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世界中の本好きのために

藤井直敬

Profile

1965年、広島生まれ。東北大学医学部卒業。同大医学部眼科教室にて初期研修後、同大大学院に入学、1997年、博士号取得(医学)。1998年よりマサチューセッツ工科大学にて研究員として勤務。2004年帰国。現在は、理化学研究所脳科学研究センターにて適応知性研究チーム・チームリーダーを務める。著書に、『予想脳』(岩波科学ライブラリー)、『ソーシャルブレインズ入門-<社会脳>って何だろう』(講談社現代新書)、『つながる脳』(NTT出版)最新刊に『拡張する脳』(新潮社)がある。

Book Information

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研究の領域が狭くなることに対する疑問


――いわゆる脳科学というか、脳単体ではなくて、その関係性といったところに着目するようになったのは、どのようなきっかけがあったんでしょうか?


藤井直敬氏: アメリカから2004年に帰って来た時に「何をしようかな」と考えて、社会性ということに、興味が湧き始めました。誰でもそうなのかもしれませんが、大学院で1つ研究をやると疑問が生まれてきて、その疑問を突き詰めるといった感じに進んでいきます。でもそうすると、どんどん領域が狭くなってくるわけです。でも、「それがいいことなのか?」という疑問が僕にはあったので、日本に帰ってくる時に、もう1回振り出しに戻ろうと思いました。

――領域が狭くなっていくことに対しての疑問が出発点だったのですね。


藤井直敬氏: どうしても同じことを続けていくと、閉じてしまう。研究者は大きく2種類に分けられると思います。1つは、どんどん条件を狭めていくことで価値が出せる人。多くの科学者がそうです。もう1つは、ある程度何かを作ったら、それを終わらせて次に行く人たち。その2種類がいるんですが、僕はおそらく後者なのだと思います。そうやって移ってきたことは僕の中では違和感なく全部がつながっていて矛盾はないのですが、あまり周りには伝わらないんじゃないかなと思っています。多分、ただの飽きっぽいヒトだと思われている(笑)。

――プロモーションとして本を書かれることもある、ということですが、そもそも本を出すきっかけというのはどのようなところだったのでしょうか?


藤井直敬氏: 誰でも最初は「自分が本を書ける」などとは思わないと思うんです。高校の頃から書いたりするのが好きだったという人は別ですが、僕はそういうことはしてきていなかったものですから、全く書ける気がしませんでした。あるとき突然思い立って書いてみたら書けたので、自分でもすごく驚きました。最初に岩波で出した『予想脳』は、4万字ぐらいザーッと勢いで書いたのを、たまたま会った岩波の編集者に見せたら、「いいよ」と言われて出すことになったんです。「これが本として出るんだ」と自分でも驚きました(笑)。

イメージを喚起させること


――書く上で、こだわりや、気を付けていらっしゃることなどはありますか?


藤井直敬氏: こだわりはあまりありませんが、よく「たとえ話が分かりやすいよね」と言われます。物事を数式で理解する人たちもいますが、僕はイメージを置き換えて理解する方だから、例えが分かりやすいと思われるのかもしれません。僕が人の話や現象を理解する時は、「こういったことなのね」と置き換えてみるといった理解の仕方をいつもしていて、それを自分が伝える時にもう1回やり直しているんです。伝えたい本質と、自分が思いついたたとえが与えてくれるイメージがすごく似ているならば、それを話せばいい。そうすると、なんとなく分かったような気にみんながなると思います。エッセンスが伝わればそれでいい、と僕は思っています。

――この先も新しいものを出す予定はおありですか?


藤井直敬氏: やっぱり内容がないと出せないから、今はまだありません。でも少し進めば、それはやぶさかではないです。やっぱりイメージできないものを、人は受け入れにくいのです。言葉もすごく大事なんだけれど、言葉とそれが喚起するイメージと、それが自分に起きたらどうなるのかという、そのいくつかのステップを経て初めて、新しいものをみんな受け取ることができるのです。例えば、最初の頃は「ガラケーでいいじゃん」と言っていた人たちが、今はスマホに変えている。それはおそらく、「そんなことができるんだ」といった具体的な使用例が隣にいて、それを自分のことに置き換えてイメージできたからではないでしょうか。コマーシャルを見ただけでは、あまり購買につながらないし、行動を変えることない。おそらく言葉は最初のフックであって、その後にそこから何かイメージを喚起させるものが必要。でもそれでも足りないから、自分の生活にどういう風に影響を与えるのか、といったそこまでの一貫した流れを作れないと、ものが普及するのはありえないのだと思います。そういうのは普段サイエンスをやっている人はあまり考えないと思います。



――そういうイメージ喚起といった点など、電子書籍に対する可能性を感じることはありますか?


藤井直敬氏: 電子書籍自体は、僕はまだきちんと使っていません。家にKindleやkobo、それからiPadもありますが、結局紙の本を読んでいます。もちろん習慣化されていないというのも1つあると思いますが、まだ買う習慣もできていません。Amazonで買う時も、電子版がないことが多いから、「どっちにしようかな」と考えることもないし、そういった考える習慣がないと、たまたま電子版があったとしても「紙でいいや」となります。値段が同じというのもおかしくないかな、と僕は思います。だから、まだ電子書籍の利便性と、電子書籍で出すことのアドバンテージを僕はあんまり理解していないのだと思います。

――Kindleなどを買おうと思ったのは、どういった理由からだったのでしょうか?


藤井直敬氏: まずは使ってみないと分からない、ということで買いました。新しいプラットフォームとして期待していて、どんなもんだろうと思ってやってみましたが、やっぱり僕はページのアップデートに時間がかかるのが許せませんでした。

――今後どういったところが進めばいいなと思いますか?


藤井直敬氏: 軽ければいいと思いますが、e-inkのコントラストは十分ですし、紙と比べても遜色はないと思います。別に曲がってくれなくてもいいし、柔らかくなくてもいい。アニメーションがたくさん入っていればいいかというと、そんなこともない。ただ、雑誌などは紙ではできない種類の、電子書籍ならではの、といったものに挑戦しているのを見るけれど、まだよくピンときません。

――画面というものと本とでは脳の使う部分が違うとおっしゃった方もいましたが、藤井さんはどういう風にお考えですか?


藤井直敬氏: あまり変わらない気がしますが、電子書籍は紙に比べて、なんとなく余計な処理をしなければいけない気がします。でも、それも慣れの問題という気もします。明らかに前と違う、と分かるものが出れば買うと思います。やっぱり最初から完璧なものは出てきません。Kindleは、最初に仕組みを全て作り出して、コンテンツもきちんと充実させてきたので、やはり偉いと思います。1つのエコシステムとしてまわす、今までにないものを作るという点では素晴らしいですよね。

――技術だけを世に出すだけではなくて、それを使えるような仕組みも一緒に作ること。


藤井直敬氏: SRはそのエコシステムを自分たちで作らなければいけないのですが、例えば映画屋さんがコンテンツを作ってくれるといった形など、既存のシステムの1部に組み込めればいいなと思います。そこが、僕が今「なんとかしなきゃ」と思っているところです。

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この著者のタグ: 『原動力』 『研究』 『理系』 『脳科学』

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