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世界中の本好きのために

大山顕

Profile

1972年11月3日生まれ。千葉県船橋市の準工業地域の"ヤバ景"に囲まれてすくすくと育つ。1998年千葉大学工学部修了。制作・論文のテーマは「工場構造物のコンバージョン提案」。子どもの頃から工場や工事現場を遊び場とし、学生時代には工場写真を撮っていた生い立ちが、この論文に結実。同時に在学中から団地の写真も撮り始める。卒業後松下電器株式会社(現Panasonic)に入社。シンクタンク部門に10年間勤めた後、フォトグラファーとして独立。出版、テレビ出演、イベント主催などを行っている。
【HP】http://www.ohyamaken.com/

Book Information

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写真と文章で、「自分が気づいた面白いこと」を発信する



工場・団地・ジャンクション。日本の「ヤバい」景観を紹介している大山顕さん。お仕事の話をうかがっているうちに、紙の本の代わりではない電子書籍や、銀塩カメラの代用ではないデジタルカメラのあり方に話が及びました。

自分を「写真家」だとは思っていない



大山顕氏: 僕の仕事は団地や工場、土木構造物などのインフラを興味の赴くままに撮ることです。最近は東京都や首都高速道路株式会社、UR都市機構などから声をかけていただいて、お邪魔して写真を撮っています。その記事を『デイリーポータルZ』や雑誌に連載しています。
僕は自分を写真家だと思っていないんです。写真家というのは、アーティストだと思います。僕はそうではないし、でもドキュメンタリー志向でもない。団地がコレクションできないから写真を撮っているだけで、絵が描けたらイラストを描いていたかもしれないですね。心持ちとしては、資料として保存するという意味と、あとは「皆に実物を見てもらいたい」という気持ちがありますね。

――写真は、実際にその場所に足を向けてもらうためのきっかけの1つということでしょうか?


大山顕氏: そうですね。あとは写真と文章の組み合わせです。僕よりうまい写真を撮る人も、うまい文章を書く人もいっぱいいる。でも両方を組み合わせでやる人がいない。今は肩書を「"ヤバ景" フォトグラファー / ライター」としていますが、自分がやっていることにちゃんとした名前を付けたいと思っています。

「工場」や「団地」が気にならない人の方こそ不思議


――どうして「工場」や「団地」なんでしょうか?


大山顕氏: 僕が産まれ育ったのが千葉の船橋で、準工業地域なんですね。野山で遊んだ経験がなく、工事現場や工場街で遊んでいて、楽しいと思ったことが今も続いています。
僕以外の皆も、日常の中で何か気になることがあると思うんですが、見た3秒後には忘れてしまう。僕はそれをずっと気にしているタイプの人間というだけですね。心ない人は、僕のことを「団地や工場を利用しているだけだ」とか、「浅はかだ」とか言うんです。「浅はかで結構です、同じことをやってみろ」と思う。
「見て」「めでる」ことは、理屈を並べることよりも簡単だと皆思っている。でもそれは、大間違いです。「見る」ということは、すごく難しいことですよね。人は大人になるほど「見ない」。皆に工場や団地とかの写真を見せても、「ここ何?」とか「ここはどうしてこうなっているの?」と、すぐ言い始める。僕は「このピンク色はどうかしてないか?」みたいな話をしたいのに、そこを見ていない。意味とか歴史を知ると皆すぐ「見る」のをやめてしまう。見終わった後、あれが何色だったかどんな形だったかも全然覚えていない。
「見る」のには訓練が多分必要で、「理屈」を語ることよりも同じぐらい難しいことなのに、皆バカにしがちですね。

今は自宅も元工場


――どんなところで取材したり、記事を書いたりされていますか?


大山顕氏: 取材はいろんなところに行って、作業は全部自宅ですね。
最近元工場をコンバージョン(用途転換)のためにリノベーションした物件に引っ越しました。「ポンパドウル」というパン屋さんの創業の地ということで、川崎のそばにあるんです。
パンを作るラインが入っていたところを3つぐらいに区切って、完全に住宅としてリフォームされていて、快適です。コンクリートがむき出しなところに、白くきれいに二度塗りしてあるんですが、昔、パンを作る装置が釣って固定してあったようなコンクリートの穴が空いていたり、天井も3.5メートルぐらいと高いし、荒々しい感じが気に入っています。

――独立されてから、好きなことだけをやってこられた理由は何でしょうか?


大山顕氏: ご存じの通り、フリーのフォトグラファーやライターでは、本を書いた印税では食っていけないので、そんなに稼いではいないんです。ただ、Panasonicでずっと働いていたころに経験したことなのですが、入社後半年以上研修をやって「松下幸之助の思想」ということを学ぶんですね。

――そこで松下幸之助の思想を教え込まれるんですね。


大山顕氏: 実は当時、教えられた思想はほとんどわかりませんでした。「企業は社会の公器であって、お客さまの役に立ったから対価として、お金がもらえるのであって、お金をもうけようと思って企業活動をやってはいけない」ということを教わるんです。



そういうことは、ずっときれいごとだと思っていたんですけど、10年目に北京オリンピックで、北京にPanasonicのショウルームを作るというプロジェクトがあった。ショウルームなので、直接ものを売る場所ではなくて「企業の考え方」とか「商品のいいところ」というのを展示したりする。それで社内のいろんな人にリサーチをするわけです。そこでブランドのことをずっと考えている人たちと一緒に仕事をして、10年目にしてその意味がはじめてわかったんですね。
心底ひねくれものの僕がようやく「やっぱり企業はいいことをしなきゃダメだ」と思ったんです。そういうことを考えながら仕事をしています。

団地も工場も、昔の人の知恵の集大成


――大山さんは普段どのような本を読まれるのですか?


大山顕氏: 仕事では特に資料を必要としないので、趣味の読書だけですが、昔からずっと好きで読んでいるのは、海外の推理小説です。ディクスン・カーなどの密室物が好きですね。

――最近読んだ本で面白かった本はありますか?


大山顕氏: 最近の絵本じゃなくて、昔からあるものらしいですが、加古里子さんという有名な絵本作家の『地下鉄のできるまで』(福音館書店)という絵本が好きです。子ども向けですが、「開削工法」についても載っている。結構事細かに、加古里子さんのほんわかした絵でちゃんと描かれていているんです。
同じシリーズで『かわ』っていうのもあって、これは川がどうやって海まで注ぎこむかを描いてあって、当然「ダム」があったり、「護岸」の整備の仕方まで描いてあったり「工業地域」では「工業用水」として捨てられるということが多いみたいなことまで説明してある。
僕がやっていることや、面白いと思っていることが、過去の偉大な人物たちがやってきたことの繰り返しだということがわかって面白いですね。

写真集の電子書籍は課題が多い


――もし今後ご自身で「電子書籍」を出版されるとしたら、どういうことに取り組みたいなと思われますか?


大山顕氏: 今、電子書籍や「自炊」について、ニュースになるのはビジネス寄りと、法律の話ばっかりで、「写真集」が電子書籍でどうあるべきなのかということを誰も語っていない。
この前メディアファクトリーから、文庫本版の『工場萌え』の本を出す時に電子書籍版も一緒に出しました。本をそのまま移行しただけはでもったいないと思って、「もっとこういう風にしてくれ」という要望も出しましたが、それはフォーマットや色々な制約でできないといわれました。
「文字の電子書籍」と「写真の電子書籍」で最大に違うのは、文字は組みなおせば小さな電子のデバイスでも充分読めるけれど、写真は小さくなってしまうところですね。写真家としての写真集っていうのは、大きい版をどれだけ出せるというところにかかっている。僕の写真集もたくさんありますが、値段が高い。写真集って普通は買わないんですね。そもそも写真集はビジネスとして全然美味しくないし、売れなくても心意気だけで出しているようなところがあります。写真集は書籍のビジネスとしては終わっていて、あれこそ電子書籍でどうにかした方がいいんじゃないかと思います。

――たしかに、写真集についてはあまり聞かない話です。


大山顕氏: 僕が一番何がやりたいかというと、僕はアーティストではないので、普通に写真書がやりたいんです。
電子書籍なら全体を見て、部分を拡大することができる。紙の写真集でそれをやろうと思うと、どうしても大きいものを作らざるを得ないので、費用がかさむし、売れない。でも写真データならできる。僕が撮っている写真はものすごく高解像度なので、かなりの大きさまで対応できる。それで「電子書籍版も出す」という話があったので、拡大できるようにしようといったら「データ量に制限があるからできない」と言われてしまった。いかに電子書籍が写真のことを考えていないのかがよくわかりました。データ量が大きくなるとダウンロードが面倒だとか、デバイスによっては動きが重くなるとか不都合がある。
僕は、電子書籍版になったら写真集の見方が大きく変わって、ビジネスとして死んでいる写真集を、もしかしたら新たに生かせるチャンスだと思うんです。

――ビジネスチャンスかもしれないですよね。


大山顕氏: だから、こういうことに興味がある出版社がいればぜひ一緒にお仕事したいですね。ただ一方で、アーティストは嫌がると思います。アーティストの写真というのはいかに切り取るかということなので、拡大して見ることはアーティストの視点とは違う。僕が撮る写真は資料的なものなので、むしろ、拡大して色々な見方をしてほしいんです。写真を見て工場を見に行ってほしいので、地図がついていたり、どこに行ったら何があるかという情報が重要ですね。
理想的には電子書籍から地図などにリンクが張りたいんですが、そういうこともいまは難しいです。

――大山さんの写真集を、読者の方々が裁断、スキャンして電子化されることについてはどのように思われますか?


大山顕氏: それならデータを渡したいぐらいですよね。写真のクオリティーが落ちちゃうから、出版社も渡してやれよと思います。僕が写真集に使っている写真は全部「Flickr」に上がっていてライセンスもクレジットさえ入れてくれれば、商用利用して改変してコピーして、なんなら写真集を出してもらっても構わないというポリシーです。僕はネットでやっていて知られるようになってきて、とにかくパブリッシング、意見というか、面白いと思っていることを世に出したいだけですよね。

次にやりたいのは「ゴルフ練習場」と「皆で撮る」サービスづくり


――今後書きたい、撮りたいテーマはございますか?


大山顕氏: 最近は「ゴルフの練習場」を撮っています。いわゆる打ちっぱなしです。あれも皆まじまじと見ないでしょう? でもあれほど奇妙なものはない。だって住宅街の真ん中に、高さ30メートルとか40メートル、大きいものになると100メートル以上あるような、柱とネットだけの構造物が住宅街や田んぼに現れて夜はライトアップされている。「何だあれ!?」みたいな話だけど、皆「あ、ゴルフの練習場ね」って意味がわかると奇妙さをスルーするんですよ。
宇宙人が日本にやってきたら有名建築家の建築なんて、彼らは見やしない。それよりもゴルフ練習場を見て「あれ何!?」っていうと思う(笑)。だから撮りたいと思ってずっと撮っていますね。もう1つは最近写真のワークショップをやっていて、それを継続したいと思っています。

――ワークショップというのは?


大山顕氏: 僕が書かせてもらっている「デイリーポータル」的なことっていうのは、デジカメがないとできない。皆写真を撮る時は写真家になるためのメソッドしか書いていない雑誌を参考にして、「絞り」がどうの「被写体深度」がどうのっていい始める。街なかを歩いている写真好きが何をやるかというと、いい写真になりそうな被写体を探すんです。それではどこかで見た写真家がすでに撮ったような写真になるし、どんどん面白いものが見えなくなる。
そうじゃなくて、撮って後から見直してみて「考えてみたらゴルフの練習場って変だな」みたいなことを発見するためにデジカメはあるのに、皆が間違った使い方をしているから、「もうやめろ」と。「君たちが撮りたいものを撮っちゃダメ、僕が撮れといったものを撮りなさい」っていうあるまじき写真のワークショップをやっているんです。

――面白いですね。


大山顕氏: いつも「君たちは別に写真家になりたいわけじゃないよね?カメラを使ってもっと楽しいことっていっぱいできるのに」と教えています。毎回大成功ですごく面白い。そろそろ僕がやってきたことを、やり方自体を分けていくことをしたいと最近思います。もしかしたらパブリッシャーが囲い込んでいない写真を皆で電子書籍とか、「iPad」で流通してみるっていう進展の方が早いかもしれないですね。今は、皆で撮ることをもっとやったらいいのにと思っています。撮り終わった後、喫茶店や飲み屋へ行ってその場で皆で見ると。「iPhone」で撮ったとか、デジカメで撮ったっていって、背面の液晶で皆見ているけど、そんな風に「iPad」で見て、「楽しかったね」って、そこでデータが消えて二度と見ないでもいいぐらいだと思うんですよね。そういう風な使い方ができるサービスとかビジネスの方が健全だと思います。「俺はこれが面白い」と思うということを、もっといろんな人に発信するべきなのかもしれないですね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 大山顕

この著者のタグ: 『ライター』 『写真』 『写真家』 『建築』 『フォトグラファー』 『工場』

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