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世界中の本好きのために

早坂隆

Profile

1973年生まれ、愛知県出身。日中戦争や太平洋戦争をはじめとする日本の近代史などを主なテーマとするノンフィクション作家、ルポライター。戦時中の中等野球大会(現在の高校野球の前身)の詳細を当事者たちからの聞き取りによって浮き彫りにした『昭和十七年の夏 幻の甲子園』(文春文庫)は、NHKでドキュメンタリー番組化され、第21回ミズノスポーツライター賞最優秀賞、第2回サムライジャパン野球文学賞ベストナイン賞を受賞した。また、世界のジョークに関する著作も多く、『世界の日本人ジョーク集』(中公新書ラクレ)シリーズは累計100万部を突破している。

Book Information

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長い海外生活の中での、日本語欠乏症状に電子書籍は有効


――今日は電子書籍の話もさせていただければと思いますけれども、ユーザーが早坂さんの本を電子化して読まれることについて、どうお考えですか?


早坂隆氏: 例えばルーマニアのマンホールの本も、単行本で出て、文庫にもなりましたけど、そんなに売れたわけじゃない。去年その本もKindle版が出ました。そうやって、また新しい読者の目に触れる可能性があるというのはすごくうれしいです。書き手としては紙で読んでいただいても、電子でもそれは関係ないです。より多くの人が読んでくれる、すそ野が広がるという意味ではありがたい話です。電子書籍だとそのKindle版も450円くらいなので、それだったらダウンロードしてもいいかっていう読者の人もいるでしょうから。
2年間かけて取材して、紙の印税だけでは大したお金にはならない。だからまた新しい1つのオプションができるのは、歓迎すべきことです。利用する方としたら、例えば僕がそれこそ10年前、ルーマニアにいた時にだったら、利用したかったです。当時電子書籍ってなかったですけど、やっぱり海外が長いと日本語が恋しくなります。送ってもらったしょうゆの成分表示も「日本語だ!」と思って、「きれいだな」と呟きながら読みました(笑)。そのぐらいの欠乏症状が出ますから、当時親にメールして、段ボールで本を送ってもらっていました。アメリカとか、西ヨーロッパの大きな都市なら日本の本が置いてありますが、東ヨーロッパにはなかったし、中東もない。アジアだってそんなにないです。それを考えると、もし当時、電子書籍があったら喜んで使ったと思います。

今は「つながりすぎて」孤独になれない


――ネットが発達した今、旅することの変化をお伺いしたいと思います。


早坂隆氏: 大学の時の日本縦断の自転車旅行や、四国のお遍路さんを巡った時も、旅に出ると全く音信不通になりました。メールもないし携帯もない。連絡手段は絵はがきでした。でもそれが心地よかった。誰も僕がどこにいるか知らない。当時そのユースホステル部の合宿が九州などであったので、旅の途中に日本を縦断して合宿所に直接行くんです。もう真っ黒になって、やせた体で、2か月ぶりに会う。その間全く連絡を取ってないから「おぉ無事だったか!」みたいなノリでした。ほかの部員も色んな旅をしていて、2か月ぶりに会うという面白さがありました。
それが今だったら携帯を持って、「今、高知県のなんとか山、なんとか寺」とか、「今、食事中なう」などとつぶやいちゃう。それは面白いのかなと疑問に感じるところもあります。ずっとつながってる感っていうのは、便利は便利なんだろうけども、旅の醍醐味という部分が、ちょっと失われるのではないかと思います。

書き手はピッチャー、編集者はキャッチャー


――早坂さんの仕事スタイルについても伺いたいと思います。


早坂隆氏: 今はiPhoneで録音、カメラ、地図と全部できます。電車の手配、時刻表を見る必要もないし、ホテルの手配もできます。飯を食い行くのもうまそうな店も全部調べられる。簡単な原稿ならパパッと書けます。取材はiPhone1つです。荷物が格段に減りました。昔は現地で、いろいろと道具が必要だった。荷物は本当に減りましたね。便利は便利です。

――ノンフィクションを書かれる時、編集者の方とどんなやり取りをされているのでしょうか?


早坂隆氏: 本当に編集者の方には恵まれたなという気持ちを持っています。野球で例えると、書き手がピッチャーで編集者がキャッチャーです。良いキャッチャーがピッチャーの良いところを引き出してリードする。調子が悪い時は、「お前、腕を振れてないよ」とか、「フォームのここが崩れてるからこうした方がいいんじゃないか」とか、僕のフォームを理解してくれて、球筋も理解してくれて、「今回ちょっと走ってない」とか、「腕もっと振れ」と、そういうことを理解してリードをしてくれたりします。作家の方でもいろいろな方がいるでしょうけど、尻をたたいて伸ばしていくことで伸びていく書き手もいれば、褒められて気分よく書いていく人もいるでしょう。そういったところを編集者の人が理解して、付き合ってくれると気分よく投げられる。僕は個人的には、褒めてもらった方が気分よく伸ばす方です(笑)。「ナイスボール」と言ってくれた方が気分よく投げられます。

WEBにもプロの編集者が現れるべき


――今後電子書籍が普及すると、素人でも出版することまではできるという環境になっていきますね。


早坂隆氏: そこは気になっていますね。僕はWEBで、人のブログをあんまり読まない。Twitterもやってない。それはね、ちょっと偉そうに聞こえると嫌ですけども、つたない文章を読むのはすごく腹が立つ。紙の媒体はやはりプロの編集者が付いていて、きっちりそこの過程を経てできているから、そんなに不快になることはない。でもネットのブログやTwitterはそこの編集作業が全くない。メルマガとかもほとんどない。僕はWEBの編集者という存在はすごく必要と思っています。

――WEBの編集者ですか。


早坂隆氏: 中央公論でお世話になっていた担当者が去年独立して、有料メルマガの会社を立ち上げて社長をしています。彼はやはりWEBの編集者をやりたかったようです。メルマガを書き手が書いて配信しているけれど、普通紙だったらそこに編集が入ります。メルマガもプロの編集作業を入れましょうと彼は言っています。僕もずっと前からそう思っていました。そういう意味ではWEBの編集作業をもっと大事にしないと、やっぱりレベルが上がらない。メルマガやブログ、Twitterもあまり文章がひどいと読む気が起きない。

――デジタルだからこそ編集者の役割はもっと必要なのかもしれないですね。


早坂隆氏: WEB界の名編集者っていうか名捕手が、出てきてほしいという思いはあります。まだ過渡期なのでしょう。まだデジタルの可能性を生かしきれてないのかもしれない。

著書一覧『 早坂隆

この著者のタグ: 『旅』 『海外』 『ライター』 『ノンフィクション』 『作家』 『自転車』 『ジャーナリズム』 『編集長』 『取材』 『きっかけ』 『価値』 『ルポルタージュ』 『ユースホステル』

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