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世界中の本好きのために

安保徹

Profile

1947(昭和22)年、青森県生まれ。東北大学医学部卒業。90年、胸腺以外でつくられる胸腺外分化T細胞を発見。96年、白血球の自律神経支配のメカニズムを解明。2000年には胃潰瘍=胃酸説を覆す胃潰瘍=顆粒球説を米国医学誌に発表し大きな衝撃を与える。国際的な場で精力的に研究結果を発表し続け、免疫学の第一人者として最前線で活躍している。『免疫革命』(講談社インターナショナル)『医療が病いをつくる』(岩波書店)『免疫学からみた幸福論』(ビジネス社刊)など著書多数。

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本は書店で買うけれど、意外な事でしょんぼりする。


――今現在本を読まれる場合は、書店へ行って買われるんですか?


安保徹氏: 一番多いのは書店での購入ですね。うわさになっている古い本などは、ネットで検索して買います。ネット検索で、古い本でも買えますよね。そうしたら森田正馬さんのも買えて、懐かしかったです。私自身はパソコンが使えないから、使える人に頼みます。私は全然そういう機械ものにさわっていないので。

――機械をさわられないという事は、本を執筆される時も…。


安保徹氏: 全部手書きで、鉛筆書ですからね。

――確か英論文だけでも200本以上ございますよね。


安保徹氏: 全部手書きなんです。私は英語を書くのも日本語を書くのもだいたい同じペースで書けますから。ほとんど、タイプしてくれる人がタイプして、論文になるという感じでして、執筆は仕事場で行います。自宅ではやらない。自宅はくつろぐ場所だから、家で仕事をする事は一切ありません。

――参考文献や参考資料などは多いのではないでしょうか?


安保徹氏: 20年ぐらい前までは図書館に行って自分で調べてコピーして持ってきていたのですが、今はPubMedっていうウェブ上のデータベースがあり、医学論文は全部キーワードで検索すると、このキーワードを使った論文が1000とか2000とか出てきます。あんまり多いと全部読めないので、200とか500ぐらいになるまで、年号とかのキーワードを増やして、少なく絞り込みます。200とか500ぐらいだったら、アブストラクト(文献や論文の要約)はスッと読めますから。そうやって適切な論文を探していくという方法です。ですからみんなコンピューターの時代です。自分ではPCは使えないから大学院生に頼んだり、色々な人にお願いして資料を出してもらうんです。

――今でも書店へ行って本を買われるという事なんですが、例えば昔と今と書店はこんな風に変わったなどご自身で実感される事ってありますか?


安保徹氏: 今は紀伊國屋でもジュンク堂でも、巨大書店になっているので、凄い種類を自分の目で確かめられますね。昔の書店は冊数がそんなに多くなかったです。昔は有名な物しか読めないという感じでした。今は色々な分野の物を目にして読めますけど、いっぱい本が出ているのを前にすると、自分は何もほとんど知らずにこの世を去るという寂しさもありますね。色々な分野に色々な興味があるでしょう。動物学でも植物学でも。しかしほとんど知らないで、結局この世を去る。本当に知らない、知らないままこの世を去るんだなと思って、しょんぼりして(笑)。

――何もしなければ人生は長いですけど、何かをするには短いという事ですね。


安保徹氏: そうです。今寂しい気持ちです。

電子書籍は読み上げ機能が最高だと思う。


――先生は、いわゆる電子書籍というものをご利用になった事というのはありますか?


安保徹氏: パソコンは凄く利用しているし、文章を書くのにも使うんだけれど、自分では扱えませんからね(笑)。人に頼んで全部進んでいるから、自分の知識ではないんです(笑)。

――そうですね、最近は電子書籍の場合、音声で読み上げてくれるものもありますね。


安保徹氏: それはいい!やはり目が疲れる人にはね。そういうのもいちいち買うと高いので、借りられたり、登録していろいろなものが聞けるというのが理想ですね。有名な評論家や哲学者のテープは何巻か買いましたが、ああいうのを買うと高い割には1回聞くと飽きてしまいます。しかし、ある程度のお年寄りになると、音声読み上げは最高でしょう。ボランティアで、結構私の本は音声になっているんです。それは視覚にハンディキャップを持った人たちのためになんですが。

安保流『ミトコンドリア的に生きる』という方法


――生き方についてもお伺いしたいのですが、ストレスとの向き合い方などはありますか。


安保徹氏: 私が一番気を付けていることを話します。たぶん他の人にも参考になると思うんですが、体の能力は筋肉で、精神の能力は好奇心だと思うんです。ですから体を動かす事と好奇心を持って何かを学ぶ事を続ける事が大切だと思います。筋肉も脳神経も体の中で一番ミトコンドリアが多い場所なんです。いわゆるエネルギーを本当に使う場所は、筋肉と脳神経です。ですから、生きる力というのはミトコンドリアが支えているわけです。それでみんなが勉強をします。それにスポーツの祭典をやりますね。みんなミトコンドリアを鍛えているんです。脳が人間のたくましさと成長なんですね。体を鍛えた人は、はちきれるような充実した体になっています。特に協調性よりも独自性みたいな心理で生きている人は、何かゆるぎない格好の良さがありますよね。ですからその二つが、どうやら人間の生きる目標なのかなと思っています。それで私も体を鍛える事と、何か勉強をする事とを二つやり続けているんです。

――これは人生の二本柱ですね。


安保徹氏: 例えば70代の人が、年だからと言って体を鍛えなかったらそのまま弱って能力低下で亡くなってしまう。けれども体を鍛えると、それこそシニアのスポーツでもできるように、いつまでもハツラツとしていられるんですね。

――脳と筋肉を鍛える事というのは大事な事なんですね。


安保徹氏: 体は、備わったもので満足していないで、動かせる場所は全部鍛えるという努力を一生続けないとダメだなと思っています。例えば口を開けたりするのだって筋肉を使うでしょう。顔をよじるのも筋肉を使うでしょ。動かせる場所は全部動かすべきだと思います。

――いや、本当にそうですね。筋肉の部分にミトコンドリアが沢山あるという事は初めて知りました。


安保徹氏: 背筋が伸びていて、普段は優しく、困難に出合った時に毅然とする、そういう体を維持するわけです。私は週1回か2回のペースでバッティングセンターに行って左打ちを続けているんです。

――バッティングセンターに行かれるんですか!?


安保徹氏: それで、左打ちをします。結局さっき言ったように、動かせる場所を全部動かして鍛えなきゃダメだと思ったのです。右だけでは右だけの人生になってしまうから。

――右だけの人生ですか。


安保徹氏: 左も利用して。左の動きは右脳の支配ですから。右脳もちゃんと発達させて、賢くなってこの世を去りたいなと思っているんです。



年をとったら脳と筋肉を鍛え、ミトコンドリアに最高の条件を与えてこの世を去るべし



安保徹氏: それなりに大病でない人は、やはり年をとったから能力が衰えるというような考え方ではなくて、ミトコンドリアの多い筋肉と脳神経は鍛えれば鍛えるほど能力が高まると考えたほうがいいです。そのいい例が、和牛の肉とオーストリア牛なんです。オーストラリア牛の肉は、赤身が凄くて、いかにも充実しているでしょう。和牛は、中に脂肪が入ったり、赤身がいかにも薄いっていう感じです。ミトコンドリアは、酸素をくっつけて赤い色調を出すので、酸素が外れれば赤黒い色調になります。あの差はミトコンドリアの差なんです。ですから和牛を食べると歯の悪い人は柔らかいって喜ぶわけです。オーストラリア牛を食べると歯ごたえがあって味が濃い。その違いが鍛えるかどうかなんです。だから人間の筋肉も、能力を鍛えない人は和牛タイプで、きちんと活発に運動した筋肉の人はオーストラリア牛みたいな筋肉になる。筋肉の能力が違うんです。キビキビした動作とか、疲れ無しとか、能力が格段に向上しちゃうわけです。ですからお年寄りでも面倒くさがらない人っていうのは、体を鍛えた人なんです。

――赤身型か霜降り型かという事なんですね。


安保徹氏: それが脳でも起こるんです。ミトコンドリアの少ない脳は萎縮して、容積が少なくなってしまう。好奇心を持って脳を鍛えたり、他の国の語学とかをやった人達の脳ははちきれんばかりなんです。そういう差が出てくるので、健康な人は能力をもっと高める努力を一生死ぬまで続けてほしい。それから死に時が来たら食を断つというのが一番大切です。ミトコンドリアはごちそうに弱い。沢山食べることに弱い。沢山むりやり食べると頭がぼーっとするんです。お年寄りの場合は沢山食べるとぼけちゃうんです。ですからある程度のお年寄りは食欲がそんなにわかなかったら、食を断って、それで最後にミトコンドリアに最高の条件を与えてこの世を去る(笑)。だから空海とかの偉人は、ほとんど仙人状態になって死んでいます。

――空っぽの状態ですね。


安保徹氏: 野生の動物はみんなそれを実践しているわけです。人間だけが、油断して胃ろうを作られたり管を入れられたりしているんです。死に時が来たら食を断つというのが大切だと私は思っています。

――ミトコンドリアというのは、どういう存在なんですか?


安保徹氏: 20億から12億年前に我々の体に寄生したものです。それまで無酸素の地球で、無酸素で生きていた我々の古い先祖に、酸素の大好きなミトコンドリア生命体が寄生して、そのミトコンドリアの作るエネルギーで多細胞化と進化の流れに入ったのです。ミトコンドリアが入らなかった生物は今でも細菌類として、ひたすら単細胞のまま分裂しているんです。不老不死の世界ですね。ミトコンドリアが入った生物は真核生物として、進化が始まりました。ところが残念ながら、ミトコンドリアの出す活性酸素で老化して死んでしまう。寿命というものが生まれました。そういう寿命の問題が出たけれど、我々人間はそのミトコンドリアを抱えたおかげで人間まで進化して、その人間らしさのミトコンドリアの要求性の一番高い所が筋肉と脳神経なんです。だから体を鍛えて頭を使った人達がミトコンドリアの共生を最高に活用しているのです。それで、ミトコンドリアがごちそうに弱いから、最後に食を断ってこの世を去るというのが、ミトコンドリアの入った真核生物のルール。ですから食を断たなければ。来週死ぬのに、まだご飯を食べているようじゃダメです(笑)。

(聞き手:沖中幸太郎)

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