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井上達彦

Profile

神戸大学大学院経営学研究科博士課程修了、博士(経営学)。広島大学社会人大学院マネジメント専攻助教、早稲田大学商学部助教授(大学 院商学研究科夜間MBAコース兼務)などを経て、2008年より現職。独立行政法人経済産業研究所(RIETI)ファカルティフェロー、ペンシルベニア大学ウォートンスクール・シニアフェローなどを歴任。研究分野は、ビジネス・システム(価値創造システム)、ビジネス・モデル・デザイン、経営組織論、経営戦略論。 近著に『ブラックスワンの経営学 通説をくつがえした世界最優秀ケーススタディ』『模倣の経営学』(日経BP社)など。

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学会から一歩踏み出す大切さ


――そうして実務を重んじる風潮の「神戸大学大学院」へと進まれます。


井上達彦氏: そうなんです、神戸大には実務家がいて、実務家と一緒に机を並べる体験もできました。今まではアカデミックな、要するに学術としての大学でした。
「経営学ってこういうものだったんだ」と本当の意味で経営学にのめり込みました。それまでは経営学を産業心理学のような括りでやっていましたが、それよりも何か超えられたものがあるなと感じたんです。今まで理論で説明できなかった現象に対して新しい理論を構築していくという作業を、この時初めてしました。神戸大は素晴らしかったですよ。僕のもう1つの原型としてある場所です。

――そうした研究成果を早いうちに、「本」として出版されています。


井上達彦氏: 最初の本は、1998年の『情報技術と事業システムの進化』です。経営学は早く出さないと陳腐化する。僕は早めに出して評価にさらしてという型を作りたかったんです。だから、最初の本を出したのは20代の頃でした。処女作を出して、自分の世界、学会という閉じた世界から一歩踏み出すことができて、社会人とのインタラクションが増えました。論文という形で完結させるのではなく、本で世の中に出すことの意味を感じましたね。
書き始めはしんどくて「もういい」と思いましたが、しばらくすると、不思議とまた書きたくなるんです。違うテーマだったり、拡張して広く伝えるためだったり。僕の場合、できるだけ型を新しくしたいという思いがあります。「電子テキストでやってみたい」とか、「新しいコラボレーション、新しいネットワーク、新しいタイプのパートナーと共著してみたい」とか。要するに、コンテンツを作るのが好きなんです。

――電子テキストも、新コンテンツを作成するうえで可能性を感じますか。


井上達彦氏: 知識をより広く伝播するには良い媒体だと思います。紙媒体だといいコンテンツはあっても、絶版になっていて図書館じゃないと手に入らないものがある。それはもったいないじゃないですか。ですから、絶版にならないよう電子書籍化してくださる出版社を、僕は好みます。
よく利用する書籍は、1冊が紙媒体、もう1冊は電子媒体で所有できるのが理想だと思っています。アナログ人間なので、立体的な紙媒体の方が分かりやすいこともあります。例えば、記憶の拡張で、物理的に「バーニーのVRIO分析だったらこの辺に載っているな」という感じ。でも、出掛ける時は電子書籍の方が何冊も読めたり、検索して選ぶのがすごく楽だと思うんですよね。ですから、紙と電子、両方あった方がありがたいです。

――学びの場での電子コンテンツの可能性はどうでしょう。


井上達彦氏: アメリカやヨーロッパでは、基本的にネットでテキストを買ってクリックしたら動画が流れるようになっています。紙は補助のプリントだけです。英語では個人に合わせたチームビズがありますが、すごく優れた教材で、子供たちそれぞれがぴったりのレベルで勉強できるスモールステップの教材です。おそらく日本だけですよ、使っていないのは。これは、すごく問題だと思っています。日本人は海外から来るものを日本流にアレンジすることは得意ですが、標準化は苦手。でも、標準化すべきところはもう少し標準化すべきだと考えます。

――コンテンツを一緒に作る編集者の存在も大切ですね。


井上達彦氏: 僕にとって編集者は、共同制作者のような感じです。学術書の場合は若手を育てる意味もありますし、研究を前に進めてくれるんです。日々の忙しい授業や雑用の中でも本を出版するために研究したり勉強したりしようという気になる。それが推進力になって自分の研究が進む、そういうサポートをしてくださる。あるいは、他に面白い研究者がいた場合、「この先生と一緒にどうですか?」とつなげてくれたりするんです。ビジネス書の編集者の場合は、学術コンテンツがあると、その価値を今のビジネスマンにとっての最大にしてくださるんです。その臭覚には驚くばかりです。
ですから今後、電子媒体が普及したとしても編集者の役割としては変わらない。例えば、学術書の場合は企画のために誰を集めて、ビジネス書の場合は価値付けをどういうふうにするかといったことを考えたり。もっと積極的になっていくと思いますね。

若い人たちを幸せにしたい


――知を愉しむ井上先生の目指すところは?


井上達彦氏: 自分のできる範囲で、学びや教育を良くすることかなと思います。ただ、アメリカのような教育は実現できないし、それを目指すべきではないと思っています。日本が今まで育ててきた良さを崩すことはないと感じています。日本人にはどうしても変えがたい「らしさ」があるんです。だから個人的に体系的に教えようとすると教えにくい。例えば、アメリカで「自分たちでやって」と言っても、個人である意識が強いので、何も起こらない。でも日本だと、放っておいても有機的にチームワークを組んで、適当にやることができてしまう。逆に教えようとすると、「自分たちでやりたい」と言い出したり、中には反発する者も出てくる。早稲田の学生は特にそういう傾向がありますね。

まだまだ解決すべき課題もたくさんありますが、日本にしかできない独自性、集団だとか絆だとかチームプレーのいいところを生かして、世界で戦っていけるようにする。何を変えて何を変えないかを明確にして、まずは、自分の実践の世界でやってみたいと思っています。大学なら教育ですし、企業家教育にも興味があります。そのためにも、できるだけ今まで会ったことのない人と会いたいですね。ビジネス書を出すとネットワークが広がるので、様々な人たちと出会い、刺激を受ける中で何かを発見し、そこで得たものをテーマに、研究をしたり本を書いたりしていきたいです。そうやって、著作や研究を通じて、一人でも多くの若い人たちと一緒に幸せな世の中を作っていきたいですね。

(聞き手:沖中幸太郎)

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