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本郷和人

Profile

1960年、東京都生まれ。東京大学文学部卒業、同大学院人文科学研究科博士課程単位取得。博士(文学)。専門は日本中世史。東京大学史料編纂所にて『大日本史料』第五編の編纂にあたる。大河ドラマ『平清盛』の時代考証も。 著書に『武士とはなにか 中世の王権を読み解く』(角川ソフィア文庫)、『戦いの日本史 武士の時代を読み直す』(角川選書)、『謎とき平清盛』『天皇はなぜ万世一系なのか』(文春新書)など。

Book Information

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紙媒体ではできないことが、電子書籍では可能


――読み手としてはいかがでしょう。


本郷和人氏: 元々3,500から4,000冊ほどの漫画を持っていましたので、漫画だけは電子化しています。そうしないと、部屋が大変なことになってしまいます。実は、史料集こそ電子化したいのですが、史料集は発行部数が殆ど1,000部以下で、中には300部といったものもありますから、失敗してしまうと取り返しがつかないので、まずは漫画から始めました。実を言うと漫画でも、もう入手できないようなものもたくさんあるので、失敗できないという点は、あまり変わりません。

2TBの外付けのフラッシュメモリなどを買ってきて、全部そこに入れているので、読みたい時に出しています。実は、まだ整理ができていませんので、今はしまったデータの使用方法を考えているところです。僕は正直、余白だとかそういうものには、あまりこだわりを持たないタイプの人間なのですが、漫画を電子化すると、吹き出しがコマの外に出たりすることがあるので、そういった画面や情報が見切れてしまうことには、やっぱり多少はストレスがあります。おそらく、そういったことが、ある種の方たちにとっては「絶対許せない」という部分になっているのではないでしょうか。

――電子化は史料編纂の面でも影響を及ぼしそうですか。


本郷和人氏: 本当に楽になると思いますし、仕事の仕方もかなり変わると思います。史料こそ電子書籍にすべきだと思います。史料は重いので持ち運びがとても大変だし、どこに書いてあったかと探すのに、いちいち探してめくらなければいけませんが、電子書籍ならばチェックなどを付けておけば、すぐに分かりますよね。そういうことに、何人かの人が既に気付いていて、『大日本史料』は紙媒体をやめて電子書籍化しようという話も実際はあるのです。

それと、最初にもお話ししましたが、『大日本史料』を作るには、大変な時間がかかります。経費は限られているので、いち早く作ること、というのが急務なのです。電子書籍にし、みんながそれに参加できるようにしたいと思っています。例えば「建長3年の4月5日にこんな史料がありますよ」と、みんなが情報を提供出来るようにして、古文書を勉強している人が「こんなのがありました」というのを打ち込めるようにしておけば、もっと早く作れるかもしれません。

――オープン化して、参加者を増やすのですね。


本郷和人氏: そうすればスピードも上がります。また、紙媒体は、資料として出版されてしまったら、後で追加資料が発見されても、それを反映するのが難しい。だけど電子書籍なら入れ替えも可能だし、後からもできます。そうなったら、100年の大日本史料の編纂を根幹から変えてしまう可能性があると思いますし、電子書籍に対応しないと生き残れないかもしれません。

紙媒体は行き着くところまで行っているのではないでしょうか。現実問題として今、出てきているのは、「ここは1行落とす」とか、「ここは1字空ける」といった紙媒体の約束事はとても大変だということ。電子書籍だとそれができるわけです。

僕は今、53歳ですが、僕らは多分、今の紙媒体のみ経験している状態でも逃げ切れます。でも、今30代の人たちはおそらくその電子化の波からは逃げられないですよね。僕らが仮に偉くなって、史料編纂所の制度などのことを好きなようにできるようになったとしたら、お金を手厚く配分して、若い方に電子書籍の方向を模索してもらうということをやらないとダメだと思います(笑)。僕は文系人間なので、メディアリテラシーのようなものには疎いのですが、これからはそういうことも言っていられない時代になるのではないかと思います。

歴史史料のデータ公開を促す


――データ化は研究を続けていく上で、必須の課題なのですね。


本郷和人氏: 歴史学が潰れてしまうこと、それから史料編纂所などが潰されてしまうことは避けたいです。みんなに楽しんでもらいたいという思いがあります。社会にコミットするという想いを持ち続け、そこで電子書籍のようなものと関わっていくというのが必要だろうと思います。史料編纂においても、電子書籍のための予算をつける必要があると思っています。また、史料編纂所というのは文系の中の文系といった人間の集まりなのですが、家内は、理系の人にも入ってもらって、電子書籍みたいなものの可能性を広げていくということが必要でしょうとも言っていましたね。

ここ東大の史料編纂所のデータベースは、他の研究所と比べても割としっかりと作られていて、それは先輩たちの努力の賜物なのですが、今、そのアクセス数がとても多いのです。「生き残るためにはそういうしっかりしたデータベースを作らないとダメだ」ということでやってきたのです。だから、その方向性を維持するとなると、電子書籍みたいなものに行くのは必然的。

でも、そこでぶつかるのは著作権です。文書(モンジョ)みたいなものを、デジタルデータでかなり持っていますが、「それはうちの著作権になるから出せません」、「出さないで」と言われているものが結構あります。でも、なんとかそこを突破する努力をしなければいけません。そのためにも僕たちが社会にどんどん出て行って、国民的な日本の右とか左とか関係なく、「日本人の遺産なのだから、財産なのだから、これはみんなに公開していこうよ」という機運を盛り上げていく必要があります。そうやって日本の歴史史料のデータを公開するということやっていきたいのです。だから僕は、そこの土台作りにおいて、少しでも力になれればなと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 本郷和人

この著者のタグ: 『大学教授』 『漫画』 『哲学』 『科学』 『考え方』 『可能性』 『紙』 『こだわり』 『歴史』 『テレビ』 『研究』 『子ども』 『メディア』 『理系』 『文系』 『お金』 『人生』 『社会学』 『法学部』

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