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世界中の本好きのために

高橋正明

Profile

『FRAME』、『MARK』(共にオランダ)、『Architectural Design』(イギリス)、『INTERIOR DESIGN』(アメリカ)のレギュラー・コントリビューターを務め、『BLUEPRINT』(イギリス)、『DESIGN REPORT』(ドイツ)、『dwell』(アメリカ)など、国内外の建築誌、デザイン誌、アート誌に寄稿している。1987年、渡独。ベルリンで油絵を学んだ後、ロンドン・メトロポリタン大学エンヴァイロンメンタルデザイン科を経て、ニューヨーク州立ファッション工科大学(F.I.T.)インテリアデザイン科卒業。同時期、ニューヨーク大学で国際関係論を学ぶ。帰国後、『商店建築』編集部を経て、1996年、編集プロダクション「ブライズヘッド」設立。各種書籍の企画、製作を行う一方、キュレーターとしても活動している。

Book Information

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デザインも建築も、もっと「皆」のものになってほしい



高橋正明さんはロンドン・メトロポリタン大学を経て、ニューヨークのF.I.T.とニューヨーク大学でインテリアデザインと国際関係論を学ばれました。帰国後、商業施設専門のデザイン誌の編集者を経て、1996年に編集プロダクション、ブライズヘッドを設立、デザイン・ジャーナリストとして活躍されています。日本だけでなくオランダの『FRAME』や『MARK』はじめ、アメリカ、イギリスのドイツなど、世界各国の専門誌のコントリビューターとして日本のデザイン情報を発信しています。高橋さんに、デザインのこと、本との出会い、電子書籍についてのご意見をうかがいました。

デザイン・ジャーナリストとして世界に向け日本の情報を発信する日々


――早速ですが、お仕事など近況についてご紹介いただけますか?


高橋正明氏: ブライズヘッドという編集プロダクションで本の制作をしながら、デザイン・ジャーナリストとして活動しています。主にオランダの『MARK』 と『FRAME』という建築とインテリアの雑誌に英語で発表していますが、日本の雑誌にも書いています。

――高橋さんがデザイン・ジャーナリストになられるまでのお話をうかがえますか?


高橋正明氏: デザインやアートは子供の頃から好きだったのですが、学校を卒業したあとは、直接デザインとは関係ない、専門新聞や言語分析などの特殊な仕事をしていました。それを辞めて海外に出て、デザインを勉強しました。帰国後、商業インテリア専門誌の編集部に入って、その後、独立し、編集プロダクションを立ち上げたのですが、そのインテリア誌に海外のデザイン誌原稿依頼があり、それが僕のところに回ってきたのが海外への第一歩でした。その編集部には、英語で書けるライターがいなかったのです。その時に記事を書いた原稿が評価されて、海外からの依頼が重なり、だんだんとそっちにシフトしました。自分でも売り込みの手紙を書いて、海外の媒体にアプローチもかけましたが。

――それをきっかけに、この分野のお仕事を開拓されたのですね。


高橋正明氏: 建築の業界は狭い世界ですが、日本の建築やアートについて、海外の雑誌へ英語で発信しているケースはほとんどないと思います。もっと日本人が日本の情報を海外に発信すればいいのですが、非常に少ないですね。

――なぜでしょうか。


高橋正明氏: 外国語という壁がありますが、海外では、どのような情報を欲しがっているかということが日本人には分からない。しかも、日本流の原稿を英語で書くのでもだめなんです。欧米人のロジックや発想に沿った記事を書かないと伝わりにくいですね。

――逆に、向こうの方が日本について書いたものを翻訳すだけでは、使える情報にはならないのでしょうね?


高橋正明氏: その通りです。それそれの文化に合うロジックで書くのは難しい作業ですね。日本語と違って、英語では結論を先に出すなど、相違点のポイントはたくさんあります。今クールジャパンと言っていますが、欧米のロジックに合った発信の仕方を知っている人がいれば、もっと日本の文化のクールさ(格好良さ)も宣伝できるでしょうね。

いろいろ転々として、最後に自分の原点となる仕事に戻った


――もともと文章をお書きになるのは、お好きでしたか?


高橋正明氏: 僕は中学生のころから同人誌でアートの批評文や小説や詩を書いていました。だから何十年か時間を経て、自分のポジションにたどりついた。回りまわって最後に自分の原点に来られたという感じですね。

――高橋さんの最初の本はイギリスの出版社から出版されていますね。




高橋正明氏: 最初に原稿を書いた雑誌が、イギリスの『AD』という雑誌で、その版元の専門書築部門のワイリー・アカデミーという出版社から「東京のデザインだけまとめて本にしてみないか」と言われまして、取材と執筆をして出版されたのが、2004年のことです。レストランや住宅などカテゴリー別に最新物件をまとめた本です。デザイン視点から見た東京の案内本です。
取材と言えば、以前は、海外取材の仕事もよくしましたが、僕は、本好きなので、海外取材のたびに、各国都市の本屋街や古書店を回って本を買って、ダンボールにつめてそのまま日本に送っていました。

――日本の書店と海外の書店の違いはどのようなところでしょうか?


高橋正明氏: ニューヨークにも古本屋さんがいっぱいありますけれど、点在していて1カ所には集まっていない。そういう意味では、神保町は、世界に誇る古本街で素晴らしいと思います。書店に関しては、日本もだんだんアメリカ式になってきていて、バーンズアンドノーブルのように、店内でお茶を飲んだりできますよね。ただあの方式が、どこまで続くのかわからない。ただ長居するだけで、あんまり売り上げにならないかもしれないですよね。

――どんな本屋さんがお好きですか?


高橋正明氏: 僕はニューヨークのストランドという古書店が好きですね。店頭に掘り出し物があって、中に入ると倉庫みたいな巨大なフロア二層に本が詰まっている。1日中そこにいられるんです。「8 miles of books」(本が8マイル分ある)というキャッチフレーズがあって、ニューヨークに留学していたころ、暇があるとそこに入り浸って半日以上居ることもありました。

電子書籍と紙が共存する方法は必ずある


――今、電子書籍と紙の本の移行や共存についてはずいぶん議論されていますが、高橋さんはどのようにお考えでしょうか?


高橋正明氏: 電子メディアと普通の紙は共存できると思います。いい方法があるはずです。「電子化もあり、紙もあり」のようにやっていくことが業界的にできるはずです。紙の質感や紙質も大事だし、加工などの美しい技術も価値のある大事な要素だと思います。その意味、印刷媒体はなくならないと思います。

――紙と電子と共存できれば良いですね。




高橋正明氏: 本によっては、内容だけが大事で装丁はどうでもいいようなものもある。実用的なものはそうですね。そういうものは電子化するのにふさわしい。ニュースや時事的なものもそうだと思います。1、2年でコンテンツが古びるものは電子でいい。画集や文芸の作品集、詩集など、雰囲気を大事にしたいものは紙の方がいいと思います。電子じゃ全然気分が出ない。

――辞書や図鑑などはいかがですか?


高橋正明氏: 電子辞書に向くと思いますが、僕は古い型の人間なので、辞書でも、紙の方が良い。自分の引いた単語だけでなく、その前後の単語を見られるからです。電子辞書で検索した語だけを見てもその単語の関連情報や知識が入ってこないからデメリットが大きい気がしますね。語学をやる人はあんまり電子辞書ばかり使わない方が良いかもしれません。

――高橋さんがおっしゃった様に使い分けできるといいですね。


高橋正明氏: 絶対使い分けした方がいい。紙の出版文化が衰弱したり、滅びるなんてことはあってはならないと思っています。

出版社も編集社も、もっとデジタルや販売方法に力を入れるべき


――これからの時代、出版社の役割や編集者の役割はもっと多岐で重要になると思いますが。


高橋正明氏: 既存の出版社はもっとネットやデジタルに力を入れてもいいと思います。今、力を入れているのはまだ少数ですね。まずは、デジタル部門を大きな部署として、しっかりと立て方が良いのではないかと思います。本の売り方もネットで変わったのに、イベント性のある販売方法などに力が入ってない会社が多い。本を売るにしても、そのファンを集める必要がある。まず、ファンの層を作って、それを集め、活用する必要があるという発想がないんですね。

――ファンを作るとはどういうことでしょうか?


高橋正明氏: 良いものを作って売る前に、それを支持してくれる層を開拓する必要があるんです。「イベントをやりますよ」とか、「こういうものを作っています」と告知したり。まずはネットやメールを使って告知しつつ、作っている人の顔を出すといったことをやっていく。そういう切り替えがまだできていないですね。出版物の電子化はまだ一部のセクションでやっている会社が多いようですし。

――電子書籍なら、日本の出版物でも、英語に翻訳されて世界中の読者を得やすいですよね。


高橋正明氏: そういう意味で電子書籍で出すことで、広く読まれる可能性が広がりますね。

普通の人の目線でものを考えるというのが大事なこと


――高橋さんは様々なことに取り組まれていると思うのですが、一貫したご自身の中でのテーマはございますか?


高橋正明氏: テーマとしては、建築とかデザインを一般のオーディエンスに理解しやすい形で提供することですね。社会に開いて皆で語り合いたい。特に建築の場合は、業界の性質、上から目線のことが多いので、それを皆の目線に降ろしましょうと。それから、コミュニティーを作る建築を作りましょうという考えもあります。コミュニティーデザイナーの山崎亮さんがやっている活動に近いですね。要するに、「普通の人の目線で考えましょう」ということなんです。あんまり高尚に考えすぎると硬くなりすぎてしまう。柔らかくなくてならない部分あるので、皆で学び、楽しみたいですね。

――最後の質問にさせていただきますが、今後の展望をうかがえますか?



高橋正明氏: 建築と社会との接点をもっと考えるということをやっていきたいですね。つまり作家性ばかりをあまり考えすぎず、プロセスとかプログラムをもっと考えたい。皆で作るという考え方で建築やデザインを考えるという方法をウェブで推進していきたいと思っています。業界内ではそういうことを嫌がる人もいるので、なかなか難しい。建築家というのはエリート教育を受けていますので、良い意味でも悪い意味でも、通俗性が好きではないらしい(笑)。

―― 一般的にならないと先細りになっていくとお考えですか?


高橋正明氏: 最近、『建築プロフェッションの解法』という本を書きましたが、これは、建築家の職能と職域を再考しましょうという提案をした本です。建築家の反応としては、「わかっているんだけど、できないんだ」というのが多かったですね。私としては、もっと普通のビジネスや常識の視点で考えませんかと言っているだけなんですが、難しい部分がたしかにある。ただ、普通のビジネスとは思いたくないところが設計者にはあるのではないかと思います。それも一理あり、高度な専門知識を駆使し、芸術性も求められますから。とはいえ、あまりそう高尚に考え過ぎないで、歩み寄りながら一緒にやっていきましょうというのが僕の考えです。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 高橋正明

この著者のタグ: 『ジャーナリスト』 『デザイン』 『海外』 『紙』 『書店』 『建築』

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