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吉岡友治

Profile

VOCABOW小論術校長。仙台市生まれ。東京大学文学部社会学科卒。シカゴ大学大学院人文学科修了。専攻は演劇と文学理論。代々木ゼミナールで20年以上、国語および小論文の講師をつとめ、日本語における小論文メソッド、アカデミック・ライティングの方法を確立し、WEB, REALの両面で小論文指導を続ける一方、各地の学校・企業などで講演・研修活動を行う。また、上記メソッドを応用して、社会論・芸術論・身体論などの言説分析など、幅広く活動している。最新刊『いい文章には型がある』(PHP新書)など著書多数。現在バリ島でプチ・ノマド生活も実験中。
【HP】http://www.vocabow.com
【ブログ】http://yujivocabow.blogspot.jp

Book Information

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共同作業で作り上げたデビュー作


――執筆時のエピソードをお聞かせください。


吉岡友治氏: 本を出す前に、インターネットが出てきたんで、書いたものをどんどん載せていたんです。でも、本にもしたいとも思っていたので、30くらいの出版社に手紙を書いたら、2つの出版社から声をかけていただきました。1つの出版社は「面白いけど、今うちとやってる形式と合わないので、書き直してほしい」と言うので、「嫌だ」と返事しました。もう1つの出版社は、インターネットに載ってるものは完成度が高いから、そのまま出しても良いんだけど、いくつか直すように言われて、校正した上で単行本として出しました。
その前にも、「インターネット時代の小論文術」といった企画書を書いて別の出版社に企画書を出したら、2年くらいほっておかれていたんです。もうダメだろうな、と思っていたら翌年に突然依頼が来て、公務員についての本を書くことになりました。実は、それが僕のデビュー作なんです。理論的な本ではなくて、いわゆるネタ本です。公務員については何も知らないので、図書館にこもって半年位かけて書きました。200冊位、公務員に関係ありそうな本をかたっぱしから読んでいったんですよ。シカゴで大量の本を読むのは慣れてましたし、社会学をやっていたので組織論などは得意で、読まなくてもわかるけど、災害対策のこととかは全然知らないから大変でした。

――デビュー作の反響はいかがでしたか?


吉岡友治氏: けっこう売れました。本屋さんから「こういう本を出してほしかった」って言われたそうです。僕は、それぞれの主張をバランスがとれるように要約する一方法ーで、データを調べて図表化することをしっかりやっただけなんですけどね。
その時に、今一緒に本を作っている長谷眞砂子さんに装丁から何からデザイン的なことをすべてやってもらいました。ちょうどDTPの始まりの時期で、原稿を書いてすぐ流し込んで、書き直して、行数調整もして、「ここにもうちょっと写真が必要だよね」とか、「グラフが絶対要るよね」とか話しながらやってるうちに本ができていくんです。原稿を渡してから紙になるまでがものすごく短縮されるんですね。

――文章だけではなく、本のできあがり全体を見て作りこんだんですね。


吉岡友治氏: 僕はもともと芝居の人間なので、ビジュアルにうるさいんです。安易に図をつけると、デザインが気に入らなかったり、アイコンがきれいじゃなかったりして、そういうのがすごく嫌です。
国語とか小論文系統の本って単に文章だけで表現しようとすることが多すぎる。国語なら文学性も大事だけど、論文はよく理解するための手段なのだから、なるべく直感的に理解できるような感じにしたい。なので、いちいち読まなくても図でわかって、下に説明が書いているというスタイルを持ち込みました。これは共同作業があったからこそできたことで、彼女と一緒にやれなかったら、うまくいかなったと思います。デザインの方を先発させて、それに対して文章があるっていう風にすべきなので、それをやるためにはデザイナーとの共同作業が絶対必要なんです。

文章は自己表現ではなく「対話」


――執筆の際、デザインのほかに気をつけていることはありますか?


吉岡友治氏: 物事について、良い悪いということを性急にコメントしないことです。僕は熱心な社会学徒ではなかったけど、社会学では、とりあえず価値評価は置いといて、今現実がどうあるのか、という現実認識を大事にします。それが、世間では違うんですね。
僕は、今、教育の本を書いていますが(『リアルから迫る! 教員採用小論文・面接』実務教育出版)、教育って「こうすべきだ」という話がすごく多い。例えばいじめの問題では「撲滅すべき」とか、「小さな徴候でも気づくべき」とかよく言います。でも、現場の教師に言わせれば、そんなことはできっこない。「これはイジメかなー」と思っていじめっ子を呼んで問いただしても当然否定する。納得いかなくて、さらに調べようとすると、親から「うちの子を疑うのか」とクレームが来る。しようがないから様子を見ていると事件が起こって、無策だと非難される。こういう実情が伝わらず「べき」ばかりになるのは、かえって問題を悪化させると思います。



社会問題は、誰かが「これが問題だ」って言って焦点を当てて、誰かに書かせて、マスメディアに載せてっていう運動の面が絶対ある。そういうところをちゃんと見ないと話がずれる。たとえば、いじめの件数のグラフでも、2回ジャンプしてるところがあって、そこは文部省のいじめ定義が違っている。いじめられたと感じる人がいたらそれはいじめだという定義になったので、数は上がるに決まっている。それを見ないで「いじめは増加している」と要約したら間違い。ところが、いじめ問題っていうと「いじめは悪化している」という前提から始める主張が多くて困る。データの中からわかる事実って何かとかいうことを1つ1つ考えないと、問題がぐちゃぐちゃになってしまいます。小論文でも、こっちが良いと皆が思うのであれば、なぜ良いと思うかという要素を分析するのが先です。それをしないままに自分の好き嫌いだけでやるとろくなことにならないんです。

――先ほど編集についてのお話がありましたが、編集者の役割はどのようなところにあるでしょうか?


吉岡友治氏: 編集者はすごく大事だと思います。出版社は、電子書籍が出てきてこれからかなり厳しいはずです。設備投資も在庫の倉庫も必要なくなって、個人が出版できるわけですから。だけど、編集者はそうではない。先ほど共同作業という言葉を使いましたが、自分を別の目から見てくれる人がないとうまくいかない。というのは、そもそも本は自己表現ではなく、対話だからです。論理的文章というのは、相手が質問してくるであろうことを最初から予想して書いた文章です。自分の中に読者という他人を作ってチェックして、それに対して証明や具体例を出せば、なるほどって思ってくれるだろうなっていう話です。しかし、そうはいっても、自分の予想できる範囲は決まっている。予想もつかない反応を返してくれるひとが欲しい。そういう編集者は貴重ですね。

編集者と演出家の共通点は?



吉岡友治氏: 芝居でも役者が(ドツボに)はまっちゃう瞬間があるんです。それを演出家が言葉を投げかけることで、救い出してあげることができる。演出がきちんと役者を方向付けるかどうかで演技が全然違う。僕が最初に演出したのは『冬眠まんざい』っていう芝居です。秋浜悟史さんという素晴らしい劇作家が、東北弁で書いた芝居で、冬の東北でトトとユキという男女二人がしゃべりまくる芝居です。ところが、この二人がまずどんな関係かよく分からない。父親と娘なのか、恋人同士なのか、孫とじいさんか。ええい、まあいいやと、とりあえず最初から最後までつくって、竹内さんに見せたら「全然ダメだな」って言われたんです。
まずいろりを切ってあるところからダメ。「全部真平らにしちまえ」って。「ここでやってることはリアルな話じゃなくて、口から出任せの漫才だから」と言うんですね。2人の関係もどうでもいい、見てる人が、その場その場で勝手にイメージできればいい。じいさんが突然孫に迫ったら、かえってスリリングじゃないか。瞬間瞬間が面白くなることが大切だ、なんて話をしてもらって、頭の中の霧がさーっと晴れた。こういう読み方があるのかって思いました。それまで芝居っていうのは事実が元にあって、それを表したものっていう風にどこかで思ってたんですね。だけどそんなのはなくて、あるのはここにある言葉の戯れだけだと考えたら、できあがりも全く違うんです。竹内敏晴っていう人は5分位で人を変えるのがすごくうまい。著者も同じようにドツボにはまるんじゃないかと思う。それを、編集者が「こんな風なのどうですか」って言って、それが当たってなくても良いんです。その時に言ってくれることっていうのがすごく大きい。

――吉岡さんの本は、ビジュアルを含めて「演出」されているからこそ編集が重要になってくるのですね。

吉岡友治氏: ビジュアルから考えて、これに入るような文章を書いてっていう話になってきます。僕は蜷川幸雄さんに習ったこともあるけれど、彼は例えば芝居を作る時、最後のイメージを決めると言ってました。例えば、階段の舞台に青の照明が当たって、階段がいつの間にか海になっちゃうみたいなイメージがあって、そこからいろいろ決めていく。編集者もある意味でそういうところがあると思う。書き手はどうしても1つ1つ言葉を積み上げていかなきゃいけないので、大きなことが途中で見えなくなったり、ずれたりすることがよくある。だから、そういうのを時々直してくれて、「ここはどうなんですか」って反問されるとこっちとしては楽なんです。もちろん言われたことが邪魔だっていう場合もあるので、そこは編集者とやりあいたいなと思います。

著書一覧『 吉岡友治

この著者のタグ: 『インターネット』 『可能性』 『劇』 『小論文』 『著作権』 『対話』

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