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世界中の本好きのために

ピーター・フランクル

Profile

1953年、ハンガリー生まれ。オトボス大学大学院修了。1979年フランスに亡命後、英国、西ドイツ、インド、米国、スウェーデンなどに招かれ講演、研究を行うと同時に、各国の路上で大道芸を披露。82年初来日。1988年から日本に定住。全国各地から講演に招かれ、その独特の生き方を伝えている。日本名は富蘭平太。
著書に『数に強くなろう ピーター流数学あそび』『ピーター流生き方のすすめ』(岩波ジュニア新書)、『ピーター・フランクルの中学生でも分かる大人が解けない問題集』シリーズ(日本評論社)、『数学放浪記』(晶文社)など。算数オリンピック専務理事、ハンガリー学士院会員。

Book Information

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人間の財産は頭と心



数学者で、大道芸人のピーター・フランクルさん。父から教わった、「人間の財産は頭と心」という言葉を胸に、多くの読書体験、たくさんの人との出会いを通じて、その“財産”を蓄積してきました。現在は、そうした財産を「お世話になった日本」への恩返しとして、全国各地での講演を通じて広めています。ピーター流、人と本との付き合い方とは。幼少期の読書体験、長年にわたる日本への想いとともに伺ってきました。

「居心地の良い国、日本」で共に暮らすということ


――長らく日本に住んでおられます。


ピーター・フランクル氏: 1982年に東京大学の招待を受けて初めて日本を訪れました。その時の日本の印象はとても素晴らしく、その後も何度か訪れて、ついに1988年10月から住むことになりました。日本は僕にとってとても住み心地の良い国でした。何がそんなに気に入ったかというと、当時の日本人はみんな非常に明るく前向きで、エネルギーにあふれて笑顔で活動していたところ。

その後バブルがあってはじけて、経済は低迷するようになりました。最近もあまり芳しくないけれど、その状況は他の先進国でもほとんど変わらないです。僕はこれからも、真面目で一生懸命働き、頑張っている人は周りに評価される日本に住みたいと思っています。逆に、経済停滞している日本で笑顔が消えつつあり、将来の生き方を探る人が増えた中で、自分なりに生き方の助言をすることが僕の宿命だと思っています。

何しろ、ユダヤ人として生まれた国ハンガリーでも差別を受けた経験を持ち、フランスなど様々な国で暮らしたけれど、ここまで優しく受け入れてくれたところはありませんでした。日本人に対して非常に感謝の気持ちがあり、僕にできる唯一の恩返しだと考えています。

――その恩返しのひとつが、講演活動。


ピーター・フランクル氏: それが今の最大の活動で、全国津々浦々をまわっています。内容はさまざまですが、一番多いのは生き方や人権に関する話です。日本に住むまでも、住んでからも多くの人、そして本によって新しい扉が開かれ、そこから多くのことを学んで進んできました。人や本との出会いによって得た経験をお話しているのです。この講演活動を通じて、全国のいろいろなところを訪れており、美しい日本中を旅できるのも幸せなことですね。


「若い時こそ本を読もう」
たくさんの読書体験が生きる糧になる


――ピーターさんは、どんな本に出会ってこられたのでしょう。


ピーター・フランクル氏: 本との出会いは多少遅かったかもしれません。文字よりも数字を先に覚えて、小学校に上がる時にはまだ読むことができませんでした。ところが、けがの功名というか、七歳の冬にたくさん本を読むことになりました。体操サークルの練習で大腿骨を骨折して、10週間も学校を休むことになり、その大半は寝ていなければならなかったのです。そこで運動大好きな僕も、親が与えてくれた本を読むようになりました。その際に出会い今でも心の財産になっているのは、ハンガリーの詩です。両親は毎朝出かける前に、『ハンガリーの名詩』という分厚い本の中から自分たちの好きな詩を見せてくれて、僕はそれを何回か読んで覚えて彼らが帰ると暗唱し、わからないところを説明してもらいました。今でもよく覚えていて、道を歩きながら頭の中で朗読することもあります。他には、各国の童話やギリシャ神話を読みました。

次に本が好きになったのは中学生の頃です。ハンガリーの冬は寒くて暗くなるのも早いので、学校から帰ると布団にもぐって夕食まで本を読むのがお気に入りでした。トルストイの『戦争と平和』やスタンダールの『赤と黒』、シェイクスピアの戯曲『ロミオとジュリエット』などが頭に浮かんできます。それでも、あの頃もっと本を読んでおけばよかったと今後悔しています。人生の中でたくさん時間がある時はそんなにありません。退職してから本を読む人は多いけれど、極端に言うと冥土の土産です。若い時に読んで、生きる上での糧にするべきです。名作の主人公の生き方などをヒントに自分の生き方に活かすべきなのです。



――若いうちにこそ、読むべきだと。


ピーター・フランクル氏: 10年ほど前に、マルセル・プルーストの超長編小説『失われた時を求めて』をやはり読むべきだと思って、アフリカの帰りにパリに立ち寄った際に買いました。ところがちょっと読み始めると文章が複雑でとても長くて、毎日ちょっとずつ読んで楽しめるような本ではなく、結局諦めました。残念ながら、これからもそんな時間は取れそうにありません。

他にも長い本は多く、映画で観たほうが早いだろうと思う人もいるでしょう。ところが、自分や周りの人の意見で、実際の本を読んだことよりも映画の方が良かったというのは一度も聞いたことがありません。

自分がそれを最近著しく感じた例は、ヴィクトル・ユーゴーの『レ・ミゼラブル』です。この本は子供の頃に読んだことはなく、映画を親と一緒に観たことは覚えています。二部作でとても感動した素晴らしい映画でした。三年前にアメリカで時差のせいで夜あまり眠れなかった時に、Kindleで購入しました。原作のフランス語で三夜かけて読み、美しい文章と内容の深さに非常に感銘を受けました。その後日本に帰ってきてから、もう一度映画を観たいと思ってDVDを購入しましたが、映画は映画でそれなりの価値があったけれども、ヴィクトル・ユーゴーの描く人間性の深さ、主人公の生きる哲学の詳細などは伝わってきませんでした。映画には時間の制限があるので仕方がないですけどね。

外国語習得も「読書」が要
“好奇心のエサ”でひらく、新たな扉


――好奇心は外国語にも向けられました。


ピーター・フランクル氏: 僕にとって外国語の勉強も本が一番の道具でした。最初に本格的に学んだ言葉はドイツ語で、15歳の頃にせっかくだからもっと上達したいと思い、ドイツ語の本を読むことにしました。図書館で借りたのは短編小説の対訳本で、薄い本を一日一冊ずつ三十冊ほど夏休み中に読んでから、ついにドイツ語だけの本に挑戦することにしました。

周りには外国語の勉強のためにアガサ・クリスティなどの推理小説を読む人もいました。どうしても結末を知りたくなるので、難しくても最後まで読み通すからだそうです。でも僕はどちらかというと、本が書かれた時代の国や社会や政治の状況などを説明している本に惹かれて、ドイツ語でも様々な名作を読むようになりました。また、ゲーテやシラーの詩を暗記したり、ノーベル文学賞受賞者のハインリヒ・ベルなどの現代ドイツの小説もたくさん読んだりしました。

――外国語習得の第一歩は、「文字」から。


ピーター・フランクル氏: 多くの日本人は英語学習に励んでいますが、大体の人は英語でコミュニケーションができることを目標にしています。もちろん、外国語学習の華はコミュニケーションで、自分と外国との間の溝を埋めたり、新しい友達や仲間を作ったりするのに役立ちます。だからといって、安易に会話を中心に勉強するべきではないと僕は考えます。

第一、今は日本人同士でも、直接会話をするよりもメールやメッセージアプリなどの文章を通じて連絡を取ることが多くなっていますよね。相手が外国人でもそれは変わりません。つまり、現代社会では文字でコミュニケーションすることが多くなっています。第二に、文章の読み書きをする時は会話をする時よりも時間に追われることが少ないので、時間をかけて表現を考えることができるからです。



「財産は頭と心の中にある」
知的消費時代に活きる父の教え



ピーター・フランクル氏: 戦争で自分の両親を含め全てを失った親から教わったのは、「人間の本当の財産はこの身一つで、中でも大切なものは頭と心の中にある」ということです。僕は今でもこれを深く信じています。誰でも自分が大切に思っているものを集めたい、増やしたい、綺麗にしたい。例えば家や車やブランド品など人それぞれ自由ですが、僕個人としては環境破壊などを考えると、これからは物質的な消費よりも知的消費をする時代にしていかないといけないと考えます。

それと財産は頭と心の中にあることはぴったりだと納得しています。では頭と心の財産をどう増やすか。さまざまなことに関する知識を増やさなければいけません。例えば毎週新しい本を読もうと自分に課しても、忙しい中ではなかなかうまくいかないでしょう。知りたい気持ち・好奇心が強くなければ、新しいことを勉強する時間とエネルギーは残りません。また心の財産は何なのかと思うかもしれませんが、僕は今まで生きてきた経験、出会い、良い友人関係など、とにかく他の人との関わりの中にあると考えます。これを増やす一つの素晴らしいきっかけは、国の内外を問わずの旅。特に少人数で旅に出ると、旅先で出会った人と話す機会がたくさんあります。時間と心にゆとりができるので、日常で歩いている時とは気分が違います。



――ピーターさんの旅、素敵ですね。


ピーター・フランクル氏: こう偉そうに言っていますが、僕自身はかなり臆病な人で、知らない人に声を掛けることができる性格ではありませんでした。それを変えたのも、外国語の勉強でした。外国語を学んでその国を訪れると、やはり自分の力を試したい気持ちになります。自然に現地の人に声を掛けたり、情報を求めたりし、また国によってはそこの言語ができることで好意的に迎えてもらえます。

中でも最も得をした国は日本です。日本人は日本語が難しい言語だという意識を持っています。確かに僕がふれたことのある言語の中で、中国語やタイ語など文字が難しい言語を含めても日本語が断トツに難しい。というわけで、日本人と違う顔をした僕がある程度日本語を読み書き話せるのを見て、非常に親切にしてくれました。

人生の主人公は自分自身
心を開いて人生を豊かに過ごそう


――そうした経験を本に記すようになったのは。


ピーター・フランクル氏: この日本で僕が初めて、数学以外の本を書こうと思ったきっかけは、ある日本人がくれた外国人タレントが書いた本でした。内容としては面白かったけれども、ほとんどは手前味噌の自画自賛的な書き方で、あまり気に入りませんでした。一方、僕も出会う日本人一人一人に人生を詳しく話すより、一冊の本にまとめたほうがよいのではないかと思い、『数学放浪記』という自叙伝を書くことにしたのです。ただ、先ほどの本を反面教師にして、自分はこれだけ偉い素晴らしいという書き方は避けて、恩師である何人かの人の人生と考え方を挙げて自分の人生を書きました。人間は謙虚であるべきだと今でも思います。

――たくさんの伝えたいメッセージが込められています。


ピーター・フランクル氏: 先程も話したように今の僕の主な仕事は講演会で、その中で人々に伝えるメッセージはいくつもありますが、最後に二つ紹介したいと思います。まずは「人生の主人公は自分自身である」ということ。自由で平和な民主主義の国日本でこそ、みんなそれぞれ幸せを追及する権利を持って、自分の人生を一番大切にしてほしい。といっても決してわがままになったり周りの人に無関心になったりするという意味ではなく、自分にとって大切なのは周りの人たちだということを意識してほしいのです。テレビに出るタレントに子どもが産まれたことよりも、近所の人に子どもが産まれたことの方が大事だと思ってほしいし、一方的に好きな俳優よりも相互的なコミュニケーションができる周囲の人たちを大切に思ってほしい。

その延長線上で最近、講演の最大のメッセージにしているのは「keep your heart open」。人は人生に期待を持つべきで、これから面白い出会いや素晴らしい出来事がたくさん待っていると確信してほしい。ただそれが訪れる機会は人を待ってくれないので、自分からつかまなければなりません。そのためには自分の心の門戸を開いた状態にするべきです。「黒人だから怖い」とか、「在日だから話したくない」といった間違った先入観を持たずに、自分と相手との間に壁を設けるのではなく、好奇心を持っていろいろな人やものごとと積極的に接することをお勧めします。そうすればきっと、自分の人生がさらに良くなることは大いに期待できますから。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 ピーター・フランクル

この著者のタグ: 『コミュニケーション』 『数学』 『生き方』 『日本』 『学習』 『講演』 『読書』 『人権』 『言語』

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