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世界中の本好きのために

鎌田浩毅

Profile

1955年、東京生まれ。東京大学理学部卒業。通産省(現・経済産業省)を経て97年より京都大学大学院人間・環境学研究科教授。専門は火山学・地球科学・科学コミュニケーション。テレビ・ラジオ・雑誌・書籍で科学を分かりやすく解説する。火山研究のほか啓発と教育に熱心な「科学の伝道師」。京大の講義は毎年数百人を集める人気。モットーは「面白くて役に立つ教授」。著書に『一生モノの勉強法』『座右の古典』(東洋経済新報社)、『ラクして成果が上がる理系的仕事術』(PHP新書)、『世界がわかる理系の名著』(文春新書)、『火山噴火』(岩波新書)、『マグマの地球科学』(中公新書)ほか多数がある。雑誌『プレジデント』の「新刊書評」コーナーで本の紹介をしています。
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人との出会い、本との出会いは自分の可能性を無限に広げてくれる。



鎌田浩毅さんは、京都大学で火山学の研究活動を行う傍ら、書籍やテレビ番組等さまざまなメディアで火山の噴火や地震等についてわかりやすく解説しています。また専門分野のほか、勉強法や時間管理、人脈等をテーマとしたビジネス書の著者としても人気を集めています。鎌田さんの多彩な知的生産の方法を探るべく、お仕事への想いや、執筆スタイル、また電子メディアの可能性等について伺いました。

一般向け書籍は徹底的に見直し、わかりやすくする


――鎌田さんはご専門の火山学に関する著作のほかにも、さまざまな分野の本がヒットしていますね。


鎌田浩毅氏: 僕の著作には火山とか地球とか、専門家としての本と、時間の戦略とか人脈などのビジネス分野の本があります。面白いのがここ10年ぐらい、ブログなんかで「鎌田浩毅って火山学者に同姓同名の人がいると思っていたけれど、裏の著者プロフィールを見たら同じ人だった」というコメントを見るんです。それはある意味とてもうれしいことですね。

――研究者として書かれる論文と一般向けの書籍では、書き方はどのように違いますか?


鎌田浩毅氏: 論文は英語で書くので、もちろん言葉が違うのですが、読むのが専門家だから互いにツーカーなんですよね。でも、一般向けの本は、地震とか火山とかを全く知らない人に理解してもらわないといけません。論理や組み立て方も、論文は三段論法で次々に進んでいきますが、一般向けの本ではあまり話を積み上げないで、たとえ話を出すなどの工夫が必要です。あと、最後まで読んでもらうためには面白くなきゃだめなので、エンターテインメントの要素が要りますね。

――一般の人に興味を持たせる文章を書くために、工夫されていることはありますか?


鎌田浩毅氏: 僕は書いてから、編集者に送る前に30回ぐらい直すんです。学生とか、専門家じゃない人に読んでもらって、わからないところを指摘してもらう。そうすると、僕らにとって当たり前な言葉が全然わからない、ということがある。「圧力」とか「密度」とか言うと、途端にわからなくなるので、それをていねいに説明しないといけない。例えば「圧力」だと、「ゴムまりを押さえる」とかの例を出すと、イメージがわくでしょう。特に新書は売れなきゃいけなくて、かなりハードルの高い出版物ですね。PHP新書の『火山はすごい』が僕の最初の本なんですけれど、書くために1年以上かかったんです。読者が最後まで読み切れるように、編集者の方もしっかり、じっくりと直してくださって、やっと出版されました。

テレビ出演で気づいた「アウトリーチ」の重要性


――一般の方々に向けて積極的に発信されようと思われたきっかけは、何かあったのでしょうか?


鎌田浩毅氏: 2000年に北海道の有珠山が噴火して、翌日に全国ネットのテレビニュースに出たんです。僕としてはわかりやすく説明したつもりなんですが、学生や事務員の方に「説明が難しくてわからなかった」と言われたんですね。具体的には「有珠山はもう大丈夫ですから安心してください」と言ったつもりなのに、話が難しいので、反対にこれからややこしいことになる、ととらえられてしまった。一般向けの説明になってなかったことでショックを受けたんです。

僕の専門は火山学ですが、火山の噴火では人が亡くなるわけです。1991年の雲仙普賢岳の噴火でも、火砕流で亡くなられた方がいますよね。それを防ぐという目的が僕の基礎研究の先にあるんです。でも、研究する人はいるけれど、それを一般に伝える人がいない。いい研究をしても、それが最後の出口で伝わらなかったら、社会貢献できない。その出口のところを「アウトリーチ」というんです。「啓発教育活動」と訳しますが、2001年くらいに、そのアウトリーチを頑張ってやっていこうと思ったのが本を書くようになった始まりです。本のほかにもテレビ・ラジオ、講演会、それから「出前授業」ということで、高校、中学、小学校で授業をする活動も始まりました。

――一般向けのアウトプットについて、最も苦労されたこと、努力されたのはどういったことでしょうか?


鎌田浩毅氏: 全く初めてなので、1からの勉強でした。例えば、文章は作家の名文を研究して、夏目漱石など昔の文豪がどういう風に人の心をつかむものを書いたか、というのを研究しました。名文を科学者の目でどこが上手なのかということを書いた本が、PHP文庫の『使える!作家の名文方程式』ですが、もともとは自分がわかりやすく書くために勉強した成果です。作家になる人は学生のころからそういう言葉の勉強をするんでしょうが、僕は45歳くらいから始めたわけですね。

また、しゃべることに関しては、自分の講義や講演を全部ビデオで撮って、学生と一緒に見ました。そうすると「先生、これはわかんないですよ」とか言われるんですね。ムッとするけれど、そこはグッと我慢する(笑)。学生とか、素人の人の言葉は、僕にとって金言なわけです。そのポイントは、自分を客観的に見ることです。文系の人に文章を読んでもらうのもそうだし、講演会も授業も、何にも知らない人の目で見てもらうと自分のアラが見えてくる。それで10年たって、幸い本も売れるようになったし、「京大人気教授」とか本のタイトルに称号もつけていただきました。あれはもともとNHKテレビが勝手につけたんですけどね。

火山の研究を始めたのは「偶然」からだった


――鎌田さんが火山学をライフワークにされたきっかけは、何だったのでしょうか?


鎌田浩毅氏: 大学を卒業して就職1年目に熊本県の阿蘇山に行って、初めて火山に触れたことです。そこで、日本離れした風景というか、大自然の雄大さにまずビックリしたんですね。その時、のちに僕の先生になる小野晃司さんという人が、岩石とか地層についてていねいに説明してくれて、それが見事に面白かったんです。本物に触れて、さらに教えるのがうまい先生がいると、絶対ハマるんですよ。

――大学を卒業されてから本格的な火山の勉強を始めたということですが、大学ではどのような学生でしたか?


鎌田浩毅氏: まず、大学時代は落ちこぼれ学生でした(笑)。サークルに4つも入っていて、友人と話すのが好きで友達をたくさん作っていました。東大理学部の地学科を出たのですが、あまり勉強に熱中しなかったんですね。それで地質学から足を洗ってさっさと就職しようと思って公務員試験を受けたんですが、結局研究所に配属されたんです。僕は普通の行政官になりたかったんですよ。日米貿易摩擦が一番盛んなころで、通産省でそういう分野の仕事をしたかったけれど、僕が受けた年はちょうど第2次石油ショックで採用が少なくて、研究所なら枠があるということで研究所に戻っちゃった。そのあと入所1年目に火山に出会って、急にやる気になったんです。人生はそういう「偶然」に満ちていて、与えられたものを楽しむことができる方が幸せだというのが、僕の人生観でもありますね。

本は好奇心を満たし、自分の世界を広げてくれる


――子どものころは、どのようなお子さんだったのでしょうか?


鎌田浩毅氏: 学校の図書室が好きで、小学生のころは図書委員をやっていたんです。放課後は図書室に入り浸っていました。読んでいたのは『ファーブル昆虫記』とか『シートン動物記』とか、それこそ虫や動物が身近に感じられるように、見事にアウトリーチした本ですね。あとシャーロック・ホームズとかルパンの探偵ものも大好きでした。子ども版のシャーロック・ホームズ全集とか、エドガー・アラン・ポーの『黄金虫』も面白かったですね。漢字にルビを振ったり、言葉をわかりやすく書き直しているんです。推理小説って最後まで読まなきゃ面白くないでしょう。それを最後まで読ませる工夫がしてある。だから子どものころに本を読む面白さを知って、読書によって世界が広がったのはとても良かったと思いますね。

――自然科学の分野に進まれたのも、読書によって自分の知らない世界を見たからなのでしょうか。


鎌田浩毅氏: そうですね。これは今でもまったく同じなんですよ。東京へ出張する時に新幹線で必ず本を3冊くらい読むのですが、その時間は今まで知らなかった世界に出会う充実した時間です。時間を有効に使って、そして自分の世界を広げる。僕は自分の専門でない本を持っていくことが多いんです。好きなのは、ギボンの『ローマ帝国衰亡史』ですね。ローマ帝国の有名人がたくさん出てきて、その人生を見事な文章で雄弁に語っている。歴史書であり、人物評伝でもあるという面白さがあります。1冊持っていれば、ヨーロッパのローマ時代という、場所も時代も違う世界に触れることができて、好奇心を満たしてくれる。本は1冊あれば数時間から1日、時には1年ももつわけです。特に古典というのは、1冊あると一生もつ。そういう意味ではお買い得なんですね(笑)。少ない投資で本がこんなに人生を豊かにしてくれることは、小学校のころ最初に知ったのかもしれませんね。

若者の価値観や文化、メディア環境から刺激を受ける


――最近は若い人が本を読まないとか、「活字離れ」などと言われますが、普段から学生と接している鎌田さんは、危機感を持たれていますか?


鎌田浩毅氏: マーシャル・マクルーハンが『メディア論』という分厚い本で言及していることですが、ルネサンス期にグーテンベルクが発明した活版印刷は500年以上の歴史があります。その後、映画、テレビとかメディアが増えると、情報が急に増えるわけです。今は携帯とかインターネットもありますね。人間って常に好奇心の塊で、よりたくさんの情報で刺激を受けようとする動物ですから、読書の時間が減るのは致し方ない部分はあると思います。でも、「活字離れ」で若い人が本を読まないとは言っても、学生に聞いてみると、マイ・オーサー、マイ・ブックがあって、何冊かはしっかり読んでいる。今でも100万部のベストセラー作家も出ているし、良い本は必ず残ると僕は思っているので、あんまり心配はしていないですね。

――学生のメディアとの接し方等の変化は、強く感じられますか?


鎌田浩毅氏: いま僕は57歳で、学生とは30歳以上年齢が離れています。しかも、だんだん年の開きが大きくなる。最初に京大へ赴任したのは41歳でしたが、もう16年もたっていますからね。そして、18、9歳で入ってくる学生たちは、みな若い人の価値観と技術で生きているわけです。スマートフォンにしても、僕らは使いこなせないけど、学生はいろんなアプリとかやって、ソーシャルネットワークもやる。



大学教授の仕事が面白い点の一つですが、僕が知らないことを彼らが教えてくれる。それも、そのコンテンツが年々増えていくんです。若者はいろんなことに興味があるでしょう。映画もそうだし、本も、漫画も、音楽のグループも教えてくれる。それを聞いていると、僕自身が老けないんですよ(笑)。大学なんか良くも悪くも「象牙の塔」だから、昔の学問から一歩も出なくなってしまう。でも、教授が学生ときちんと付き合えると、新しい情報が次々入ってくる。学生とコミュニケーションが取れるということは、実は自分を活性化するための最大の武器なんですね。

――若い人から得た発想が本を書く時に役立つこともありますか?


鎌田浩毅氏: たくさんあります。学生から刺激を受けて本を書くと、それを若いビジネスパーソンにリターンできるんです。例えば、東洋経済新報社から出した『一生モノの人脈術』や『知的生産な生き方』がそうですが、人脈にしても生き方にしても、若い人にはもっと賢く生きてほしいという思いがある。その時、僕らには知恵があるから教えたいことがあるけど、若い人のセンスで書かないと読んでもらえない。でも、若い人と付き合って若い人のセンスで書くと、今度はしっかりと伝わる。その本の中に、50代、60代の知恵が入っているわけです。

――鎌田さんは今もそうですが、本の表紙などを見ても非常におしゃれですね。そのあたりにも若い感性が現れているのではないでしょうか?


鎌田浩毅氏: ありがとうございます。今日は赤いジャケットを着ていますが、毎回授業で服を変えるんです。服装で学生に興味を持たせて、地球科学とか火山学とか地味な学問を教えるという戦略ですね(笑)。大学教授だからといって堅苦しかったり、とっつきにくかったりしてはダメなんです。グレーの背広じゃ若者を引きつけられないので、赤い服を着てにこやかにしゃべって、それで初めて僕の火山学が伝わると思っています。ここ10年ほどボーナスは全部服に使っていまして(笑)、ボーナスがそっくり消える感じですね。

――洋服は主にどちらで買われているんでしょうか?


鎌田浩毅氏: 日本でも買いますが、イタリアやアメリカの火山調査で出張する時に買います。8月とか2月だと、ブランド街のバーゲンシーズンなんですね。しかも海外のバーゲンは8割引とか9割引で、在庫を全部売ってしまう。欧米人は大柄だから割と小さいサイズが残るので、日本人は有利です。それで、1年に15着くらい買って、毎週の授業に備えるんですね(笑)。

電子書籍に良さがあれば、それに乗ればいい


――先ほど、メディアのお話が出ましたが、最近は電子書籍が出版界で話題になっています。鎌田さんは電子書籍については、どのようにお感じになっていますか?


鎌田浩毅氏: 僕は「紙の本の応援団」をしていますが、同時に電子ブックの支持者でもあります。僕の最新刊はKindleでも出ているし、『一生モノの勉強法』や『次に来る自然災害』は、電子ブックでガンガン売れていてちょっとびっくりしているんですよ。世の中は毎日のように変化していて、上手に乗ることができると楽しいし、変化は嫌だと思うとしんどくなりますよね。だから、電子書籍の良さがあればそれに乗ればいいんです。それによって紙の書籍が無くなるわけでは決してなく、両方のいい点が生き残ると思うんですね。どっちかが駆逐されると考えなるのはナンセンスですね。

――電子書籍の良さはどういったところにありますか?


鎌田浩毅氏: 世界中で瞬時に手に入って読めるわけでしょう。特にロングテールの本なんかは、電子ブックで手に入れば、紙の本が図書館になくても手に入る。色々な検索ができることについても有利な点がありますね。今の学生はアプリとかゲームを買うのと同じように電子ブックを買っています。だから僕は逆に、学生から端末の使い方なんかを習っていますね。

それから、出版状況の変化もありますね。最近は紙の本が出しづらくなり、出版総点数を抑えようとしていて、「電子ブックならすぐ出せますが、紙はむずかしい」などとなっています。また、新書だから1万5千部とか2万部とか刷ってもらえるけれど、普通の単行本だと3000部とかです。その点で電子ブックには広まりやすさがありますね。ただ、それだけ紙の本の価値が上がって、紙の本を出しているステイタスが高まったとも言えますね。

「蔵書」としての存在感は紙の本の魅力


――紙の本の良さはどのようなところでしょうか?


鎌田浩毅氏: 50代、60代の人は紙が好きだから、まず本は紙でちゃんと出すべきという意見がありますね。そもそも紙の本で一番大事なことは書き込めることだ、と僕は思っています。僕は本には必ず線を引いたり、自分の感想を書いたりします。そうしていると、学生時代に引いた線とか、20代30代の時の感想が今でも読めるわけです。つまり、本はそのまま人生の記録、自分だけのノートなんですね。あとは「蔵書」としての本という意味があります。好きな本は自分の本棚に持っていたい。紙の本でも、愛蔵版の革装で1000部作って1冊1万5千円とか、あれはあれでとってもいいんですね。だって本棚に並べる時に、ペラペラのペーパーバックよりはやっぱり革装がカッコイイですよね。

――物理的な存在感は、確かに紙の本にしかありませんね。


鎌田浩毅氏: さいきん僕の出した本でも、「電子ブックで読んで面白かったから、紙の本を買いました」という読者が結構いる。それはやっぱり好きな本はそろえたいからだと思います。僕はいつも「ライブラリーを作れ」と学生たちに言うんです。つまり、下宿の本棚にどんな本があるかで、訪ねてきた彼女が、この男が知的か、しょうもない奴かがわかる(笑)。『論語』とかプラトンとか、読んでなくてもいいから、とにかくあればかっこいいでしょ。読めなくても背伸びして、デカルトとか買いこんで並べるのはすごく良いことなんですね。こうやって自分の「ライブラリー」に持っていると、40歳くらいになってパラッと開いて、やっぱりいいこと書いてあるな、なんていうことがあるんです。『論語』なんて50歳にならないと本当の良さはわからない。だから、自分の本棚に古典があるのは人生を豊かにするから、読まなくてもいいから置け、と言っているんです。そういうのも、紙の本が持つ大切な魅力のひとつですね。

――教育、研究分野でも、電子データによって変わってきた部分はありますか?


鎌田浩毅氏: 確かに電子論文は急速に増えてきましたね。電子メディアは情報を早く、かつ大量に発表することができるんです。例えば、科学の世界だと、動画とリンクしたり生データを載せたり、引用文献をクリックひとつでチェックできるわけでしょう。電子データによって研究が加速して、便利になっている点は明らかにありますよね。教科書も同じ面が確かにある。だけど一方では、昔風に教科書に線を引いて、イタズラ書きしながら繰り返して読むこともとても大事なんですね。だから、両方用意したらいいと僕は思います。小学生や中学生はまず電子ブックを面白がるだろうし、一方で紙の本にもいいところがあることを教えたい。両方にそれぞれ面白さと利点があることを知れば、一生じょうずに使い続けることができるでしょう。どっちかじゃなきゃ本が読めないのではなくて、自分は両方とも読めるよ、という小学生中学生が育ってほしいと思います。そういう教育をまずすべきでしょうね。

科学者としては「情報が伝わること」が大事


――紙の本を裁断、スキャンして電子化することについては、抵抗はありますか?


鎌田浩毅氏: やっぱり僕は紙の本が好きなんで、自宅は蔵書の山に埋もれています(笑)。でも一方で、科学者だから「情報の伝達」という点も考えるんですね。僕は火山防災を専門にしているので、情報が広く、早く、正確に伝わることが一番大事なんです。例えば、僕の火山学とか地震学によって皆さんに自分の身を守ってもらうということがある。日本ではこれからも巨大地震が起きます。

新刊の『生き抜くための地震学』のテーマですが、東日本大震災は終わっていないというのが僕の主張で、今から20年後に今度は西日本で起きますよと常々言っています。つまり、南海トラフで巨大地震が発生したら、日本中が大混乱になるだろうから、自分の身は自分で守らなきゃだめなんです。政府にも会社にも頼ることはできない。そういう時は紙の本だろうが電子書籍だろうが、伝えなきゃならないことが伝わることを、火山学者としてはもっとも重要視するんです。人の命を救うためには、自分の本が断裁されるのは嫌だとか言ってられないでしょう。それよりも、僕の発する警告が皆さんにきちんと伝わって、一人でも多くの日本人が生き延びてほしい、という思いがまずあるわけです。



僕の本の半分は、火山学や地震学に関する地味な本です。それらの本によって火山や地球について知ってもらって、自分の身は自分で守ってもらうようにするのが僕の本務なんです。もちろん、知的な職業で食えなくなる人が出てくると困ります。例えば、漫画家さんとか作家さんはそれで食っているわけでしょう。だから、知的財産とかの専門の弁護士の方々にちゃんと守っていただくことは、それはそれで是非お願いしたいですね。地球科学に関しては、京大は独立行政法人になったけれど、国のお金を使って研究や教育をしているわけですから、僕らの知的生産物を若い人やビジネスパーソンや一般市民に返すことはとても大事です。だから僕もアウトリーチを頑張ってやっているわけですが、知的な出版物に関しては、誰かが得して誰かが損するというトレードオフの関係になるのはよくない。みんなが知的成果を受けられるWin-Winの関係をどれだけ作れるかが、大学など知的産業に携わる僕らの使命だと思っています。

――スキャンを行う企業と作家の対立を避けるためには、どうすればよいでしょうか?


鎌田浩毅氏: 企業が「説明責任」を果たすことが一番ですね。自分たちがこうやって著作権等にしっかり配慮していますと、きちんと伝えることで社会的な認知になると思うんです。そもそもこうした新しい仕事は全部そうです。説明責任、アカウンタビリティーをきちんとすれば社会で認めてもらえる。ただ単に自分たちが抜け駆けしているんじゃないということは、根気よくていねいに説明すればわかってもらえると思いますね。

二番せんじではなく、新しいものを書きたい


――新著は英語の勉強法とお聞きしました。英語に関する本は今まで出していなかったのですか?


鎌田浩毅氏: これまで出した人脈術やコミュニケーションに関する本でも、英語はしっかりとかかわってくるものでした。特に、科学の世界はインターナショナルで、すべて英語で論文を書きますし、学会発表で議論する時も英語を使ってきたわけです。そこで、この点に着目した編集者がいて、「英語勉強法を書いてください」という依頼があるとき来たんです。直球ど真ん中、ストライクですね(笑)。僕も今まで気づかなくて、「なるほど、そういうテーマがあったのか」と思って、さっそく書き始めたんですね。ベストセラーとなった『一生モノの勉強法』にちなんで、『一生モノの英語勉強法』というタイトルにしました。

――編集者の視点というのがとても大切なのですね。


鎌田浩毅氏: そうなんです。鎌田にこれを書かせたら面白いんじゃないか、というのは素晴らしい助言でした。そのアイデアに僕がびっくりして、やっぱり乗ってしまったわけです(笑)。僕は二番せんじはあまり好きじゃないので、今まで書いた内容とはまったく違うことを書きたいんです。僕が過去にどんなものを書いてきたかのタイトルを見て、書いてないことをぜひご提案ください、と編集者の方々には申し上げています。

仕事に手を抜かなければ、知的な人脈が広がる


――新しいテーマの本を選ぶとなると、執筆の労力も相当なものだと思いますが、英語の本は書かれるのにどれくらいかかりましたか?


鎌田浩毅氏: さっき申し上げましたように、僕は途中で必ず素人の方に読んでもらうプロセスを経ていますので、けっこう時間がかかるんです。引き受けたらすぐに本が出てくると思っている人もいますけれど、2年や3年かかることも多いんです。大事なことは、手を抜かないということですね。世の中には、同じことが書いてある本をたくさん出している方がいらっしゃいますよね。僕はそうならないようにしています。

例えば、ビジネス書の巻末に「索引」があるって僕の本ぐらいだと思います。読んだ人が「アウトプット」とか「すきま時間」とか「棚上げ法」とかを、後で知りたいなと思った時に索引で引いて活用してもらえる。僕は原稿が全部仕上がってから、もう1回読み返して索引を作るわけです。『座右の古典』なんて著者と書名と両方で引けるようになっていて、ちょっとした自慢ですね(笑)。これまで25冊ほど本を書いてきましたが、一つだけ自負があります。それは、どの本も全力で書き、まったく手抜きしていません。だから、決して量産はできない(笑)。まさに、「すきま時間」を見つけて頑張って書いているけれど、1年に2、3冊が限度ですね。

――手を抜かないで執筆するモチベーションは、どういったことでしょうか?


鎌田浩毅氏: 偶然テレビで僕を見て、富士山について知りたいというので、本屋で僕の新書を初めて手に取る方がいらっしゃる。それで、火山のわかりやすい書き手だと思って、その後で人脈術の本を読んで「ああ、この人面白い」となれば、今度は僕自身に興味を持ってもらえます。これがすごく重要なんですね。僕には『一生モノの人脈術』という単行本がありますが、実は人脈というテーマはすべてにつながっていて、人脈があるから僕の火山学が人に伝わる。でも、人脈がないとただの大学の研究者で終わってしまう。

知的な活動というのは、必ず世界中で全部つながっているんです。よって、もし僕がどこかで手を抜いたら、そこで読者とのご縁は止まってしまう。だから僕は1冊も手を抜けないんです。手を抜いていなければ、さらに人脈が広がって、人が色々なことを僕に教えてくれるんです。編集者の方、読者の方、そして今インタビューしてくださっている方も、みんなが僕の能力を引き出してくれる。ちなみに、「教育」ってドイツ語で「erziehen」と言うんですが、「引き出す」という意味なんです。自分の良い点を引き出してもらうのが、教育なんですね。その過程で、自分は気がつかなかったこと、思いもよらなかったことを人が教えてくれて、知的生産が始まる。その結果、自分がどういうものを世の中に向けて発していけばいいかも見えてくるわけです。



――今、自然災害や、さまざまな社会の変化に対して不安を持っている人が多いのではないかと思います。最後に、特に若い人たちに向けてメッセージをお聞かせください。


鎌田浩毅氏: 急激に変化する世の中をどれだけプラスにとらえるか、が一番重要だと思います。ですから、自分を固定観念に縛ってしまわないことがとても大切です。人には限りない可能性があるものですが、それはたいてい隠れていて自分にも見えません。でも、そうした可能性を、自分の人生で出会ったすべての人が引き出してくれるんです。だから出会いってすごく大事なんですよ。

日本というのは資源もないしエネルギーもないし、地震は起きる、噴火は起きるという大変な国なんです。と言って、厳しいことばかりじゃないんです。実は、本当の資源は人の頭の中にあって、その頭を活性化して良いものが引き出されれば、日本人は食っていけるわけです。

これから若い人たちが世界に出ていく時には、自分の頭の中をどう整備するかが一番の勝負どころなんです。だから、できるだけ本を読みなさい、人脈を広げなさい、と言っています。本というのは、ものすごく自分を引き出してくれるし、世界を広げてくれる。これは昔からそうだったし、これからも全く変わらない真実です。紙の本であれ電子ブックであれ、若い人たちには本を読む習慣を是非つけてほしいですね。そして「自分だけのライブラリーを作れ」というのが結論ですね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 鎌田浩毅

この著者のタグ: 『大学教授』 『考え方』 『紙』 『研究』 『教育』 『本棚』 『メディア』 『情報』 『火山』 『地球』

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