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黒沼悦郎

Profile

1960年生まれ。東京大学法学部卒業。東京大学法学部助手、名古屋大学助教授、神戸大学教授等を経て、現職。専門は金融商品取引法。 著書に『金融商品取引法入門』(日本経済新聞出版社)、『論点体系 金融商品取引法』(共著。第一法規株式会社)など。

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大局を見据えた広い教養を身につけよう



「広い教養を身につけよう」――早稲田大学法学部教授の黒沼悦郎さん。金融商品取引法を専門に学部、法科大学院で教えられています。法曹界の土壌となる場において「近視眼的にならない、学びの場を」という黒沼先生の伝えたい想いを、歩みとともに伺ってきました。

法曹界の土壌を育てる



黒沼悦郎氏: 私はここ早稲田大学で、金融商品取引法を専門に、法学部とロースクールの両方で教えています。近年、ロースクールに期待される役割が、多岐にわたる専門的な科目を扱うところから、司法試験の予備校的性格へと変わってきており、我々教員の立ち位置も変化してきています。

大学の教科書も変わってきていて、昔の大学のテキストは、教員である研究者の成果がまとめられたものを直接、教科書として採用していましたが、今は「いかに分かりやすく説明されているか」「試験と直接関係のない最先端の事例などは省く」という傾向になってきています。しかし、社会に出る前に「易しくない」事例を学ぶことは、弁護士でも別の職業を選択しても、有用です。

また弁護士を目指す場合でも、法律に携わる仕事である以上は一生勉強だと思っていますので、ロースクールで学ぶ内容が単なる対策だけで終わってほしくないと思っています。

――試験対策で終わらない。


黒沼悦郎氏: もちろん試験科目である会社法も受け持っていますので、万全の対策は心がけていますが、司法試験合格だけでなくその先を見据えた講義内容を心がけています。教科書も期末試験に合格するためと捉えれば、他に有効な手段があれば、選択されなくなります。しかし、先を見据えてみると、特に、若い頃に読んだ本や教科書は、その人の土壌となり、職業を問わず、一生役に立つものだと思います。私自身も、法学者ですが小さい頃に読んだ別分野の本は、生きる上で無駄にはなっていません。

全方位への興味 学びを求めて進んだ道


――黒沼先生は、どんな本を読んでこられたのでしょう。


黒沼悦郎氏: 読書に対する好奇心は人並みで、ただどちらかというと理系の、ポプラ社の伝記物や、学研のSFシリーズを良く読んでいましたね。『物理パズルシリーズ』など、こども向けの入門書をきっかけに講談社のブルーバックスシリーズを読むようになりました。おぼろげに物理学者に対する憧れは持っており、小学生でも読める優しい分野のものを読んでは、友人たちと相対性理論や量子力学について語っていたのを覚えています。

一方で、筑波大附属駒場時代に野田秀樹さんに影響を受け、学園祭などで劇の脚本を担当していたこともあり、文系への興味もありました。高校卒業まで理系でしたが、結局、大学は得意なものを選んで文系学部に進学しました。

大学の駒場時代は、美術サークルで絵を描いたり、フィギュアスケートのサークルに入ったりと、勉強よりもそうした活動に重点をおいていたように思います。フィギュアは、母親がコーチを勤めていた卓球場の下にスケートリンクがあったこともあって、小さい頃に少しやっていたのです。またファミコン第一世代だったこともあってゲームが大好きで、恥ずかしいのですが……今もプレステ3を持っています。

――絵もフィギュアもやって、ゲームも……勉強の方は。


黒沼悦郎氏: 専門課程に進むころから、本格的にやるようになりました。その頃はぼんやりと、他の学生と同じように省庁勤務の公務員になろうと思っていました。
研究者になることに決めたのは、大学も4年になってからです。東京大学法律相談所というサークルにも所属していたのですが、そこで学者の方が向いていると言われ、この道に進みました。

学部卒業と同時に助手に採用され、3年半の助手期間を経て名古屋大学に就職しました。海外では、アメリカやイギリス、ドイツで学びました。英語が苦手だったこともあり、留学生活は大変でした。それまで、研究者ならば英語を生業にする訳ではないから大丈夫だろうと思っていましたが、やはり、どの分野でも役に立たない学問はないと実感しました。



見方を変えれば世界は面白くなる


――そうして学びを求めて積まれた知見を、テキストにまとめられています。


黒沼悦郎氏: 本は読むだけでなく執筆する上でも、たくさんの発見があります。論文では気づかなかった点が見えてきたり、編集者とまとめる作業の中で、気づかされることもあります。また、編集者は最初のフィルターですが、彼らは世の中の動向を汲み取って、ある種の信念のもと、一冊の本づくりに力を注ぎます。そうした存在を介していることが、ネットなどの情報の羅列に終わらない、本の魅力だと思います。

本は、単一の知識を伝えるだけでなく、その分野における「体系」を伝えることの出来る手段であり、媒体だと思います。私も、ただ研究の成果をまとめるだけでなく、初学者にも「こういう世界があるんだ」ということを知ってもらえる、ひとつの窓口になって欲しいという想いで書いています。



――情報だけでは、面白みがない。


黒沼悦郎氏: 私の役割のひとつに、この分野の「面白さ」を伝えることがあると思っています。「法律は、紛争解決の手段です。終わり。」と捉えてしまってはもったいない。研究者として、成果を世の中に発信していくと同時に、どうすればこの世界に興味を持ってくれるかを考えています。

私の専門とする金融商品取引法も、「金儲けのことでしょ」ではなく、理屈だけでも実務だけでもない、人間が社会生活を営む上で、両者が折り合いを付けてきた人類の試行錯誤の結果としてみれば、また別の面白さがあります。そういう側面があることを、若い学生が興味を持つかたちで伝えていきたいですね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 黒沼悦郎

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