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松田忠徳

Profile

1949年、北海道洞爺湖温泉生まれ。文学博士、医学博士。現在、札幌国際大学観光部教授(温泉学、観光学)、モンゴル国立医科大学教授(温泉医学)。旅行作家。日本で初めて温泉を学問として捉え『温泉学』という分野を切り開いた。「温泉は生きている」という概念のもと「源泉かけ流し」を提唱し、その普及、及び理論の構築に務め、全国の温泉地で「源泉かけ流し宣言」ムーブメントを主唱、指導してきた。著書に『これは、温泉ではない』(光文社新書)、『温泉教授の湯治力』(祥伝社新書)、『江戸の温泉学』(新潮社)、『温泉力』(ちくま文庫)、『一度は泊まってみたい癒しの温泉宿』(PHP新書)、『温泉手張』(東京書籍)、最新刊に、『温泉教授の健康ゼミナール』(双葉新書)等、約140冊ある。

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免疫力を高める習慣を忘れた日本人



松田忠徳氏: 西洋医学が入ってきて、最初は薬も非常に良く効きました。それは日本人にまだ免疫力、自然治癒力があったからなんです。病院へ行く前に温泉に行ったり、はり灸、マッサージを受けたり、その間に免疫力が回復していたから治せたんです。それが1961年、東京オリンピックの前に国民皆保険制度ができて、病院へ行く方が安くなった。日本の国民皆保険制度は優れていて、日本中どこでも等しい医療を受けることができる。ましてお年寄りだったら1割負担。30年前の薬は効き目が3割と言われていて、現代の薬の効き目は7割にまで上がった。これ以上は強く出来ないんです。副作用によって体の方がダメになるからです。日本人ほど、薬を食べる様に飲んでいる人たちはいなくて、なんと世界の薬の消費量の5分の1を日本が占めているんです。それから、MRIやCTスキャンなどの医療機器の3分の1が日本にあります。日本の医療費は安いというアナウンスがあるせいか、病人が多いせいか、アメリカ人やヨーロッパ人の4、5倍の頻度で安易に病院に行っています。私のように10年に1、2度しか行ってない者も含めて、年間で1人あたり13回も病院に行っている。尋常じゃないですよ。欧米人は4回ぐらいです。

――日本は温泉大国ですから、医療としての湯治が認められれば相当なインパクトですね。


松田忠徳氏: 日本は世界で最も温泉密度のある場所であり、温泉と非常に親しんでいます。6000年前の縄文前期から日本人は温泉と関わっていることが考古学上わかっています。上諏訪の縄文時代の遺構で、矢尻や石器類が湯花と一緒に出てきています。東京の人が熱海や湯河原に行くのは数年に1回くらいかもしれませんが、実は東京が10平方キロ当たりの温泉施設の数が日本一なのです。これは温泉銭湯などを含めてのものですが、源泉掛け流しの銭湯や、2種類の泉質を持っている銭湯もあります。ということは、日本人は薄々、体を丈夫にしないとダメだということが分かっていて、同時に病院で病気が治せなくなっていることも実感してきているんです。つまり、予防医学が必要だということです。ある意味、現代医学はもう限界に来ているとも言えます。

がんを治すより、がんにならない体を作ること



松田忠徳氏: 今、日本では2人に1人ががんになります。そして年間にがんで亡くなる人は3人に1人です。交通事故で亡くなる人が4、5000人で、がんで亡くなる人が37万人ぐらい。医学が進んでも亡くなる人は増えています。もちろん高齢化が進めば、がんになるリスクは高まるのは当たり前ですが、小児がんもあり、発症率が低年齢化してきています。がんになりづらい体を作ることが大切です。がんになってから発見されるまで、早くて9年ぐらい掛かります。また、がんは手術が成功しても再発する。手術して見えるがん細胞は全部消えたから、これで治りましたといっても、5年以内に再発する可能性が高いのです。ということは健康体になっていないということです。

――がん細胞が増殖しない体を作ることはできるでしょうか?


松田忠徳氏: ナチュラルキラー(NK)細胞がきちんと活性化されているとがん細胞を殺します。それが活性化されないから、がん細胞が段々増殖していって、10年前後ぐらいして発見される。ヒートショックプロテイン(HSP)というタンパクがあって、1962年にイタリアのリトッサという博士が、適度なストレスが傷ついた細胞を修復することを発見しました。ヨーロッパあたりでは、水着をつけてゆったりと大きなプールのような温泉に浸かっていますが、あの温度は32、3度なんです。ヨーロッパ人にとっての不感温度なのです。日本人には寒いですよね。日本人は40度や42度くらいで入ります。日本人の体温が36、7度だとしたら、この温度では肉体的にはストレスになりますが、日本人はもともと高温浴を親しんできた世界で珍しい民族で、ストレスどころか、精神的にはまさに極楽気分に浸かっている。実はそれでがん細胞を修復できていたんです。細胞が傷ついたまま細胞分裂することによって、遺伝子のミスコピーという言い方をするのですが、自分でミスを誘引しているんです。さびた、つまり酸化した状態でDNAを傷つける。それをそのままコピーしていって、がん化していく。その傷が、ヒートショックプロテインによって修復される。修復できない場合は、医学用語でアポトーシスって言うんですけど、自死、枯葉が落下するように静かに自分だけ死ぬんです。だから、体を温めることが我々の免疫力を高めるのです。がんを始め生活習慣病の原因となる活性酸素を無害化することが予防につながります。今年の秋からの100名近くの入浴モニターでの検証で、レベルの高い温泉が活性酸素を大いに減少させることを確認しました。

一番の幸せは健康であること


――精力的に活動されていますが、特別な健康法はありますか。


松田忠徳氏: 私はこの25年間、温泉に入ることとしゃべることで健康を維持しているんです。しゃべることはプラス思考を作ってくれる。今までで1番長い講演は5時間です(笑)。4時間ぐらいの講演はもう十数回経験があります。しゃべっている時は、体温が上がっているのですごく元気なんです。ある大学で夜、講演した時は「これ以上続けると門が全部閉まってしまいます」と脅されました(笑)。私はしゃべっている時と温泉に入った時は元気になりますね。

――良い入浴が健康の源である、ということを、身をもって示されているんですね。


松田忠徳氏: 最近の人はシャワーしかしないから低体温化して、何か嫌なことがあるとすぐ鬱状態になってしまいます。家庭の風呂でも、半身浴という言葉が流行り過ぎて、半身浴しかしていない。私たちの頭の重さは6、7キロあって、スマホにしてもパソコンにしても、読書にしても、首に負荷がかかっています。首を温めないと血が流れていかないので、全身浴で、首筋まで入って温めるんです。ここに副交感神経のツボもある。やはり日本人には全身浴が基本です。そして、今の日本人は、風呂とサウナを勘違いしているところもあります。サウナは汗を出す場で、汗をかいてから冷たい水に入りますが、これは北欧の方の寒い国の人々がやる交感神経を刺激する一種の鍛錬療法です。我々は全身浴で適切に発汗できているのに、勘違いしているんです。日本人の入浴では、いかに無理な汗を出さないかがポイントです。昔、東京オリンピックくらいまでは、経験上風呂は正しく入れたのに、変わってしまいました。日本古来の入浴法は世界西校レベルにあることを再認識して欲しいですね。日本人を最も癒してくれるのは“歴史と文化の連続性”です。まさに温泉は日本人にとっての文化なのです。

――松田さんの活動は、最先端の研究であると同時に、もともとあるものを取り戻すことでもあるのですね。


松田忠徳氏: 我々はこの小さな体に、地球2周半分の血管が張り巡らされていて、そこをわずか40秒で流れてるんです。この神秘は解明できていませんが、そんなことは知らなくてもいいんです。我々には野生動物と同じ様に、自然治癒力があります。野生動物が絶滅してないのは食生活を変えていないからでしょう。薬という毒を飲んでいないからでしょう。人間は幸せになるために色々なものを発明しましたが、一番の幸せは健康であることです。自然にあるもので害になるものはない、というのが私の基本的な考え方です。人間が作ったものは、ある目的には役に立つけど、害になることもある。加工食品も、薬もそうです。インターネットが発達しようとも、宇宙旅行ができようとも、我々の体は何も変わっていない。その中で、日本人がなぜこれだけ温泉に入っているのかを伝えていくのが、洞爺湖温泉で産湯に浸かった者としての、1つの使命です。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 松田忠徳

この著者のタグ: 『考え方』 『歴史』 『日本』 『健康』 『研究』 『速読』 『温泉』

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