BOOKSCAN(ブックスキャン) 本・蔵書電子書籍化サービス - 大和印刷

世界中の本好きのために

渡辺茂

Profile

1948年、東京都生まれ。慶應義塾大学大学院社会学研究科心理学専攻博士課程修了、文学博士(心理学)。専門は比較認知神経科学。1995年、ハトを訓練してピカソの絵とモネの絵を区別させることに成功し、イグ・ノーベル賞を受賞。 著書に『鳥脳力―小さな頭に秘められた驚異の能力』(化学同人)、『脳科学と心の進化』(共著。岩波書店)、『ヒト型脳とハト型脳』(文春新書)、『ハトがわかればヒトがみえる―比較認知科学への招待』(共立出版)など。

Book Information

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

良い論文は、共同作業から生まれる


――趣味に研究にと、アクティブに過ごされてらっしゃいますが、その原動力はどこから湧き起こるのでしょうか?


渡辺茂氏: 結局は、僕はのん気なんじゃないでしょうか。野次馬的というか、色々な方面に好奇心が強いです。今の若い人は、興味の範囲がものすごく限られているように感じます。心理学に興味があっても、それも心理学の中の一部分だけで、しかもその一部分のある方法の研究とか、すごく限定されてしまって、他のことにあまり興味を持とうとしていない気がします。

――研究をしていると、色々な発見があると思うのですが、その時はどのような気持ちなのでしょうか?


渡辺茂氏: 実験によっては、もの凄く分析をした後でないと分からないというものがいっぱいあるのですが、僕のやっている実験というのは、その日のうちに分かるようなものなんです。すぐに結果が分かると、やっぱり楽しいです。その瞬間というのは誰も知らない、自分だけがこの実験結果が分かっているといったワクワク感が大きいです。

――研究結果を、いわゆる研究会の中でだけでなく、本という形で、広く一般の人たちに伝える役目もされていますが、そもそも執筆のきっかけというのはどういったことだったのでしょうか?


渡辺茂氏: 先方からお話があって書いたんです。最初に一般書を書いた時は、大変勉強になりました。僕が初めて書いた時、原稿を出版社の人に見せると、読むなり「先生これは実験報告だ」と言われてしまいました。研究者仲間だと、「どうやってこういうことが分かったのか」というところを非常に正確に書く習慣があります。だけど普通の人は、そういった部分にはあまり興味はないわけですよ。一般書というのは、「今何が分かったのか」ということが大事なのだと分かりました。それを知ることが出来たので、編集を担当してくれた方には大変感謝をしています。

――書く上で先生が大切にされていることはありますか?


渡辺茂氏: 編集の方に「ページが黒い」つまり漢字が多いということを言われたこともあります。漢字をひらがなにしただけでも、普通の人は読みやすい、抵抗が少ないんだというところもあります。例えば“私”とか“思う”とか“考える”とか、そういう読むことにおいて負担が少ないものでも、ひらがなにしておくと取っ付きやすい。漢字がたくさん並んでいるとやっぱり読みにくいなどといったテクニックを割と最初の頃に教えていただいたので、執筆する際は、レベルは落とさないで言葉を易しくして書くということを心がけています。
学術論文の場合は、雑誌に投稿するとそれを読んだ人が色々とダメ出しをするというか、そういったやり取りをして直していきます。それで怒ってしまう人もいますが、僕はそういった共同作業は大事だと思うし、それを経て最終的にいい論文にしないといけないと思うのです。最初の頃に英語で論文を書いた時に、査読した外国人が「英語が酷い」と書いてきたことがあります。でも最後の行には「何語であっても、自国語でない言葉で論文を書くという努力に大変敬意を表する」と書いてくれていました。今は査読をされるより、する方が多いのですが、これは著者と良い論文を作る共同作業なんだという気持ちで査読をしています。

一番の魅力は「スペース」


――先生にとっての理想の編集者像というのはどういった人でしょうか?


渡辺茂氏: 書く人と視点が違うわけですから、はっきりモノを言ってくれる人がいいと思います。編集して売るために、商品にしなくちゃいけない。書く側とは視点が違うので、「それはこういう視点から見るとこうだ」ということを、はっきり言っていただいた方がいいと思っています。それから、僕らでも見落としてしまう変換ミスがあります。それは、編集者が注意しなくてはいけないところじゃないかなと思います。

――近年、電子書籍が登場しましたが、電子書籍の可能性はどのようなところにあると思いますか?


渡辺茂氏: 一番はスペースですね。去年定年になったので、オフィスを引き払わなきゃいけないのですが、本は本当にどうしようかと思いました。家に運ぶつもりでいたのですが「住まいというのは人が住むところだ。本の置き場所ではない」と奥方に言われました(笑)。それで3分の1ぐらいに減らして、残りの3分の2に関しては、オフィスの前に長いテーブルを出しまして、古本屋を開きました。
それと、電子書籍はあれこれ探さずに済む。本だと、結構二重に買ってしまうこともあります。「買ったと思うんだけど、どうしても探せないから買うか」とか。そういうこともあるので、検索ができるというのも有り難いですね。

――今でも書店へ行かれることはありますか?


渡辺茂氏: 本屋に行くのは割と好きなんです。特に学生の頃はお小遣いをもらうと丸善に行って、それから神田に行ってと、本屋巡りをしていました。その前にちょっと祖母のところに寄って小遣いをもらったり(笑)。本を買う時は、タイトルや著者を見ます。一番よく行く本屋は今では大学の生協かもしれません。

――先生にとって本の魅力とは?


渡辺茂氏: 今はちょっと変わりましたが、昔の紙媒体の洋書には独特の匂いがありました。何の匂いなのかは分からないのですが、あれは紙の匂いでしょうか。和書ではなく洋書の匂いがとても好きでした。それから、自分の好きな本が並ぶ本棚を眺めるのはなんとなく心が和むし、何度も取り出して読む本もあります。時たま模様替えなどもしますが、そういうのは結構、好きです。電子版は、情報としては圧倒的に便利だと思いますが、活版とは装丁などがやっぱり違うんですよね。

著書一覧『 渡辺茂

この著者のタグ: 『大学教授』 『心理学』 『原動力』 『研究』 『理系』 『書き方』 『実験』 『動物』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
著者インタビュー一覧へ戻る 著者インタビューのリクエストはこちらから
Prev Next
ページトップに戻る