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世界中の本好きのために

藤原和博

Profile

1955年東京生まれ。1978年東京大学経済学部卒業後、株式会社リクルート入社。東京営業統括部長、新規事業担当部長などを歴任後、1993年よりヨーロッパ駐在、1996年同社フェローとなる。2003年より5年間、都内では義務教育初の民間校長として杉並区立和田中学校校長を務める。08年~11年、橋下大阪府知事ならびに府教委の教育政策特別顧問。日本の技術と職人芸の結晶であるブランドを超えた腕時計「japan」(左竜頭、文字盤漆塗り)を諏訪の時計師と共同開発した。近著「坂の上の坂」でも論じられている成熟社会や“新しい日本人”のライフスタイルについて、編集長を務める『よのなかnet』で発信している。

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――紙に限りなく近いものになっていくと思われますか。


藤原和博氏: 俺は、授業で電子パピルスみたいなものをぜひ使いたいと言ってて、いつもプレゼンをやる時は電子模造紙って言ってる。
要するに黒板にバシっとつけて、黒板の大きさの3分の1から2分の1でバーンとマグネットで貼れる。それがスクリーンじゃなくてディスプレイっていうもの。そうするとね、教室に完全に社会の窓っていうのがあくわけですよ。

例えばゲストに迎えたい人がね、いちいちアポをとって例えば和田中のような田舎に来てよ。そうしたらもう半日潰れちゃうじゃない?あるいは、東北大にいる人だったり九州にいる人だったらさ、一日潰れちゃう。しかも交通費がどうだとか。でもバーンと貼ったディスプレイに、携帯からクリップで止めるだけでその人が空いた時間、例えば10時50分から11時までの10分だったら空くとして、それを授業の時間にぶつけて本物を呼び出すっていうことができちゃうでしょ?

――どこでもドアみたいですね。


藤原和博氏: そう。どこでもドア。要はそのような授業が可能になっちゃうでしょ?俺の時は日立も言ったしIBMも言ったし、アップルにも言ってんだけど、もしこれが開発されたら俺が営業本部長で売ってみせるって言ったの。まず巨万の富にできますよ、と。

――そうなると紙に印刷するのがもったいないですね。


藤原和博氏: リクルートだってそうだもん。昔は紙でやってたんだもん。厚いやつで。誰も読まないでそのままゴミだっていうのが何%かもあったわけでしょ?紙は間違いなくゴミになるし。

あと電子模造紙というのとは別に電子ノートとか言ってたんだけど、それって実はこれがA4かB4で1枚あったら、それを分割して貼って、ソフトで1枚使えるじゃん。だから生徒たちが使う小さい1枚を、先生側が使う電子模造紙っていうのは、モジュールに組み合わせればいいのかな?って思ったの。今、分割ソフトでできるでしょ?一画面にできるでしょ?それから、生徒たちが書いたものをバッと映し出してもできる。それをデータ処理してグラフにバッとしちゃうようなこともできる。

Cラーニングっていうソフトを使うと、携帯の色んなデータをさっとグラフ化したり、携帯から送ってきたメッセージ、アンケートなんかをばっと黒板やディスプレイに一覧してっていうのはできているんですよ。それも使って柴島高校で授業をやったんだけども、これはネットマンっていう会社の永谷社長が発明したソフトなんだけどさ、これはもう、青山学院とか明治とか大学ではもうどんどん使ってるんですよ。

何百人って受けるような講義だと出席取れないでしょ?それが例えば教授が『今日は1829』って言って、それを入力した人は出席扱いにするっていうことができる。だから絶対ね、大学の全体のカリキュラム管理なんてもうそうなりますよ。

――1番の使いどころですよね。


藤原和博氏: そう。そうでないと無理なんだもん。できない。もうわかったと思うけど、20世紀の高度成長社会、21世紀の成熟社会の何が違うのか?っていうと。みんな一緒っていう社会だったのが、それぞれひとりひとりにバラバラになっていくわけでしょ?それぞれひとりひとりにバラバラになっていくプロセスの中でどのように管理するかっていうと、絶対もうモバイル以外ないんですよ。

みんな一緒の社会だったから、検定をやって教科書を一気に作ってそれを1500万部ばらまいてよかったんだけどね。それをひとりひとりの学習進度がこんなに差が開いちゃって。特に算数・数学。それと英語のような教科っていうのはものすごい開いちゃった。もう小学校で英語を教えるようになったから、中学1年から一気にせーのじゃないので、その教え方の上手さまずさで中学入ってきた時にすでに英語が嫌いになっちゃってる子もいるわけでしょ?そういう子と、もう親の年収の高い子は小学校からバリバリネイティブだっていってやってるみたいな。それを同じところで競争させる方がかわいそう。同じ所でやらせる方がよっぽど不平等ですよね?逆差別なんですよ。ここは非常に大事なんですよ。今まではみんな一緒だったので、まだみんな一緒だっていう幻想があるの。そんなの崩れてるんだけど。

――その幻想を引きずっているのですね。


藤原和博氏: そうなの。だから突出するところがあると引きずり下ろそうとするわけだけど、こんなバカなことはないわけで。くだらない話だけど、夜スペね。あれはもう、裁判に訴えられて、もう高裁のあれも出たんで、もう終わると思うけど、突出して成績の4,5の子を6まで引き上げようなんてことをやるともう大変なんだよ。

日本全国がさ、まだみんな一緒の時代の幻影。上から目線の量の平等みたいなね。英語の嫌いになっちゃったような子とすごい得意な子、あるいは算数がすごいできる子とそうではなくて不得意な子とに、同じ教室で同じ教科書で同じように教えること自体が拷問みたいな話なんだよね。つまり、差が広がっちゃうんですよね。

だからそれは差別じゃなくて、区別して、中学に来ても算数が不得意な子には、むしろ戻って算数を教える。場合によっては数学の微分積分なんていらないんじゃないの?と。それよか徹底的に算数を教えてあげて中学3年で出してあげたほうが、例えば軽度発達障害の子にとってはいいわけですよ。

そういう時代になってるんだよね。面白いんだよね、今。すごい時代のせめぎあい。これはおそらく流れがあと5年くらいでガラっと変わらないと。日本にいる7割8割方の人が、それぞれひとりひとりの社会になっちゃってる現実を認めて、デジタルメディアもどのようにそれに利用するのか?っていうことを本気で考えないと。だってそれぞれひとりひとりに合わせて進度別にやるとしたら、デジタル以外ありえないんだからさ。デジタルは当たり前にそのように生み出されたものだと思うよ。

――電子書籍の活用法はなんだと思いますか。


藤原和博氏: 難しいよな。満員電車の中で携帯で日経新聞を読むのがどうなのよ?と。どっちがカッコイイかでもいいんだわ。だから、電子か紙か自体の議論そのものが俺にはほとんど無意味。今の端末は過渡期だから、どっちが好きか嫌いか?っていう議論はあるし、それで選んだらいいと思うので。例えば、横書きだって嫌だっていう人がいるわけでしょ?縦書きじゃなきゃ読んだ気がしないというさ。

やっぱり人間って習慣の動物なので、何かを学ぶ時に習慣的でないものを出されちゃうと拒否しちゃう。そういう程度のものだと思うの。ただ、あなたの子供や孫たちは、もういきなり横書きでいわゆるディスプレイ、ガラス越しに読むのは、この透き通ったクリアファイルの下に印字されたものを読むのとほとんど変わらずに読めるんですよ。それだけの話だと思うな。

――最後に、藤原さんにとって本はどういう存在ですか。


藤原和博氏: 僕は実は、twitterもfacebookもやらないんですよ。僕のホームページっていうものがありまして、それをベースにして自分のネットワークを作っていってるわけですね。そこにはID、パスワードなしに書き入れができる掲示板もあって、十数年運営してるんだけども、1度たりとも炎上したことがない。業界の奇跡と言われているんだけど。発言の数は、今1万9千くらいになっていて、2万発言はいつなるか?って感じなんだけど。
僕のニュースソースね、情報をどのようにインプットするかっていうので、一番信頼を置いているのが書籍ですよ。圧倒的に。50%くらい書籍だといってもいいと思う。僕テレビをほとんど見ないので。
33歳まで僕あまり読書しない人だったんです。それがメディアファクトリーという会社を創業した時にやむを得ず読まざるを得ないので年間100冊。今はだから年間150冊くらいを眺めて、そのうちおそらく50冊くらいを精読するんじゃないかな?
小説で面白ければ当然精読するけども、エッセイでもつまんないものは最初の50ページでわかるんで、最初の50ページでだめだったらすぐに。というような感じです。
50%が書籍で、おそらく40%が人を通じての情報の仕入れだと思う。新聞だったりいわゆる情報メディアだったり、俺だいたいWEBマガジン嫌いだから、メルマガ嫌いなんで全部断っちゃうし。そういう知の構造なんですよ。

これから成熟社会になると何が問われるかというと、知識というよりは教養なんですよね。どれくらい1か所深堀してあと幅広くかという、それは物事をいかにやわらかくとらえられるかなので、そういう意味では書籍の積み重ねがない人は、言ってしまえば話す気にならないという。話せばやっぱり、書籍を読んでいる人かどうか?っていうのはバレちゃう世の中になっているんだと思うんだよね。だから、電子書籍で最初の30ページくらい読めるというのがあったらいいよね。だーっとそれで目を通して、最初の30ページがつまんない本なんて絶対つまんないから。それで面白ければ書籍で買うみたいなさ。今Amazonなんかでもちょっと中身を見せてってやってるじゃん?実は『坂の上の坂』もポプラ社のサイトでほぼ全編に渡って最初のとき見せちゃったのよ。今回は第1章、今回は第2章みたいな感じで。そういう組み合わせが当分起こるんじゃないかな?

――なるほど、紙の本を売るためのそういう1つのツールになってもいいですよね。


藤原和博氏: いや、実際なってると思いますよ。その時にはだって、『坂の上の坂』だって横組みだよ。俺が原稿書くとき横組みで書くんで、その横組みで出したやつと一緒に。全章、1週間に1章だけ。今は『はじめに』のところしか読めないと思うんだけど、そういう組み合わせでしばらくいくんじゃない?この5年か10年は。

――今何か企んでいることはありますか。


藤原和博氏: 俺、ヨーロッパに出たのが37なんですよ。その前27は、新規事業の舞台に異動になって、初めて大阪に行ってるんだけど。校長になったのが47ですから、57になって何をやるかっていう。これはね。俺結構観客がいっぱいいて、その観客を喜ばせなきゃならないわけ。それで行くとね。私企業の最先端でやって、で、学校でしょ?次やるとしたらね、もう宮内庁長官くらいしかないんじゃないかな?(笑)っていうふうに思うのは、あのワールドか防衛庁か、それだと俺はもう震える。やらせてくれたら。通用するかどうかわかんないけど、存在をかけた戦いになるからさ。

ただ、それまでには、教育の世界で、義務教育にクリティカルシンキングを入れていくということについては、相当俺確信犯で、言っちゃえばゲリラ戦をやっちゃってるから。それをこの5年以内に、だから僕の50代のうちに押し切るというね。特に国語に入んないとだめなんだよね。日本の国語が余りにも読解だから。それは陰山英男さんが言っていることが正しいし、齋藤孝さんも正しいんだけど、でも1割ぐらい疑うっていうことを教えていかないと。疑うっていうことを教えてないから、AIJもそうだけど、振り込め詐欺もさ、こんだけ騙されるんじゃないの?おかしいじゃん。明らかに。

――世界と競争できないですかね。


藤原和博氏: そう。世界はとっくに修正主義で。正解主義でなくてね。まず言ってみてどんどん人の意見を聞いて修正していくってさ。日本なんてトヨタの改善なんてそういうことなんだよ。トヨタだってそうなのに、なぜ日本の教育界だけは、正解主義でいまだに4択問題にしているか?っていうさ。おかしいじゃん。俺はね小学校で1割、中学校で2、3割、高校で5割。大学で100%クリティカルシンキングが必要だって言ってる。

(聞き手:沖中幸太郎)

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