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世界中の本好きのために

上杉隆

Profile

1968年福岡県生まれ。都留文科大学卒業。大学在学中から富士屋ホテル(山中湖ホテル)で働き、卒業後NHK報道局へ勤務。26歳から鳩山邦夫の公設秘書などを5年間務めた後に退職。その後「ニューヨークタイムズ」東京支局取材記者を経て、フリージャーナリストに。2012年より、メディアカンパニー「株式会社 NO BORDER」を設立。文化放送「吉田照美 ソコダイジナコト」のコメンテーターとしてもレギュラー出演するなど、政治・メディア・ゴルフなどをテーマに活躍中。近著に『新聞・テレビはなぜ平気で「ウソ」をつくのか』、『大手メディアが隠す ニュースにならなかったあぶない真実』、『メディアと原発の不都合な真実』

Book Information

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日本に『電子化の黒船』は必ずやってくる。



株式会社NO BORDER代表取締役であり、公益社団法人自由報道協会の理事長。テレビ局勤務、衆議院公設秘書、「ニューヨークタイムズ」東京支局取材記者などを経て、フリージャーナリストに。政治・メディア・ゴルフなどをテーマに切れ味のある鋭い弁舌で活躍し続ける『元ジャーナリスト』上杉隆氏に、日本の未来、電子書籍の未来についてお伺いしました。

日本は電子化に置いて、海外に完全に遅れている


――ブックスキャンのような、蔵書の本を電子化するというサービスについては、どのようにお考えですか?


上杉隆氏: 広い家でスペースの余裕があれば、〝紙の本〟をたくさん持っているほうがいいんでしょうけれど、今の時代、個人宅にはそんなスペースもないでしょう。ただ、僕のような職業だと蔵書をオール電子化しちゃうと、〝資料室に蔵書がない〟という絵ヅラになって格好がつかないかも(笑)。

――ご自身の書籍が電子化の依頼を受けるということに対しては、いかがですか?


上杉隆氏: 特に抵抗ないですよ。だいたい「どうぞ」と言っています。電子化されれば、読者層が増えるわけだから悪いことじゃない。でも、日本は書籍の電子化に乗り遅れていますよね。Kindleなどにやられちゃっている。ペリーの黒船みたいなものですよ。まだ日本語という障壁があるからいいようなものの、すでに手遅れじゃないですかね。

2008年に受けた『Kindle』の衝撃



上杉隆氏: Kindleといえば、びっくりしたことがありました。2008年4月に、世界ゴルフ4大メジャートーナメントのひとつであるマスターズ・トーナメントの取材でジョージア州にあるオーガスタ・ナショナル・クラブへ行った時のことです。時間がなかったので州都のアトランタから飛行機に乗りました。アトランタからオーガスタまでは車で4、5時間の距離なので、飛行機を使うのはお金持ちの人ばかりなんです。すると、機内にいた白人のおじいちゃんやおばあちゃんたちが、みんなKindleを見ている(笑)。本当に大げさじゃなくて、僕の隣の人も、その隣の人も席につくやいなやKindleを取り出すんです。で、僕は「この飛行機にKindleは標準装備なんだろうか?」と思って、自分の周りを探してもぜんぜん見当たらなくて「あれ? あれ?」と思った(笑)。

――みんなが手に持っていたら確かに標準装備だと思いますね。




上杉隆氏: そう。だから隣の人に「それ(Kindle)はどこに入っているんですか?」って聞いたら、「これは自分のだ」って答えたんです。だから、「アメリカの人は、みんなKindleを持ってるのか?」って尋ねたら、その人は「日本にはないの?」と言った。これにはびっくりしましたね。

――アメリカでは老人までKindleが普及していたんですね。


上杉隆氏: 僕は、いつ日本で電子書籍が普及するのかとずっと待っていたんだけど、アメリカでKindleを持っている年配の方を見た時に「ああ、日本はもう終わっているな」と思いました。でも、とりあえずやり続けるしかないんです。やっていれば、いつかはパーンと切り替わる時が来るはずですから。

――電子書籍がどんどん広まる中で、出版社というのは何をすべきだとお考えですか?


上杉隆氏: ふつうだったら既得権益を持っている人たちが、時代を先取りして変化していかなくちゃいけないんだけど、日本はそのシステム自体が腐敗しているからできなかった。〝できなかった〟んです、過去形ですよ。だって、もう5年前に終わっている話ですから。
いまさら日本の大企業や政府が電子書籍に関して何かやろうとしても遅いですよね。もう完全に外国に追い越されているわけですから。5年前にスタートしていなかったというのは遅いんですよ。しかも僕は、あの時から電子書籍のことに関していろいろと発言していたんですから。ほんとに「おとといおいで」というか、「5年前においで」っていう感じです(笑)。

日本の『知のリーダー』は、実は『痴のリーダー』である


――出版だけでなく、国全体の問題ともつながるのでしょうか?


上杉隆氏: 僕は政治家の秘書をして、その後ニューヨークタイムズで働いて、フリーのジャーナリストになりました。基本的に永田町や霞が関を中心に仕事してきたわけです。そこで気がついたのは、日本という国の最大の元凶は〝官僚システム〟で、そこにメディアの〝記者クラブ〟という非常に珍しいシステムが結合しているということ。僕はそれを〝官報複合体〟と名付けて、ずっと批判をしてきたわけだけど、すべての問題はやっぱりそこに尽きると思うんです。悪をロンダリングするようなシステムがすべて入っている。しかし、それが可視化されていないから、僕が「官僚システムが悪い」とか「記者クラブが悪い」と言っても、みんな「別にたいしたことないでしょ」と思ってしまう。〝官報複合体〟の中にいる人、一人一人は基本的には善意の塊なんです。優秀な記者だし、優秀な官僚なんです。でも、それが組織になると一変する。この間違いに気づいている人もいるけれど、その間違いを自ら認めて修正しないから、そのまま行ってしまう恐ろしさがある。

――優秀だけれど、組織として機能していないわけですね。


上杉隆氏: 先日、映画監督の紀里谷和明さんとチームラボの猪子寿之さんと夜中の3時くらいまで話をしていて、「日本はもう終わっているけれど、何とかやれることだけはやっていこう」という結論になった。基本的には既得権益というか、日本の腐ったシステムを壊していくしかないんだけど、そういう活動を個人でやっても影響力は少ないし、いわゆるエリート層にアピールすればいいかというと、その人たちは自分たちの利権に絡んでくるから無理。特にメディアの人間が一番わかっていない。

―― 一般の人々はそのメディアからしか情報を得られないことが多いですね。


上杉隆氏: そう。メディアに関わっている人間が、自分たちのやっていることが正しくて先端だと思っているからおかしなことになるんです。日本で今〝知のリーダー〟って言われている人が何人かいますけど、それは、やばいほうの〝痴のリーダー〟ですよ、完全に(笑)。日本のオピニオンリーダーと呼ばれている人たちが、あまりにも世界のメディアとかけ離れすぎちゃっている。

――他の国との差はどういったところで見られますか?


上杉隆氏: 僕は、この前イギリスに行っていたんですけれど、例えばNHK(日本放送協会)とBBC(英国放送協会)を比べると雲泥の差ですよね。BBCは全英オープンの生中継をもうすでにネットでやっているんです。でもNHKは「権利の問題で……」とか言って流さない。差がつきすぎていますよね。「終わっている」と思いませんか。

――そういった中で上杉さんはどのように活動されてらっしゃいますか?


上杉隆氏: だから僕は、武士の情けで日本のメディアの終わっているところをなるべく見ないようにしている(笑)。そして、終わっていないところを探しながら、そこを膨らませる作業をしています。でも、本当に終わっているところが多くてバカらしくなってくるんです。だから、そういう意味でジャーナリストをやめていて、自称「元ジャーナリスト」と名乗ってます。日本はシステムとして終わっているのに、みんなマインドコントロールされていて「終わっている」ことに気づかないんですよ。

未来の世代のために、今のダメな言論システムを破壊したい


――先ほど紀里谷監督とお話されたと仰っていましたが、一緒に活動されていらっしゃるんでしょうか?


上杉隆氏: 紀里谷さんと提携して『NO BORDER×FREEWORLD』というのを作りました。今後、一緒になっていろいろなことをやっていこうという話になったんです。僕がいま『NO BORDER』でやっているのは、ハフィントン・ポスト(米国のインターネット新聞)とかプロパブリカ(米国の非営利の報道メディア)とかポリティコ(米国の政治ニュースサイト)みたいな感じの新聞形態のメディアを先取りしたもの。「こういうやり方があるんだ」と賛同してくれる人たちで作っていけばいいと思っている。それで紀里谷さんと猪子さんと3人で、どう進めていけばいいかということでミーティングをしたんです。チームラボの猪子さんに入ってもらったのは、いろいろな形のメディア空間を作ろうと思っているからですね。

――なぜ『NO BORDER×FREEWORLD』を作ろうと思われたんですか?


上杉隆氏: やっぱり、くだらない言論空間のシステムを何とか破壊したい。風穴を開けるだけでも開けておきたいと思ったからです。僕たちの世代で壊しておかないと後から来る若い世代が萎縮してしまうんじゃないかという気がして。そういう意味では未来のためにも何かやろうと思ったんですね。僕らより上の世代が「はい、どうぞ」と席を譲ってくれることを待っていてもしょうがない。僕は、その席を自分から取りにいかなくちゃいけないと思っている。別に誰かがやってくれてもいいんですよ。ただ、僕は、それは自分の役割じゃないかなと思っています。

――具体的にはどういったことから始めているんですか?


上杉隆氏: 7、8年前から記者クラブシステムを潰そうとしています。ただ、これをやっても何の得もないんですよ。よく勘違いされているのは、記者クラブを潰すことでメディアを私物化をしようとしてるんじゃないかとたたかれるんです。でも、アホかって話ですよ(笑)。僕が代表を務めている自由報道協会(報道を目的とする人ならば、フリーランスの記者であろうとインターネットの記者であろうと、誰もが参加できる記者会見を主催している協会)も私物化していると言われてるんだけれど、僕はこの協会のために身銭を切っているんです。『NO BORDER』だってかなりの額を出資している。どちらもまだまだ赤字ですよ。

――なぜそれでもやろうと思われたんでしょうか?


上杉隆氏: なぜやっているかというと、やっぱり〝ジャーナリズムで得たものはジャーナリズムにお返ししないといけない〟と思っているからです。これは、ニューヨークタイムズの時に習ったことで、僕は全財産を日本のメディアが変わるためにつぎ込んでもいいと思っている。これは誰かがやらないと変わらないと思うんです。たまたま僕の場合は、ゴルフの仕事もしていて、そっちが本業だとも思っているので、日本のジャーナリズムなんて本当はどうでもいいんです(笑)。でも、何か自分にできることはないかなと思っていろいろなことをやっている。海外ではこれがふつうのスタイルだよと見せてあげる。後はそれに気づいた人が「あ、こういうのもありなんだ」とみんなが真似してくれればいいんです。

日本は変化に鈍い。『電子維新』が来たとしても、みんな後で気づく


――上杉さんは変化のきっかけをつくっていらっしゃるんですね。


上杉隆氏: 中東とか、あるいはヨーロッパ諸国もそうだけれど、そうした国は社会的な変革が1日でパーンと来ることもある。でも日本の場合は、そういう変革が何年間か掛かって緩やかに起るんですよね。ようするに日本では、「この日が革命の日ですよ」とみんなが意識できないわけ。何年間かのスパンで変化が起こって、後から後世が「あれは明治維新だった」と名付けたりするわけですよ。日本は、じわじわ修正する革命なんです。だから今も実はメディア環境の革命期にあって、いわゆる本というものが〝紙〟から〝電子〟に移っているんだけど、それが一般に普及されるまでに時間がかかるんです。

――日本は変化するスピードが遅いのでしょうか?


上杉隆氏: 日本人は急激な変化に慣れていないんですよ。社会全体が一瞬でワッと変わることに対する恐れがある。僕もニューヨークタイムズにいた時、昨日まで一緒に働いていた人間が、次の日からワシントンポストにいて「おーっ!」って驚いた経験があるんです。米大リーグのイチロー選手のトレードなんかも日本人はなかなか受け入れられないですよね。「何でイチローは昨日までシアトルマリナーズだったのに、今日からニューヨークヤンキースなんだ?」ってなりますよね。これがアメリカだとすぐ受け入れられるんです。でも日本は、こうした変化を心の中で整理するまでに時間がかかっちゃう。

国家官僚は、メンツや利益よりも未来を考えよ


――今後、電子書籍は普及していくと思われますか?




上杉隆氏: 電子書籍に関しては、いつか当たり前のように普及すると思います。紙より便利なんだし。国会図書館だって全部電子書籍化する方向ですよね。電子書籍化しないと、物理的にすべての書籍が納まりませんよ。そうした流れをなぜ既得権を持つ人たちはダメと言うのか。そういう意味では、官僚や記者クラブなども含めて、自分たちの既得権益とつまらないメンツを守るために、国家の利益を本当に大きく損ねていると思います。

――出版業界や国家官僚は、今後どうなるといいと思われますか?


上杉隆氏: もっと先を見てほしいですね。100年じゃなくても1年の計でいいと思います(笑)。「今を見るな、1年先を見ろ。」と言いたいですね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 上杉隆

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