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世界中の本好きのために

夏井睦

Profile

1957年、秋田県生まれ。東北大学医学部卒業。従来からあった基本概念を発展させ理論構築し、消毒とガーゼを使わない創傷・熱傷の湿潤療法を普及させた。傷治療の現場を変えるべく、発信を続けている。著書に『キズ・ヤケドは消毒してはいけない 治療の新常識「湿潤療法」のすべて』(主婦の友社)、『ドクター夏井の熱傷治療裏マニュアル―すぐに役立つHints&Tips』(三輪書店)、『傷はぜったい消毒するな 生態系としての皮膚の科学』(光文社新書)など。 また、江部康二氏の提唱する糖尿病の糖質制限治療についても自分の身体を使って実験・実証しており、関連著書に『炭水化物が人類を滅ぼす 糖質制限からみた生命の科学』(光文社新書)がある。

Book Information

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データベースは人類の財産。共有することで価値が生まれる


――書籍の電子化についてはどうお考えですか?


夏井睦氏: 私は、作家が亡くなった後はその作品はパブリックドメインとして公開し、共有財産にすべきだと考えています。本にしても楽譜にしても、出版社の営利活動である以上、売れるもの以外はすぐに絶版になってしまいます。その損失はあまりに大きいと思います。
人類の知の遺産ともいうべき作品は、営利活動と切り離すべきです。その目的のために「あらゆる書籍(楽譜)をデジタル化する」ことは極めて重要だし、必要なことだと思います。

――傷の治療に関するサイトもオープンソースの発想ですね。


夏井睦氏: 講演用スライドなどは全部公開しています。しかも、コピーしようが改変しようが他人に渡そうが、どうぞご自由に、というスタンスです。だから、講演会の最後ではスライドファイルをダウンロードできるサイト・アドレスを聴衆全員に教え、「科学と医学の情報に著作権は存在しません」と格好良く締めることにしています。楽譜の時がそうだったように、「タダであげます」と言われると「タダでもらっちゃ悪いな」って思うみたい(笑)。
世の中、善意で成り立っている部分が大きいと信じています。

傷の治療でも、治療例と治療法は全部オープンにしています。はじめの頃は「本を売るためには一部隠しておいたほうがいい」とアドバイスされましたが、それでも本は売れました。本の利便性は情報が引き出しやすい形にまとまっていて、情報の一覧性に優れている点です。その点でネットは一覧性がよくないし、情報同士の関連性も掴みにくいのです。特にブログは情報が時系列で並べられるため、各情報間の相互関係がわかりにくく、全体像がわかりにくくなります。ブログは日記を書くにはベストの形式ですが、学術的な内容を伝えるには不向きです。

――パッケージ化されていることに、本の価値がある。


夏井睦氏: ネットで情報が簡単に得られると言っても、ある物事について勉強しようと思ったら本を1冊買って勉強する方が手っ取り早いです。私もKindleで電子書籍を読みますが、これで物理や歴史を勉強する気は起きません。
電子書籍で読みやすいのは小説です。これらは最初のページから最後のページまで読み進める書物だからです。一方、医学書や科学書は最初から最後まで読み通せばお終いではなく、前に戻って定義の部分を確認したり、前の章に書かれていたグラフをもう一度確認したりする作業が必ずあります。いわば、百科事典や辞書のような使い方になります。
小説の場合は時間軸は過去から未来への一方向ですが、科学書の場合には一方向ではありません。

――電子書籍の今後の課題は何でしょう。


夏井睦氏: 音楽は現在、 mp3というデジタルデータに置き換わり、CDという「モノ」の販売は右肩下がりです。これは「mp3がCDを駆逐した」のではなく、「音楽はそもそもデジタルデータと親和性が良かったから」と考えられます。音楽は最初の音から最後の音まで一方向に再現されて初めて意味があるからです。音楽がカセットテープやLPレコードと相性が良かったのもこのためです。この意味で、LPからCD、CDからmp3という流れは自然な変化と言えます。同様に、小説は電子書籍の相性がとても良く、そのため、いずれ紙ベースの書籍から電子書籍に置き換わるはずです。
一方、「時間軸錯綜型読書」が必要な科学書はなかなか馴染まないような気がします。少なくとも現在の電子書籍端末では、このような読み方には対応できていません。結局、人間の脳味噌が情報を知識として我が物にするためには、何度も内容を反芻し、三歩進んでは二歩戻る、というような読み方が必要なのでしょう。それに関しては、まだまだ紙ベースの書籍の方に一日の長があると思います。

脳みそを「ガラクタ倉庫」にしないために


――夏井先生の発想の源が気になります。


夏井睦氏: 大切にしているのは、誰も考えつかない事を考えること。他の誰とも違う自分がこの世で生を受けたことに意味があるとしたら、これしかありません。
なぜ勉強が必要かというと、非常識的な発想をできるようになるためです。非常識なことを考えつくためには常識をまずきちんと知らないといけません。常識をとことん知ってはじめて、常識の限界が分かります。常識を知らずして、常識は否定も打破もできません。
「非常識になるためには常識人であれ」ですね。常識のベースもなしに非常識な事をするのは、単なる“常識を知らない人”であって常識破りとは言えません。
僕の好きな言葉に、戦争の研究家の警句があります。「君の首の上に乗っているのは、過去に起きた出来事を入れておくためのガラクタ置き場ではない。それは、過去の誰も経験したことのない事件に遭遇した時に、問題を解決するための最善の方法を割り出す実験室である」というものです。過去に起きたあらゆる戦争を記憶していても、その戦術を踏襲しても目の前の戦争には勝てません。過去の戦争と同じ戦争はないからです。考えてみたらアタリマエのことですね。「過去の歴史は徹底的に学べ。しかし過去の出来事に囚われるな」というのがこの研究家の真意でしょう。

――「ストレンジ」ではなく、「ユニーク」であれと。


夏井睦氏: その通りです。しかし、常識はずれの発想は往々にして、言葉にならなかったり他人に伝えられなかったりします。他の誰も考えていないことだからです。
だから、その常識はずれの発想を何とかして他人に伝えるためには、「常識の言葉」に翻訳する作業が必要です。常識はずれの発想を常識の言葉に置き換える能力、といってもいいでしょう。
常識人しかいない世の中で、常識破りの考えを広めようとすれば、常識ある人にも通じる共通言語が必要になります。それが普遍的表現能力であり、比喩能力です。
今、私がしているのはそういう作業です。常識はずれの発想がいくらできても、それを常識の言葉で完全に表現できなければ他人に伝わりません。他人に伝わらない発想はいずれ消滅する運命です。
思想は言葉でのみ表現でき、言葉で表現されない思想は消え去ります。だから、思想の生みの親は表現能力・言語能力に磨きをかけることに心血を注ぎます。それでしか、自分の考えを他者に伝えられないからです。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 夏井睦

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