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世界中の本好きのために

太田肇

Profile

1954年生まれ、兵庫県出身。 神戸大学大学院経営学研究科博士前期課程修了、京都大学経済学博士。 国家公務員など経験の後、滋賀大学経済学部教授を経て2004年より現職。 専門は組織論、人的資源管理論。 特に個人を活かす組織や社会について研究しており、経営者やビジネスマンを相手に、講演やセミナーを精力的にこなしているほか、マスコミでも広く発言している。 著書には「表彰制度」「お金より名誉のモチベーション論」「承認欲求」(共に東洋経済新報社)、「承認とモチベーション」(同文館出版)、「公務員革命」(ちくま新書)などがあり、これまでに経営科学文献賞、組織学会賞などを受賞している。

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野心とナルシシズムが、明確な個を作る



太田肇さんは、組織学者、経営学者でありながら「組織は嫌い」と言い切ります。研究者として、また文筆家として一貫して追求するのは、組織についての一般的理解である、画一性や同質性ではなく、組織の中で個の価値を尊重し、活かすことの大切さ。太田さんの「個人尊重」の思想の原点、そして、現在活動の中心に据えているという本の執筆にかける想いなどをお聞きしました。

本を書くのは生きがい


――早速ですが、太田さんの活動の近況をお聞かせください。


太田肇氏: 私は、活動の中心を本を書くことに置いていますので、できるだけまとまった時間を本を書くために確保したいと思っています。もちろん、大学で教えるのも仕事ですが、生きがいは何かと聞かれたら、本を書くことだと私は答えます。

――本を書くことと、ほかのお仕事との大きな違いはなんでしょうか?


太田肇氏: 本を書く前も、論文はたくさん書いていましたが、本はとにかく後に残るという点が良いと思います。テレビに出たり講演をしてもその時限りですが、コンセプトが明確で、新しいことを理論化された本を書けば、いつまでも残ります。自分の書いたもので世の中を動かして、少しでも自分の名が残ればいいなと思っていますので、媒体としては本に集中しようと考えています。

――近々、『組織を強くする人材活用戦略』という本も出版されますが、もともと、組織論について研究しようと思われたのはなぜでしょうか。


太田肇氏: 組織が嫌いだからです。嫌いだけれどもやはり組織に属さないといけない。例えばプロ野球選手にも、あまり組織になじまないタイプの人もいますが、そういう組織の嫌いな人が、そこに居場所を見つけられるような、もっと力を発揮できるような組織が作れないかなという思いがあります。役所の研究機関で仕事をする中で、人と同じようなことをやっていたらダメだと思って、そこで自分のスタンスとして、徹底して個人にこだわろうと決めて、それがずっと続いているという感じです。それは自分の性格や価値観に合っているし、ずっとブレていないと思います。

――ご自身の性格というお話がありましたが、幼少期はどういったお子さんでしたか?


太田肇氏: 子どもの頃は自然の中で遊んでばかりいました。ただ、私は、みんなと一緒というのがイヤでした。昔は、いわゆる「巨人・大鵬・卵焼き」という時代でしたが、私は、卵焼きは好きでしたが、アンチ巨人で、アンチ大鵬。みんなが応援したら、その相手の方を応援するのは今でもそうで、典型的なあまのじゃくではないかと思います。

――文章を書いたり本を読んだりすることはお好きでしたか?


太田肇氏: 本はあまり読まないし、文章を書くのもむしろ苦手な方でした。文章がうまくて褒められたことも全くないです。とにかく外で遊んでばかりいたという気がします。

先々の本の構想がパソコンの中に


――最初に本を書かれたきっかけをお聞かせください。


太田肇氏: 研究所に入って労働関係の仕事をしていて、最初の1、2冊は、ほかの研究者に紹介してもらって書かせてもらいましたが、その後は、ちょうど書きたいと思っている頃に声を掛けてもらったので、ラッキーだったと思います。最初に一般向けの本を書いたのが、中央公論新社の『個人尊重の組織論』という本なんですが、それは今までの中で一番売れたと思います。出てその日に増刷になりましたし、本屋さんで自分の本を手にとってレジに持って行ってくれる人を見て、「これはいける」と思いました。

――いつも執筆はどこでされているのでしょうか?


太田肇氏: どこでも書きますが、家が比較的多いです。家に書斎が2つあって、それぞれにパソコンを置いています。気分転換にもなりますし、資料などがたくさん必要な時と、資料がいらない時とで使い分けています。研究室や出張先のホテルでも書きますので、いつもパソコンを持って行きます。

――本の企画はどのような過程で詰めていくのでしょうか?


太田肇氏: 私の場合は、基本的な方向、タイトルも決めてもらって、あとは自分で書けと言われるのが一番うれしいです。そういう風にして、でき上がったのを持って行くというスタイルにしています。最初の段階で企画が通っているので、完成原稿として送るという感じです。

――方向性だけを決めて、本として完成した形に書き上げてしまうというのは驚きです。


太田肇氏: 普段からずっと先のものまで、何冊か考えているんです。仮のタイトルや、色々なアイデアが、パソコンの中に入っています。ネタ帳のようなもので、気付いたことをどんどんパソコンに入れて、それを構成して作るという感じです。パソコンを持っていない時は、授業中だろうが道路だろうが、思いついたらメモにすぐに書いて、帰ったらパソコンに入れるようにしています。ただ、必ずしもそれがいい方法だとは思わないところもあります。メモは、部分的には使えるかもしれませんが、何かのテーマで書こうとした時に、メモの内容に引きずられるところがあります。いいものはやはり頭の中に残っているはずですから、メモにこだわり過ぎない方がいいかもしれない、と私は思っているのです。

何を書いても、バックボーンは変わらない


――多彩なテーマで執筆されていますが、共通して訴えたいことはありますか?


太田肇氏: 何にでも手をつっこんでいる気がしますが、一貫して、「個人を生かす組織や社会作り」をコンセプトにしているので、そういうバックボーンがあるんだということは分かって欲しいなと思っています。極端に言うと、軸をはっきりさせると1冊でいいわけですが、多少ブレないと新鮮味がなくなってしまうという部分もあって、私なりに葛藤を抱えているわけです。内容に新鮮味も残しつつ、色々なものを読んでもらって、徐々にバックボーンを分かってもらう、ということを意識して私は書いています。そういった意味で、ある程度受け身で、出版社の人に色々なアイデアを出してもらったり、刺激をもらったりすることは、大変ありがたいと思っています。



――編集者の役割は重要ですね。


太田肇氏: 私にとって、仕事に関係するあらゆる人の中で、一番大事なのは編集者です。編集者がいて、初めて仕事ができるという感じです。

――理想の編集者はどういった方でしょうか?


太田肇氏: 理想像というより、条件のようなものがあります。みなさん、それぞれ力のある方ばかりなんですが、私がこだわるのは「当事者能力」です。もっと俗っぽい話をすると、いくら優秀でも年齢が若いと、会社の中での影響力が大きくない場合もあるので、「これでいこう」と話がまとまり、方向性が決まっても、上がうんと言わないこともあります。ですから、ある程度年を重ねた人というのが一番大きな条件です。そういう人と、思いをぶつけて話し合う中で、企画を具体化していくということを大事にしています。

「勝った、負けた」はどうでもいいこと


――大学での授業のスタイルもお聞かせください。


太田肇氏: 私のゼミはちょっと変わっていて、個人が自由ということで、基本的に学生に任せています。自分たちが企画して、自分たちで好きなようにやる。そのかわり、最初にゼミ生を採る時に、精神的に成熟して、空気が読めるというのを条件にしている。その最初の条件があるから、あとは任せておいても大丈夫。私は一種のファシリテーターと言うか、アドバイザーです。

――学生にとってもやりがいのある方法ではないでしょうか。


太田肇氏: そういう学生もいますが、逆にそれではもの足りない、もっとかまって欲しいという生徒もいます。私のような授業形式は学内では一般的ではない気がします。

――学生と飲み会などでの交流はされますか?


太田肇氏: 私が積極的にやることはありませんが、学生が声を掛けてくれて、それに参加させてもらうという感じです。私と学生との間に、あまり意識の差がないので、学生は歓迎してくれます。精神年齢が低いからなのでしょうか、私は上から目線ではないと思いますし、むしろ私の方が過激なことを言ったり考えたりしているかもしれません。

――学生から教えられるようなこともありますか?


太田肇氏: どこに行っても誰と会っても、何かいい材料はないかなということを考えている気がします。

――お話を聞いていると、謙虚な印象を受けます。


太田肇氏: 不遜な言い方かもしれませんが、人と比べて自分が勝ったとか負けたなど、そんなことはどうでもいいのです。いい仕事をして実績を残せば、自然と周りから評価されるし、それが大事なのだと思います。

電子書籍で「本」の概念が消える!?


――太田さんは電子書籍については、書き手としてどのようにお感じになっていますか?


太田肇氏: 私は、1人でも多くの人に読んでもらえたら紙でも電子でもいいと思います。

――電子書籍が普及すると、本や出版業界にどのような変化があるでしょうか?


太田肇氏: 私は電子媒体が広がっていくと、いずれ本や論文がなくなるんではないかという気がしています。本にしても論文にしても紙媒体が前提だったのですが、紙媒体がなくなれば、論文というような形をとる必要もないわけで、長期的には本、論文という概念そのものがなくなってくるかもしれません。

――未来の本の世界はどのようになっているとイメージされますか?


太田肇氏: 色々な媒体を組み合わせて、この人はこういう主張をしているとか、こういう考え方を広めたのはこういう人だ、ということが分かるようになると思います。つまり、電子媒体だったら、文章だけではなく、映像や音楽なども入ってきますので、多次元に広がっていきます。ボリュームも本のように制約がないわけですから、無限に大きくなったり、小さくなったり、自由にもなります。場合によっては、その人の一生で考えたものが、全部1つの体系として残るかもしれません。その方向に行くことが、私は電子媒体、電子書籍の将来の道かなという風に思いますが、今はまだそこまで行っていませんし、逆に電子書籍の弱い面というのもたくさん見えています。

――どのような弱さがあるでしょうか?


太田肇氏: 1つは、私は本を読むだけではなくて、線を引いたり折り曲げたりするので、電子書籍ならば、それがしにくいということがあります。それから、中途半端に部分的に電子媒体にしても、それだとあまり意味がないと思っています。書店にある本のほとんどが電子媒体になるような時代になれば、変わっていくのではないかなと思います。情報が一定の量を超えたら、検索すればすべて分かるという感じで、一気に広がっていくと思います。

――今は電子書籍は利用されていますか?


太田肇氏: 今はまだ、完全に書籍が電子化されていませんので、ほとんど使っていませんが、量が出てきたら一気に電子書籍に切り替えようとは思っています。ほとんどが電子媒体になると、研究室や家にある本は全部は必要ではなくなりますし、どこに行っても本が読めるようになってきますから、私と同じように思っている人は、多いのではないでしょうか。
本の置き場所に、みんな困っているんです。研究室でも本を置けませんので、それが解消されるというその意義は大きいです。それから一番の長所は検索機能。実際に読んだ本の中でも、何かいいことが書いてあったという記憶はあっても、情報が増えれば増えるほど、どこに書いてあったか分からなくなってしまうので、それを検索できるというのは、大変便利です。私は本を読んだ後は、要点や感想を、何ページにどんなことが書いてあったかを、必ずA4用紙1枚ぐらいに書き出して、パソコンの中に入れているんです。1998年くらいからはパソコンに入れていますが、それまではノートに書いていて、そのノートに関しては、もう何百ページにもなっていると思います。パソコンにしてからは検索できるようになったのでとても便利です。

ドロドロとした人間論を書きたい


――今は、どのような本を中心に読まれていますか?


太田肇氏: 基本は、自分が書く本に関連する本が多いのですが、その外側にある思考をふくらませてくれるようなもの、何かヒントになるようなものを読んでいます。ベストセラーに関しては、なぜ売れるのかということを知りたいので読んでいます。あとは書評などを書かされるので、書評用の本を仕方なく読んでいるというのも多いです。

――最近読んだ中で、面白かった本はありますか?


太田肇氏: 最近では、林真理子さんの『野心のすすめ』ですね。あれも書評に書くために読んだのですが、面白かった。

――太田さんにとって面白い本、良い本とはどのような本でしょうか?


太田肇氏: 一番は、コンセプトが明快ということです。この本で何が言いたかったのかということがはっきりしていて、しかもそれが読者にとってもインパクトがある本。中には、読んでいるうちは「そうだそうだ」と納得して読むのですが、しばらく経ったら「あの本、何が書いてあったかな」と思うこともあります。そういう風に思うのは、本の主張が明快ではないからではないでしょうか。訴えるものの大きくて、斬新なコンセプトがあれば、いくら書き方が下手で、極端に言えば、読んでいる途中は冗長で同じ様なことの繰り返しでも、書いてあることは後になってもずっと忘れない。そういう意味で古典と呼ばれるものは、読んでいる時は本当に退屈だと感じるものもありますが、それなりの内容があると感じています。

――良い本を書くための書き手の資質のようなものはあるのでしょうか?


太田肇氏: ナルシシズムでしょう。自分の言っていることが一番だという一種のナルシシズム、そして、林真理子さんではありませんが、野心がなければ書けないと思います。本当に謙虚になったら、書いたりしゃべったりできません。学生にも「成功しようと思ったら、ナルシシズムと野心が必要だ」とずっと昔から言っています。志という言葉はみなさん素晴らしいと言いますが、野心となると急にダーティなイメージになる気がします。志というのは、誰でも持てるわけではない。野心であれば、もっと俗っぽくなるので誰でも持てるし、本音の部分が入ってきます。自分をしっかり見るということも大事ですが、自分を客観的に見てばかりだったら、自分はつまらない人間だなって思ってしまいます。自分はすごいんだと思えば、モチベーションもわいてくる。日本人は自己肯定感が特に低い気がしています。客観的に見る目も必要ですが、他方では一種の自己愛のようなものが必要なのです。

――最後に、先生の今後の展望をお聞かせください。


太田肇氏: あらゆるところで発言したいというのはあります。今は、一種の人間論のようなものが書きたいと思っています。まだ具体的なものはありませんが、俗っぽいドロドロとした部分に光を当てて、赤裸々に書きたいです。昔『人間通』というベストセラーがありましたが、その自分版のようなもので、欲望、嫉妬など、本人が気がつかない行動の源について書いてみたいと思っています。既成の学問にとらわれず、深く掘り下げてみたいです。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 太田肇

この著者のタグ: 『大学教授』 『組織』 『考え方』 『出版業界』 『経営』 『教育』 『ファシリテーター』 『バックボーン』

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