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世界中の本好きのために

熊野純彦

Profile

1958年、神奈川県生まれ。1981年、東京大学文学部倫理学科卒業。現在、東京大学文学部教授。著書に、『レヴィナス入門』、『ヘーゲル』(以上、筑摩書房)、『レヴィナス』、『差異と隔たり』、『西洋哲学史』全2冊、『和辻哲郎』(以上、岩波書店)、『戦後思想の一断面』(ナカニシヤ出版)、『カント』、『メルロ=ポンティ』(以上、NHK出版)、『埴谷雄高』(講談社)など。訳書に、レヴィナス『全体性と無限』、レーヴィット『共同存在の現象学』、ハイデガー『存在と時間』(以上、岩波書店)、カント『純粋理性批判』、『実践理性批判』(以上、作品社)。『マルクス 資本論の思考』が9月にせりか書房より刊行予定。

Book Information

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書き手に「ほれる」才能を


――編集者の役割はどういったところにあるのでしょうか?


熊野純彦氏: 私は、その人からの仕事は無理してでも引き受けようと思う編集者が数人います。理想の編集者は、絶対当人に向かっては言いませんが、私にほれてくれている人です。最近、ちょっと悲しいなと思うのが、メールで依頼されることが多くなっていることです。
私が初めて本を出してもらったところでは、手書きの長文の手紙が来ました。それで、「そこまでおっしゃっていただけるんでしたら」というのがあった。仕事を続けている何人かの編集者は、最初の出会いからして違います。もちろん全部要望に応えられたわけではなくて、若い時を含めて不義理ばかり重ねたという後悔もあります。初めての本を出す時は、皆無名なわけですよね。優れた学術論文を出している人も、本がなければ世間的にはゼロだと思うんです。無名な文献が、本としてデビューする時に、目配りを利かせて、書き手にほれてくれる編集者がすごく大事だと思います。
編集者は、色々な本をお作りになるから、すべてについて専門家であるわけはなくて、限られた分野であれば書き手の方が専門家です。だから、内容で有意義な仕事だと認めてくださることもちろんうれしいですが、「文章が良い」、「熊野さんの文章を読みたい」って言ってくれるのが一番うれしいです。編集者さんに限らず、一般読者の方からも、中身をほめられるよりうれしいかもしれません。私の文章が読みにくいという人も多いし、大嫌いっていう人もいるでしょうから、編集者であれば、大変高慢ですけど、私の文章が好きな人と仕事をしたいですね。



――編集者からの示唆で内容が磨き上げられるということもありますか?


熊野純彦氏: 書き手は、ある種のナルシシズムがないと書けないので、ほめてほしいっていうのもありますが、ちゃんとだめ出ししてくれることも必要です。自分の文章は、何度見ても直らないところがあります。何度もゲラで読んでいるのに気がつかないこともある。そういう時にちゃんとチェックしてくれるというのは必要です。今はそれができない編集者もおそらくいると思います。それと、私は「その企画だったらあっという間に書ける」というような依頼はうれしくありません。外的なきっかけから、泥縄で勉強してものを書くので、背伸びをさせてくれないと仕事にならないところがある。だから、書き手の能力の少し上位で向こうから提案してくれる編集者はすごく貴重だと思います。

目の前の仕事の完成を目指す


――最後に、先ほどお聞きした新著についても含めて、今後の展望をお聞かせください。


熊野純彦氏: 長期はもちろん、中期的な展望すら持てないんです。目の前のことでいっぱいです。翻訳は毎日やらないとできないタイプですので、ほぼ毎日やってますけど、カントは『判断力批判』を来年までに仕上げたら、基本終わりだと思っています。翻訳をあと1つやるのだったら、したいことはあるんですけれど、体力的な条件とか、本屋さんのラインナップの問題とかで無理だろうなと思っています。
『マルクス 資本論の思考』について付け加えると、私の友達には「最後の活動家」みたいな人がいっぱいいるんですけど、皆、『資本論』は第1巻しか読んでないんです。もっとひどいやつは『共産党宣言』と『賃労働と資本』だけを読んで党派に入る人もいたんです。私もかなり長い間、まじめに読んだのは第1巻だけでしたが、全3巻を読むという企画です。しかも、第1巻、第2巻、第3巻を、ほぼ原文の分量に応じたプロポーションで、最後まで手を抜かず書きました。「10分でわかる」というような本は、うそに決まっているわけです。だから「きちんと資本論を読むんだ」という本にします。これが、私が今まで出した本の中で、翻訳を除けば最も大著になりまして、700ページを超えます。だから、今はほとんどそれで頭がいっぱいです。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 熊野純彦

この著者のタグ: 『大学教授』 『哲学』 『考え方』 『研究』 『研究者』 『趣味』

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