松原隆一郎

Profile

1956年、兵庫県生まれ。東京大学工学部都市工学科卒業、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。専攻は社会経済学、相関社会科学。自由論の思想史を近代の経済社会の変容とのかかわりから分析している。 近著に『書庫を建てる 1万冊の本を収める狭小住宅プロジェクト』(共著。新潮社)、『武道は教育でありうるか』(イースト新書)、『ケインズとハイエク―貨幣と市場への問い』(講談社現代新書)、『日本経済論 「国際競争力」という幻想』(NHK出版新書)、『金融危機はなぜ起きたか? 経済思想史からの眺望』(新書館)など。

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大転換期を迎えた日本。公共事業の概念を見直すべき時


――松原先生が、今書きたいテーマ、感じていることは何でしょうか。


松原隆一郎氏: 次に書こうとしているものは、今の日本経済の特徴についてです。これほど長い間不況が続き、マーケットが上手くいかない理由は、世の中全体にあるのだと僕は思うのです。そういうことについて包括的に説明するのが、自分の使命かなと思っています。日本の経済社会全体が大きな転換期にある。例えば高速道路を作ったとすると、それには定期的なメンテナンスが必要なわけですよね。維持するのが無理だと分かったら計画の段階で作るのをやめるなど、今後は、“長年維持することができるかどうか”を考えながら、やっていかなければいけない。その上で、“本当に必要なものは何か”ということを考えます。

国立競技場などを何千億もかけて作るとしても、赤字が出た時は税金を垂れ流しにすることになると言ったら、みんなも反対するかもしれませんよね。天災や事故などといった予想不可能な部分もありますが、その場合にも誰かが何らかの形で責任をとらなければいけないといった仕組みを、作るべき時期に日本はきているのです。東北地方に関しても、復興する時には人口が減っているわけだから前にあったような大きなものはできない。コンパクトにして、ある程度は駅前などに人が集まるようになると思います。そのように社会が変わって行かざるをえない。そういう意味での転換期なのに、それが上手くいっていないから景気も良くならないのかな、というようなことも書こうと思っています。

――公共の概念そのものを見直さないといけませんね。


松原隆一郎氏: 公共事業は箱物というイメージだったけれど、これからはソフトと合体しなくてはいけません。国土強靱化計画も、特に高知市は全水没してしまうので、尾崎知事は本気でなんとかしようとしています。堤防があるからといって逃げ遅れるぐらいだったら、全員で走って逃げようということで、1人でも死ぬ人を減らすためにトンネルを掘ったりしている。岩手では、走って逃げた人たちが一番助かっているという事例があるので、そのノウハウを受け継いで、どうやって逃げるかということを考えているのです。

必要な物は作るけれど、それプラス、ソフトをそこに合わせていくということ。今回、一番面白いなと思ったのは、潜水艦のような穴をあらかじめ掘っておくというものでした。室戸は年寄りが多いのですが、裏山が崩れやすく、おそらく震災の時に裏山に逃げることはできない。それでも、みんながそこに住みたいと言っているので、潜水艦のようにデッキをあけて、その中にみんなが逃げて、パタッとフタを閉めるという作戦なのです。1つ作るのに1億円だそうで安上がりで、もし10メートル以上の堤防を作ったら、何倍もの費用が掛かりますので、それに比べたらものすごく安いし、「モデルケースだから」ということで、国もお金を出しています。

――トンネル作戦。斬新ですね。


松原隆一郎氏: 話を進めていく中で「トンネルの中はやっぱり怖いだろう」という問題が出てきました。それならばカラオケ機のDAMなどの会社にお願いして、少し安めにトンネルの中にカラオケを設置してもらったり、日曜日などは、そこでマーケットを開催すればどうか。公の場所として日頃から入っておけば、怖くないのではないかと思うのです。そのように、建築物などのハードなものとソフトなもの、公的なものと私的なものが合体して公を支えていくという感じになっていくのだと思います。

――色んな方が、それぞれの役割で参加していくんですね。


松原隆一郎氏: NPOなどのように、中間でやろうという人たちも全部含めて、震災といったものに対抗していくことになると思います。そうやって新しい日本になっていくのではないでしょうか。神戸の復興は、元に戻るタイプの復興。でも、これからは減るタイプの社会になっていくので、「何を遺していくのか」ということまで説明できるような構築じゃないといけないのです。今がまさに大転換期。形を変えてでも継続して遺していく、といったことが、新しい日本を作るのだと僕は思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

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