BOOKSCAN(ブックスキャン) 本・蔵書電子書籍化サービス - 大和印刷

世界中の本好きのために

北野大

Profile

1942年生まれ。財団法人 化学品検査協会(現:化学物質評価研究機構)・企画管理部長から淑徳大学国際コミュニケーション学部教授を経て、2006年4月より明治大学理工学部応用化学科教授。経済産業省・化学物質審議会委員、環境省・中央環境審議会委員などを務める。日本化学会委員、環境科学会理事、日本分析化学会会員。2004年日本分析化学会・技術功績賞受賞。1987年にスタートしたTBS『サンデーモーニング』にレギュラーコメンテーターとして出演したのをきっかけに、TBS『クイズダービー』、NHK『くらしの経済』、日本テレビ『マジカル頭脳パワー』などのテレビ番組に出演。タレント・ビートたけし(映画監督・北野武氏)の実兄。

Book Information

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

いい編集者と巡り合えると、いい本が生まれる。二人三脚が大事です


――電子書籍の登場で、本屋だけでなく出版社の流通面での役割は減ってきていると思うのですが、逆にこういう時代だからこそ、出版社というのはどういう事が大切なのかなと、どんな風にお考えでしょうか。


北野大氏: 本というのは、やっぱり知的財産で、「出すこと」が大事だと思います。今のネット社会なんていうのは、何でもネット検索できるけど、結局はネットの情報というのは、信頼できる情報もあるし、信頼できないのもある。本になってくると、もちろん出版社にもよりますが、それなりの名のある出版社になると、例えば岩波とか、責任を持っていますよ。そういう所から出ている出版物は、非常に安心して読めますね。

――出版されるぐらいならば、一定以上のクオリティを満たしているんだろうなと安心できますよね。


北野大氏: 昔、電化製品でもなんでも、メーカー品が良いと言われていた時代があったわけです。パナソニックとか、シャープだとか、ある程度知られている名前のついているものは、安心なんだ…と。失礼ですが、名も聞いたことのないようなメーカーの製品になると「大丈夫かな?」って心配になりますよね。

そういう意味では出版社にしても、それなりの歴史や伝統のある出版社のほうが安心。あと、編集者がつくと、彼らもいろいろと調べてくれて、著者では気が付かないミスを直してくれます。ただ、一方で、「売ればいい」みたいなスタンスで作っているところは、チェックとかもまったくないところもありますけどね。

――版元によって、いろいろと違いがあるということなんですね。


北野大氏: かなり細かく言ってくれる所もあります。正直、著書でも1人で書く場合は編集者の力が強いです。複数で書く場合には、複数の人に書いてもらって、複数名で全部一応チェックする形になるんです。だから、そういう意味では、複数の人が書いた本で、編集者がしっかりしているのは、安心できるのかなという感じがしますよね。



――どんな本でも大事なのは、実は編集力だったりするわけですね。


北野大氏: そうかもしれません。私は過去に紙で出されたものを、電子化して出すというのはいいと思います。紙やネットなど、いろいろな媒体のなかから、自分に合った情報を取捨選択していったらいいんじゃないでしょうか。

本はできれば紙で。でも、音声や画像が出る電子書籍の存在には驚愕


――ちょっとお話が変わるんですが、先生ご自身は、電子書籍自体はご利用になった事はありますか。


北野大氏: 申し訳ないんですが、ないですね。結局、古いのかな(笑)。ただやっぱり、自分は読んだ本を、読んできた証として本棚に置いておきたいんですよ。電子書籍を使うと、それがない。自分がこういう本を読んできたというのは、もう1回、自分が読んだ紙の本で読み直してみるときに蘇ってくる。

たとえば、子どもが高校生のころに「お父さん、夏目漱石全集の何巻、貸してくれる」とか言われるわけです。「自分の子どもがこんな本を読むようになったか。大人になったな」と思うのもあるし、一方で「自分はかつてこういう本を読んできたんだな」ということも思い出されます。

――本棚はお父さんの背中というか、履歴書みたいな感じですよね。


北野大氏: そう、「ウチの親父はどんな本を読んでいるんだ」とかね。だから、佐野さんの『あんぽん』で、孫さんはあと何年か以内に一切紙の本が無くなると仰っていた。佐野さんは絶対にそんなことはないとハッキリ書いていますけど、私もそう思う。だから、どっちが良い悪いじゃないのかもしれません。

――孫さんの発言もそうなんですけど、紙と電子という対立軸は抜きにして考えられるとこちらとしてもうれしいですね。


北野大氏: 電子書籍というのは、1個のメディアで何冊も本が入るから、軽いしスペースもとらない点はいいのかもしれません。

電子辞書も含むなら、私も電子書籍を使っているし、今、うちの学生はほとんど使っています。どの電子辞書も、カラーで絵が入ってくるとか、それなりの特色を生かしています。でも単語を覚えるという意味では、紙の辞書では、完全にスペルを知らなければ引けない。でも電子書籍だと、途中まで入れると、コレだろうって候補がいくつか勝手に浮かんでくる。あれは便利ですよね。

私は今、広辞苑の電子辞書を使っていますが、これは画像が沢山入っているので、理解を容易にするんじゃないかなと思います。紙の本で多くの画像を入れるのは大変ですからね。そういう意味じゃ便利だなと思います。「うぐいす」という単語を引くと、うぐいすの写真も出てくるし、ホーホケキョという音声も出てきます。音も出てくるし、電子ならではですね。

さらに、電子の英語辞書は、発音のボタンを押すと、ちゃんと発音してくれます。ネイティブな発音で、発音スピードも3種類ぐらいあって、いわゆる通常の発音で『ボーイ(boy)』、ゆっくりと『ボーーーイ』、早いと『ボイ』と変えてくれるんです。そういうのは電子辞書ならではですね。

――電子書籍だと、従来の「文字」だけでなく、画像や音声など、いろんな五感を使うことができるので、より勉強には適している…ということでしょうか。


北野大氏: いや、勉強という意味では紙の辞書のほうがいいと思います。古いことを言うと、勉強っていうのは苦労してやるものだと思うんです。苦労がないと勉強にならない。電子書籍は便利で非常にありがたいけど、紙は紙の全体を俯瞰できるとか、どっちかではないですね。住み分けるというのがいいのかもしれません。

ハウツー本など、資料的なものはどんどん電子化してもいいのでは


――ちなみに、どんなものだったら「電子で読みたい」と思われますか?


北野大氏: 失礼かもしれませんが、ノウハウ本、ハウツー本みたいに「とりあえず1回バーッと読んだらもう読まないだろう」という本は、電子書籍がいいのかなという感じがしますね。たとえば、昔は文庫本というのは、ハードカバーで一定の評価を受けたものが文庫本になったんですよ。だから、自分たちの本が文庫本になるというのはステータスだったんです。

でも、今は関係なしに、1か月、2か月たったら文庫本になります。さらにその文庫本も狭くて置けないとなると、こういう形で入れておくんでしょうか。

私自身は、自分がこういう本を読んできたという証として残しておきたいし、さっき言ったように、「1回読んだらいいかな」と思える本は、電子版などでサラッと読む。いずれ誰かにこういうのを読んでもらおうとかというものは、紙の本がいいのかなと思いますけどね。

――紙vs電子と捉えられがちなんですけれども、BOOKSCANとしても、紙の本が売れないと仕事にならないんですよね。紙の本を電子化するという仕事なので。もともと本が好きだからという事業で始めて。ようやく今、出版社の方ともお話をさせて頂いたり、実際に出版社様からご依頼を頂く事もあるんですね。過去の出版社様がお持ちの本のデータを今後電子書籍で出すためにデータ化してほしいとか、そういう事もあるんですね。とにかく共存していければなと思います。


北野大氏: 電子にしても紙にしても、本のいい所は、読む人の能力とペースで読めるところでしょう。テレビは音も出て絵も出て、映像も出て素晴らしいですが、見る人の理解のスピードが違います。でも本の場合だったらゆっくりもう1回読み直してみるとか、考えることができますね。

昔有名な数学者の岡潔さんという先生がおられて、「映画は人間をだめにする」という、有名な言葉があるんです。映画というのは一方的に来る物で、絵で出てくるから、こちらの想像力も湧かない。岡先生が今も生きていらっしゃれば、「テレビは人間を馬鹿にする」と言ったでしょうね。

ただ、テレビは、新聞・雑誌とは違い速報性や臨場感があります。紙と電波というのはおっしゃった通り対立するものではなくて、速報性だったらテレビやラジオで、じっくり推敲するのは紙という考えもあるかもしれません。

読書というのは、まさにこちら側のペースや能動的な意欲、それなりの能力がないと読めないと思います。文字を読むということですから。

ところがテレビやラジオは受動的で、極端なことを言えば、文字を理解する能力は必ずしも必要でないと言えるのではないでしょうか。

一人の作家ととことん向き合った後の達成感は、山登りに似ている


――紙と電子、どちらも良さがありますね。最後に先生にとって、今までお伺いしました読書・本というのは、一言で言うとどんな行為、存在になりますか。


北野大氏: 知的好奇心を満たすものという事でしょう。読書は時々難しくて、イヤになっちゃう事もあるんです。だけど我慢して読み終えると、達成感があるでしょう。「やったー! 読み終わったぞ!」というね。本を読むと、自分が少しだけ利口になった気分になるわけです。

かつて私が勤めていた財団の上司が面白い方で、「いろいろな本を読め」とよく言っていました。私なんか専門馬鹿だと言われたんですが、その時に、その上司に「1人の作家の作品を全て読め」と言われたんです。

たとえば、夏目漱石の全集は、全31巻ぐらいあります。15、16巻までは作品で、後は断片とか日記とかがあるんですが、それを全部読めと言うんですよ。島崎藤村なら藤村の作品を全部読む。それも1つの見方ですよね。そこで作家論を書くとかの研究ではないんだけど、「1人の作家を集中的に読め」というのを盛んに言われました。

――1人の作家でも時期によって書き方が違ったりしますよね。


北野大氏: 画家の画風が変わるのと同じでね。作家さんの年で変わってくるものだけど。
いずれにしても本を読むのは達成感。山を登る感じに似ていますね。

――もっともっと達成感を味わえるように、皆さんも含めて本を読んだほうがいいですね。お忙しい中、ありがとうございました。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 北野大

この著者のタグ: 『英語』 『コミュニケーション』 『スポーツ』 『海外』 『数学』 『科学』 『学者』 『考え方』 『紙』 『ノウハウ』 『歴史』 『テレビ』 『研究』 『新聞』 『ノンフィクション』 『本棚』 『子ども』 『理系』 『文系』 『研究者』 『雑誌』 『世代』 『装丁』 『アルバイト』 『サラリーマン』 『現場』 『書き方』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
著者インタビュー一覧へ戻る 著者インタビューのリクエストはこちらから
Prev Next
ページトップに戻る