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世界中の本好きのために

大石英司

Profile

1961年生まれ、鹿児島県出身。1986年『B‐1爆撃機を追え』(講談社)で小説家デビュー。ミステリーからSFまで何でも屋を自称。著書に『戦略原潜(レニングラード)浮上せず』をはじめとする「サイレント・コア」シリーズ、テレビドラマ化された『神はサイコロを振らない』(中央公論社)等多数。執筆活動の他、海外エアショーのレポート、日刊のメールマガジンの発行も行う。 近著に『謎の沈没船を追え!(上下巻)』『米中激突(全8巻)』(C・NOVELS)『尖閣喪失』など。

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新しいメディアを受け入れることが重要


――出版社はどう変わっていけばいいとお考えでしょうか?


大石英司氏: 生き残りを考えるには、新しいメディアにどう取り組むかが重要。拒否しないという姿勢が大事ですよね。
電子書籍と紙媒体が競合をしないということを、理解している作家は少ないと思います。作家にとっての脅威は、スキャンしたテキストデータがばら撒かれること。その損害は10万、20万単位になってきますから、それだけの読者がいるのに全くインカムがないことを恐れる訳です。古書店に流通してしまうと、著者に一銭も入ってこないということもよく言われていますが、ただ、この業界で今一番悪影響を及ぼしているのは、ブックオフなどの中古書店ではなくてAmazonの古書販売ではないかと僕は思っているのです。Amazonで新刊を買おうと思っても、下に「新品同様です」と表示されてある古書の方が安いからそっちを買ってしまいます。Amazonの古書書籍を一番重宝しているのは、出版業界の人間ではないでしょうか。編集者と会うと「一番の脅威は自炊じゃなくてAmazonの古書販売でしょ」といつも言っているのです。

――自炊に関してはどのようなご意見をお持ちですか?


大石英司氏: 僕は、「本棚を10年間占有している本を捨てられないのならば、とりあえず自炊に出してみてはどうか」と、読者には自炊を推奨しています。思い出深い本なら表紙だけ送り返してもらって、その棚を空にして新しい本を買ってみてくださいと。だって、一番の頭痛の種は新しい本を入れる『空間』がないことでしょう?自炊業界も、その辺りの戦略というか、広報を間違えてしまったんじゃないかと僕は思っているのです。「自炊すると便利だ」といことを売りにするのではなくて、「自炊すると本棚が空くから新しい本が買えます。だから、出版業界も決して損はしませんよ」という線で攻めるべきだったのだと思います。

――「本を裁断するという行為に堪えられない」とおっしゃる方もいますね。


大石英司氏: 「本を傷つけるのが悲しい」とか「許せない」などと言いますが、その本が読者の家の中でデッドスペースを作っているというのが現実なのです。それでは経済は動かない。僕が考えたのは、第三者団体を作ってそこにいらなくなった本を送ると、その代わりに出版社が持っているテキストデータをバックする。それで、「この本は永久にあなたのところに残ります。」と、それで良いと僕は思うんです。
今、お付き合いしている中央公論新社で懸案になっていることがあるんですが、中央公論新社は電子書籍化が割と早かった会社で、独自のフォーマットがあります。でも、今はKindleが優勢となり、読者もKindleの方へ移行する訳です。そうするとパソコンを手放すユーザーもいますし、Kindleと日本の出版社独自のシステムフォーマットのどちらが将来残るかと考えれば、購入して貰った出版社独自のフォーマットは、読者にとって使い勝手が悪くなる可能性が高い。こういう問題がいずれ出てきますから、それに関しては、業界的に考えなければいけないことだと思っています。僕としては、できれば日本独自のフォーマットのものを買った読者には、Kindle版が出たらその読書権を無条件にプレゼントするような形にしてほしいと思っているのです。ただ、それは各出版社にとって自社フォーマットの敗北を認めることになるから、ハードルの高い問題でもあります。

――そういった考えを持つ書き手が増えるのももちろん大事ですが、業界が変わっていくことも大事になっていきますね。


大石英司氏: 紙での出版に執着している編集部や出版社は衰退していくのではないかと僕は思います。これからはネットでのオンライン展開をメインにしている編集部でないと生き残りは難しいのではないでしょうか。
電子書籍の部門は、「本業の邪魔をしないでね」という感じだからなかなか普及しない、といこともあると思います。電子書籍を立ち上げて、「ここから必ず儲けを出してやる」というような人がいない気がしますね。でも、WEBのニュースには、誤字脱字がすごく多いんです。書いた本人しか推敲していないからそのリスクは避けられないのかもしれませんが、その辺りの努力をもう少ししないと、信頼感は得られないだろうなと思います。ただ、電子の場合はどうしても速報性が命なので、推敲作業などを入れてしまうと、それだけで半日くらい時間をとってしまいます。だから、例えば在宅ワークで午前3時に起きている人を捕まえて推敲してもらうなど、そういう仕事ができるようにならないと難しいですね。

ブログ上で行われる「いい」議論


――ブログを長く続けられていますね。


大石英司氏: 10年間ブログをやっているのですが、正月や海外に行った日などを除いて、363日くらい書いています(笑)。ネットを利用する上で僕が一番好きなのは、100人を敵に回して議論し終わった時に、「お前のことはいけすかないけど、言っていることは正しい」という評価をもらえるような議論ができることなのです。例えば防衛問題に関して言えば、日本の保守層には昔から在日米軍は台湾有事のために必要だという非常に強固な説があるんです。ところが実態は、もはや在日米軍の頭に台湾防衛の意志はないのです。そういったことを繰り返し書いてきて、今は、台湾有事を言う人はネットでは減ってきました。自炊の問題も同じです。「書棚の山をなんとかしたい」という意見と、出版社側の「本をズタズタにするんじゃない」という意見対立の間に「でもさ、この本棚を空にして新しい本を買ってもらった方が得じゃない?」という意見を僕が書いて、徐々に世間に認知されていく。自分と同じ意見が増えてきた、同調してくれる人が増えてくれたという場面に立ち会うのが発信者としてはうれしいし、それは快感でもあります。最初は「こいつ、何を言っているんだ」と思われても、繰り返し説いていって、「なるほど。少数派だけれど、あなたが言うことも一理ある」と思われること。これが僕のNIFTY-Serve時代からの喜びなのです。

――最後に今後の展望をお聞かせください。


大石英司氏: そろそろネットオンリーということを考えなければいけないと思っているのです。活字はもう、どうあがいても人口が減っていく訳ですから、右肩下がりは決まっている。そのパイを広げていくためには、もうネットの中に出ていくしかありません。ネットの中で展開して、そこから確実に黒字を回収できるシステム。そういうシステムを業界皆で考えなければいけないと思います。
IT関係にしても、広告収入だけに頼れない状況がありますから、そこを変えていかないとネットメディアも生き残れないと思います。
活字から、ネットメインへ。この歳になってもまだ、自分がパイオニアでありたいと思い続けているのです。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 大石英司

この著者のタグ: 『考え方』 『アドバイス』 『出版業界』 『インターネット』 『価値観』 『本棚』 『メディア』

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