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世界中の本好きのために

中島義道

Profile

1946年福岡県生まれ。東京大学法学部卒業。同大学院哲学科修士課程修了。ウィーン大学にて哲学博士号取得。 14年間勤務した電気通信大学を2009年に辞職。現在は哲学塾主宰、学生から熟年までさまざまな職業の男女塾生と共に、カント、フッサール、ニーチェなどを丹念に読み進めている。近著に『ウィーン愛憎』(中央公論社)、『哲学の教科書』(講談社)、『孤独について』(文藝春秋)、『悪について』(岩波書店)、『カイン』、『働くことがイヤな人のための本』(共に新潮社)など多数。

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中島義道的人生の極意、何かが手に入ったところで人生なんてつまらない、あとは死ぬだけ



『人生に生きる価値はない』『私の嫌いな10の人びと』など、厭世的でありながら「戦う哲学者」とよばれる中島義道さん。世の凡人が望むものをすべて(ではないが)拒否して心のままに生きてきた結果、好きなことのみをするというわがままを通しながら、沈没もせず社会的に排斥もされずに生きてきた。本人は、それを「うしろめたい」と言う。なぜそのような精神構造をもつに至ったか、まわり道の多かった人生の折々で、大切にしてきたもの、捨ててきたもの、独特の価値観に迫った。

哲学をしたい人が来ればいいだけの哲学塾、「会長にもバカ」って言っちゃう


――中島さんは、戦う哲学者というイメージが強いと思いますが、今でもそうですか?


中島義道氏: もう戦っていません。閉じこもっちゃっているんですよ。この仕事場から歩いて3分ぐらいのマンションが自宅なんですけれども、電車に乗るのは月に1回ぐらいで、完全にひきこもり生活です。大学は3年前に辞めて、今はここで「哲学塾」を開いています。作家っていうのは、あんまり他人と組織の中でやっていきたくないんですよ。私は大学に25年勤めましたが、教授っていうのがイヤでしょうがなくてね。教授って偉くないのに偉ぶって高い給料をとってる勝ち組集団でしょ。私は基本的に自分が負け組だと思っているからね。別にお金をもうける必要もないし。

――「哲学塾」は、どんな方が受講されますか?


中島義道氏: 10年以上前も哲学ブームがあって、電通大で「無用塾」っていう素人さんたちのための哲学の塾を無料で開いていたことがありました。「哲学塾」は今まで400人ぐらい来て、今も150人ぐらいいるんじゃないですかね。私の本の読者が三分の二ぐらいいて、全体に学歴が高い人がたくさん来ます。有名大学出身で修士が2~3割、理系の人が多くてお医者さんも5~6人います。エリートサラリーマンや会長さんもいます。中には、中島っていうのはどういうジジイか見てやろうとやってきて、1回だけのぞいていなくなる人もいますけどね。なぜか関西とか東北とか北陸のような遠くから来ます。中には、ひきこもりの人や病的な人もいて、仕事もしていないからお金もないのに、深夜バスで名古屋や長野のほうから来たりしています。

――みなさん、哲学を学ぶ目的というのは何でしょう?


中島義道氏: 私は今66歳ですが、私たちの世代から前の世代っていうのは、哲学がしたくてもできなかったんですよ。貧しくて、すぐ働かなくちゃいけなかったから。哲学がやりたくても法学か経済にいったほうがメシは食える。でもそういう人たちがずっとカントを読んできて、60代になってまた読みたいって思うんですよ。それでお医者さんとか社長さんになっていても、だいたい頭が硬くなっている。人生って、どんなことも、その人の才能や個性や人間的魅力をうまく生かせるかどうかが大事なのに、人はどうしても社長とか会長とかいう地位で人を評価してしまう。よくいわれる「中二病」みたいな自意識過剰の人がいてね。だから私は、逆に「会長のくせに頭悪いですね」って言ったりするわけ。ここはカントならカント、ニーチェならニーチェを読んで、そこで勝負するというだけの空間なんです。



この前、「先生、カントのいろいろな言葉は会社では何にも役に立ちません」と言われましたが、そういう人にこそ来てもらいたい。俗世間でバリバリでやってきて、哲学に変な思い入れがない人。私は哲学を40年やっていますから天皇が来たって大丈夫。来なくて残念なのは暴力団。脱獄者はちょっと怖いですけれど、犯罪者のような社会的に排斥されている人が来たら、かえって私が打ちのめされるかもしれないけど。

――受講してくれる人に、なかなか言えないような言葉を率直におっしゃるのは、哲学者としての使命感や愛ゆえでしょうか?


中島義道氏: いやぁ、愛じゃなくてね。私のために自殺未遂とか自殺しちゃった人もいると思うし。「睡眠薬をまた飲んだ、死にたい」なんてメールも来ます。私に対してものすごく思い入れが強くて、私に自分の死とか哲学的な思いを送ってくる人に対して「全然ダメです」って突き放したら死んじゃうかもしれないけど、ウソはつきたくないし、わりと危険なわけですよね。2チャンネルやメールで「バカ」とか「死ね」とか散々言われていますよ。でも私は、自分が本を書いてもらう印税も授業料も汚い金だと思っていて、ものすごく自責の念があるので、たたかれてかえってバランスがとれていると思う。日本昔話の正直じいさんです。いつももうけたくない、もうけたくないと言ってある程度もうけちゃうんですけれど。

――もうけることに罪悪感を抱いてしまうのですか?


中島義道氏: 例えばイチロー選手も、もちろん大変だと思うけれども、私の考えでは好きなことをやっているんだから年収200万円ぐらいでいいと思うんですよ。それよりも他人のために頑張っている看護婦さんや消防士に何億でも払えばいいと思うけれど、資本主義ってそうなっていないですよね。私の場合は、ウィーンに借家があって、夏はヨーロッパにいるんですよね。そうすると読者は、私のとんでもない人生を「これだけダメな人間でもうまくいくのか」って期待できたりもしますが、場合によってはその通りにならないとそれが憎しみに変わって、「中島はずるい、ペテン師だ」ってことになるわけですよ。そういう人が私を襲うことはありえます。この前、長瀞に行った時、ステッキや木刀を売っていたので、護身用に買っておこうかと思ったぐらいです。

著書一覧『 中島義道

この著者のタグ: 『海外』 『哲学』 『考え方』 『生き方』 『働き方』 『作家』 『きっかけ』 『大学』

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