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戸田山和久

Profile

1958年生まれ。 東京大学文学部哲学科卒業、同大学院人文科学研究科博士課程満期退学。 科学哲学を専門とする哲学者。 主な著書に『論理学をつくる』(名古屋大学出版会)、『知識の哲学』(産業図書)、『「科学的思考」のレッスン』(NHK出版)など。 その他、近著に『新版 論文の教室―レポートから卒論まで』(NHK出版)、『心と社会を科学する』(共著。東京大学出版会)、『交響するコスモス』(共著。松籟社)。

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読む行為は、電子化出来ない


――戸田山さんは電子書籍を利用されていますか?


戸田山和久氏: 僕は個人的には使ってないです。なぜかというと、仕事で電子メールやワープロなど、とにかくパソコンをよく使うので、それ以上、液晶画面を見たくないんです。本を読む時は、やっぱり楽しみたいと思っています。

――戸田山さんの本を電子化して読みたいという方についてはどう思われますか?


戸田山和久氏: 本はどんな風に読まれても良いと思うので、書き手としてはもうとにかく読んでもらえば良いんです。目の不自由な方だったら朗読のテープとか、そういう風なことをしていただいたらすごくうれしいです。電子化して読んでもらってももちろん良いと思います。僕も年を取ってきて老眼になると、本はやっぱり辛いので、字を好きなサイズにできるっていうのも良いと思います。

――電子書籍は利用されていないとのことですが、学術論文などは電子ファイルで読まれていますか?


戸田山和久氏: 今は電子ジャーナルになっていますから読んでいます。最初に使ったのは、1995、6年だと思います。ダウンロードしてフォルダに入れているのですが、読む時は紙に印刷しています。

――電子ジャーナルによって研究に変化はありましたか?


戸田山和久氏: あることについて論文を書かなければいけない時に、先行研究を踏まえてキーワードで検索すれば、ずらっと出てくる。それをせっせとダウンロードするとあっという間にただで10や20は集められます。でも読み方は、電子化出来ませんので、「これもちょっと読んでおくか」というものがどんどんたまってしまうので大変です。前は、自分で図書館に行って、コピーしていて、名古屋大学の中でもいくつも図書館あるので1周りして全部そろえていくと1日終わってしまって、ない場合はよその大学から取り寄せたりもして、全部取り寄せるまでにひと月近くかかったりもしていましたので、電子化されたことで、ペースが速くなっています。

――そういった研究スタイルには、功罪があると思われますか?


戸田山和久氏: 僕は罪の方が多いと思います。研究のスパンが短くなり過ぎている。論文数が指数関数的に増えているので、くだらないのばかりになるし、1人の研究者がフォローしきれなくなるわけです。もしかしたら自然科学はそれの方が良いのかもしれないですが、人文学の場合はゆっくり考えることが重要なので、速くなってしまうと良くないところが出てくると思います。だから、1人が書いていい論文の数の上限を「一生に5本まで」などと設けたらどうかなと思います。

諸学の可能性を広げる読書の形


――電子書籍の利点、可能性についてはどう思われますか?


戸田山和久氏: やっぱり持って歩けるというのはいいです。勉強は周りに本を置いてあるところでなくてはできない、というものではなくなって、それこそスターバックスでもできるようになる。あとは、シェアができる点がいいと思います。今、図書館などでは、グループ学習する部屋を用意するようになっています。昔は図書館は口をきいてはいけないところでしたが、今は議論もできる場所があります。そういうところで電子書籍があると、お互い本をもち寄って検索して「これにはこう書いてあるぞ」などというようなことができる。音楽についての本、例えばジャズの歴史の本ならば、何曲か聴きながら読めるということは電子書籍ならではの読み方といったように、もっとマルチメディア風にすることもできます。哲学の本だったら、読者が一緒に考えて、ゲームのように枝分かれしている部分があるといったスタイル。イエスですか、ノーですか、という風に選択肢があって、なになに主義などと立場が分かれて、たどっていけるようなものがあれば面白いのではないかと思います。電子化にしても、そこまで変わらないとあまり面白くないです。一時期ハイパーテキストの概念ができていると言われていましたが、実際にはあまりできておらず、まだ誰もそういう本を書いていません。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。


戸田山和久氏: 「科学の科学」をもっと具体化する仕事をやっていきたいと思っています。1つは科学哲学の方向からトンネルを掘って、科学哲学のやれることをもっと広げていく。科学哲学も始まってもう100年位経つので、問題集ができてきて、その問題にはこういう基礎的な文献がありますという風にリファレンスがあるので、それを読めばとりあえず研究はできます。でも、逆に言えばその問題しか扱えなくなってしまう。新しい問題をどんどん広げていかなければいけないから、科学哲学の可能性を広げる方向から、科学の科学を作っていこうと思っています。すでに色々な仕方で科学について研究しようとする人たちがたくさん現れているのですが、皆、孤立してやっていますので、色々な分野をつなぐフォーラムのようなものを作って、両側からトンネルを掘って、それらが出会ったところで、科学の科学ができると考えています。

(聞き手:沖中幸太郎)

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この著者のタグ: 『大学教授』 『哲学』 『科学』 『研究』 『理系』

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