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世界中の本好きのために

保坂和志

Profile

1956年、山梨県生まれ。鎌倉に育つ。早稲田大学政経学部卒業。90年、『プレーンソング』でデビュー。93年、『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、95年、『この人の閾(いき)』(新潮文庫)で芥川賞、97年、『季節の記憶』(中公文庫)で谷崎潤一郎賞、平林たい子文学賞を受賞。エッセイに、『猫の散歩道』(中央公論新社)、『途方に暮れて、人生論』『「三十歳までなんか生きるな」と思っていた』(いずれも草思社)など。創作論に、『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』(いずれも中公文庫)、『小説、世界の奏でる音楽』(新潮社)などがある。

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カリスマ書店員の存在


――保坂さんは月にどれぐらい、本を読まれていますか?


保坂和志氏: 今はほとんど読んでいないですね。通して読むのなんて、月に2冊とかそんなものです。だいたい読みかけてやめちゃうので。

――本を買われるときは、普通に書店へ出向くのでしょうか?


保坂和志氏: 今、ほとんどAmazonですよ。配送料もタダだしね。リアルな書店に行くと、くだらない本がいっぱい並んでいるでしょう。頭にきてね(笑)。何を買いに来たか忘れちゃうんですよ。なんでこんなものが置いてあるんだよって。今、書店員が「この本」ってお薦めするでしょう。書店員がそういうことをするようになったのは、ここ10年ちょっとのことです。それまではね、評論家、次に編集者、それで書店員が薦めた。だんだんハードルが低くなっているわけ。なぜ今、書店員のお薦めが中心になったかと言うと、少し前に「カリスマ書店員」がいたからなんですよ。

――カリスマ書店員とはどういう方ですか?


保坂和志氏: 津田沼にあるBOOKS昭和堂 って書店の木下和郎さんという人ね。その人が薦めてポップを建てた『白い犬とワルツを』(新潮社)が、大ベストセラーになって、それで書店員という存在がクローズアップされた。その木下さんが2個目に薦めたのが、僕の『プレーンソング』だった。でも、ブレークしなかった(笑)。

――その木下さんという人が、今は普通に見かける「書店員のお勧め」のポップの先駆けだったんですか?


保坂和志氏: あの人がいなかったら、今のようにはならなかった。本のよしあしがわかる人が、書店員にも編集者にも実際に何人かいたけど、今は、本を知らない書店員であっても薦めている。そんなのに全く価値はないんだよ。書店では、ばかみたいに売れる作家がいると、ほかの作家を追い出すんですよ。いい作品が出たとしてもね。それは新しい小説家が出るためには弊害になると思います。

古本屋がやっていくには、独自性がないとダメ


――本を選ぶときは、どのように選びますか?


保坂和志氏: ほかのところから話を聞いたり、ちょっと小耳に挟むでしょ。「何々っていう人がいる」って。そこでまず3冊ぐらい買っちゃう。すると関連書籍が出てくる。それも面白そうだってついでに買っちゃうんです。で、やっぱり買いすぎるから読まない(笑)。本が好きだから、どんなところにいっても古本屋などがあると入っちゃう。

――お住まいの近くに古本屋はありますか?


保坂和志氏: ありますよ。豪徳寺の玄華書房という店ね、そこは美術関係の画集が一番得意なのかな。やっぱり普通の小説とか一般書はたぶんあんまり商売にならないんだね。だんだん画集とか美術関係が多くなってきて、ちょっと渋いのに特化している。あと東松原の愛書館・中川書房というのも、70年代ぐらいの海外小説がいっぱいあったんだけど、それも最近もっと渋いほうにいっちゃって。古本屋がちゃんとやっていくには、独自性を出していかないとダメなんだよね、きっと。差別化をはからないとダメなんだよね。



――チェーン店の古本屋では、基本はマニュアルで、価値や希少性もなしで引き取りますね。


保坂和志氏: 本屋だって骨董屋だって、目が利かなくちゃダメだと思うね。

夫婦そろって片づけられない…


――保坂さんがお仕事をされるとき、昔は喫茶店などを利用していたそうですが、現在のスタイルはどのような感じでしょう?


保坂和志氏: 今は自分の家だけですね。原稿は全部手書きです。

――ワープロを使われることはありますか?


保坂和志氏: 僕ね、ワープロで書いたのは、日本中でも有数に早いんです。ある事情があって。86年くらいに、ワープロをリースで引き取ったことがある。毎月1万5千円を、160万円になるまで払い続けたんです。だから芥川賞をもらった時、まだそのリースを払い続けていた。賞金を全部使っても、リース総額1個分にも足りていなかったですね。

――当時としては大金ですね。どんな事情で高額なリースをされたのでしょうか?


保坂和志氏: 友達と編集プロダクションを作ったんです。そいつが当時、「企画書はワープロじゃなくちゃいけないんだ」と言って、総額160万のワープロをリースしちゃって、その後、そいつがトンズラしたから僕が引き受けるしかなかった(笑)。そのころは、お金がかかったけど、自分で書いた文章が活字になるから、珍しくて新しくて面白かったですね。人にも読ませやすかったし、あれはあれで良かったと思うことにしてます。

――新しもの好きで、すぐに試してみようという好奇心をたくさん持っていたんですね。


保坂和志氏: 前はね。今はもう面倒くさいけど(笑)

――現在、手書きということなんですけれど、仕事場はどんな感じなんですか?


保坂和志氏: ごちゃごちゃです。今の家が今年で13年目なんですけど、5、6年目ぐらいまでは、辛うじて撮影可能だった、今は無理。途中で止まった原稿を全部床に捨てちゃうから。だってそれが一番簡単でしょう。うちは夫婦で片付けられないから、本当に家の中がごちゃごちゃです。

――奥様とケンカになることはないですか?


保坂和志氏: だってそこだけは、共通した欠点だから言い合えない。うちは片づけられないことに、すごい自覚を持っているからね。

――奥さまとはどこで知り合われたのですか?


保坂和志氏: 僕がカルチャーセンターを企画していた時代に受講生として来た。85年からだから、もう27年たちますね。昔さ、『アリーmy love』って、弁護士のドラマがあってね。これがBOOKOFFで、ワンシーズンを二つに割って、4つのDVDセットで950円で売っていた。だからシーズン1と2を買ってきたんだけど、そこでリチャードっていう一番現実主義者のやつが「車なんか20代、30代で買って、それを一生乗れと言われたら絶対に買わないでしょ? なぜ結婚だけは20代、30代でするんだ、結婚という制度に無理があるんだ」って言っていましたね。

――ご自身は、どう思われますか?


保坂和志氏: いや、結婚ってね、長く続くと、恋人とかの関係はないよ。親子と一緒で。昔キリスト教が江戸時代に日本に入ってきたときに、愛という概念がわからなかったんで、“ご大切”と訳したという、そういう感じですね。大切に「ご」をつけて。家族だから大切ですというもの。恋愛とは違いますと、それはみんなそうですね。

著書一覧『 保坂和志

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