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世界中の本好きのために

至道流星

Profile

1976年生まれ、東京都在住。2009年に第七回講談社BOX新人賞にて大賞を受賞し、小説家デビュー。本業は会社経営者。主な著作に『大日本サムライガール』(星海社)『羽月莉音の帝国』(小学館)『雅の婚カツ戦争』(幻冬舎)『雷撃SSガール』(講談社)『好敵手オンリーワン』(講談社)『神と世界と絶望人間』(講談社)などがある。

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昔は漫画が出版社を支え、いまはライトノベルが支える



至道流星氏: 昔はライトノベルの役割が漫画だったんですよね。漫画は僕が子どものころなんて、すごいゴミみたいに扱われていた訳ですよ。文化としてすらも見られてない。あんなものを電車で読むなんて、ゴミくずだみたいに偉い人たちが本気で言っていたんですよね。ちょうど、当時の漫画の立場がいまのライトノベルです。これもいずれ、変わってくると思います。漫画はかなり叩かれに叩かれてきて、やっとここにきて文化として認められるようになりました。まだライトノベルは全然その辺はまだまだです。それはやっぱりそういう業界の構造、出版社の構造が影響してるっていうのはありますね。

――ライトノベルも漫画と同じ道をたどる可能性がありますか?


至道流星氏: 漫画は文化として確立されましたけど、ライトノベルは僕は分からないなと思っています。漫画は、すごく日本経済がいい時期に、大衆文化として確立したという事情がありますよね。ただ、いまのライトノベルの取り巻く時代状況は全く別で、日本経済が急激に縮小している最中にあります。出版社が衰退しているし、経済も衰退してる。いま、出版業界は粗製、乱造によってとにかく数を売って、品数を出して回していくっていう状況になっていますので、当時の漫画を取り巻く状況とは、やっぱり違うかなという印象がありますね。だからライトノベルが文化として育つかどうかっていうのは、僕も何とも分かりません。難しい情勢だなと感じます。

ただ、僕としては別にライトノベルに軸足を置いている訳でもないし、自分がライトノベルを書く作家だと思っている訳じゃないんです。単純に若い人に対して作品を届けたいと思っているので、その自分の作品が結果的にライトノベルのフォーマットになることもあるという風に考えているんです。だから今後、文芸のフォーマットになることもあるのかもしれない。もともと僕が受賞した講談社BOXっていうのは、ジャンルが文芸なんです。ほとんど正社員で固められた文芸の部署なんですよ。だから、講談社BOXの流れを汲んでいる星海社も文芸の部署なんですね。在籍する編集者も全部、誇り高い文芸の人たちですよ。僕自身はどのフォーマットで出すかというのは、全くこだわりはないですね。

――特定のジャンルにこだわるのではなく、その時に伝えるツールとして選んでいらっしゃるんですね。


至道流星氏: そうですね。後は、編集者との相性とか、編集者の熱意を見たりしつつ、自分が出したいと思うところに原稿を提供していく。星海社は、僕の原稿に対してすごくコミットしてくださって。最初から色々なものを準備したのが星海社だったんですよ。普通あそこまで作品が出る前に準備はしないですよ。それはやっぱり、編集者とか会社全体がどうしても僕と付き合いたいと言ってくださって、形でも示してくださっているので、僕としては当然星海社に原稿を提供しますっていうことでやってるんですね。

――本当にそういう意味では世の中に発信して何かを変えるという意味では、情熱っていうのは本当に大事なんだなと分かりますね。


至道流星氏: そうですね。

電子書籍には問題が多過ぎる


――電子書籍についても伺えればと思います。書き手として、電子書籍に対して可能性を感じることはありますか?


至道流星氏: 可能性はあまり感じないですね。自分も事業家ですから、自分が電子書籍分野で事業を起こしたいかと問われたら即座にノーです。まだ出版社なら分かるんですけど、電子書籍の出版社をやってください、社長に就いてくださいって言われても、これはちょっと考えづらい。事業としての成立は無理だという印象を持っています。

――どういったところが難しいと感じますか?


至道流星氏: 電子書籍のイメージっていうのは、商売人として見れば非常に悪い方向で固まっていると思います。電子書籍は安くて当然という認識が人々の頭にある。後は、電子書籍の時代になると、著者が直接読者とつながって、そういうのがよい方向で宣伝されてますけど、実はそれはすごく悪いことなんですね。作品のクオリティーも下がりますし、粗製、乱造の元になります。いまのライトノベル業界がそういう方向に陥ってるんですけど、電子書籍になると、もっと大規模に粗製、乱造の世界になっていくっていうのが目に見えている。そういう中で、ビジネスとして確立するのは無理ですよ。だから商売としての可能性は感じていない、というのが実際のところです。

本というのは、この作品を世の中に送り届けたいという、色々な人の情熱があってひとつの形になっています。小説家志望者って世の中に10万人位いて、不況になればなる程増えています。その人たちが直接作品を出すツールになり得るということは、プラス側面で報道されてますけど、それは恐ろしい世の中で、小説に限らずあらゆるジャンルの作品のクオリティーは目に見えて下がってくると思います。そしてデジタル化すればする程、本や映画やゲームやテレビ番組の境目が無くなっていく。

コンテンツが膨大になれば、クオリティー保持が難しくなる



至道流星氏: だから、そういう中でコンテンツの作り手は膨大になる。とにかく、自分の作品が商売にならなくてもよいから読んでくれって人がいっぱい出てくる。そういう人たちがたくさん来る状況っていうのは、結果的に出版業界を成り立たせなくします。映画業界も音楽業界もゲーム業界もテレビ業界も、崩壊まではいかないにしても、かなり厳しい状況に追いやることになるのが、デジタル化というものじゃないかなと思います。

――読み手としてはいかがでしょうか?


至道流星氏: 読み手としては確かに、紙もあればデジタルもあればっていう選択ができるのは単純によいことだと思います。デジタル化の流れ自体はもうこれは絶対に逆らえない。必ずある段階で、世の中のコンテンツが一気にデジタル化していくタイミングが来ると思うんですね。ただ日本の場合、著作権処理の問題もありますし、出版社の著作隣接権もまだまだ曖昧なところがあったりしますよね。端末も普及しない。加えてフォーマットが乱立し、これもどうなるか分からない。まだあまりにも問題が多過ぎる状況ですね。それでも中長期的には、デジタル化が一気にがっと来るタイミングが必ずあると思います。その時には、世間で喧伝されているようなビジネスチャンスではなくて、ビジネス縮小のタイミングじゃないかなという風には考えてます。出版社も小説家も他の業界のクリエイターの方々も、ビジネス縮小の対応策を今のうちから練っておくことが、結果的に生存競争では有利になるかもしれませんよ。

――その中でどういったことが大事になってきますか?


至道流星氏: 対応策の大きな柱になるのは、やはりブランドでしょうね。その作家しか書けない作品を世の中に送り出せているかどうか、そして出版社としてのブランド、ゲームメーカーとしてのブランド。この会社が取り組むコンテンツは一定のクオリティーを満たしてるっていうブランドがあるところに人が集まって来るはずなので、そういうブランドをデジタル化のタイミングまでに確立させることができるかどうかが、ひとつの勝負所なんではないかなと思ってます。クリエーターとしてのブランドを、そのデジタル化の波が来るまでに、どれだけ確立できるかが一つの勝負ではないかなと。

社会を変えるために、淡々と作品を送り出す


――最後に、今後の展望はどんなものを描いていらっしゃいますか?


至道流星氏: 自分が作品をちゃんと世の中に送り出せば、1人でも2人でも影響を与えることができ、それが社会にとってプラスになるであろうと考えて、僕は淡々と原稿に取り組むだけです。原稿以外のことは、僕は全く意識してないですね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 至道流星

この著者のタグ: 『漫画』 『出版業界』 『プログラミング』 『ライトノベル』 『きっかけ』 『小説家』

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