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世界中の本好きのために

大竹文雄

Profile

1961年、京都府生まれ。 京都大学経済学部卒業、大阪大学大学院経済学研究科博士前期課程修了、大阪大学博士(経済学)。専門は労働経済学・行動経済学。 著書『日本の不平等―格差社会の幻想と未来』(日本経済新聞社)では日本学士院賞など多数の賞を受賞した。 その他の著書に『競争と公平感―市場経済の本当のメリット』(中公新書)、『経済学的思考のセンス− お金がない人を助けるには』(中公新書)、『スタディガイド 入門マクロ経済学』(日本評論社)、『労働経済学入門』(日経新書)など。 また、NHK教育テレビ「オイコノミア」等テレビ出演も。

Book Information

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「日常の感覚」で経済学の面白さを伝える



大阪大学で理事・副学長を務められる経済学者の大竹文雄教授。労働経済学と行動経済学が専門で、記した著書は多くの賞を受賞しています。また、NHK Eテレ「オイコノミア」では私たちの素朴な疑問を経済学の視点から解説されています。「経済学の言葉だけを使わないで、日常の感覚で‘こういうことか!’という感覚を大切にしたい」という大竹先生の想いを伺ってきました。

経済学への誘い


――大学でのお仕事について伺います。


大竹文雄氏: 理事になってから忙しくて、勤務時間の7割から8割くらいは大学運営の仕事をしています。自分の研究などもかなりの時間が必要なので、土曜日曜もなくて労働時間が長くなっています。研究は好きでやっているからいいという部分もありますが、仕事ですからね。それでもかなり研究時間が短くなったのが悩みです。学生の指導は、大学院のゼミを週2回。他に個別指導もやっています。全学の学部生向けのゼミも半期もっています。

大学院では週2回、一回に2人ずつ報告してもらいます。1人には最近学術雑誌に載った興味深い論文の紹介です。もう1人は本人の研究の進捗状況についての報告です。私と経済学研究科の佐々木勝先生と一緒にやっていますが、指導というよりは学生たちに質問して彼らと一緒に考えるようにしています。報告者は報告までにしっかり準備して質問になんでも答えられるようになっているはずですが、それでも分からない時はみんなで考える。そういうトレーニングをいつもやっています。あと、実際に共同研究プロジェクトを立ち上げて、一緒に論文を書くということもします。これが1番オン・ザ・ジョブトレーニングになると思います。

――先生が大学で経済学を選ばれた理由は。


大竹文雄氏: 京大に入るまでは経済学というもののイメージがはっきり分からず、経済予測や、株価の予測ができればいいなと思っていました。というのは、私の実家は商売をしていて、オイルショックの頃に商品がどんどん値上がりしたのです。1年間に20%くらい、相当上がったのでしょっちゅう値段の改定をやっていました。値札のシール貼りは子供の仕事でしたが、その時に「経済変動が最初から分かっていたらもうかるのでは。もっとうまく対処できて儲けも増えるのでは。」と思ったのです。仕入価格も上がりますし、全体的にも上がっていくのであまり意味はないのですが、ただあれだけ大きな経済変動がどうしてあらかじめ分からなかったのかということは不思議でした。

――実家の商売を通じて実感していったのですね。


大竹文雄氏: 実際に「経済学」に触れたのは大学に入ってからでした。学部の1年生から森口親司教授がされていた勉強会で、先輩や助手の人たちに教えてもらって、現在一橋大学教授の齊藤誠さんをはじめとする友人たちと『価格理論I』という教科書を一緒に読んだのが最初です。それで少しずつ経済学が分かってきました。教えてくれた1人は浅田彰さんで、すごく教えるのが上手でした。ですがその時は、すごく数学的で、世の中とどう関係するのか全然分からなくて、正直あまり面白いと思っていませんでした(笑)。

――大学での学問と、世の中の経済がつながってこなかったと。


大竹文雄氏: もう全然別モノでした。最初は経済の動きを知りたいと思っていましたが、『価格理論I』に描かれていたのは本当に数学で経済のメカニズムを抽象的に描いたもので、現実との関係はまったく分からないという感じでした。1番現実と経済学の関わりが分かるようになったのは、学部の3年生の時に西村周三先生のゼミに入って勉強するようになってからです。

西村先生は医療経済学の専門家でしたが、現実の経済と理論の間をうまく説明されていました。それに、学生に色々な質問を投げかけて、考えさせるということで、モチベーションを持たせることが非常に上手でした。それでなんでも経済学で考えてみるという癖がつくようになったというのが大きいですね。

――どんな風にモチベーションを維持させていたのでしょうか。


大竹文雄氏: 西村先生は、先生自身が本当に分かっていなくて聞いているのか、本当は分かっているのにわざと聞いているのかが分からないような感じで聞くのです。試しているのか、本当に分かっていないのか、が分からないように聞くことが大事だと思います。

例えば、「これはどうして?」という時に、「いや、俺は分かっているけれどお前を試しているのだ」という感じで言われると身構えてしまいます。ですが、先生が本当に分かっていないのであれば、一生懸命考えないといけないということになります。先生としては分かっているのだと思いますが、「ここのところ分からないけれど、これを君、教えてくれへんか」という感じで聞かれるほうが学生はモチベーションが上がるんですね(笑)。その後、いろんな研究者を見てきましたが、優れた研究者ほど、分かったふりをしないで、本当に分かるまで質問を続け、考え続けるということが共通しているように思います。

リスキーでも面白い方へ進む


――研究者以外の、就職などは考えていましたか。


大竹文雄氏: 3年生の頃は一般企業への就職も考えていましたし、当時は4年生の夏くらいから就職活動だったので、就職活動も大学院受験も同時期にしていました。当時、経済学部生はほとんど大学院にいきませんでした。ですから、大学院にいくのは、かなり勇気のいる選択でした。できれば、研究ができるような仕事をしたいと思っていましたが、一般企業でそういう仕事は少ない時代だったのが大学院に進学した理由だったかも知れません。でも、私は基本的にあまり昔のことを思い出してあの時どうだったとか考えない方なので、どうして大学院に行くことを決断したのか全然思い出せません(笑)。ただ当時は、経済学部の学生が大学院に行くことは、リスクがとても大きかったです。京都大学の経済学生のほとんどは普通に一流企業に就職するのですが、大学院からの企業への就職というのはほとんどない時代だったので、大学院進学を決めた段階で、普通の会社員の道を捨てたということになりますね。本当に大きな決断だったと思います。

――リスクをおかしてもあえて大学院に進まれたわけですね。


大竹文雄氏: 面白いほうを取ったというのはあったのだと思います。それと、もう1つは当時の組織というものはカチッとしていて、そういう中で生きていくのはあまり好きではなかったというか向いていなかったということがあると思います。私は小さい頃から学校もあまり好きではありませんでした。とにかく集団行動が苦手でしたから。でも、京大だけは例外で、結構自由で授業に出なくても構わないという雰囲気で、ホッとしていました。どうも組織の中で生きていくことが向いていないと思っていたのではないですかね。

――そうして進んだ大学院はどうでしたか。


大竹文雄氏: 阪大の教育はカチッとしていました。私はカチッとしたものは嫌いだと言いましたが、大学院の頃にはこれはプロフェッショナルになるために避けて通れないものだと割り切ってやっていました。コアコースがあって、ミクロ経済学、マクロ経済学、エコノメトリックスが必須になっています。講義があり、宿題があって、中間試験と期末試験を受けるという高校や大学のような感じです。1年目はその繰り返しに必死でついていかないといけません。今では、どこの経済学の大学院もこんな感じですが、当時、このスタイルを取っていたのは、阪大だけでした。それだけ阪大の教育が充実していたので、京大からも経済学で大学院に進む場合は、阪大に進むことが普通でした。その後は論文作成をやっていきます。当時の大阪大学経済学部は旧帝国大学や一橋大学、神戸大学といった有力な経済学の大学院の中では長い歴史がないためもあって、あまり大阪大学の出身者が多く就職する大学がほとんどない時代でした。そのため、とにかく業績を出さないと就職が決まらないというプレッシャーが強くありました。つまり、論文を書かないと就職できないということです。おかげで研究して論文を書くということが当たり前になっていきました。

――その流れから本を書くように。


大竹文雄氏: 大阪大学の経済学部の助手をしていた頃だと思うのですが、中谷巌先生のマクロ経済学の『入門マクロ経済学』という当時ベストセラーの教科書があり、この本のスタディガイドを書いてほしいと日本評論社の編集者の人から頼まれて、『スタディガイド 入門マクロ経済学』を書いたのが最初です。「自分ならどういうふうに書かれていると、理解できるかな」という書き方をしました。読んだだけでは分かりにくいところを「要するにこういうことだ」というように書いてみたかったのです。このスタディガイドというのは、問題集なんですが、執筆中、大阪府立大学の経済学部に講師になったので、府立大学の学生たちに出題してみました。でも、最初の頃は誰も解けなくて「難しすぎるのだ」ということが分かりました。はじめて経済学を学ぶ学生の身になって考えないとだめだ、ということがよく分かりました。自分は何度も経済学のことを考えてきたので、当たり前のことでも、学生たちは初めて目にすることばかりなのだということです。もう一つ、「オイルショックの頃はどうだった」と言うとみんなポカーンとしていて、「ああそうか、彼らにとっては過去の歴史なのだ」ということが分かりました。こちらが当たり前に思っていることも相手にとっては全然当たり前ではないという、そういう当たり前のことが教えてみて私自身が理解できたのです。それで、彼らが6割から7割回答できるくらいの問題を作るということを念頭に置いてやっていきました。

「自炊」以前の電子化。紙である事の意味


――論文も電子化されたものが一般的ですが、電子書籍についてはいかがでしょう。


大竹文雄氏: 論文に関して、私たちは「電子ジャーナル」としてPDFでかなり昔から読んでいましたので、電子媒体で読む事には慣れていました。それで、PDFに慣れてきた頃、書籍を自分でPDF化するということも考えましたが、1枚1枚するのはすごく手間がかかりそうなので、「これはできないな」と思案していました。そのうち書籍でも「裁断すればできるか」と思いましたが、本を切ることに対して心理的抵抗があったので、まずは学術論文や普通の雑誌の中から残したいものを電子化する事から始めました。

次にやったのは、漫画。当時、経済学の副読本として漫画で1番いいと思っていたのは、『ナニワ金融道』でした。私費で購入して研究室に置いていましたが、場所を取っていました。漫画を裁断してPDF化をしたことで、本を裁断してしまうという心理的抵抗を少しずつ小さくして行ったのです。今は1通り読んだものや、捨てるかどうか迷うようなものはPDFにするというようにしています。私たちのように職業的にたくさんの本を読む人間は、保存場所が深刻な問題になります。今なら研究室がありますが、いずれ退職すると、これを自宅には置けません。これは溢れた本をなんとかしなければと思いましたが、本を捨てるのも難しいところがありました。それで、当時スキャナーができたので、PDFにするのはどうかなと思っていました。PDF化を始めたのは、2000年代であったと思います。まだ「自炊」という言葉もなかった時代だったのですが、先ほどの心理的抵抗感からか、「本を切ってPDFにしている」とは言えず、こっそりやっていましたね。

――論文、漫画。通常の書籍はどうでしょう。


大竹文雄氏: 私はKindleも持っていますが、小説を読むのにはいいです。パッと押して、一瞬間があって次のページにいきますが、そのくらいは普通の小説を順番に読んでいくことには全然問題がないので、本として読むぶんには大丈夫という気はします。ところが、雑誌や学術論文の場合は若干困ります。読む時に、行ったり来たりしなければならないタイプの本では、やはりそのスピードが遅いのがネックになると思います。紙の本のほうが、線も引けるし、付箋も貼れるし、だいたいどのあたりに何が書いてあったかということが直感的に手触りで分かるので、深く読んだりする時はいいと思います。電子書籍だと直感的に何ページくらいにパッと飛ぶということが、なかなかできにくいのです。その場合はiPadのほうが速いので、学術論文を読む時はiPadを使うことが多いです。

――用途と特性に応じて使い分けているんですね。


大竹文雄氏: 両方持っていくものもあります。本もKindle(電子書籍)も両方買っているものがあります。例えば、私は毎日新聞に毎月のように書評を書いていますが、書評を書くために読む時はやはり紙の本でないとやりにくいです。書評を書く時には、引用するようなところに、線を引いたり付箋紙をつけたりして、読み込みますので。ただ、出張が多いときには紙の本を持ち歩くのは荷物になりますから、電子化したものを利用することが多いです。

本当に分かる、ということ。編集者の存在


――経済学を解説する時に気をつけていることはありますか。


大竹文雄氏: 専門家なら分かるという、難しい言葉を使ってごまかすようなことがあまり好きではないので、「本当に分かった」という感じの表現をしたいです。自分自身が「こういうことなんだ」ということがしっかり分かった段階で、その分かり方を、うまく伝えたいと思っています。

例えば難しい経済学用語の世界で論理的に組み立てただけというもの、あるいは数式できちんと証明されたものは、なかなか分からないと思います。それが「要するにこういうことなんだ」と分かる方法というのは、人によって違うと思います。そこまで分からないと、本当に分かった感じがあまりしないので、そういう納得できる言葉を探して自分の分かった感じをどう伝えるか、ということを心がけています。経済学の言葉だけを使わないで、日常の感覚で「こういうことか」という感じで分かる。そういう感覚を大事にしています。

――最初の本の編集者はどういった方でしたか。


大竹文雄氏: 担当の編集者は経済学部出身で『経済セミナー』という経済雑誌の編集長をしていた人でした。経済学の書籍の世界では、今や伝説の編集者となっているすごい人です。私がなんとか仕上げた原稿を送ると、当然ですが色々チェックして返してくれます。経済学の問題も数式を解いて、きちんとコメントしてくれるので、別の誰かが問題を解いていると私は思っていました。でも、本人が全ての問題を解いていたのです。また、細かい文章の分かりにくいところなど全部チェックしてくれて「なるほど、こうやって書くのか」ということを教えてもらいました。1冊目の本で、とてもいい編集者と出会えたと思っています。この経験が大きかったですね。その後も、様々な編集者と一緒に本を書いてきましたから、その度に成長させてもらったと思います。

自分が分かりやすいと思って書いても、読者にとって分かりやすいかどうかは分からないところがあるので、そこを「ここは分かりにくい」とか、「この表現はこうしたほうがいいのではないか」というように教えてくれるので、それはすごく参考になります。やはり読み手が全てです。分かりにくいところを間違って理解される可能性があるのは、書き手に原因があると思うので、誤解されないようにどう表現するか、それは読み手の視点で書くということではないですかね。

――読み手の視点を提示してくれる編集者の存在は大きいですね。


大竹文雄氏: 大変重要だと思います。私たち経済学の研究者は、世の中の問題を発見して、どうしたら世の中を良くすることができるのかということを考えます。それで専門論文を書きますが、読んでくれる人は少ししかいない。けれども本当に大切なのは論文の主旨を一般の人にも分かってもらうということです。

例えば、社会の政策を提示する場合、それが社会に支持されないといけません。そのためには、まず、政策そのものの必要性が理解されなければならないのですが、専門家向けにだけ発信していては、社会からの支持もその先の理解にも繋がりません。自然科学とか工学の世界であれば、新しい技術ができると、それが世の中に使われるということが大事なわけです。技術の中身が分からなくても、良ければみんなに使ってもらえるのですが、経済の仕組みの場合は「こうしたほうがいい」という合意がない限りは、その政策を実施できません。ですから、専門家だけでなく一般の人の合意を得ることは他の分野よりも重要だと思っています。

自然科学と一緒で、「面白い」と思ってもらうこと。例えば宇宙の神秘を探りたいということは、別にそれを探ったところで瞬時に何かの役に立つわけでもないですよね。生命の神秘も、「生命はこういう仕組みで動いているのだ」ということが分かるだけでも楽しさがあります。それと同じように、「経済の仕組みというのはこういうことだったのか」ということが分かるだけでも、好奇心が満たされるのではないでしょうか。ですから私が経済学を紹介するときは、「自分が面白いと思うことを人にも面白いと思ってもらいたい」という気持ちでやっています。

――先生ご自身が知った、「経済学の面白さ」なんですね。


大竹文雄氏: そうですね。私が経済学を勉強するまで、経済学はお金儲けの学問だとか、将来を予測するための学問だという間違ったイメージを私自身が持っていました。経済学の面白さを知るまで結構時間がかかったのです。それなら、最初から経済学のありのままの姿や面白さをきちんと伝えたほうが、間違ったイメージのまま毛嫌いするとか、間違ったイメージで入ってきて「こんなはずではなかった」と思う人が少ないほうがいいと思ったのです。経済学一般に対する誤解はまだまだたくさんあるので、そこを伝え正したいと思います。今はかなり減りましたけど、昔は私が経済学者だと言うと、周りは開口一番「どの株が上がりますか」と聞かれたものですから(笑)。

経済学的思考のエッセンスを知って、豊かな社会に


――経済学者=予想屋のイメージが肥大化してしまっている、と。


大竹文雄氏: 経済学者に株価予想とかそういう期待をされて、それに応えていないと怒られるというところがありますが、それは経済学の実態を正しく伝えていなかった経済学者に問題があるのだろうと思います。

経済学全体が、誤解を元にがっかりされているという状況だと、経済学を志す人も減ってきますから、学問はますます衰退していきます。それはなんとかして止めたほうがいいのではないか、ということは思っていました。そういう思いを抱いていたところ偶然エッセイを書く機会があったので、ずっと書いていたものをまとめて新書にして、2005年に出版したものが『経済学的思考のセンス』です。これが一般向けに本を書くようになったきっかけです。自分たち経済学者がやっていることを正しく理解してほしいという思いでした。

――『経済学的思考のセンス』は大竹先生の想いが詰まった一冊なんですね。


大竹文雄氏: ある日、テレビマンユニオンという制作会社の社長さんが、その『経済学的思考のセンス』を読んで、私のところにいらっしゃいました。「この本に書いてあるような内容について、先生のところにぶらっと話を聞きに来て、質問して教えてもらうというタイプの番組を作りたいんだ」と言われました。私は基本的にはテレビに出ないということにしています。それは、テレビでは、自分が言いたかったことと全く違うことが、編集されてしまって番組で放送されることがあって、何度か痛い経験をしたからです。「オイコノミア」はそういうことは絶対しないという約束でしたし、社長さんの情熱が大きかったということもあり、引き受けました。

――毎回のテーマは、どのようにして決められているのでしょうか。


大竹文雄氏: 「自分たちが面白いと思うことをやっていく」ということを基本にしています。自分が楽しまないと見る人も楽しめないと思いますし、面白くないですよね。制作スタッフの多くは30代から40代で、女性が多いです。彼女たちが関心を持っていることや知りたいことが、だいたいテーマになっています。自分たちが知りたいことだから、視聴者との関心が近いのではないでしょうか。

――経済学を通して解決できそうな問題は、たくさんありそうです。


大竹文雄氏: 私の専門の1つは所得格差の問題です。会社の中の給与の設計の仕方から貧困の問題まで、範囲は広いです。まず、実態はどうなっているのかを調べて、どうしてそういうことが起こるのかを考えます。その次に、どういう仕組みを作れば、みんながより豊かになることができるかを考えます。経済学の考え方を人びとに理解してもらえれば、よりよい仕組みを導入することにも同意してもらえるようになると思っています。
最近取り組んでいる「行動経済学」というのは、経済学の考え方を理解してもらう上でとても有効だと思っています。行動経済学を学べば、多くの人は「合理的な選択肢」を知らないので、直感的に行動して結果的にはより貧しくなってしまうということがよくあるのだと、わかるからです。

経済学の考え方を知り、「合理的な選択肢」を身につければより良くなれる可能性があります。伝統的な経済学では、みんな賢いからおのずと合理的判断をするに違いないと言われてきました。ところが実際は「みんな間違いやすい」のです。もちろんそれを知った上であえてその道を選ぶ人は、自由だと思います。けれども知っていたらこちらを選ばずに違う選択肢を選んでいただろうという人がいたとしたら、その人たちのために伝えることができたら、私たちが経済学を研究していることに意味があると思います。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 大竹文雄

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