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世界中の本好きのために

北尾トロ

Profile

1958年、福岡県生まれ。法政大学卒業。編集プロダクションを経て26歳でフリーライターとなる。30歳を前にバンド活動、同名の「脳天気商会」という会社を、ライターの下関マグロ氏たちと設立。40歳を前に、インディーズ出版活動を開始し、『廃本研究』を制作。1999年、インターネットを使った古本屋「杉並北尾堂」をオープン。40代後半からは、日本にも「本の町」を作りたいと考えだし、2008年5月、長野県伊那市高遠町に、仲間とともに「本の家」を開店。 2010年9月、ノンフィクション専門誌『季刊レポ』を創刊。編集発行人をつとめる。代表作に「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」がある。

Book Information

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『電子書籍』がはやると、『本屋』に1冊も本のない『スター作家』が誕生する



『季刊レポ』編集長として活躍されている北尾さんは、ライターとしては、ゲイ、裏稼業、裁判傍聴ものなどサブカルチャーや一風変わった人生、生き方などを紹介するものが多い。そんな北尾さんに今後の電子書籍や出版業界について、独自の視点で大いに語っていただきました。

読書する時には『どんぐり舎』か『らんぶる』


――早速ですが、今のお仕事の内容を教えてもらってもよろしいですか?


北尾トロ氏: フリーライターなんですが、ライターが一番の仕事ということになるのかな。あと、季刊ノンフィクション雑誌『レポ』というのを2年前に創刊して、これの編集発行人をやっています。

――仕事場にはどのくらいいらっしゃるんですか?


北尾トロ氏: ここが事務所で、自宅は別なんです。どれくらいいるかな。基本はフリーだから、書く時と人が集まる時には来ます。『レポ』はUSTREAMとかやっていて、毎週火曜日ここでやっています。ここは原稿を書く場でもあるんですけれど、『レポ』の編集部としての機能といいますか、人が割と出入りしやすいようにと思っていますね。ここには週に4日くらいは来ますよ。でも朝から夕方までいるということはなくて、昼からとか、1回来てまた取材に出てとか、夜中だけ来るとかもうめちゃくちゃですよ。要は家ではなるべく原稿は書かない。家は、子どももいるし、やっぱりどうしても落ち着かないですよね。なのでそういう風に分けています。

――喫茶店とかで仕事されたりしますか?


北尾トロ氏: たまにですね。そんなにないです。書く場所は、人によりけりですよね。パソコン持ってやったりする人もいますけど、僕はわりと書く時は静かな方がいいですね。

――書くときはどのように書かれますか?


北尾トロ氏: 雑誌の連載なんかの場合はリズムがあるじゃないですか。なのでそれに合わせて取材進めていって、締切が迫って書きますね。書くときは一気に書くという感じです。勝手に書くものも、例えばメールマガジンを出していたりして日記的なものをやったりとか、もう何年もやっているので生活の一部になっていますね。

アイディアを出したりする時には喫茶店に行きます。あと本を読む時。気に入った本をじっくり読もうという時には、喫茶店にわざわざ行きます。喫茶店は、お気に入りもあるし、ちゃんとおいしいコーヒーが飲めて居心地がいいところもある。例えば普通の単行本とかだったら2軒ぐらい、はしごしてざっと読んじゃうとか。そういうのがものすごく好きですね(笑)。

事務所に来て、1人でも読んでもいいんだけど、ここだと何だかんだ人が来たり電話が鳴ったり、仕事しないとなって思ったりする。喫茶店は邪魔が入らないからね。この近所で、本が読みやすいのは西荻の『どんぐり舎』というところがあります。一軒に顔を覚えられたりとかあまりしたくないので、ルノワールとかでもいいんですけれど。

その街を代表する喫茶店も好きですね。だから電車に乗ってわざわざ行ったりもするんですよ。『らんぶる』とか名曲喫茶みたいな(笑)。荻窪とかにもあって、そこへ行ったりもするんですけれど、今どきは割とじいさんのたまり場になっていたりするんですよ。じいさん友達がボソボソ喋ってね、逆にちょっと居心地がよくない(笑)。

――お仕事を外でされる時は資料を持ち歩きますか?


北尾トロ氏: 資料がいるような場合はやっぱり事務所でやりますね。事務所で書かない時は短いもの、コラムみたいな何もなくても頭の中でできるものとかだったら、たまにはやるけれどね。

新刊書店と古本屋の大きな違いは『個性』


――北尾さんはネットの古書店をやっていらっしゃったり、全国の古書店を巡ったりと古本との関わりも深いですが、どういう所に魅力を感じますか?


北尾トロ氏: 僕はそんなに極端な読書家ではないので、新刊書店に読みたい本がいっぱいあれば多分新刊で買うんですけど、値段的なものはあまり関係なくて、新刊書店ってすぐに売れない本って消えちゃうじゃないですか。だからそういう本を読みたくなるともう古本屋しかないという、そういう状況ですね。

ただ、通っていくと新刊書店と比較して古本屋というのは、個性で持っているようなところがあるんですね。一軒一軒違う。新刊書店というのはチェーン店が特にそうですけれど、金太郎飴みたいにどこでも同じという安心感があるでしょ?だから古本屋に馴染んでくると、そのお店の店主の、好みとか詳しいジャンルとかがだんだん分かってきて、値段にもそれは反映している。そういうことが分かると動けるようになるんですね。こういう本が欲しいからあの本屋へ行こうと。そうするとこれは西荻の典型で、1ダースくらい古本屋があるんですけれど、そこをはしごしていく楽しみっていうのがあるんですね。ウインドーショッピングに近いんですけれど。そして出会うと。出会ってしまった時に店主と気が合って、店主の好みと一致すれば、何冊も出会っちゃうわけです。そういう風になってくると、今度は関西の方に行ってみようかなとか、旅行と兼ねて行くようになっちゃったんですけれどね。

城下町は古本屋のあるところが多くて、城下町って栄えたところなので、教養がある人が多かったり、伝統があったりという所で、蔵があったりして古い本を持っていたりする。街に本が残っている所っていうのは、古本屋さんが仕入れをできるので活性化するんですよ。やっぱり街全体が1つの蔵書みたいな形になっていて、飽きたり、人が亡くなったりするとその街の古本屋に流れ込んでくるじゃないですか。

――個人が持っている古本というのはどのくらいの数が循環しているんでしょうか?


北尾トロ氏: どうなんでしょうね?でも古本屋というのは組合があって、位置があって、プロ同士の売買があるんですけれど、そこで売れない本というのは大量にあるわけですよ。持って行っても誰も買わない。そういうのは捨てられちゃう、処分されちゃう。そういう本が結構あると思いますよ。だから出しても実際売れて次の人の手に渡るというとほんの何割かじゃないですかね。

――『裁判長!ここは懲役4年でどうすか』は、そういった中で、売れる自信のようなものはありましたか?


北尾トロ氏: いやないですね、あれは最初単行本の時は一万何千部とか大して売れていないわけですよ。少し増刷したりして、それでも満足していたくらいですよ、まあまあ頑張ったと。それが文春文庫に入ったんですけれど、その時も文春の人も特に期待もせず(笑)、こういう毛色の変わった物もいいかなといって文庫化してくれたんですけれど、出してみたら売れちゃって慌てて増刷したって感じなので誰にも予測できなかった。結局は3年くらいのギャップがあるわけだから、書店で読者の人が見て決めた、あるいは世の中の裁判員制度に対する関心が高まってきて、単行本の時よりも文庫化された時にちょうど良くなったというか、それぐらいしか考えられない(笑)。あと値段が安くなって、女の人とか通勤途中で気軽に読めるようになったとか。表紙の効果もあったと思いますね。

『フィルム』と同様に『紙』もすたれる


――今回、電子書籍についてもお伺いしてるのですが、今後電子書籍は普及すると思いますか?


北尾トロ氏: そうですね、電子書籍に興味あるんだけれど、今は…どうなんだろうな、みんな質感だとか言ってますけど、僕はデジタルカメラが普及していって、フィルムが駆逐されていった過程と同じようなことが、起きるような気がしてならないです。最初デジタルが出た時に、それまでみんなフィルムで撮っていて、せいぜい使い捨てカメラくらいが最先端だったんだけど、みんな否定したんですよね。「デジタルなんて」とか、「あんなのものはおもちゃだ」とか。子どもたちが遊びで使うと。プロであればあるほど「やっぱりフィルムだよ」とか言っていたんですよ。「俺は絶対にフィルム派で行くぞ」と宣言までしていた人もいたけど、本当にこだわっていた人がみんなやっていけなくなって廃業しちゃったんですよ。田舎に帰ったり、タクシーの運ちゃんになったりとか、それはそれでポリシーつらぬいて良かったんですけれど。

5年くらいして性能がどんどん良くなっていきますよね、キャノンもニコンも本気で始めて、フィルムメーカーがどんどん規模が縮小して印画紙をやめちゃうとか、いろんなことが起きてくると、もうしょうがない。で、仕事としても「デジタルで撮ってください」っていうのが普通になって、今度デジタルで勉強してきた若い世代が社会人になって、ライバルになっていく。そうなると偉そうなことを言っていても、デジタルをこっそり買ってね、いつのまにかデジタルにみんななっちゃったんですよ(笑)。もう今は99パーセントそうだと思いますけれど。全くカメラとの付き合い方は変わったわけですよ。

僕はそれと似たようなことが、電子書籍でも起こるんじゃないかなと思ってるんです。紙の本しかみんな経験していないので紙への愛着があるのは当たり前で、これまで紙と電子を使い比べて吟味した経験がまだないわけじゃないですか。電子書籍に抵抗があるというのは、割と業界内部の話であって、普通の人は読めればいいわけですよね。

Amazonとか楽天のハードを僕は触ったんですけれど、すごく良くできていて安いじゃないですか。だからあの辺りをきっかけとして変わるんじゃないかと。最終的にiPhoneとかスマホで快適に読めるようになった時にガラッと行くような気がするんですよね。

『目利き』のきく『書評家』は、電子書籍をはやらせる『仕掛け人』


――業界の方から見て抵抗感があるというのは、なぜだと思いますか?


北尾トロ氏: 何か先入観じゃないですかね?紙が素晴らしいだとか、装丁に味があるんだとかそういうことでずーっときているわけだから、仕事も出版界にいるとそこは基盤じゃないですか。自分のアイデンティティというか。それが脅かされることへの恐怖もあると思うし、そういう人ほど新しい所にすっと入っていけない、旧世代になっていくわけですけれどね。そこらへんが似ているんですよ。こっちにこだわることによって、今の立ち位置を守ろうとする。出版界の中でも興味を持って、「いやこれは変わる」というんでそっちへ行こうとしている人も確実にいるわけで、今は出版社じゃない業種でもいる。今度は電子書籍オリジナルというのがどんどん出てくると思うんです。

電子書籍でデビューする作家とか、電子書籍しか出さない、紙の本は出さずに電子書籍がメインになるというのが増えてくると思うんですよ。あと、何の出版社の世話にもならずすごい人気作家が出てくる。そうなった時に変わるんですけれど、そこを取り次ぐマネジメントというか、出版社も気の利いたところはそうなっていくと思うんです。出版社じゃなくてもそれはできるというか、電子書籍の書き手をパブリシティして世間の目に触れさせるプロデューサーのような。それはこれまでの新聞広告を出したり雑誌の書評を出したりとは違うと思うのよ。ネットの中でどのように、「こういう人がいるよ」、「この本がおもしろいよ」というのができるかというのを考えて実践する。こういう人達に関わっていかなかったら、成長できないですね。今、東野圭吾さんみたいな人が出せばそれは売れるし、村上春樹さんが電子書籍出せば売れる。だから今有名で紙の本でもトップクラスの人が、電子書籍を安く出せば売れてしまう、という当たり前のことしか起きない。

今だったら書店で中堅、僕なんかも中堅かもしれないんですけれど、なんとなく並べてもらえてぶらぶらしているうちに「オッ」と言って買ってもらえるような人が、ずーっと下層に行ってしまうわけですよね。つまりピンポイントで探さないとなかなか見つからないわけですよ、新作を出しても紙で出していなければ。そうすると超メジャーな人はどこでも表紙が出て「あ、出た」ってなるけど、中くらいの人っていうのはどっちかというと下の方に行くわけですよ。

それから新人みたいな人なんて、出した瞬間に絶版みたいなものですよ。本屋さんでもそうですけれど、ゼロ冊というのもあるわけですね。誰も知らない、面白いかどうかも分からないし、そもそもその人のその本にたどり着けない。ということは、今の本屋より増える可能性もあるわけですよ。

そうすると、本当は中学校の国語の先生なんだけど、やたら面白いのを書いたよというのを、こんなすごい奴がいるよというのを知らす仕事というのができると思うんですよ。

――個人の敏腕プロデューサーという人が出てくるかもしれないですか?


北尾トロ氏: そうですね、形態はわからないですけれどその会社と契約してとか。でも契約してというのは、そういう個人敏腕プロデューサーの中じゃエリートじゃないですか。だからそうではなくて、書評をやっている人達がグループを組んで発掘するとか。誰もたどり着けないものをプロだから何とかして、そして「こんな人を見つけました」とやってあげるというサイトがあったら、それが一種のポータル化するわけですね。そこへ行くと誰も知らないけれど面白い新しい書き手がうじゃうじゃ見つかる。で、買ってみようとなって、アフィリエイトで何がしか成り立つような仕組みが出来たりとかしていくと思うんですけれど、そういう電子書籍の目利きみたいなものが生まれてくると思うんですね。



それを自然発生的なものに任せていると時間がかかるんですけれど、ある種仕掛ける。それは別に書評家が有名人である必要はないわけです。目利きであればいいわけですよね。その人が薦めてきた履歴みたいなものがあってそれが面白ければ、ネットの中での信用があり、その人に対してまた評価が集まるようになると信頼感が増す、そのことによって評価をする人にいいことがあるという仕組みとか。Amazonのレビュワーみたいなものをもっと特化したようなやつ?そういうのと電子書籍のコンテンツが増えるのがうまくリンクして成長していくといい感じになってきて、そのうち本当に誰も知らない、そして本屋に1冊も本のないスター作家みたいなのが出てくると痛快じゃないですか。そうなる日が来ると思うんですよ、それは時間の問題で。

ポストに直接届く雑誌『レポ』


――電子書籍は好きですか?


北尾トロ氏: 別に大好きではないですね。それは、ただ単にネットに弱いからですね。自分で電子書籍をサクサク作ったりということができない人間なので、そこら辺の距離感はあるんですけれど、この雑誌を作るときもこんなのネットでやればいいじゃん、ダウンロード販売で電子書籍でやればいいじゃんと言われたんだけれど、2年前だと黒船何とかみたいな時期で、逆にその時は雑誌を紙でやるのであればもう今が最後だなくらいな感じだったんですよね。今だったら僕も紙でやったかどうかもうわからないですね。2年前は紙で何か面白いことをしようと思ったら、今やらなきゃ間に合わない。だからその時も電子書籍の時代にはなっていくだろうなというのは予感としてあったので、紙でやりつつ、『レポ』ももうちょっとしたら、多分秋くらいからは電子書籍化をしていきます。紙は紙で出しますけれど。読めれば十分だという人にとっては電子でもいいわけですよね。

レポの場合は手紙みたいな感じでポストに直接届く媒体にしようと思っています。それは電子書籍ではできないからというのがあったんですよ。だからこれを電子書籍にしてみやがれみたいなものはあったんですけれど、それは本誌だけではなくて季刊誌なので、例えば6月に出たら次は9月なんですけれど、7月8月には定期購読者に手紙を書いて出しているんですよ。そういうのが電子書籍だとちょっとできないですよね。メールマガジンにすると味気ない、ポストに自分宛に届くっていうのがいいかなと。

でもここの中の1つの連載をずっと最初から読みたいという人にとっては、他の記事は別にいらないわけですよね。『えのきどいちろう』の大ファンでこの人のだけ読みたいとなれば、それだけが1個のコンテンツになっていて100円で読めればそれで良かったり。

あとはバックナンバーで古くなっちゃってもう在庫がなくなってきたものというのは、逆に紙で買えなくなる。そうすると、発行部数も少ないので古本屋に行ってもあんまりないですから、電子書籍の方がこちらとしても残るし、いいわけですよ。だからその辺は使い分けていければなと思っています。

日本の場合、技術力みたいな物もあるし需要もあるので何が足かせになるかというと文庫ですよね。出版社は文庫でもっているんですよ。だから文庫より安く電子書籍が買えたらお手上げなわけですよ。中途半端な値段じゃないですか、普通の本と一緒とか、気持ち安いくらいの。絶対文庫を守らなくちゃいけないから。僕らみたいな書き手としたら文庫は大事ですけれど、雑誌を作る人間からするとそれは関係ない話なので、『レポ』は1,000円なんですけれどそしたら500円で十分いいわけですよ。今の利益の仕組みみたいなものを守った上で電子書籍にもちょっと出して、軌道に乗ってきたら徐々にシフトしていこうみたいなものは、下手すると本当に滅びる。

二股になってしまう訳ですね。そうじゃなくて電子書籍で最初から勝負をかけようという新しい電子出版社の方が勢いもあるし、新しい発想でいくじゃないですか。電子書籍というのは同じ内容だったとしても載っているエンジンというか、ガソリン車と電気自動車みたいな違いがあると思うんですよ。すると作る人間の考え方とか仕組みが違ってくると思うんだけど、それを1人の人間が使い分けていくというのはなかなか難しい。特にこっちで叩き込まれた基礎がある人間にとってはなかなか難しい。この基礎がすごく生きてすごい電子書籍を作る人も必ずいると思うし、1番のトップはそういう人だと思うんですよ。ちゃんと出版が分かっていて、関係ないけど印刷も分かっていてみたいな人がすごい物を作ると思うんですけれど、ほどほどの中間層のエリア、ボリュームゾーンっていうのはむしろこれまで家を売っていましたと言う人でも良くて、本が好きというのがもちろん大事ですけれど、誰も考えなかった宣伝の仕方とか、飛び込み営業で鍛えてきた人間ならではの何かがあったりとか、別の物の要素があってもいい。この本は紙、この本は電子とか、読者の選択肢は広ければいい。僕だって例えばビジネス書みたいなものは読まないけれど、そんなの電子でいいじゃない、実用書とか。

旬のものっていうのは電子書籍でいいわけですよ。料理の本みたいなビジュアルとか動画があった方がいいものは、むしろ電子でいいんですよ。じっくり繰り返し読むとか手元に置いておきたいというのは紙で買うようになるかもしれない、少々高くなっても。その辺は読者が決めていく。

活字の『多様性』を取り戻すために『電子書籍』は必要


――紙か電子かといった言われ方もしますが、どう思われますか?


北尾トロ氏: 紙か電子かと言っているのは業界の人なんです。読者は何も言っていないんです。ほとんどの人はまだ紙だし。何が読者にとって有益かという風に考えると、僕は選択肢が多い方だと思うんですよ。だから電子も必要だと思いますね。電子の方が例えば日本で売られていない英語の本を買った時に、勝手にほぼいい感じに翻訳してくれたらそれは最新の世界の最先端を読みたいじゃんという。それが可能なのが電子書籍なんですよね。

もう1個は、今学生だったりする人が、新しくクリエイターとして書き手であり編集者であるという形で入ってきやすいからということですね。そうなるとやっぱり電子書籍も両方あった方がいいなと思います。



魅力がある業界じゃないと才能が集まらないじゃないですか。やりたい奴がいないと。僕がやってるこういう雑誌も、ノンフィクションというのもまさに今食えないとか、雑誌が減ってしまって書いたって発表する場所がないとか、よほどのことをやらないと認められないとか、本出しても赤字だとかそういう風になってくると誰もバカみたいでやってられない世界になってくる。それでもいい、好きだからという人がかろうじているんですけれど、その下の代になったらもうお勧めできないわけですよ。
例えば僕の所に「ライターやりたいんですけれど」と相談に来ても、「いやよく考えろ、食えないよ」と言っちゃいますよ。それは昔僕らが若いころも最初食えなかったんですけれど、食えない時代の後にはだんだん食えるようになっていくし、「何年かすればとにかくメシは食べていける、そこからは実力勝負という所で好きならやってみろ」と言われたんですけれど、今はそこまで行けないうちに食い詰めちゃって、年食って困って転職しようにもないとかって状況にある。結局職業として成り立たない所があって、趣味みたいな感じ。それは時代の流れなのでしょうがないですけど、そうなるとレベルが下がるんですよね。できる奴は他の才能を認めてくれる業界へ流れるんじゃないですか?

面白い奴は必ずいるんですけれど、繰り返し言っているように活字の世界の多様性もどんどん奪われて、「面白いだけじゃん」というのは昔は褒め言葉だったんだけど、今は面白いだけだと載せてもらえない、形にならない。実際そうなんですよ。「面白いけどねえ、役に立たないから」ってカットされるんですよ。僕らみたいにそこを目指してきた人間は、「面白いってことは1番ハードル高いんだ、笑わすのって大変だよ」って思ってきた人間にとっては何か寂しいなって。

そういう紙の方が保守的というか勢いを失くしてきているのであれば、受け皿として電子書籍というものにはどうしても期待してしまうんですよね。若い子たちはメールとかに慣れているのでスッと入っていきやすいじゃないですか。有象無象だと思うんですけれど、その中にすごい奴も数が多ければ必ず混じっているから、発見できれば回りだすと思うんですよね。

――参入者の数は、今の紙媒体の時代と比べて多くなってくることもありますか?


北尾トロ氏: だと思いますよ。その分、一生懸命書いたって、新人賞に応募するよりも空しいということもあると思う。新人賞だったら、たとえ賞がもらえなくても、必ず下読みの人がチラッとは見てダメならダメって評価をするわけですけど、参入者が多くなれば、空に向かってパンチを出しているような状態になるわけですよね。「書きましたー」って言って、「最新作でーす」とかtwitterで書いてもシーンとして、一人で路上ライブやっているような状態で、聴衆のいないっていうのが2度3度繰り返されたらもうやらないですよね(笑)。
わりと初期はみんながワーッと来ると思います。誰でも作家になれるということで、書きたい欲とか認められたい欲がみんなそこにあるから、これはいいって来ると思うんですけれど、そこがすごく大事。

電子書籍になっても、トップランキング1位宮部みゆき2位東野圭吾、普通のベストセラーランキングと同じ、出てくる本も同じ、そしたら新しさが何もない。でもそういうものとは違う、面白い仕組みを考えるのは新しい人達だと思うね。

『どくとるマンボウ航海記』を40年間で20回読んでいる


――今度は学生時代までの本との関わり方についてもお伺いしようと思うんですが、これまで読んだ書籍で、影響を受けた書籍はなんですか?


北尾トロ氏: 僕は北杜夫さんの『どくとるマンボウ航海記』というのが中学一年の時初めて買った文庫本なんですけれど、それの影響は大ですね。つまりふざけたエッセイというか旅行記なんですけれど、今読むと、ここは冗談だな、明らかに大ぼら吹いているというのはわかるんですけれど、中学1年だから嘘を書いているというのがわからないわけで、すごいなあと思って読んじゃって。でもおかしくて、それから何年かに1回か読みたくなってずーっと読んでいるんですけれど、読むたびに面白くて、そこに健全な品のあるユーモアがあるんですよね。それまではシャーロックホームズとか世界の名作とかシートン動物記とか読んでいたんですけれど、半分大人の世界に触れて、こういう風にふざけてよいのだというのを教えてくれた本なんですよ。

書き方も含めて、あの人は本来ちゃんとした純文学の人で、サラブレッド。斉藤茂吉の息子でさ、なんだけどそういう人がちょっと肩の力を抜いてというか、一見寝そべって書いたような感じなんだけど、だんだんこういう仕事だとわかるようになってきて、実はすごい計算や推敲もされていて、ここで笑わそうとか、緻密さがわかってくるんですよ。ずっと40年近く10回20回と読んでいるんですけれど、いまだに面白いもんね。そういう本はあまりないですよね。

――大人のふざけかたを教えてくれたんですね。


北尾トロ氏: あとはノンフィクションで言うと開高健の『ずばり東京』というのがあるんですけれど。今光文社文庫で復刊されて、まだ手に入ると思います。彼の小説がスランプの時にルポやってみろと言われて週刊誌に連載されたもので、それは大人になって読んだんですけれど…すごいんですよ。東京オリンピックの前後の話で、東京が大変化を遂げていく頃に、いろんな手法で、例えばあるときはタクシーに延々と乗るんですよ。タクシーの運ちゃんって土地の変化をすごく知っているじゃないですか。その会話をずーっとやっていたり、練馬の練馬大根を作っている農家がどんどん土地を売って分譲している中で、ずっと売らないでいる所とかに何度も通ってやっていたり。文体もその都度違って、小説家だからめちゃくちゃうまいわけですけれど、うまさはもちろん敵わないんですけれど、現場に行って体験して観察して書くというスタイルは割と影響されているというか、これは自分にも合っているなと思いましたね。評論家になるべくならないようにというのは、開高さんの本で思ったことですね。

――評論家とは違う視点でものごとを伝えていくんですね。


北尾トロ氏: 評論家は、それはそれで教養があり経験がある人がやってくれれば、全然面白いしスリリングなんだけど、僕の場合は割と目線を低くして、汗をかいて結果をリポートしていくというのが、自分も楽しいし書きやすいし合っているなと。その元は開高さんの本。全然今でも敵わないと思うんですけれど、時々煮詰まると読んですごいなあと。

――開高さんにならんって書くといった部分もありますか?


北尾トロ氏: ただその文体とかやっている内容は真似しようがないんで、そのエキスの部分、あの開高健がここまで体張っているよという部分ですかね、それを真似している。そのあと開高さんはベトナム行ったりとかどんどんルポを書いていくようになるんですけれど、本人にとっては不本意な仕事なんですよ。ルポライターじゃないからね。だから本業のルポライターじゃない分、小説家ならではのルポにしようというので、あらゆるテクニックを使っている。毎回違うんですよ、文書のテイストが。文章修業みたいな感じでやっているんだけど、ずっと最後まで会話だったり、「である」調だったり、「ですます」調であったりいろいろですね。そんなことは真似できないので、そうではなくて生の1番リアルな所に行くということと、あともう1個はジャーナリストではないのだということですね。

――ジャーナリストではなくライターとしての在り方ということですか?


北尾トロ氏: 例えばジャーナリストであれば、戦争があれば戦地に行ってというのをやっていますよね。でも自分はライターなんですよね。そうすると、そうじゃない人と同じことをやってもしょうがない、事実を伝えることがしたいのではない。みんながここに行くのであれば俺はこっちに行く。例えば大飯原発。ジャーナリストだったら大飯原発でやっている人達の写真を撮ったりするのが仕事ですよね。でも俺だったら東北のどっかの農家に泊まりこんで、一緒にUSTREAMを見ながらおばちゃんと話すみたいなことをやろうかと。そういう立ち位置みたいなところをやるんです。でも照らすところは同じかもしれないんですよね。少数派の所に身を置いて、自分の考えとか視点みたいなところを出すというのがライターなのかなと。あまり正論に近寄らない。

――自分にとって近いところからの視点を大切にされるんですね。


北尾トロ氏: なかなか何が正解かというのは分からないんですよね。だからいろんな人がいた方がいいんです。みんなが大飯に行ったらまずいんで、でもほっとけばそうなる。だから俺は違う所に行こうと。Bさんは北海道に行く、俺はどっかだ、みたいにいろんな所から見ているものがあってそれが上がってくるほうが豊かなんですよ。それは今雑誌の世界でできていないんですよ。だからそれが可能なのはむしろネットの方なので、僕は割とそこに期待している所があるんですよ、自由度が高い。

ネットの世界では『選ぶ力』が重要


――人々の選択肢を多くするということが、北尾さんの活動のテーマの1つに挙げられますか?


北尾トロ氏: 結果的に比較検討しやすいですよね。東京に住んでいるとテレビをつけると民放とか10くらい映りますよね。これが離島にいると2つとか、NHKともう1個みたいな。それはやっぱりいろいろある中で、「じゃあこれ」と選んでいる方が豊かだと思うんですよ。制限された物の中から選ぶよりも。

それと一緒で、そこでは選ぶ力というのが必要になってくるわけですよ。なので振り落とされる人が当然出てくると思いますけどね。選べない人。そこの道筋を付けるものが必要で、出版の方はそれが確立されているわけですよね、広告だったりメディアを使ったものだったり。書店自体がメディアですから行けば何とかなる、最悪何が売れているのと聞けばお勧めまでしてくれる。そういう敷居の低さみたいなものが、まだネットの方が高いじゃないですか。なので少し時間が掛かると思いますけれど。ほんと5年ぐらいでガラッと行くタイミングが来ると思うんですよ。

――書店を見てきて、以前とこんなものが変わったなというのはありますか?


北尾トロ氏: サイズというか、まず単行本に関しては安くしようというか、100円の値段の差にシビアですよね。やっぱり安くした方が売れるんじゃないかみたいなところが。本ってもともとそんなに高い物じゃないですけれど、昔って本が売れていたわけですよね。今はなかなか売りにくいので、それを安くすることによって買いやすくする。出版社側は不安なことがあるようで、割とそれって間違えているような気がする。もう安くするのは文庫でしていますよね。

――コストを抑えるということは、装丁などに影響が出ていると感じられますか?


北尾トロ氏: ちょっと前の方が装丁デザインとかは凝っていますよね。今は凝ったことをするデザイナーは割と敬遠されたりする。よっぽど内容的にそれが生きるものであれば別ですけど、あとは著者が圧倒的な力を持っていて指名するとか。そうじゃなかったら紙質なんかもAかBかCかみたいな、つまりコストを下げる方向に行っちゃっている。パソコンでデザインはいろんなことができるようになっているんですけれど、実際印刷まで持って行けるのは逆に少なくなっているんじゃないですかね。だから変形の本とかも減っていると思います。凝ったことするとロスが出るし、本屋さんも棚に収めにくいものは喜ばないとか、昔はやたらでかいという形で目立ってたんですけれど、それはもう返本の対象になっちゃうのもあってやりにくい。紙ならではの物っていうのは、作りづらいんじゃないですかね。

――紙ならではのこだわりの本をつくることも難しくなってきているんですね。


北尾トロ氏: 例えば祖父江慎さんという有名な装丁家さんがいるんですけれど、ものすごい凝った本を出したんですよね。すごいですよ。紙質はバンバン変わるし、穴は開けるし、色も変わったりやりたい放題なわけですよ。金箔使うわ…贅沢でしょ(笑)。2,600円なんですけれど多分もう初版は売り切れていると思うんですけれど、それで増刷しない。コスト合わない。だからある程度刷らないともっと高くなっちゃうから、増刷することがあっても普通のつまらない装丁になりますよということで最初から。こういうのはすごくちっちゃい「港の人」っていう所が出したんですけれど、逆に大手では絶対できないですよ。そんなに儲からなくてもいいけど、でもおもしろい物を出したいという。『きのこ』というものの多様性みたいなものを表現しているわけですけれど。やっぱりこういうのは電子書籍じゃ無理ですよね。だから電子書籍への挑戦みたいな感じのデザインですけれど。物としての魅力ってよく言われますけれど、それを目いっぱい打ち出したのがこういう物ですよね。これの方が物としては絶対残りますよね。

――紙の本の特性を活かした本つくりが行われれば、電子書籍と紙の本とが共存していきますね。


北尾トロ氏: 実用書とかビジネス書みたいなものは、まず一足先に電子書籍を主戦場とするようになっていくと思うし、文芸とか企画的なものはしばらく紙の世界。だんだんそのあと両方から、電子書籍から出てきた面白い物が紙で出版されるとかいう交流みたいな時期があり、一方が伸びると一方がその分食われるという発想でみんな語るので、そこがつまらないですよね。総量というかパイが大きくなるという発想があまり業界の人にはない。読者は一定なんだからという所で。でも新しい人を取り込んでいってということをもっと考えればいいのにと思う。特に電子書籍の方は、紙で本なんて買わないよという人をいっぱい潜在的に読者としていると思うんですよ。だからその人達は、ほっといても紙の本も買わないわけですよ。だから食わないわけですよ。だったらこの人達を呼び込めばいいんですよ。全体的に広がる。1つの活字表現みたいなことの手段が印刷なのかという違いなので、作家さんなんかも人によっては、大歓迎しているでしょうし。

『電子書籍』がメインで、『紙』が『おまけ』になる時代


――今回出された電子書籍なんですけれど、読者の顔というのが見えやすくなりましたか?


北尾トロ氏: 反響ですか? 俺よくわからないんですよ。

――例えばお金を使わない読者の人達が、おもしろいものを無料で見て、次は購入するといった形に繋がるといったことはあると思いますか?


北尾トロ氏: その発想はダメだと思います。電子とかネットで宣伝して、お金になるところは本屋でというのは、これまでの付け足しというかダメだと思うんですよ。もっと独立した、ネットで買ってもらって暮らしていますよみたいな人が増えてきてなんぼというか。

――新しい出版の在り方ということでしょうか?


北尾トロ氏: 俺なんかが面白いと思うのは、『本屋なんかでは買わせません』みたいな(笑)。『なんで本を本屋が独占しているんですか』ぐらいな感じの、ネットだったら世界中で見れるわけだから『ここが一番の本屋じゃないですか?』ぐらいの意気込みの所が出てきてほしい。本当にそうなったら困るかもしれないけども。

実際過渡期においては本が全然売れていかないと、誰も食べていかれないからライターとしては困るんですけれど、ちょっと引いてどっちが面白いだろうと考える。本を読み込むツールとしてネットを考えている限りは、ネットには本気で行かないわけだから。最高にできたものを紙とネットとどっちに持っていくかということですよね?それをネットの方に持っていくと。プリントしたけりゃどうぞ、ぐらいな価値観の転換というか。

――今までとは違う新しい価値観というのが大切でしょうか?


北尾トロ氏: 僕らくらいになっちゃうと子どものいる世代になるので、うちの子どもとか見ていてこれは確実に来るなあと、学校で小学校1年からパソコンかあとか。そうなっているともう時間の問題、教育がそうなっているんだから。だからそこにしがみついていてもしょうがない。僕もそこはグラグラと悩むところで、「この電子書籍を作りました」とやると、一旦確実に紙が売れなくなるとことは予想できるわけですね、電子書籍の方が安いから。読めればいい人は全員こっちに行くんですよね。するとどうするの?っていうのはあるんですけれど、僕もそうだし、多少遊びの要素というかそれも含めて楽しめる人達、企業に属していない連中とかが実験でそういうことをやっていて、絶対ゼロにはならないと思うんですよね。こういう人はデーター化はされないけれど体感的に積み重ねていく中で、じゃあ電子書籍を次はこういう風に作り込もうとかいろいろなアイディアが出てくる。だからやらないと解らない。

僕も注意しないとなと思っているのは、電子書籍は凝らなきゃコストはかからないと。データー版出してダウンロードしてもらえばいいんだから、こっちを売って損しないようにって考えちゃうんですけど、やっぱり発想として、こっちは『これもあります!』みたいなもので、紙にこだわりたい人はどうぞって言って、そして経済的な基盤というのはむしろ電子書籍みたいな切り替えのできる、僕はまだできないですけど、電子書籍がおまけじゃなくて、主戦力で紙の本がこだわりグッズみたいな特装版みたいなものですね。わざわざ紙で作りました、だから1,000円なんですよみたいな(笑)。

電子書籍で元取るよという風に。小さいところだったら可能だと思うんですよ、人数も少ないし。大きい出版社では絶対無理なので、プライドもあるし伝統もあるしそんなだったら会社辞めます! くらいの、創業者に申し訳ないみたいなことなので彼らは。だから待っていてもできないです。あの人たちもどこかに乗っかる強力な何かが出てきたときにシステムに乗っかって、うちは本なんですけどまあ売れちゃうのでしょうがないんですよ、というポーズを取らせてあげないと取り組めないという。だからすごい様子見していますよね。

――これから古本業界・出版業界に突っ込もうとする若者に対して何か一言いただけますか?


北尾トロ氏: 古本に関しては本当に店を持つかネットでやるかはいろいろあるんですけれど、そんなに大きな規模で展開するというのは現実的にAmazonがあるから難しいんですね。Amazonでマーケットプレイスをやる以前以後でガラッと状況は変わっていますから。値段チェックをAmazonでみんなするわけですから、やりにくいと言えばやりにくいですよね。ただ副業とか、もともと本が好きでそれをうまく回していきたい人とか、あと店を開くというのは場を持つということで、そこにいろんな人が訪ねてきたりして、売れる売れないとは別の付き合いが始まる。

図書イベントとか本に関連するイベントはすごい盛んになっていって古本市とかいろいろな所でやっていますし、マニアというか本好きの間の情報網というか、退屈している間がないくらいいろんなことをやっていますからどんどん世界が広がると思うんですよ。そういう意味で、趣味とちょっとした副業みたいな気分で楽しくやりたい人にはやってみたらと言いたいですね。それでいっぱい儲けてやろうというのはなかなか難しいし、お金だけにこだわるならマーケットプレイスでせっせとやってらっしゃる方はいっぱいいらっしゃるんで、金なのか、それともそうじゃない場なのかというのを自分で見極めて選んでいくといいですね。

今、『山田うどん』がキテます


――今後の北尾さんの展望を教えていただけますか。


北尾トロ氏: 『レポ』がまだ赤字なんで、『レポ』をまず黒字にしたいというのがありますね。さっきも言ったように電子書籍とかやったことがないことを体験したい。自分だけではできないわけですよ、やり方もよくわからないし。ただ、こういうのをやっているといろんな人が集まってきてくれて、無償で手伝ってくれたりするんですね、世代関係なく。その中で僕なんかよりネットに通じている人に誰か電子書籍やらない?って言ったら、ちょっとやってみたかったんだよ、みたいな人がいると思うんです。そういう人と一緒にやったりとか。普段ライターとしては1人で仕事しているから、そうじゃない所の仲間と何か一緒に作るとかってのは、いい年して覚えた楽しさですね(笑)。『レポ』はとにかくいろんなことをやりつつ、読者をもうちょっと増やしてこの先も続けていきたい。

もう一個は、多分夏のうちに信州の松本に引っ越すと思うんですよ。そうなるとここは残すんですけれど行ったり来たりの生活になるので、ここに寝泊まりしたりとかになってくると思うんですけれど、それが楽しみというかですね(笑)。

――何かお気に入りの物件を見つけられたんですか?


北尾トロ氏: いや、まだそこまでではないんですけれど、前からいずれ東京を離れたいねというのがあって、震災なんかもあったので、子供は今まだ小さいので馴染める。あと松本は冬寒いので、とにかくワンシーズン、1年間住んでみて、それから気に入れば本格的に移住というのがあるんですけれど、トライアルでやってみるという話が決まりそうなんで。そうなると生活のリズムが一変するのが自分的には楽しみですね。

――また全然違ったものが作品に出てきそうですか?


北尾トロ氏: やっぱりそこはライター根性があるんですよ。特に僕みたいなタイプは。何かやることによってそれを書いていくタイプだから、田舎と都会の二重生活だったらそりゃ書きたくなるでしょ(笑)。だから言葉は悪いけれど、これはネタだなと。それも自分で狙ってネタを探してやると、そこに下心というのがあるんですけれど、どちらかというと今回はうちの奥さん主導だから巻き込まれ型なんですよ、やむなく(笑)。こんなことしたことないからね。50過ぎてしたことないことって割と貴重になってくる。多分ちょっと面白そうだなとかちょっと田舎暮らしいいなとか思う人って割といると思うのね。その人達がどんなものなの?っていう何かをやらざるを得ないんですけれどね。

でも変なことで迷うんですよ。ここ事務所じゃないですか、布団もないし。だから最初は西荻でどこか風呂なしでいいからアパート借りて寝るだけの場所を、と思っていたんですけれど、良く考えたらそんなことをし始めると「松本に行くか、オレ」って(笑)。だって子供に会いたいというのがあるけれども、なるべくここで不自由な暮らしをある程度して。隙ができたら帰りたいというぐらいにしておいても、だんだんと慣れてくるに決まっているからこれは借りない方がいいとか、移動手段をどうするかとか、面倒くさいなというのもありちょっと面白いかもと(笑)。この企画のいいのはトライアルなので、無理だったら帰ってくればいいという(笑)。なんちゃってなので、先が読めない感じがね。

あと、今は山田うどんにハマっていて。じゃあ記念に今日はこれをあげる。ストラップなんですけれど。ローカルなチェーン店で、関東の牙城を守っていて、それの本を作るんです。今ちょっとうどんが来てますね、個人的に。まず山田うどんやって、全国でうどんどころがあるので。最初は正統派で讃岐とか稲庭って考えたんですけれど、ちょっとらしくないなと思って(笑)。やっぱり庶民が集まるチェーン店、地方豪族を訪ね歩くというのがいいかなと。ちょっと離れた山田うどんなんて誰も知らないんですよね。うどんを盛り上げていきたいなと思ってますね。うどんどころはいっぱいあるからね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 北尾トロ

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