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世界中の本好きのために

中園直樹

Profile

1974年大阪生まれ、宮崎育ち。小説家、詩人。小学校3年から大学2年までいじめられ続け、何度も自殺を考えたことから、いじめや自殺をテーマとしている。教育実習で受け持った生徒のほとんどが、17歳から温め続けた処女作『オルゴール』に感動したことから、作家への道を本格的に決意する。現在はカナダの学生2人から始まり、75ヶ国が参加している、日本で知られていない世界的いじめ反対運動『ピンクシャツ・デー』の日本での普及に努めている。
公式HP「詩と小説の小箱」http://nakazono.nanzo.net/
Twitter : @naoki_nakazono

Book Information

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――ブックスキャンという会社は、ご存じでしたか。

中園直樹氏: いやぁ、この話を聞いて初めて『あ、こんな会社があるんだ』と(笑)。

――電子書籍との関わりも含めてお伺いします。今回ご紹介していただく『オルゴール』なんですけど、今でもホームページで無料で公開されていて、無料で公開したから紙では売れなかった、もしくは無料で公開したから逆に広まった、といったことはありますか。


中園直樹氏: こればっかりは分からないんですけどね。『出していなければもっと売れたのに』という人もいれば、『出していたから売れたんじゃないか』という人もいて。もう実際に出してしまっている物なので分からないんですよ(笑)。でも時代もあるのかな。僕は2000年からホームページを出しているんですけど、2002年に出版されるわけじゃないですか。
出版された後も、僕は商売でやっているわけじゃないので、タダで読めますよとネット版を薦めるんですけど『ネットで文字を追うのは疲れるから本を買うよ』(笑)と言ってくださる方が結構いるんで、そう考えると、プラスにはなっているのかなと。ただ、アクセス数がそんなに多い訳ではないので、多分平均して1週間に100アクセス前後ぐらい。すごい売れてる時でも1000いったら超ビックリするみたいな、程度のアクセス数なわけですよね。だからどうなんだろうなって。その辺りは、ちょっと、本当、わからないですね。

――では、公開方法云々ではなく、出版社のプロモーションの仕方などが大きいという所でしょうか。


中園直樹氏: うーん…。これって自費出版なんですよ。当時は(出版社のプロモーションとかは)なかったんですよ。今でこそ文芸社って『B型自分の説明書』シリーズとか、いっぱいヒット出ていますけど、文芸社で初めて売れた小説って、僕の『オルゴール』の2ヶ月前の2001年12月に出版されてた山田悠介君の『リアル鬼ごっこ』なんですよ。だから当時の文芸社さんにはなんのノウハウもない様な状態で。
たまたま『リアル鬼ごっこ』、『オルゴール』と売れていったという段階なので、僕も文芸社さんに対してきつくガミガミ言ったりっていうか(笑)。要は出版社としても売れる本が出ると思っていない状況でたまたまヒットしたという感じだったので。でもそこで思ったのは、出版前からインターネットの評判で反響大って書いてあるじゃないですか。当時ネットで評判があったから本が出版されるとかって、少なかったと思うんですよね。2002年はまだブロードバンド時代でもなかったですし。

――そうですね。


中園直樹氏: そういう珍しさもあったと思います。あと、愛読者カードって挟まっているじゃないですか?それで来る感想を見ると、9割9分9厘、中学生・高校生とかの若者(笑)。一方、僕のホームページはメールもできるようになっていて、そっちも9割9分9厘が中高生とかの若者からの感想で(笑)。友達に勧めましたっていうのがすごい多いわけですね。ああ、僕の知らないところで中高生がクチコミで広めてくれているんだってわかったっていう感じだったんですよ。

――その頃中高生というと、ネットで買うとか、ネットで知ってから実際の本を買うという新しい流れを作っている人たちですよね。




中園直樹氏: 効果があったとしたら、そういう事だったのかなっていうのがあるんです。僕の親戚とか友達が買おうとした時には、もう在庫がなかったんですよ。身内って結構冷たいから、1ヶ月ぐらい経って本屋に行って『お前の本、無いよ』って(笑)。で僕は文芸社さんを突っつくわけですよ。『なんか、無いって言われるんですけど、どういうことですか?』って。そうしたら『いや、ちょっと…』ってすごい言葉を濁らせる訳ですよね(笑)。そういうのが続き、ガミガミ言ったからかどうか分からないですけど、ようやく2刷が出来、といった感じで徐々に刷りが重なって、気が付いたらこんなことになっていました(笑)。

――じゃあ、一緒に作り上げてきた感じですかね、今のこの流れも含めて。


中園直樹氏: いやぁ。そうなんですかね。そうだと僕としても嬉しいんですけど、実際のところは学者さんにでも分析してもらわないと分からないですよね。あと、増刷を何回か重ねてくると文芸社さんも広告を出してくれるようになって来ましたし、メディアからの取材も来るようになりましたので。その力もあったはずだとは思いますし。最初のうちは全然(広告が)なかったわけですよ。自費出版の会社ですので、著作者のお金で広告を出すというシステムなんですよね。だから何刷りも重なってきて、例外的に徐々に広告も出してもらえるようになったという感じですよね。文芸社さんとしては『リアル鬼ごっこ』が前にあったのと、それからこの『オルゴール』が出て、次に秋山香乃さんの『歳三 往きてまた』というのが2002年の4月に出版されたんですよ。2001年の12月、2002年の2月、4月とトントントンと。これはちょっと売り出してみようかなという気にもなったのかな(笑)。そうした最初の頃にたまたまいた、という運の良さもあるとは思いますね。

――出版の形態はいろいろあると思いますが、文芸社さんと一緒にやられるのはなぜでしょう。


中園直樹氏: そもそものきっかけに戻りますと、僕にとって自著っていうのは、『いじめによって自殺する子を減らす』っていう想いがあるんですね。それを実現するための手段の1つなんです。1つと言ったのでお分かりの通り、今は2つの手段を使ってるんですね。1つは、この出版している著書ですね。もう1つが日本では知られていない、2007年にカナダの学生2人から始まって、世界75カ国に広まっているいじめ反対運動。

――ピンクシャツ・デーですか。


中園直樹氏: そうそう。それを日本に広め定着させる事。この2つの手段を使っているわけです。で、その方法の1つとして、僕が最初からやっていた活字があります。活字の1番の長所は、長く残るという事ですよね。もう1つがインターネット。この二つの方法でやっている。要するに『いじめによって自殺する子を減らす』ために、著書とピンクシャツ・デーでという2つの手段を、活字とインターネットという2つの方法でやっている(笑)。かぶっているわけですけど、2つとも同じ1つの想いから出ているので、融合させているわけですね。例えばこの『オルゴール』に関して言うと、15刷からは著者プロフィールに2011年からピンクシャツ・デーを広めていますよってことを書いている。詩集は第一刷には無くて二刷からですけど、あとがきにかなり詳しく入れているんですよ。ピンクシャツ・デーの説明を(笑)

もともと作家とか詩人として活動しているので、だからホームページとかブログやツイッターに人が見に来てくれるわけですよ。そしたら、そこにはピンクシャツ・デーの紹介がされてる。相乗効果になりますよね。

――そうですね。


中園直樹氏: 僕は小学校から大学までいじめられていまして、何度も自殺を考えたんですよね。で、小説からいじめ対策本まで手当たり次第に読んだんですよ。死ぬほど助けてもらいたかったんで。小説は人生を描く芸術と言われている。ならば、そこに、僕を助けてくれる物があるに違いないと思っていたんです。でも無かったんですよ。

――無かったですか。


中園直樹氏: いじめって人類どころの騒ぎじゃなくて、群れる動物にはほぼある本能なわけです。動物が群れを強くするためには2つの方法があるんですよ。1つは弱い個体をはじき出して強い個体だけにすれば、群れは当然強くなりますよね。もう1つは、とにかく数を増やす。群れはでかくて強くなるわけだから『はじき出すなんてとんでもない、全部まとまろうぜ』という。はじき出す方法はいじめという方向性となって、まとまろうという方は助け合いという方向性となる。この2つの本能は群れる動物には備わっているはずなんですよ。

――なるほど。


中園直樹氏: にも関わらず、人生を描く芸術でそういう事について教えてくれないわけですよ。やらなきゃダメじゃんっていう。僕は文学を信じている人間なので、無ければ自分で作らなければいけない、と思って。自分で解決して、きれいごとじゃなくてちゃんと役に立つ本を書こうと思ったわけですね。いじめられる子って基本的に真面目でおとなしい子が多いじゃないですか?真面目でおとなしい子は本に行くんですよね。

――そうですね。


中園直樹氏: それを考えると小説という手段は、現場の子に届けるためにはとても有効ではないかと。小説にして残せば、僕が死んだ後もたくさんの子ども達を助けてくれるはずだと。そういう訳で僕は小説を選んだわけです。今の話ってアマチュアの時に考えていた話なんですけど、どんだけ大言壮語なアマチュアだって感じなんですけど(笑)。やっぱり効果が無い作品じゃ意味がないわけですよ。効果がなければ、僕を助けてくれなかった今までの本と一緒な訳です。助けないどころか、僕を地獄の底へ突き落とそうとしたいじめ対策本と変わらなくなっちゃうわけですよ。

――例えばそれはどんな本だったんですか。


中園直樹氏: いじめは、いじられている方に原因があるから君が真面目な子にならなきゃダメとか。『ちょっと待て、真面目だからいじめられるんですけど!』みたいな。でも僕は真面目な子だったんで、それを実際に信じてやっちゃったりしていたわけですよ。そういう本が沢山あるわけじゃないですか。でもそれでは意味がないわけですよ。だからちゃんと役に立つ本を作らなきゃいけないと。

役に立つ本を書こうとした時にハードルを3つ越えなければいけなかったんです。1つがいじめという単語は題名とか書き出しに絶対に使っちゃいけない。

――なぜでしょう。


中園直樹氏: 何でかっていうと、それでは今まで僕を絶望させて来たような、いじめと題名についている何の役にも立たない本や、僕を余計にいじめられる人間に仕立て上げようとした本と変わらなくなってしまう。僕もそうなんですけど、いじめとタイトルについている時点で大抵の子は絶望して拒否反応を起こすはずなんですね。

まず、いじめている子は馬鹿にして読んでくれない。いじめられている子はつらいから読めない。見て見ぬふりをしている子は『自分が友達を助けられていない。でも助けようとしたら自分がやられるし』という後ろめたさで読めないんですよ。つまり、彼らはいじめについての本を手に取りたくないわけです。だから、そんな彼らに読んでもらうためにはいじめという単語は表に出るところへは絶対に使えない、という事ですね。

ハードルの2つ目、こういった題材の本は、ものすごい深刻なわけですよ。ここへ並んでいる本だけでブラックホールができますよ(笑)。それぐらい深刻ですよ。それぐらい重くなっちゃうわけです。で、考えてみてくださいよ。自分が若かった頃に、そんなブラックホールほど重いものって読むのイヤだったでしょ?(笑)。

自分がいじめられてなくても、たいていの子はそういう物は嫌いなわけですよ。特に加害者はね。でも、現場の子に読んでもらえないと意味がないわけですよ。困りましたね。全く何も書いたことのない、素人の17歳の僕がこのハードルにぶつかったわけです。でもそれをクリアしなければいけない。

で、僕は、絵を描いていたんですけど、絵を描いている時に解決策が見つかりました。美しいだけの絵って、あまり人気が無いんですね。じゃあ、どういう絵が人気があるかっていうと美しさの中に影のある絵とか、美しさの中に深みのある絵っていうのが人気があるんですよ。で、この題材はブラックホールほど重い。『ちょっと待て、もともと重みあるじゃん』と思ったわけです。この重みに美しさをプラスして、美しい方がメインですよというふうに見せかけられれば、読んでもらえるだろう!と(笑)。で、2つ目のハードルもクリアできたわけです。この2つのハードルをクリアできたとして、もう1つのハードル、最重要課題として、彼らの心に届くか否か。届かなければ出す意味がない。僕は書こうと思った時点で、この3つのハードルにぶつかったわけです。

1と2は作品づくりの段階でクリアしなければいけないじゃないですか。どうクリアしたかっていうと、1はちょっと注意すればなんとかなる。2は、この重さをフォローできるほどの美しいモチーフってなぁに?って考えたんですけど、簡単に見つかる訳ないだろ、っていう話なんですよね(笑)。僕は17歳で書こうと思ったんですけど、実際に書けたのは大学2年の時です。たまたま買い物に行っていた時にオルゴール売り場を通り過ぎて、これだと思った。

――美しいですね。




中園直樹氏: うん。それでオルゴールは美しいプラス切ない、儚い。とにかく青春に必要な要素全てオルゴールという物に入っているじゃないかと思ったんです。というわけでこの本が書けたんですね。で、次が3番目のハードル、子どものハートに届くか?ですね。

大学2年の時、1994年ですね。小説研究会の同人誌に『オルゴールの習作』という形で発表します。確か原稿用紙30枚ぐらい。これを読んだ小説研究会の先輩・後輩達は、みんな感動してくれたわけです。でも、それはちっちゃい世界で、全然足りない。なおかつみんな大学生なわけですよ。大学生の知り合いにはみんな読ませて、みんな感動はするんですけど、『こいつらみんな大学生だ!違う!読んでもらいたいのはもうちょっと年齢が下の子たちだ』と。

僕は宮崎出身で、自分の高校に帰るってなると、東京の大学にいたのでそうそう簡単に出来ない。で、どうしようかと考えて気付いたわけです。『そうだ教育実習だ!』って。その時には原稿用紙100枚ちょっとになったのかな。紙代を節約するためにワープロの一番小さいフォントで三段組みにして、一番小さいフォントだと読む側も嫌がるかもしれないんで、A3に拡大コピーするわけですね。それをホチキスで止めて、2セットを教育実習の時に持っていったわけです。2クラスを担当する事になったんですが、マンモス学校だったので1クラス50人ちょっとぐらい。で、1クラス1人ずつ仲良くなった子に渡して、『お前が感動したら他の奴に渡してくれ』とお願いしたんです。

――それがわずかな期間で正味されたわけですよね。


中園直樹氏: そうそう、教育実習の期間で。

――教育実習期間に学校中に広まったというのは自信になりますね。


中園直樹氏: でも今までの経験上、それぐらい出来なきゃダメだと思っていました。それが出来ないような作品であれば出版する意味は無いと思っていたんで。それだったら今までの僕が絶望してきた本と大して変わらないと思っちゃう。中には役に立つ本もあったかもしれない。でも、小学校の図書室の本を全部読破して、中学になって『あなた、本ばっかり読んでいないで勉強しなさい』って怒られるような読書量の僕の目に届かない程度の売れなさでは意味がないんですよ。売れなければならないという気持ちがもの凄くあった。だからどんないい本でも、売れなければ存在しないのと一緒だと僕は思っていました。学校中のみんなが読んでくれて嬉しかったんですけど、それぐらいは出来なければダメだと思ってたんです。で、感動してくれたお陰で、『よっしゃ、これはいけるぞ!』と思った(笑)。これで1・2・3を無事クリア出来たわけです。

次の段階、出版したいなと思った時、違う問題がありました。困ったことに、僕の父親は『お前はどこどこに就職して、最終的に俺の跡を継げばいい』という星一徹さんな親だったんです。なので、僕は大学を卒業して親から逃げました。

――ご両親から。


中園直樹氏: 簡単に言うと、父ちゃんの家庭はもの凄く貧乏で。父ちゃんが学校から帰ってきます、周りからは美味しい夕食のにおいがぷんぷんしてきます、父ちゃんはひもじい思いをしながら生の野菜をボリボリかじって飢えをしのぎます、母ちゃん帰ってきません…というような、超貧乏な生活をしていた親父が、兄弟で力を合わせて、宮崎に九州で一番鉄鋼を扱う会社を建ててしまったんですよ。普通、九州で鋼業が盛んな都市って北九州市なんです。でも、うちは宮崎。日本で一番土地が安く、日本で一番平均年収が少ない宮崎なんです。そんな宮崎に存在する、九州で一番鉄鋼を使う会社、それがうちの親父の会社だったんですよ。だからもう、親父は正しいんです(笑)。反論できないんですよ。

――なるほど。


中園直樹氏: 有無を言わさず、『はい、その通りです』と言うしかない完璧な親父だったわけです。僕は子どもの頃は別におかしいと思わず育ったんだけど、『あれ、ちょっと待て、九州で鋼業が盛んな都市ってどこだっけ?北九州だよな。何で宮崎が一番鉄鋼を使っているんだ』ということを、大学生ぐらいの時にはわかってくるわけですよ。まあ、不況とかもあって、今は親父もその会社を辞めて、ただの金のないバイトの警備員のおっちゃんになり果ててしまったんですが、当時はイケイケドンドンの、毎年のように新聞の長者番付に父ちゃんの名前がバーンと載り、しかも僕が学校に行く前から出社し、僕が受験勉強を終わった後ぐらいに帰ってくるという、たまのお休みは家族サービス、土日なし、基本仕事(笑)。そんな父ちゃんに対して、いったい僕は何を言えましょうか?(笑)。何も反論できないわけですよ。だから何も言わずに姿をくらましました。

――何も言わずにですか。


中園直樹氏: 父ちゃんの立場も分かるんだけど、僕もそれ以上にやらなきゃいけない事があるわけですよ。それを言語化して、父ちゃんに理解してもらえるように説明する程の能力がその時の僕には無かった。だから何も言わずに姿をくらまして、くらました先から『ごめん、父ちゃん、俺は作家になる』ってはがきを一枚パーンと出して。

――かっこいいですね。


中園直樹氏: (笑)そこから非常にしんどい生活が始まる、と。先ほどの1、2、3の問題をクリアしたのはいいんですけど、親の他に、また1つ大きな問題があって。それは僕の小説が大人に非常に評判は悪かったってことなんですよ。文学賞って、審査するのは大人ですよね。インターネットにアップしたりしている間に色々な事を考えながら、投稿して落とされ、持ち込みして落とされ、『このままじゃ俺の小説は絶対世に出ねぇぞ』って思ったんです。だって審査するのが僕の天敵(大人)なんだもん。

それで、自費出版しかないじゃんという事に気付いたわけですよ。その時はネットでもそこそこ評判がよくなっており、取り敢えず反響は良かった。若い子に限ってですけど、読む人読む人、みんな感動する。2000年ぐらいにネットで発表した時には、出版されているものと原稿用紙一枚分ぐらいしか違わないものを書いてたんで、ほぼ完成していた状態だったんですよね。それを自費出版で文芸社から出しました。

――自費出版の資金というのはどうしたんですか。


中園直樹氏: 色々なアルバイトを探して、なんとか資金を稼げそうだと思ったんですけど、一旦家に連絡してみようか、というアイデアは当然ひらめいたわけです。『もしかしたら貸してくれるかもしれないぞ。俺もしここで連絡するとしたら6年ぶりぐらいじゃねえ?』と。

――そんなに連絡とっていなかったんですか。


中園直樹氏: そうそう。それで電話をしてみた訳ですよ。そうしたら母ちゃんの反応が非常に薄くて。『もしもし、俺や』って言ったら『ああ、そうか、どないしたん?』って言うわけですよ。なんやろと思ったら弟と勘違いしている(笑)。それで俺の名前言ったら『んわぁ~!!』ってすごいビックリして(笑)。それで、もろもろの事情を説明したら、当時、不況で実はもう実家の台所事情も傾いてて、かなり経済事情がやばかったらしいんですけど、母ちゃんがなんとか蓄えていた物から貸してくださいまして。『ええの?』って言ったら『もうそんなんええわ』って。『ただし帰ってこい、一度帰ってきて姿を見せろ』と。

――母親としては、そうですよね。


中園直樹氏: で、『父ちゃんは?』って聞くと『そんなのとっくの昔に許しとるわ!』って。

――本当に6年、一度も連絡をしなかったんですか。


中園直樹氏: そうですね。だからちょっと探しに来たりもしていたみたいなんですよ。

――ここでもう一つ質問ですが、発信したいという強い気持ちの人が金銭的な理由などで出版を阻害される事なく、電子書籍での出版ができるようになったと思います。もしその当時、今のような状況だったら、されていましたか?


中園直樹氏: そもそも文芸社に連絡を取ったのが、文芸社の子会社の電子書籍サイトからだったんですよ。だから2001年ぐらいに文芸社は既に電子書籍の事業をやっていて。今でもやっているんですけど、今は電子書籍だけでの出版はやっていない。当時は電子書籍だけでの出版を子会社・別会社化してやっていたんですよね。それが文芸社の子会社だと知らずに、『送られてきた原稿に全部、感想を出しますよ』って言うのをネットで見つけたので、それに送ったんですよ。僕の小説の評価は、例えば“オール4プラス1個5”ぐらいだったら、うちが全部お金を出しますけど、それ以下だったら自分のお金で出してください的な評定の中で、僕はオール4だったんですよ(笑)。

オール4っていうのは、1個足りないよと。僕は当時、何が足りないのかを知りたかったんです。読む子読む子ボロボロ泣くし、みんな感動するわけじゃないですか。なのに賞に出してもだめだし、持ち込みもだめだし、何が足りないのかずっと謎だったんですよ。それで感想を全部出しますっていうから、何が足りないんだろうと思って出してみたところ、オール4だった。僕はそれまでの間にもう10年近く『オルゴール』という小説を推敲し続けている。このうえに全部ひと回り足りないのかって、かなりへこんだわけですよね(笑)。結局、電子書籍も取り敢えずはパシッとバッテン(×マーク)をして、すぐ断ったんです。

――それはなぜですか。


中園直樹氏: 何で断ったかというと、電子書籍は図書館に入らないというでかい問題があったんですよ。学校の図書室や図書館に入れれば一番現場に届くわけですからどうしても入れたいのに、電子書籍って入らないわけですよ。だからバッテン(お断り)したんです。

その後に親会社の文芸社から連絡がきて、『電子じゃなくて紙の本にしませんか?』って言われたので、紙の本であればと図書館に入れられるって思ってOKしました。ハードカバーの本にして出したんですよ。でも、ハードカバーってやっぱりソフトカバーよりちょっと高いんですよね(笑)。でも、図書館に入れるっていう目的があったので、ハードカバーにしました。

もし僕が今の時代、この時と同じ状況にいたとしても、多分電子書籍はバッテン(お断り)します。なぜならば、図書館・学校図書室に入らないから。僕の思いは、いじめで自殺する子を減らしたい。そのためには図書館・学校図書室というのは非常に重要なキーポイントなんですよ。僕の場合はそこに入れられないのであれば、その媒体から出す意味がないわけですよ。

――現場の子供たちに読んでもらうこと、そして広めることを目指していたんですね。


中園直樹氏: そう、だから題名にもいじめって単語を使っていない。ただ、一冊だけ表に「いじめ」って単語が出てる本があります。それが、大和出版さんから出してる『たった一人でがんばっている君へ 「いじめ地獄」から抜け出せたボクの方法』です。副タイトルに「いじめ地獄」と入ってますよね。じゃあ、どうしてこの本だけそうしなきゃならなかったかっていうと、これはメッセージ本というジャンルだからです。このジャンルは、ジャンルの特性として「題名や表紙見をただけで一発で何を伝えたいか分からなきゃいけない」って特性があるんです。でも副タイトルって表記しない場合も結構多いでしょ?だから、(題名にいじめという単語を入れたくない理由を)最初のうちに大和出版さんに言っていたお陰で、大和出版さんが遠慮して副題に入れてくれたんですよ。僕はホームページも、いじめという単語は基本的に目立つところに使っていないでしょ。常に読む前から拒否反応を示されないようにって、気を遣っているんですよ。でも、このメッセージ本だけはジャンルの特性上、それができなかったってことなんです。

――いじめという単語に拒否反応起こしちゃうような子もこういうタイトルだったら、まだ手に取りやすいですし、仮に本屋で買う場合も買いやすいですね。


中園直樹氏: そうそうそう。その上、『たった一人でがんばっている君へ』以外の僕の本は、本編を読み進めない限り絶対内容がバレない。で、唯一バレるこの本も品切れで増刷予定もないので、今は本からはほとんどバレません。でも読者さんの感想によると、困ったことに学校の司書の先生とかがね、余計なことに『これ、いじめの本だから読まない方がいいよ』って言っちゃったりするらしいんですよ(笑)。文芸社さんも、『いじめが書かれている本だ』と出そうとしたり。実際に一度広告で出された時、僕は確か担当者さんに怒った記憶があるんです。出版前から、僕の本の広告にはいじめという単語だけは絶対に出すなと、口を酸っぱくして何度も何度も言っていたので。それが、『オルゴール』の広告で使われたので、もう激怒して電話をかけて。『二度とやるな!俺は出版する前から何回言った!』って怒鳴って、もう激怒して。担当者さん、その時『すみません、すみません』って、大きな体を縮こまらせて(笑)。

――担当者さんとは長いお付き合いなんですか。


中園直樹氏: そうなんです。長いんです(笑)。そうそう、それで思い出したんですけど今までの著書をPDF文章とかにもしたいんですけど、出版社から出ている本に関しては、そういう権利って出版社さんのものなんですよね、困ったことに。版権になるじゃないですか。

――著作権は、中園さんですよね。


中園直樹氏: 僕です。でも、本を刷って配布する権利っていうのは出版社に所属する。文芸社の本を刷って配布する権利は文芸社にあるんで、僕が勝手にする事はできないんですよ。

――インターネット上に公開しているのはOKですか。


中園直樹氏: それはちゃんと出版社に許可をとっているので。

――そうなんですね。じゃあ、もしその問題がなく、もっと広まるのであれば、そういう事はやりたいというわけですよね。


中園直樹氏: やりたいですよ。もうバリバリやりたいですよ。ただ、どういう風にすればいいのか、よくわからないんでしてないんですけど。

――今までは紙を出すというのが大前提だったと思うんですが、今後、電子化を迎えるにあたって電子出版界に望むものは何ですか?




中園直樹氏: 僕が望むのは、“資料的価値”ただ、この一点だけですね。要は、図書館に入れてくれるとか図書室に入るって事。例えば何で自分の本が増刷される時に、ピンクシャツ・デーという活字を入れてるかっていうと、ネットで広めているだけだと情報って消えちゃうからです。ネットは情報源として信用度が極めて低い訳です。でも、書籍に活字として掲載された時点で、情報としての信用度はかなり上がるわけですね。それが資料的価値ということになるじゃないですか。それが必要なんですよ。そこがちゃんとすれば、学校図書室でも扱うだろうし、図書館でも扱うはずだと思うんですよね。ただその辺りがどうなっているのか、僕全然知らないんです。

――中園さんが今後出版社に望むものは何ですか。また、出版社がやるべき事って何だとお考えですか。


中園直樹氏: 出版社がやるべき事は、優秀な編集と、優秀なデザイナーを絶対に手放さないことですよね。それは電子書籍の側でも必要ですよね。作家が出来る事と出来ない事があります。作家は中身を作れるけど、編集マンの仕事は出来ないんですよ。デザインの仕事も出来ない。だから電子にしたって紙にしたって、本を作る上でそういう人材は絶対的に必要です。

電子の本になると、デザイナーはWEBでポポポーンとデザイン出来なきゃいけないとか、必要なスキルが変わるぐらいで。でも作家が出来ない部分をフォローできる人間は絶対的に必要なので。そこはとても重要だと思いますね。電子は電子で突っ走る、紙は紙で突っ走るんじゃなくて、両方歩み寄らないと共倒れになっちゃう危険性はあると思います。

――先ほどの版権の問題についてはどうお考えですか。


中園直樹氏: 仕組みが出来上がっちゃっていることなんで仕方ないんですよ。僕は出来上がっている仕組みを変えようという所までは考えないんで(笑)。本の内容と一緒で、出来上がっている仕組みの中でいかに工夫するかなんですよ。だって、そうでないと原状で苦しんでいる何の力もない一般の中高生読者の役に立てないんで。一応、今ある仕組みの中で出来ることは全部やってますけどね。文芸社さんに許可をとってこの3タイトルは、本のバージョンとは多少違うけれどもネットで出せている訳なので。これぐらいが僕のできる範囲、考えてる範囲です。

あ、あと、日本とアメリカとではすごい状況が違うじゃないですか。アメリカって本をディスカウントで売っちゃうんでしょ? 確か欧米では委託販売制度と再版制度ってないんですよね。だからアメリカの本屋ってどんどんなくなっちゃって、電子書籍がバーっと伸びたんですよね?

――あとは、Kindleなど、Amazonの電子書籍も大変発展してます。でも、本の販売量自体は減ってなく、むしろ伸びているんですね。紙から電子に変わり、あとは書店がなくてもAmazonで全て買えるようになりました。端末でも買えますし、紙であっても宅配という形態に移ってますので。書店が減った=販売量が減ったということではなく、販売量は上がっているけれども、目に見える書店は少なくなったということですね。


中園直樹氏: 実際の書店が減って来たのは、電子書籍の普及が理由だって、どこかで読んだんですよ。日本では書店ってだいたい主要駅にはあるじゃないですか。でもアメリカでは主要駅にも無いという、かなり大変な事になっているらしいじゃないですか(笑)

――本は3倍ぐらい出ているらしいですけど、書店は3分の1ぐらいです。


中園直樹氏: それを考えると、日本はアメリカとかヨーロッパの例をあまり参考には出来ないですよね。日本は未来予測が非常に難しくて大変です。それで思ったのが、日本が再版制度とか委託販売制度とかをなぜ設けているかっていうと、書籍は文化だっていう考え方が根本にあるわけじゃないですか。日本人ってそういう文化が好きで、守ろうとしますよね。なので、うまく行けば絶対うまい方向に行くはず。多分、一般人でも無意識のうちにそういう部分を持ってると思うんですよね。だから、書籍の文化がどうこうなるって言うと、もの凄い反乱を起こすと思うんですよ(笑)。今であっても、もっと未来、電子も紙も関係なくなった時代であっても、書籍という文化が脅かされたときには日本人はものすごく拒否反応を示すはずって思う。

だから多分、委託販売制度も再版制度もいい・悪いはあるにしても、これは絶対に守らなきゃいけない制度だと思います。そうしないと本がどんどんくだらないと言うか、チープなものばっかりになっちゃいそう。そうしたことも必要だし、電子の方でもちゃんとした制度も必要だし、両方あった方が絶対いいと思う。今過渡期なんで、今後どうなるか全然わかんないんですけど。

――今後書き手は読者の顔が今より見えるようになると思います。そうなった場合、書き手のスタイルは読み手を意識して変わっていくものでしょうか。


中園直樹氏: 嫌がる人はいるでしょうね。だってホームページすらも持っていない人もいらっしゃるじゃないですか。そういう人からすると、これはすごいイヤだぞと。でも、大半の人はそんなに嫌がってはいないような気はしますけどね。検索すれば、だいたいの人がホームページを持っていますしね。

――今後もしご自身の本が電子書籍化されてもっともっと反響が直に届くようになったら、それによる変化はあるでしょうか。


中園直樹氏: 僕の場合はないですね(笑)。

――では、中高生の要望が直に届いた時に変化はありますか?


中園直樹氏: そうですね、僕の場合はほとんどの作品でやっていますよ。例えば2007年に出した『チョコレイトの夜』の場合なんて、あとがきに『要望があった内容はこの辺りに書きましたよ』的な事まで書いてるぐらいですし。

――世の中の大人が言う否定的な意見にブレる事はないけれども、ターゲットとしている中学生や子ども達の意見とかは、これからもどんどん取り入れていかれますか。


中園直樹氏: そうですね。あと大人に言われたことも詩集にちらっと書いていたりします(笑)。読者からの言葉には、常に影響を受けながらやってる人間なので、僕の場合は今と変わらないですね。ただ、他の方はそうなった時にどうなのかって、ちょっとわからない。。

――今度は逆に読み手の立場としてですが、普段、本は読まれますか。


中園直樹氏: 最近は読んでいないですね。仕事で他人の原稿のアドバイスをしなきゃいけなくて、その原稿ばっかり読んでる感じなんですよ(笑)。

――紙から電子書籍に移行することで物理的な抵抗はありますか?


中園直樹氏: いや、全然ないですよ。元から僕はプロになる必要はなかったんですよ。なかったんですけど、プロ作家の作品じゃないと世の中が認めてくれないから、プロ作家にならなければならなかっただけなんです。だから、別に『オルゴール』の評判がよかった時点で、出版せずにそれをずっと無料公開し続けるだけっていう手もあったんですよ。ただそれだと図書館や学校図書室に入れてもらえず、資料的価値もない。僕が死んだらその本はネットの世界から消えてしまうわけですよ。だから僕はプロにならなきゃならなかったんですよ。僕としては全部無料で公開する、ということでもよかったんですけど、たまたま今の世の中の構造がそうなっているので、この平成の世に生きている僕は、当然それに合わせなければならないわけです(笑)。

――図書館も学校図書室もそうですが、本を置く場所の問題がある中で、今後はどういった事を考えていらっしゃいますか。


中園直樹氏: そうですね。そのうち電子が絶対入って来るはずですよね。一番思っているのは、電子書籍用の端末は高いんですよ。だから苦学生、買えないんですよね(笑)。5千円ぐらいだったらみんな飛びつくと思うんです。安価になれば、もっと普及する。僕の『オルゴール』なんて、中高生がお小遣いで買える値段って考えて800円ですし。

――ハードカバーで800円というのは安いですよね。


中園直樹氏: 2002年だから出来たことです。今も生き残っているからビックリされるだけで、2002年ぐらいには、これぐらいの本は800円で売られていました。本の値段って上がってるんですよね。2002年当時の流通書籍の適正価格内で、一番下げてこれです。当時でも安すぎるってビックリされていましたけどね。

――電子書籍になって、コストが減ることで、もっともっと広めることが出来ますね。そういった意味では電子書籍化に期待することは広まっていくことでしょうか。


中園直樹氏: そうそう。どんどん広まることですね。だから、以前Googleが全部の本をスキャンしようとして…、っていう話あったじゃないですか?『オルゴール』だけはスキャンされてて読めるんですけど、他はスキャンされていなくて、でも僕としてはみんなスキャンしてくれればいいのにって(笑)。

――ブックスキャンに送られてもスキャン拒否とかはなさらないですか。


中園直樹氏: しないです(笑)。どんどんやってくださいって感じです(笑)。

(聞き手:沖中幸太郎)

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