もダウンロードしてみましたが、やはり、小説として出来上がったものに後からつけていますから、too muchな感じがどうしてもする。やるなら最初から必要な分のテキストと絵と音楽を、動く紙芝居のように、文章を書く人、音楽を作る人、映像を作る人を集めて、ディレクションしながらやらないとできないと思います。でも、そうやってできたものが、果たして映画や小説よりも面白いかどうかっていう問題はありますよね。ジャンルとして確立されるには、時間がかかるのではないかと感じています。

――電子書籍と一言で言われていますが、テキスト化された小説とリッチコンテンツ的なものと、分かれていくと思われますか?


平野啓一郎氏: 完全に分かれていくと思いますね。小説は、やはり小説のまま。ただ、ウィキペディアと連動して、分からないところですぐ検索できるとかね、その程度のことはあるかとは思いますけどね。

――ユーザーが平野さんの書籍を電子化したいと思い、本を裁断スキャンして電子化することについてはどう思われますか?


平野啓一郎氏: 僕はね、「自炊」(本を裁断してスキャナーにかけ、電子化すること)が悪いっていうのが、よく分からないですね。例えば図書館で借りた本をコピーするのと何が違うのかなって思うんです。僕の本を読み終わって、捨てたりブックオフに売るくらいなら、自炊までして持っていてくれる方が全然嬉しいですよ。CD買って、iPodに入れるのと同じじゃないですか? 海賊版みたいになって流通すると困りますけど、それは販路を取り締まればいいわけだから。一方で、ブックオフなどの中古問題に関しては難しいですよね。例えば、僕は中学生のころ、音楽が好きでしたが、毎月の小遣いが1000円くらいだったから、新譜のCDなんか買えなかった。だから必ず、中古屋で買っていたんです。その1枚を1ヶ月に何十回も聞いて、やっと次の月に新しいのを買う。だからそのころ買ったCDにはすごく思い入れあります。でもそんなペースで買っていたから、大学に入るまでに僕が買った中古のCDって、せいぜい100枚とか200枚とかくらいだったと思う。でも、少しお金が入るようになって、自分で新譜が買えるようになってからは、桁違いの枚数を買いました。3000枚くらいまでは把握してたけど、今はもうよく分かりません。すると、中古で100枚買わせたおかげで、その後3000枚分の新譜の売り上げがあがる訳ですよ。もちろん、永遠にブックオフでしか買わない人もいるかもしれませんが、お金のない若者が、そこを入り口にして本を好きになって、その後、何倍ものお金を使う可能性もある。だから、安価に手に入れられる場所をアクセスポイントとして、それなりに維持し続けることは、長い目で見ると意味がある気はしています。僕なんか、自分の文庫が1円で売られていると、頭には来ますけど(笑)、それを試し読みのつもりで買って、次に僕の新作を買うってことも実際にあるでしょう。最初から1000円でしか買えなければ、読みもしない可能性もあります。そこのところは、出版業界があまり四角四面で考えると、実はうまくいっている仕組みが壊れちゃう気もしますね。

――最初のきっかけをつくる場所になっている可能性もあるんですね。




平野啓一郎氏: 僕は、本にも学割があっていいと思う。今、Amazonでも全部登録しないと買えないじゃないですか。すると年齢も全部分かるでしょう。なら、大学生くらいまでは、本やCDを学割で買わせてあげたらいい。それなら買える人って、結構たくさんいると思うんです。そこで本好きにさせておいて、大人になったら自分の収入で買ってくださいみたいな。そういう工夫も必要じゃないかなと思いますね。携帯でも電車でも、全部学割があるじゃないですか。読書離れと言われている昨今、考えてみてもいいことじゃないですかね。

編集者は、一人の作家と長く付き合うべき


――今の時代、書き手として、出版社や編集者の役割はどんなところにあると思いますか?


平野啓一郎氏: 書き手も出版社も編集者も、淘汰される時代に来ていると思います。でも、僕はやはり文学には、固有の価値があると信じています。それを読むことで人生が変わったり、救われたり。そこを見失って表面的にエンタメ(軽い読み物)に迎合したら、作家として存在価値を失うと思う。だから、その核の部分は譲るべきじゃないと思うんです。ただ、必ずしもそれを、皆が面白いと思えるかどうかは別問題。そこのインターフェースの仕上げをどうやっていくのかは作家一人ではできないことだと思います。書店があって、営業があって、編集部があって、ネット上の色々な評判の回収があってという中に、本を投げ込んでいく訳で。作家が、流通から何から全部把握して創作活動をしていくことは難しい。作家はハードコアな考えを持ち続けて、そこをどう今の社会と結びつけていくかは、編集者がやるべき大きな仕事だと思います。作家と編集者は、音楽業界で言えば、ミュージシャンとプロデューサーのような関係じゃないですか?ただ、編集者も今はかなりサラリーマン化していますよね。大体、出版社は異動が多すぎます。

――付きっきりで一緒につくっていくということは、あまりないのでしょうか?


平野啓一郎氏: なくなってきています。本当は、長期的に一人の作家と付き合っていくべきなんですけどね。一番の問題は、今言ったやはり異動です。異動がいいのかどうかは、色々議論があって、色んな部署の経験を積んで文学の編集者になった人の方が、確かによく分かっているし、いいっていうのはあります。同じ編集者とずっとやってきて、なあなあになることも確かにある。でも一方で、連載を始めてずっと一緒に仕事してきたのに途中で異動になって、何の事情も知らない人が担当になったりだとか。例えば、ある文芸誌の編集長が僕のこと気に入っているとするじゃないですか。でも、3年たって交代したとする。次に来た人が僕の作品を嫌いだとすると、ほかの出版社との付き合いを全部断って一本で仕事していると、内部の異動があった瞬間に仕事がなくなるわけです。だから、作家はリスクヘッジとして、色んな出版社と付き合うんですよね。すると付き合いがあるから、講談社で書いたら次は新潮社でという風に、ぐるぐる回りながら本を出す。すると結局、作家って5~6年の長いスパンでプランを立てることができなくなるんです。本当は作家って、10年くらいの単位で何をやって、それを海外にどう広めていくかっていう戦略を立てなきゃいけない。それが、作家も出版社を変えるし、出版社内の編集部員も変わっていくから、皆、何の戦略もなく単発でパラパラ本を出しているだけになっている。そうしている間に、海外では日本文学が読まれなくなってしまったんですね。

著書一覧『 平野啓一郎

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