BOOKSCAN(ブックスキャン) 本・蔵書電子書籍化サービス - 大和印刷

世界中の本好きのために

増田直紀

Profile

1976年生まれ。1998年東京大学工学部計数工学科を卒業後、同大学院に進学し、2002年に博士(工学)。東京大学准教授(大学院情報理工学系研究科数理情報学専攻)。ネットワーク科学、さまざまな社会行動の数理、脳の理論を研究。 著書に『「複雑ネットワーク」とは何か』(共著、ブルーバックス)、『私たちはどうつながっているのか』(中公新書)、『なぜ3人いると噂が広まるのか』(日経プレミアシリーズ)などがある。

Book Information

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

流通や費用負担が論点


――電子書籍が今後、書き手、読み手をどんな風に変えていくと思われますか?


増田直紀氏: 電子書籍については、ポジティブに考えています。本の質感が好きだという気持ちは、私にはありません。今までの出版のビジネスモデルは限界にきていて、本がどんどん売れなくなっています。どの出版社さんとお話をしても、みなさん、口をそろえてそうおっしゃるので。売れなくて値段を上げると余計売れなくなる。あと、出版される本は、必ず国会図書館に納めますよね。労力も大変だし、市民が簡単に読めるわけではないのなら、どうなのかなあという気がしています。ロングテールの法則を逆手にとれば、大抵の本はほとんど売れないけれども、1人や2人は読みたい人がいるかもしれないわけです。音楽の業界では、電子化、オンライン化して在庫を無尽蔵に持てるようにしたことで、ビジネスモデルが大きく変わりました。出版では版権の問題とかがあるのでしょうが、絶版になった本がオンラインで公開されるだけでも、ものすごく価値があると思います。なので、これから出る電子書籍にも、既にある書籍の電子化にも興味があります。電子書籍化が進めば、今まで知ることのなかった色んな書籍に触れることができます。

――ご自書を人の手に届けるというツールの1つとして、電子書籍に可能性はありますか?


増田直紀氏: 自分の本について言えば、印税よりも、部数が多く出て広く読まれるのが一番の目的ですね。だとすると、もし電子書籍の方が広まりやすいならば、今後の有力な選択肢です。

――電子書籍ならではの発信の工夫などはあるのでしょうか。


増田直紀氏: ネットワーク科学の有名な研究者が書いた電子書籍があります。面白いことに、出版後も更新することで、徐々に良いものにしていくというのです。電子ならではですね。電子ならではの方法が上手くいくと、電子書籍も電子じゃない書籍も進化できるのではないでしょうか。紙対電子という捉え方は、あまり重要な論点でないように感じます。使い分けだと思います。



――ジャーナルも大半がアーカイブ、電子ですか?


増田直紀氏: ジャーナルの電子化はめざましく進んでいます。ただ、誰がお金を払うかという問題があります。私たちは、書いた論文をジャーナルに投稿します。ジャーナルは分野ごとに色々あって、同じ分野でも格が高いジャーナルや低いジャーナルがあります。ともかく、論文をジャーナルに投稿すると、内容が専門家たちにチェックされ、出してもよいかどうかを判定されます。OK になると、正式発行に向けて、ジャーナル独自のフォーマットに合わせてタイプセットが行われます。そして、完成した PDF をジャーナルのウェブサイトに登録して、PDFでダウンロードできるようにします。つまり、発行までには人手やハードウェアのコストがかかるんです。
コストを負担する方法は主に2つあるようです。1つはそのジャーナルの購読権を大学とかが年間契約などとして買うこと。今、ジャーナルを持っている出版社側が、大学などに対して購読料をぐんぐん釣り上げていると言われ、世界中で議論されています。そういうジャーナルには論文を出さない、というボイコットキャンペーンもしている研究者もいます。もう1つは、論文の著者がジャーナル側にお金を払うやり方です。研究費の中から例えば15万円を、自分が出す論文1つに対して払います。その代わり、世界中どの国からでも、読む側は購読料を払わずにダウンロードできるのです。

博士課程の魅力を書きたい


――今後の展望、意気込みをお聞かせください。


増田直紀氏: 今、ヨーロッパの研究者と、とある専門書を英語で書こうとしています。また、ネットワーク科学以外にも、例えば協力行動について研究していて、そういう本を書くことにも興味があります。協力行動というのは、ゴミのポイ捨てみたいに、みんなが守ってくれればいいけど、みんなが守るのなら自分ひとりくらいが裏切って規則を無視しても影響ないよね、といった内容です。普段の生活に与える示唆も色々あると思います。
あとは、アカデミックキャリアにも興味を持っています。博士号をとっても大学とか研究所に定職がない、というイメージが広がっているのか、博士課程に行く人が減っているようです。でも、魅力が十分に伝わらないまま負の面が強調されている気がしています。職をゲットできるために大事なのは、結構コミュニケーション能力だったりします。自分の意見も含めて、“博士課程のすすめ”のようなものをいつか書きたいです。

――研究業界が暗くなってしまうと、日本の行く末にも影響しますね。


増田直紀氏: そうですね。博士課程に行って身を成すにはそれなりの必要条件はあります。自分の分野だったら、数学や物理学の基礎力はどうしても必要です。でも、それだけなら、色んな大学の多くの学生が満たしています。そういった基礎力は条件のうちの半分。残りの半分は、どうやってテーマを見つけるか、そういう力をつけていけそうかどうかだと私は思っています。テーマ探しを面白いと感じるかどうか。また、他の教授や学生と話しててテーマが出てきたり業界の空気が分かったりするので、コミュニケーション能力がやはり大事なんです。学会に参加しても、真面目に他人の発表を聞いて自分の発表をするだけじゃだめなんです。そういったことを交えて書ければ、面白いかもしれません。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 増田直紀

この著者のタグ: 『大学教授』 『コミュニケーション』 『数学』 『プレゼンテーション』 『考え方』 『研究』 『教育』 『理系』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
著者インタビュー一覧へ戻る 著者インタビューのリクエストはこちらから
Prev Next
ページトップに戻る