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世界中の本好きのために

潮匡人

Profile

1960年青森生まれ。早稲田大学法学部卒業。同大学院法学研究科修士課程修了後、東京放送報道制作部契約社員を経て航空自衛隊に入隊。第304飛行隊、航空総隊司令部、長官官房勤務等を経て三等空佐で退官。日本における「軍事学」の必要性を説く。近著に『日本人として読んでおきたい保守の名著』(PHP新書)、『「反米論」は百害あって一利なし』(PHP研究所)など。テレビにも多数出演。
潮匡人事務所 http://www1.doshisha.ac.jp/~kasano/index.html

Book Information

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肩書は人がつけるもの、仕事はプロを貫く



――潮さんは日本を代表する論客として世に知られていると思いますが、ご自身はそう呼ばれることに対してどうお考えですか。


潮匡人氏: 自分で自分のことを評論家であるとか軍事ジャーナリストであると言ったことは特になくて、そういった肩書は、どこかの編集部やテレビ局でお決めになるべきことだと思います。テレビに出る時には拓殖大学の客員教授という肩書がつくこともありますが。最近は、ものを書くほかにインターネットのニコニコ生放送や「『現代ビジネス』政策講談」に出て、元官房長官や元防衛大臣とご一緒したりしています。自分としては、今のような立場を望んでいたというよりは、北朝鮮の弾道ミサイルがどうしたとか、尖閣問題について取材を受けたり、書いたりすることが多いので、世間からはそう見られているというだけのことだと思います。
今書いている『病気にならない食卓』という本の仮タイトルだけを見れば、別に軍事ジャーナリストでも何でもないことになりますしね。私は、小説を書いたりして文芸の世界で生きている方のように下積みがあったわけでもないので、昔も今も、その時に与えられている仕事を全力でこなしているだけなんです。例えば私は政策担当秘書の資格を持っていて、実際にその仕事をしたこともあるんですが、昔ついていた方がもし選挙で当選していたら、今もずっと秘書をしていたかもしれませんし、政治家になっていたかもしれません。

――書く上で、大切にしていらっしゃることを伺えますか。


潮匡人氏: 当たり前のことですが、私は一度も締め切りを破ったことがありません。必ず締め切り日よりも圧倒的に早く出します。その方が編集部としては有り難いということは、自分が編集者だったので、よくわかっていますからね。例えば締め切り日まで情勢が変わることのないようなテーマであったりすれば、依頼を受けた次の日にはもう原稿を書いてメールで送ります。
月刊「正論」に限って言えば、原稿をメールで出したのは私が初めてだったそうです。元軍人なので、仕事において勝つためには、当然より有利なポジションを占められる強い武器を持とうとする。それがもの書きにとってはパソコンですが、今は最新Windows8を使っていて、今まで全部マウスでしていたことがタッチパネルでできてすごく便利です。安い買いものではありませんが、こういった自分にとって必要な投資は惜しまないようにしています。実際は、まだ手書きで原稿書いている人もいるようですが、私には信じられないですね。

――書く時間帯は決めていらっしゃるんですか。


潮匡人氏: 最近は原則として午前中にしか書かないことにしています。私の場合は、夜中にものを書いてもいいものは書けないということを、これまでの経験で身にしみてわかっているので、絶対にそういうことはしない。朝は起きてまず大量のフルーツを食べて、昼くらいまでに一気に全部書き上げる。基本的には20枚程度の400字詰め原稿の分量であれば、私にとっては午前中で書ける量なんですね。それでポーンとメールの送信ボタンを押して、あとはお昼ご飯を食べたりするともう一気に眠くなってしまいます。以前のように夜中まで書いていたりすると、今度は逆に夜眠れなくなって自分の体のリズムやバランスもどんどん崩れて、プロの仕事ができなくなるんですね。
2、3年に1作書けばまず10万部は見込めるというような小説家とは違って、毎日10枚近い原稿を書くことを自分に義務づけていますので、書き終わって送信ボタンを押したものは、基本的に済んだ話として忘れてしまいます。極端な例では連載の原稿を2回書いたことがあります。すでに自分で書いていたことを忘れてまた送って、編集者に「今月の分はもういただいています」と言われて、「えっ? そうだっけ。じゃあこれ、来月用の予備に回して」などと言ったこともありましたね。あるテレビ局のディレクターに「○○って本当ひどい人ですよね」と言われて、「誰ですか?」って聞いたら、先月号の「正論」で私がボロクソに書いていたらしいんです。すっかり忘れていました。それにけっこう私、ボロクソに書いていても嫌いじゃない人は、いっぱいいます。とにかく送った原稿は、もう終わったことで、絶対に引きずらないようにしているんです。

――というと、引きずった時代もあったのですか。


潮匡人氏: 以前はそうでしたね。例えば夢を見て、夢の中に自分の書いた原稿が正確に出てきて、夢の中で間違いを見つけるんです。それで起き出して机のところまでまた戻って書き直したりしていると、健康的にももちろんよくないし、作業効率的にも非常に悪いということが身にしみてわかりました。朝方まで頑張った時に、その時はよく書けたと思うものも、翌日、あらためて見ると、別にそうでもないなとか、なんでこんなどうでもいいことを何時間も悩んでいたんだろうなどと思うことがあります。
原稿は基本的に完全原稿の形で中見出しも全部自分でつけて提出するので、出版社からゲラも来ないし直しもないんです。元編集者ですから、それくらいのことはできます。場合によっては書いた原稿を直されていることもありますが、人が直したものも見たくないし、右の柱や背表紙で大きい扱いになっているならともかく、どういう扱いになっているかも知りたくないので、出たものはあまり読みませんね。基本的にはもうメールの送信ボタンを押した時点で全部忘れます。

本は飾りものではない、付せんを立ててとことん読むのがプロ


――潮さんと本とのかかわり、読書遍歴についてお聞きします。


潮匡人氏: 「諸君!」という雑誌に、「私の血となり肉となった3冊の本」というタイトルで原稿を書いた記憶があって、確かその時に渡部昇一の『知的生活の方法』を1冊挙げたと思います。印象的だったのは「本は買って読め」という主張でしたね。それは忠実に守っています。あとは小林秀雄全集と、片岡義男の小説です。実際に小林秀雄の全作品は少なくとも2回以上読んでいます。私の場合、実際に付せんを立てて読んでいるので、それがどういう本で、どこにどういうことが書いてあるかを覚えています。その点だけは、飾りとして全集を並べている知識階級の方とは違うところです。往々にして、本を選んで買う力がないと、全集を並べてごまかすことになるのは、どうかと思います。

――意外ですが、片岡義男の作品も潮さんの生き方に影響を与えたのですか?


潮匡人氏: 影響を受けたというとニュアンスが違うとは思うんですが、学生時代にお気に入りで全部読んでいました。例えば、ヘインズのTシャツを買ったとか、そういうどうでもいいディテールの積み重ねが、カントやヘーゲルより実際に自分の血となり肉となったというのは決してうそでもないし、正直な気持ちで、その時挙げた3冊の中に入れたのだと思います。

――現在、出版業界も電子化が進んでいますが、ご自身は電子書籍を利用されますか。


潮匡人氏: 消費者として購入することを「利用」と呼ぶとしたら、まだないです。拒否しているのではなく、今のところ必要性がほとんどないからです。ただ、最近の例で言うと、勝間和代さんの『健康になるロジカルクッキング』という本がKindle で100円で販売されていて、そういう価格で読めるならやはりそれは支持されるだろうと思います。
近い将来に電子書籍のほうが圧倒的にゼロ1つ分定価が低いということになってくれば、単純に金銭的な理由から私も活用する可能性はありますが、正直今のところ、それほど安くなっていないし、例えばKindleという端末自体が世の中から消えていくことだって起こり得るわけですから、投資した価値がゼロになるリスクはありますね。
そう考えると、読者としてわざわざそれを選ばないし、著者としても「原稿の電子化を承諾する」という一文が含まれた出版契約書にサインをしてはいますが、自分の書いたものの電子本は見たことがなくて、直接的にはご縁がないので、まだまだそっちの方向に世の中が動いているようには見えないなというのが実感です。

――そういった状況もふまえると、電子書籍はまだ過渡期の段階にあるとお考えですか。


潮匡人氏: そうですね。ただ世の中のグローバルな流れとして、アナログからデジタルに移行していることは抗し難い事実ですから、書籍の世界においても、かつてあったレコード店が一瞬で全部CDショップに変わって、なおかつ今やCDショップ自体もなくなりつつあってダウンロードが主流になるのと同じことが起きるかもしれませんね。

――書き手としては、電子書籍にどんな可能性を感じていますか。


潮匡人氏: 本にするにあたっては、印刷、製本、流通の過程で最低でも2週間くらいは絶対にタイムラグが発生するわけですね。そうすると私のようなジャンルで書く立場から言わせていただくと、例えば北朝鮮の最新の動向について仮に1日で本を書いたとしても、絶対に2週間後よりあとでしか書店には並ばない。それが電子書籍の場合は、極端なことを言えば、1日で書けば明日市場に乗せることが、少なくとも技術的、理論的には可能である。あるいは流通や倉庫そのほかの費用もまったく発生しないし、今のように重版の時に誤植を直すというやり方も大きく変わっていくでしょうね。



そういう意味では、書く側にとってのプラスの材料はもちろんありますし、利用者数がまさに飛躍的に伸びていけば書き手にも印税として還元されるでしょうが、今のところ、まだそこまでは行ってないんじゃないかという気がします。特に私のように政治や安全保障、国家を扱う本に対しては、印刷製本された本のニーズのほうがまだ大きいだろうと思います。ただ、電子書籍によって、絶版になった書籍の復刊があるのであれば、私を含めた多くのもの書きにとっては有り難い話ですけどね。

――紙で読むのと電子書籍で読むのに、何か違いは出てきそうですか。


潮匡人氏: 自分の本の読み方として、カントの著作だったら岩波文庫の中間のこの辺に書いてあったはずだと覚えるほうなので、それが電子書籍になった場合、自分のメモリの中にそうやって入っていくのかなぁという点で不安感は大きいですね。書く時には、いろんな本からの文章引用が、コピーペーストできれば便利ですが、著作権という概念が崩れていくのではないかと思うと、これも問題です。

――本の購入はどのようにされていますか。


潮匡人氏: Amazonが便利でよく使っています。お勧め機能が案外よくできているので、今までのように大型書店の1階正面の平積みコーナー等を定期的にチェックする必要性が明らかに低下してきました。

――今は出版不況といわれますが、書き手として編集者や出版社の役割は、どのようにお考えでしょうか。


潮匡人氏: 私に書く場を与えてくれる『諸君!』や『中央公論』などのオピニオン雑誌が休刊されて、数が減っていることは、残念ですね。あとは『正論』と『This is 読売』やPHPの『Voice』くらいでしょうか。出版社や編集者も何とか頑張ってほしいですね。

著書一覧『 潮匡人

この著者のタグ: 『ジャーナリスト』 『考え方』 『生き方』 『可能性』 『ソーシャルメディア』 『歴史』 『書き方』 『自衛隊』 『期待』

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