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世界中の本好きのために

田中長徳

Profile

1947年、東京都生まれ。日本大学藝術学部写真学科卒業。在学中から、ニコンサロンで学生としては初の個展を開催。写真雑誌にも作品を発表する。大学卒業後ウィーンへ渡り、1980年に帰国。その後は文化庁の公費派遣芸術家としてニューヨークに1年間滞在。ライカでのスナップを専門とするほか、デジタルにも造詣が深い。 著書に『LEICA, My Life』(エイ出版社)、『屋根裏プラハ』(新潮社)、『PEN PEN チョートク日記 プラハ・パリ』(河出書房新社)、『カメラは詩的な遊びなのだ。』(アスキー新書)、『カメラに訊け! 知的に遊ぶ写真生活』(ちくま新書)など多数。各種専門誌への執筆も。

Book Information

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写真と本と、デジタルの関係


――長徳さんはエッセイも数多く書かれていますが、「本」についてはどのような想いを持っていますか。


田中長徳氏: 本と言えば、ウィーンに住んでいた頃は、ドイツ語圏でしたからドイツ語の本が大半で、日本語で書かれた本は非常にレアなものでした。数少ない日本語で書かれた書物を見つけては、それを拾い読みしたりしていましたね。その当時のウィーンの日本人街というところには、商社の方や留学生が、日本に帰る時に本を置いていく場所がありました。その中にあった『一千一秒物語』の文庫本を読んで、稲垣足穂のファンになりました。

私と同じように1人で貧乏していて、だけど、魂は天国にあるような人。「こんな人がいるんだな」と思いました。稲垣本人が出した葉書を集めたりもしていて、26歳の時にあの作品に出会ってからずっと彼の作品ばかり読んでいます。

私は、ホーフブルグ宮殿の図書館やリスボン、コインブランにある図書館など、世界の図書館を取材しているのですが、そういったところを見ると、本を集めることというのは個人では不可能なことだなということが分かります。本に対して「補完したい」という欲求はそれほどありません。私は、その取材を通して、本を集めることの無謀さ、無意味さというのは自分なりに気がついたつもりです。

電子書籍の便利さ、紙の本にある価値の両立


――本も写真と同じようにデジタル化が進んでいますね。


田中長徳氏: 私は、青空文庫を使っています。読書生活ではもう完全にデジタルです。種田山頭火が結構好きで、外国へ行く時はいつもiPadに入れたりして読んでいます。飛行機に乗る時、外国人の方で退屈しのぎに小説本を持ってこられる方がいますが、見ていると全然本を読んでいないのです。それがライフスタイルになっているのかもしれませんが、それよりはデータの本の方が、見やすいですし、めくらなくていいですから、便利で良いですよね。

稲垣足穂の他に、私の数少ない好きな作家に、正岡子規がいます。大正末にアルスという出版社から出された、14冊ほどの分厚い本があるのですが、必要な部分だけ複写して読んでいます。私は目が良くないからちょっとスクイーズして大きくすることもできるし、自由です。
子規は亡くなる直前に2つの手書きの画帳を書いています。1つは、花と草の『草花帖』。もう1つは『果物帖』です。この2つは国会図書館の所蔵になっていますから、データは読めます。カラーチャートもきちんと映りこんでいますし、子規の亡くなる直前の仕事が、それで分かる訳です。

――デジタルによって「読める」書物が増えてきているようにも感じられます。


田中長徳氏: ただし、愛着という面で言うと表紙がないのは問題ですね。いきなり、一番初めに本文が始まると、全然面白くない。本は写真家から写真集という分類で見ると2種類あって、1つはデータそれ自体の価値としてのもの。もう一つは、モノとして愛せるようなものです。主流は電子書籍になっていくのでしょうが、愛情の対象とした場合、紙の本は別格です。

昭和22年に稲垣足穂が伊達得夫を騙して出した『ヰタ・マキニカリス』について、稲垣自身が書いているのですが、新宿の飲み屋で偶然会った時に、伊達が「できました」と言って、汚いカバンから刷り上がった真っ白い『ヰタ・マキニカリス』を1冊くれたそうなのです。当時、それは真っ白だったのですが、それから何十年も経って――私がその一冊を手に入れることになるのですが――その時には色が変わっていました。紙の本というのは年をとりますが、電子書籍は年をとれないですよね。

写真集というのはそういう意味で面白くて、私の古い友人の森山大道さんが初めて出した『にっぽん劇場写真帖』という本は全然売れず、私はカンパの意味で本人から1300円で買いました(笑)。今はそれが25万円位するのです。紙の本は価値も上がることがありますよね。

著書一覧『 田中長徳

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