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世界中の本好きのために

柴田明夫

Profile

1951年、栃木県生まれ。1976年東京大学農学部卒業後、丸紅に入社。鉄鋼第一本部、調査部を経て、2001年に丸紅経済研究所主席研究員、2009年に丸紅経済研究所代表を務め、2011年に資源・食糧問題研究所を設立、代表に就任。農林水産省「食料・農業・農村政策審議会」「国際食料問題研究会」などの委員を務める。日本大学、法政大学、日本女子大学非常勤講師。主な著書に『食糧争奪』『資源インフレ』(日本経済新聞出版社)、『水戦争』『飢餓国家ニッポン』(角川SSC新書)『資源に何が起きているか?』『今、資源に迫っている危機』(TAC出版)など。近著は『「シェール革命」の夢と現実』(PHP研究所)。

Book Information

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価値判断が重要


――執筆に対するこだわりや、書く上で大事にされていることはありますか?


柴田明夫氏: 私は研究所の部下にも話していたのですが、あるテーマをまとめる際、事実認識だけでなく価値判断が重要だと考えています。データ、事実をきちんと捉えていても、そこで終わっては、単に過去を分析したに過ぎない。一歩踏み込んで予測まで行う必要がある。現状分析に比べて予測は次元が1つ上がるのです。結果が付いてくるし異なる見方の者からの批判も受ける。だから研究者も真剣になる。それから価値判断というのも必要になってくる。自分が価値判断を行っていれば、これはおかしいとか、良いとか、こうすべきだという判断ができますから、自ずと提言につながるわけです。でも、今の情報時代ですと「これは間違っているだろう」と、批判されることもあるのですが、そうした批判に応えることで初めて自分の文章や、見識になっていくのだと私は思っています。

――価値判断の上の、提言が必要なのですね。


柴田明夫氏: そう思います。冒頭に話した今世紀に入ってからの3つの大きな出来事は、資源の市場にその影響がより先鋭的に現れてきたので、そこに着目して『資源インフレ』と『食糧争奪』という本を書きました。安い資源の時代は終わったのだから、これからは濃縮された資源を大事に使っていかなくてはいけない。資源価格の高騰を嘆くのではなくて、新しい省エネ技術や、社会の変革などへ繋げていかないと解決にならない、ということを消費者に対して主張したかったのです。しかし、社内でもなかなか理解してはもらえなかった。
以前、チリの銅鉱山に投資をするという話がありました。銅の値段は、過去20年を振り返ってみると、トン当たり大体1500ドル。それが2005年には3000ドルを超えてきました。安価な銅時代は終わって、新しい水準に上がっていくといった動きが始まった、と私は見ていました。しかし、投資する立場に立てば、現在の3000ドル台というのは一時的かもしれず、投資して良いのか、という話になるわけです。今までならば、過去20年の銅の値段から将来のことを判断するというやり方でも良かったのですが、今は時代が変化して、そういったやり方ではあまり意味がないのです。チリの鉱山を買った当時、銅は3000ドルだったのが、今は7000ドル台で、高い時は10000ドルまで上がりましたので、その投資をして良かったと思います。そういった2、3歩も踏み込んでの提言主張がなければ、単なる評論家でしかありません。ただし、間違うとリスクもあるので、常に時代の流れを見ていかなければなりません。

――リスクがあっても提言し続けるということは、使命感のようなものがあるのでしょうか?


柴田明夫氏: 自分で本を読んだり、情報を発信していくと、それに応じて色々な情報網を得ることができ、必要な情報が集まるようになった。だからこそ、常に発信していけというメッセージを感じます。自分の持っているものを著作にも反映させて、分かりやすく伝えようと思っています。
「伝えたい」という思いがあれば、必要な情報はおのずと集まってきます。便利なので、私は情報収集にはインターネットも活用します。でも、気をつけなければいけないのは、インターネットにおける情報は膨大で、個々には整理されているけれど、自分なりの見方が必要だということです。

体積を持った情報が必要


――たくさんの情報の中で、それぞれをどう捉えるのか、ということですね。


柴田明夫氏: インターネットの情報は表面的なものなのですが、私たちが必要としている情報というのは言わば体積を持った情報です。歴史、全体像として1つ1つの深みのある情報は、なかなか得られない。インターネットは、表面を見たり、確認するのには、非常に良いです。電子書籍も同様です。でもじっくり向き合って考える時は、読書メモや本の走り書きなどを見ると、その当時はなんでこんなのを書いたんだろうという、その思いや発想などが浮かんでくるのです。

――今後の展望をお聞かせください。


柴田明夫氏: 講演活動と執筆、そしてコンサルの仕事の3本立てです。電話でのやりとりも多く、農水省や外務省など政府サイドからの報告などもありますし、ロイターも日々のリポートを送ってくれて、意見の交換もするので、勉強になります。そういったやりとりがあるから、毎回、おのずと次のテーマが浮かんでくるのだと思います。必要な時期に必要なものを受け取り、そこからどんどんと推察していくので、次の研究テーマを何にするかは、明確には固まっていません。

――次に書きたいと思っているテーマは、どういったものですか?


柴田明夫氏: こうした中で今、私が書こうとしているのは、中国の豚についての話です。アメリカの農務省の今年の7月の需給報告を見ると、中国の小麦の輸入が、6月までの見通しだと320万トンだったのが、7月になると突如、850万トンに増えた。それが9月には950万トン。その急激な動きは、なんの予兆だろうと考えた結果、キーワードは「豚」ではないかと私は思うようになりました。中国では2008年に四川大地震がありました。四川省は中国での豚生産の4分の1を担う豚の生産地なので、供給面で影響が出てきている。食料品企業の多くが豚肉を欲しがるから、供給が減れば豚肉価格が上がる。それが食料品価格を押し上げ、インフレが高まり、社会不安に繋がりかねないということで、今中国では必死に豚の増産をしている。養豚産業は成長産業となり、色々な企業、例えば石炭企業や、鉄鋼企業、金融機関、商社などが入ってくる。そして、今まで農家が庭先で残飯を与えながら数頭から数十頭の豚を飼うという規模だったのが、企業養豚というかたちで数万頭から数十万頭の豚を飼う、という形態へと変わりつつあります。そうすると飼料も、購入飼料に依存するようになり、中国だけでは足りないから海外からの輸入という数値に表れてくるのです。
そうやって考えているうちに、なんでイスラムは豚食べなくて、キリストは食べるのかなど別の疑問が色々と出てくるようになりました。世の中の不思議を、豚という視点から考えると、思いもよらぬ色々なものが見えてきます。それを書いていくのはなかなか難しいのですが、年明けには本を出そうと思っています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 柴田明夫

この著者のタグ: 『経済』 『海外』 『考え方』 『研究』 『資源』

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