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世界中の本好きのために

北尾トロ

Profile

1958年、福岡県生まれ。法政大学卒業。編集プロダクションを経て26歳でフリーライターとなる。30歳を前にバンド活動、同名の「脳天気商会」という会社を、ライターの下関マグロ氏たちと設立。40歳を前に、インディーズ出版活動を開始し、『廃本研究』を制作。1999年、インターネットを使った古本屋「杉並北尾堂」をオープン。40代後半からは、日本にも「本の町」を作りたいと考えだし、2008年5月、長野県伊那市高遠町に、仲間とともに「本の家」を開店。 2010年9月、ノンフィクション専門誌『季刊レポ』を創刊。編集発行人をつとめる。代表作に「裁判長!ここは懲役4年でどうすか」がある。

Book Information

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『どくとるマンボウ航海記』を40年間で20回読んでいる


――今度は学生時代までの本との関わり方についてもお伺いしようと思うんですが、これまで読んだ書籍で、影響を受けた書籍はなんですか?


北尾トロ氏: 僕は北杜夫さんの『どくとるマンボウ航海記』というのが中学一年の時初めて買った文庫本なんですけれど、それの影響は大ですね。つまりふざけたエッセイというか旅行記なんですけれど、今読むと、ここは冗談だな、明らかに大ぼら吹いているというのはわかるんですけれど、中学1年だから嘘を書いているというのがわからないわけで、すごいなあと思って読んじゃって。でもおかしくて、それから何年かに1回か読みたくなってずーっと読んでいるんですけれど、読むたびに面白くて、そこに健全な品のあるユーモアがあるんですよね。それまではシャーロックホームズとか世界の名作とかシートン動物記とか読んでいたんですけれど、半分大人の世界に触れて、こういう風にふざけてよいのだというのを教えてくれた本なんですよ。

書き方も含めて、あの人は本来ちゃんとした純文学の人で、サラブレッド。斉藤茂吉の息子でさ、なんだけどそういう人がちょっと肩の力を抜いてというか、一見寝そべって書いたような感じなんだけど、だんだんこういう仕事だとわかるようになってきて、実はすごい計算や推敲もされていて、ここで笑わそうとか、緻密さがわかってくるんですよ。ずっと40年近く10回20回と読んでいるんですけれど、いまだに面白いもんね。そういう本はあまりないですよね。

――大人のふざけかたを教えてくれたんですね。


北尾トロ氏: あとはノンフィクションで言うと開高健の『ずばり東京』というのがあるんですけれど。今光文社文庫で復刊されて、まだ手に入ると思います。彼の小説がスランプの時にルポやってみろと言われて週刊誌に連載されたもので、それは大人になって読んだんですけれど…すごいんですよ。東京オリンピックの前後の話で、東京が大変化を遂げていく頃に、いろんな手法で、例えばあるときはタクシーに延々と乗るんですよ。タクシーの運ちゃんって土地の変化をすごく知っているじゃないですか。その会話をずーっとやっていたり、練馬の練馬大根を作っている農家がどんどん土地を売って分譲している中で、ずっと売らないでいる所とかに何度も通ってやっていたり。文体もその都度違って、小説家だからめちゃくちゃうまいわけですけれど、うまさはもちろん敵わないんですけれど、現場に行って体験して観察して書くというスタイルは割と影響されているというか、これは自分にも合っているなと思いましたね。評論家になるべくならないようにというのは、開高さんの本で思ったことですね。

――評論家とは違う視点でものごとを伝えていくんですね。


北尾トロ氏: 評論家は、それはそれで教養があり経験がある人がやってくれれば、全然面白いしスリリングなんだけど、僕の場合は割と目線を低くして、汗をかいて結果をリポートしていくというのが、自分も楽しいし書きやすいし合っているなと。その元は開高さんの本。全然今でも敵わないと思うんですけれど、時々煮詰まると読んですごいなあと。

――開高さんにならんって書くといった部分もありますか?


北尾トロ氏: ただその文体とかやっている内容は真似しようがないんで、そのエキスの部分、あの開高健がここまで体張っているよという部分ですかね、それを真似している。そのあと開高さんはベトナム行ったりとかどんどんルポを書いていくようになるんですけれど、本人にとっては不本意な仕事なんですよ。ルポライターじゃないからね。だから本業のルポライターじゃない分、小説家ならではのルポにしようというので、あらゆるテクニックを使っている。毎回違うんですよ、文書のテイストが。文章修業みたいな感じでやっているんだけど、ずっと最後まで会話だったり、「である」調だったり、「ですます」調であったりいろいろですね。そんなことは真似できないので、そうではなくて生の1番リアルな所に行くということと、あともう1個はジャーナリストではないのだということですね。

――ジャーナリストではなくライターとしての在り方ということですか?


北尾トロ氏: 例えばジャーナリストであれば、戦争があれば戦地に行ってというのをやっていますよね。でも自分はライターなんですよね。そうすると、そうじゃない人と同じことをやってもしょうがない、事実を伝えることがしたいのではない。みんながここに行くのであれば俺はこっちに行く。例えば大飯原発。ジャーナリストだったら大飯原発でやっている人達の写真を撮ったりするのが仕事ですよね。でも俺だったら東北のどっかの農家に泊まりこんで、一緒にUSTREAMを見ながらおばちゃんと話すみたいなことをやろうかと。そういう立ち位置みたいなところをやるんです。でも照らすところは同じかもしれないんですよね。少数派の所に身を置いて、自分の考えとか視点みたいなところを出すというのがライターなのかなと。あまり正論に近寄らない。

――自分にとって近いところからの視点を大切にされるんですね。


北尾トロ氏: なかなか何が正解かというのは分からないんですよね。だからいろんな人がいた方がいいんです。みんなが大飯に行ったらまずいんで、でもほっとけばそうなる。だから俺は違う所に行こうと。Bさんは北海道に行く、俺はどっかだ、みたいにいろんな所から見ているものがあってそれが上がってくるほうが豊かなんですよ。それは今雑誌の世界でできていないんですよ。だからそれが可能なのはむしろネットの方なので、僕は割とそこに期待している所があるんですよ、自由度が高い。

ネットの世界では『選ぶ力』が重要


――人々の選択肢を多くするということが、北尾さんの活動のテーマの1つに挙げられますか?


北尾トロ氏: 結果的に比較検討しやすいですよね。東京に住んでいるとテレビをつけると民放とか10くらい映りますよね。これが離島にいると2つとか、NHKともう1個みたいな。それはやっぱりいろいろある中で、「じゃあこれ」と選んでいる方が豊かだと思うんですよ。制限された物の中から選ぶよりも。

それと一緒で、そこでは選ぶ力というのが必要になってくるわけですよ。なので振り落とされる人が当然出てくると思いますけどね。選べない人。そこの道筋を付けるものが必要で、出版の方はそれが確立されているわけですよね、広告だったりメディアを使ったものだったり。書店自体がメディアですから行けば何とかなる、最悪何が売れているのと聞けばお勧めまでしてくれる。そういう敷居の低さみたいなものが、まだネットの方が高いじゃないですか。なので少し時間が掛かると思いますけれど。ほんと5年ぐらいでガラッと行くタイミングが来ると思うんですよ。

――書店を見てきて、以前とこんなものが変わったなというのはありますか?


北尾トロ氏: サイズというか、まず単行本に関しては安くしようというか、100円の値段の差にシビアですよね。やっぱり安くした方が売れるんじゃないかみたいなところが。本ってもともとそんなに高い物じゃないですけれど、昔って本が売れていたわけですよね。今はなかなか売りにくいので、それを安くすることによって買いやすくする。出版社側は不安なことがあるようで、割とそれって間違えているような気がする。もう安くするのは文庫でしていますよね。

――コストを抑えるということは、装丁などに影響が出ていると感じられますか?


北尾トロ氏: ちょっと前の方が装丁デザインとかは凝っていますよね。今は凝ったことをするデザイナーは割と敬遠されたりする。よっぽど内容的にそれが生きるものであれば別ですけど、あとは著者が圧倒的な力を持っていて指名するとか。そうじゃなかったら紙質なんかもAかBかCかみたいな、つまりコストを下げる方向に行っちゃっている。パソコンでデザインはいろんなことができるようになっているんですけれど、実際印刷まで持って行けるのは逆に少なくなっているんじゃないですかね。だから変形の本とかも減っていると思います。凝ったことするとロスが出るし、本屋さんも棚に収めにくいものは喜ばないとか、昔はやたらでかいという形で目立ってたんですけれど、それはもう返本の対象になっちゃうのもあってやりにくい。紙ならではの物っていうのは、作りづらいんじゃないですかね。

――紙ならではのこだわりの本をつくることも難しくなってきているんですね。


北尾トロ氏: 例えば祖父江慎さんという有名な装丁家さんがいるんですけれど、ものすごい凝った本を出したんですよね。すごいですよ。紙質はバンバン変わるし、穴は開けるし、色も変わったりやりたい放題なわけですよ。金箔使うわ…贅沢でしょ(笑)。2,600円なんですけれど多分もう初版は売り切れていると思うんですけれど、それで増刷しない。コスト合わない。だからある程度刷らないともっと高くなっちゃうから、増刷することがあっても普通のつまらない装丁になりますよということで最初から。こういうのはすごくちっちゃい「港の人」っていう所が出したんですけれど、逆に大手では絶対できないですよ。そんなに儲からなくてもいいけど、でもおもしろい物を出したいという。『きのこ』というものの多様性みたいなものを表現しているわけですけれど。やっぱりこういうのは電子書籍じゃ無理ですよね。だから電子書籍への挑戦みたいな感じのデザインですけれど。物としての魅力ってよく言われますけれど、それを目いっぱい打ち出したのがこういう物ですよね。これの方が物としては絶対残りますよね。

――紙の本の特性を活かした本つくりが行われれば、電子書籍と紙の本とが共存していきますね。


北尾トロ氏: 実用書とかビジネス書みたいなものは、まず一足先に電子書籍を主戦場とするようになっていくと思うし、文芸とか企画的なものはしばらく紙の世界。だんだんそのあと両方から、電子書籍から出てきた面白い物が紙で出版されるとかいう交流みたいな時期があり、一方が伸びると一方がその分食われるという発想でみんな語るので、そこがつまらないですよね。総量というかパイが大きくなるという発想があまり業界の人にはない。読者は一定なんだからという所で。でも新しい人を取り込んでいってということをもっと考えればいいのにと思う。特に電子書籍の方は、紙で本なんて買わないよという人をいっぱい潜在的に読者としていると思うんですよ。だからその人達は、ほっといても紙の本も買わないわけですよ。だから食わないわけですよ。だったらこの人達を呼び込めばいいんですよ。全体的に広がる。1つの活字表現みたいなことの手段が印刷なのかという違いなので、作家さんなんかも人によっては、大歓迎しているでしょうし。

著書一覧『 北尾トロ

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