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世界中の本好きのために

岸良裕司

Profile

1959年生まれ。日本TOC推進協議会理事。全体最適のマネジメントサイエンスであるTOC(Theory Of Constraint:制約理論)をあらゆる産業界、行政改革で実践し、活動成果の1つとして発表された「三方良しの公共事業」はゴールドラット博士の絶賛を浴び、07年4月に国策として正式に採用される。幅広い成果の数々は、国際的に高い評価を得て、活動の舞台を日本のみならず世界中に広げている。08年4月、ゴールドラット博士に請われて、ゴールドラット・コンサルティング・ディレクターに就任し、日本代表となる。ベストセラーを多数出版し海外の評価も高く、様々な言語で、世界各国で本が次々と出版されている。

Book Information

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多面的な見方を身に付け、対立を「ブレークスルー」せよ



岸良裕司さんは、TOC(Theory Of Constraint=制約理論)の創始者、エリヤフ・ゴールドラット博士に師事し、現在はゴールドラット・コンサルティングの日本代表として日本のみならず世界各国の企業や行政の問題解決に手腕を発揮しています。特に独自の公共事業改革の理論は国策として採用されるなど大きな話題となりました。インタビューは、岸良さんが電子と紙の書籍が対立概念として語られる出版業界の問題を明快に解きほぐしてくれました。

地球を1周する間に原稿がきていた


――世界中で岸良さんのノウハウが実践されていますね。日本にいらっしゃることが少ないのではないですか?


岸良裕司氏: そうですね。最近までリトアニアに行ってました。その前が韓国、オランダ、中国。そういう感じで動いているので、時々朝起きた瞬間にどこかにいるのかわからなくなります。今日も南アフリカのエキスパートが来て、僕らの活動を支援してくれてますよ。各国に必要に応じて僕が行ったり、向こうからわざわざ来てくれたりするんです。

――そうすると執筆も日本の仕事場でというわけにはいきませんね。どのような場所で書かれているのですか?


岸良裕司氏: 明後日から飛行機に乗るので、10時間くらいずっと集中できるから、ヨーロッパに着くまでに原稿を書いて、それを送るつもりです。朝日新聞でずっとやっていた連載も、ほとんど飛行機の中で書いてました。以前、ニューヨークで原稿を書いて送って、それをフランスのシャルル・ド・ゴール空港で編集して、また向こうの意見があったんで北京でチェックして、日本に帰るころには新聞に載っていたなんてこともあります。

――地球を1周する間に原稿ができたわけですね。


岸良裕司氏: そう、地球1周。飛行機の中って集中できるんですよ。だから僕、飛行機の中で書いたり読んだりするのが大好きですね。ビジネスクラスだったら席に電源もあるし、そのときだけは邪魔されずに集中できるから、楽しんでやっています。

――岸良さんの本は各国で出版されていますが、どのような言語に翻訳されているのでしょうか?


岸良裕司氏: ゴールドラット博士に推薦を受けて書いた本"WA - Transformation management by harmony"は、英語で出して、韓国語、ポルトガル語、スペイン語、中国語も出ています。「三方良しの公共事業改革」の論文なんかは、実は、何カ国語で翻訳されたのか僕自身もわからないんです。

――国際的に活躍されていると、語学、特に英語力が必要になってくるのではないかと思うのですが、『一夜漬けのビジネス英会話』(中経出版)のご著書もある岸良さんの英語上達法をお聞かせください。


岸良裕司氏: 僕は英語がしゃべれなかったんですよ。中学3年間英語はビリでしたから。そういう人間が英語を勉強するには、ゲリラ的にやるしかない。気が付いたことはシンプルなことだったんです。皆、「英語をしゃべれる様になりたい」という目的で英語を、勉強をやっています。これが世の中の常識みたいなんですけど、僕は「外国人とコミュニケーションしたい」っていうのを目的にしたんです。例えば「私はこの本はいいと思います」って英語で言ってみてくれますか?

――This is a good book・・・


岸良裕司氏: ま、そう言うでしょう。この本はいいっていうことを言ったんですね。でも日常会話では「これっていいよ」ぐらいしか言わないでしょ。だから文法なんか気にせずにThis goodでいいんじゃないのと。isって付けるだけでも格好悪く感じませんか。ここで、もしも異論のある方は『一夜漬けのビジネス英会話』にアレルギー症状があり得るので、これ以上読み進めないことをお勧めします(笑)。だけど僕は、とにかく外国の人たちとコミュニケーションしたかっただけなんです。だから単語でも何でも並べて相手とやればいい。そうやってるうちにしゃべれる様になって、いまは同時通訳もなんとかこなせるようになっているわけです。本格的に勉強してないんですよ。しゃべれなくて苦労して、プレッシャーの中でやってきたからなんです。だからこの本は皆の共感を生むんだと思うんです。

妻の書いた本を肌身離さず持ち歩きたい


――岸良さんに、電子書籍についてもお伺いしたいと思います。現在は電子書籍はご利用されていますか?


岸良裕司氏: 読むのは紙が好きなんですけど、持ち歩きたいので、全部電子化したいんです。iPad miniも、早速買ったんですけど、あの薄さでいつも持ち歩けるんだったら最高ですね。というのも、この本を見てください。汚れてるでしょ。

−−奥さま(絵本作家のきしらまゆこさん)の絵本『いちばんをさがして』ですね。

岸良裕司氏: 肌身離さず持ってるんです。これ、泣けるくらいいい話なんですよ。飲み会でおじさんたちに見せても、本当においおい泣くんです。(岸良氏、『いちばんをさがして』の読み聞かせをはじめる) ウサギ君が散歩しているとみんな集まっておしゃべりをしてた。「ねぇねぇ何をしてるの?」と聞くと、力自慢で優勝したライオンさんのことを話してた。それで皆、「僕たちだって何か1番のことがあるんじゃないの」って言って、「キツネさんは1番賢いんじゃない?」、「キリンさんは1番背が高い」、「ゾウさんは1番大きいんじゃない」、そうしたらウサギ君が「ねぇねぇ僕が1番のことはないの」と言う。「ウサギ君は1番速く走れるんじゃない?」、「チーターさんのほうが速い」。「1番高く跳べるんじゃない?」、「カンガルーのほうが高く跳ぶよ」と。「ウサギ君は1番小さいんじゃない?」、「リスのほうが小さいよ」。ウサギ君がどんどん悲しい顔になってくるわけですよ。ウサギがとぼとぼ歩いているとライオンさんがいた。「ねぇねぇライオンさん、ライオンさんはどうやって1番強くなったの?僕も何かで1番になりたい」と。「よく寝てよく運動して美味しいものいっぱい食べて・・・」、と言いかけて、「おい、お前にも1番のことがあるじゃないか」。「え、なになに?」って、うれしそうな顔をしてる。目きらきらしてるでしょ。で、「それは、1番美味しいってことだよ」って。それで、ウサギ君はぎゃあーって逃げるんです。そのとき後ろで大きな音が、って言ったら、ライオンさん石につまずいてねんざしちゃったんです。「痛いよう。動けない。どうしよう」と不安になってきた。そこへウサギ君が湿布と包帯持って大急ぎで帰ってきた。それで、「さっきは驚かして悪かったね。お前が1番のところだけど、俺さまの1番の友達ってのはどうだ」と。どうですか、これ。肌身離さず持ちたくないですか。

――とても温かいお話ですね。


岸良裕司氏: で、僕の悩みは、これをはじめ色々な本を、持ち歩きたいんですが、重いし汚れるし。だから、やっぱり電子化して持ち歩きたいんです。常に持ち歩きたいっていうのは2つあると思うんですよ。1つは、僕にとっての嫁さんの本のように、本当に好きで常に持ち歩きたい本。そして、もう一つは、日常使う本だと思うんです。僕の本は『三方良しの公共事業改革』もそうだと思うんですけど、日常使う本なんです。僕を知っている人で、紙の本については書き込みをいっぱいしてるので、書き込んだ本は本として持っていて、もう1冊買ってスキャンして日常持ち歩いているんです。有り難い話ですね。

――ところで、奥さまのお話が出ましたが、奥さまとはどうやってお知り合いになったのでしょうか?


岸良裕司氏: 社内結婚なんです。海外にいるときに、社内報で初めて見たんですよ。すごい美人だったから、「俺の嫁さんが入ってきた」と(笑)。犯罪ってよく言われるんですけど(笑)。彼女はITの人なんですけど、絵本を書きたいって言い出して。それで絵本を始めたら、いつの間にかプロになった。まあ天才なんですね、彼女は。何をやっても天才なんです。

――愛情がひしひしと伝わってきます。結婚するまでには相当なアタックをされたんですか?


岸良裕司氏: もう、額を地面にこすり付けて(笑)。最初は苦手だったらしいんですけど、あんまり僕みたいなタイプ見たことなかったようですね。でもその後は仲良くなって、本当にすぐに結婚したんです。それ以来もうずっと仲良し。嫁さんの作品に対しても僕が色んなことをアドバイスすることもあるんですよ。極くまれですが、アイデアが採用されることもあるんです。色々なアドバイスをもらったり、あげたりして、やっぱりお互いに磨かれます。犬の散歩をしながら、色々しゃべったり。私の本はビジネス書ですが、みんなにわかりやすいって言ってほしいといつも思って書いています。だから、そこは一生懸命こだわってますよね。彼女に何度も読んでもらって、わかりにくいところはトコトン直す。彼女がいないと僕の本は成り立たないですよ。だって、嫁さんの絵が入ってないのは1冊もないですから。

紙のユーザーを守りながら利便性を提供するには?


――さて、本日は岸良さんに、現状の出版業界、特に紙の本の電子化についての諸問題を分析していただきたいと思っているんです。


岸良裕司氏: いつも世の中っていうのは、何かものごとが対立してるときがあります。そういう一見、対立しているものを解消することを、世の中ではブレークスルーと言うんですね。そのブレークスルーがニュービジネスにつながったりするわけです。例えばいまおっしゃった、紙なのか、電子なのか。一方には電子化があって、一方で、紙で刷るっていうのがあって、これは対立するっていう概念になりませんか?

――はい。まさにそのとおりですね。


岸良裕司氏: そこで電子化するのは何のためでしょう?

――読みやすいとか、便利だからですかね。


岸良裕司氏: 便利さを確保すること。じゃあ紙でやるのは何でしょう。(質問者、返答に困る)なかなか出て来ないようですね。出版社は基本的には従来の流通ネットワーク、町の本屋さんを守りたいとか、そういうのもあるんじゃないでしょうか。電子化すると、従来の流通ネットワークが駄目になってしまう。実はね、電子化することの目的はあっさりとすぐに言えるのに、紙でやるの目的がなかなか出てこないのは、相手の要望が本当はよくわかっていないっていうことかもしれません。相手の立場になって考えることが足りないということ。難しいのは、ここなんです。相手の立場に立って、紙でやることの要望がわからなければ、もう紙をやらなきゃいいじゃんという極端な議論になりかねない。電子化すると、いまの紙が好きなユーザーとか、流通チャネルを守ることに対して妥協を強いてしまうことになるし、紙でやると、便利さを確保するっていうことに妥協してしまうことになりそうです。では、紙でやるのと電子化することの。共通の目的は何でしょう。本の本当の目的って何でしょう。

――知識を得るためのものではないでしょうか。あるいは娯楽という機能もあります。


岸良裕司氏: 知識と楽しさを提供する。それが本の役割ということですね。知識と楽しさを提供するためにはいまのユーザーも守らなきゃいけない。紙のユーザーがいるなら紙でやらなくちゃいけない。一方で、知識と楽しさを提供していくためには便利な媒体を使わなくちゃいけない。ユーザー便利さを追求しなくちゃいけない。そのために電子化する。どうですか。



――まさにいまそのような状況ではないでしょうか。


岸良裕司氏: では、いまのユーザーと流通チャネルを守りながら、ユーザーの便利さを提供する方法は本当にないでしょうか。という風に対立しているものが両立する方法を考え出したときに、ブレークスルーが生まれるんです。いまの段階ではまだそこまで至ってない。例えば、コンピューター、Eメール等ができたときとかも、電子媒体ができると、紙媒体は要らないって言われたんです。ところが、PDFで配布された資料って、そのまま見ます? 皆、読むときは印刷するから、実は紙の資料が増えたんです。やっぱり皆、紙を見たいからでしょうね。でね、実はブックスキャンさんは、1つだけブレークスルーしてるの気が付いてます?

――何でしょうか。


岸良裕司氏: まず電子化によって紙で利便性を供給していて、もう1個、いまのユーザーチャネルを守るということに対しては、「スキャンした本を廃棄します」と言っていることです。その言葉で既存のチャネルを守っている。だからあまり文句を言われないんです。これが廃棄って言葉を言わなかったらどうなると思います?

――紙と電子、2つ存在してしまうことになりますから、複製をどんどん作れるという対立的なメッセージになってしまいますね。


岸良裕司氏: だから、Appleなんかも、電子化って言ったときに、コピーに回数制限をかけるプロテクトをかけた。スキャンした本に、もしもプロテクトまで掛かる様にしたら、これはもう皆賛成するかもしれない。いまのユーザーとチャネルを守るという部分を満たすレベルが上がれば上がるほど、御社の認知は高まる。いまの紙のユーザーと流通チャネルを守り、ユーザーにも利便性を提供する、さらに、知識と楽しさを提供するということと、すべてを満たさないと、つまり三方良しじゃないと駄目だということ。



例えば、1000円の本を買ったら電子媒体が100円払ったら付いてくればそれは絶対買いますよ。そうすると、その分だけ出版社の売り上げも本屋さんの売り上げも増える。例えば1000円の本で10円しかもうかっていないとします。電子媒体っていうのはお金が掛からないので、100円分が全部われわれに入ってきます。1100円になって儲けは110円。1%の利益率が何%になります?電子化オプションを買ったら、あと100円入って、それを3分の1ずつ、出版社、書店と著者で分けたら、三方良し。電子化することを嫌がるどころか、もっとハッピーになることができる。デジタルものの値段付けは難しいけど、携帯電話なんかで月100円とか、300円の入会料ってノーって言います?そういう風にすれば大丈夫なんじゃないでしょうか。

電子書籍で編集者の役割はますます大きくなる


――さながらコンサルティングを受けているようで、ちょっと得をした気分です。岸良さんの考察で、するすると解が導き出されるような感覚がありました。


岸良裕司氏: 僕はみなさんに質問しただけで、何もしていませんよ。でも答えを引き出すことができるんです。いまのユーザーと流通チャネルを守って、ユーザーに便利さを提供して、知識や楽しさを常に提供する。この3つができれば、実はものすごい素晴らしいソリューションになる。そしたら対立しなくていいでしょ。ブレークスルーっていうのはやっぱり、対立するところからしか生まれないんですよ。それを解決したところが、やっぱり事業を成長させることになるんです。一見対立するものでも本当の要望は何なのかを考えて、その要望を満たす方法を考えることによって解決するのであって、これは対立してるから仕方がないと思い込んだ瞬間、駄目になってしまうんです。この具体的な手法は、『全体最適の問題解決入門』(ダイヤモンド社)に書いてあります。

――電子書籍についてもう一つ質問です。今後、出版のハードルが低くなることで、出版社や編集者という存在はどうなるでしょうか?


岸良裕司氏: ちゃんと出版社から出版されているっていうのは、それなりにいいものなんだっていうことを一般ユーザーは思ってるんじゃないでしょうか。編集者とか出版社の手を経たものっていうのはやっぱりクオリティーは高い。僕も色んな編集者の人と仕事させてもらうけど、やっぱり編集者っていうのはその道のプロだから、共同作業でより良いものになる。コンサルティングで実績は出していても、それをどう表現して多くの人に伝えるか、というのは別の問題だから。編集者の手が入るほうが多くの方々により理解してもらえるようになる。

一方で、プロの編集者や出版社の手を経ないっていうことはプロのスクリーニングを経てないから、本物の知識を提供しているかどうかユーザーがわからないってことになるじゃないですか。だって、例えば色んなニュースっていうのも格があるでしょ。例えばタブロイド紙を読むときは、すべて真実が書かれてるとは誰も思わないわけですよね。われわれが情報の取捨選択するのに、出版社のスクリーニングを経たっていうのはすごく重要です。ですから、これからはむしろ、より出版社とか、編集者の質が問われる時代になるんじゃないかと思います。本物の知識と楽しさを提供するっていうことについて、編集者の役割がますます大きくなる。逆に言うと、その差が作れない様であるならば、淘汰されるだろうと思います。

――岸良さんの本は装丁や構成、奥さまによるイラストなど、非常に工夫されていますね。


岸良裕司氏: 特に女性の方々に評判がいいですね。『最短で達成する 全体最適のプロジェクトマネジメント』(中経出版)の装丁は、けた外れに違うんです。パラパラ漫画を付けたり、スゴロクをつけたりしているわけです。パラパラマンガは嫁さんが作ってくれたんですけど、やっぱりでもこういうのはね、レイアウトを作れるデザイナーと出版社と一緒にやってかないと、とてもじゃないけどできないことですよね。だからやっぱり、編集者の役割って僕は大きいと思いますよ。プロジェクトマネジメントの本って売れないと言われていたんですが、編集者の方が本気で売れる様にしたいという思いで取り組んでくれました。だから紙でしかできないものもあるんです。紙の感触を感じながら、パラパラ漫画でパラパラとめくるのは紙じゃないとできない(笑)。だから、紙の良さと電子の良さって、両方ともある意味、必要なんだなと思います。ユーザーに両方提供するのも悪くないでしょう。

ただし、僕の本ではマンガもはいっているんですが、これYouTubeでアニメーションにしてるんですよ。だから、電子版だったらクリックすると、アニメーションになるということはできますよね。電子はもう1ついいことがあって、検索できるというのはやっぱりものすごいパワーですよね。特に僕みたいに本を書いている人にとっては、引用した場合にはちゃんと引用元を書かなくちゃいけないじゃないですか。そのときに検索できるというのはものすごく便利ですよね。そうだ、僕の本って脚注が多過ぎませんでした? 僕の本が好きな人は皆、そこにハマってくださってるんですね。暴走脚注と自ら名付けてますが、バカげた脚注を楽しみながら、書いています。本文に対して、本音はこうだよねって、脚注では自分でつっこむわけです。こういうのがあると、読者の興味がずっと続くっていうのもありますから。

問題解決の大敵は「人のせいにすること」


――先ほど私も目の当たりにした、対話の中で問題解決の糸口をつかむ手法を身に付けるには、どのようなポイントがあるのでしょうか?


岸良裕司氏: たった1つだけすごく重要なことがある様な気がするんです。シンプルにこういう質問をしてみたらどうだろうかと思うんですけど。「人のせいにする」話は聞いていて気持ちいいでしょうか?

――非常に嫌な感じがしますね。


岸良裕司氏: 実際、人のせいにすることでは問題解決しないんじゃないでしょうか。でも、どうしても、人のせいにしてしまいがちになる。ところがこういう問題が起こるのは、大抵の場合、どこかに思い込みがあるからなんです。よかれと思ってやってることが、現実には悪いことを引き起こしている。それはその人が悪いんじゃなくて、その人の持ってる思い込み、何か強い勘違いがある。それを正してあげると実はね、あっという間に成果が出ることがある。ところで、「お前は相手の立場に立って考えられない奴だ」、「お前は思いやりのない奴だ」って言われたらどんな感じします?

――もう何か、悲しいですね。


岸良裕司氏: 人間的に終わってるって感じですよね。実は相手が主張することには、何かの要望があるんです。相手の立場になるっていうのは、対立してる人に対しても、相手の主張の中にある本当の要望をずっと考えて、解決策を考えることです。そうすると対立するたびに、相手の立場になり、人間として思いやりのある人間に成長する。これが僕がやっている仕事なんです。言い換えて見ましょう。年齢を重ねても、思い込みなく、色んな角度でものを見られるってどうですか? 対立をしてる相手の本当の思いに目を向けて、何とか満たしてあげようと思う人のことをどう思います?

――もちろん素晴らしいですよね。


岸良裕司氏: そうですよね。そうすると、われわれは、何か問題があっても人のせいにしないっていうことが大事であって、思い込みを見つけるために多面的な見方をしなくちゃいけない。これ多面的なものの見方って、一見対立するものでも本当の要望は何なのかを考えて、その要望を満たす方法を考えることによってできる。対立してるんだと思い込んだ瞬間に、人のせいにしてしまう。これはネガティブな意味での「人のせい」ってことなんですが、実はポジティブなところで人のせいにするっていうこともわれわれはやっちゃうんです。例えば、こういう風な考え方もあるんです。「あの人だからできる。あのスーパーヒーローだからできる」という言い方。「岸良さんだからできる」って言われたら結構うれしいですが、それを言った人は学びができますか。

――できないですね。むしろ思考が停止しています。


岸良裕司氏: できる人には何か理由がある。その理由が見つけられてないだけなんです。「あの人だからできる」と言うことによって、その人がなぜできるかっていうことを本当に理解しようとしないんです。もしも、そのやり方がわかれば、それは再生できるということです。幸いにも僕は、稲盛和夫という1990年代を代表する経営者のところで20年間近く勉強させていただいた。「稲盛さんだからできる」じゃなくて、稲盛さんができるからには、何か理由があるはずだと思って、実は稲盛さんの書いた本だけじゃなくて、稲盛さんの読んだ本の原典に当たったんです。全部かどうかはわからないですけど。社長室に置いてある本を見ると彼が読んでる本がわかるから、稲盛さんの言ってることはここから来てるんだってわかるでしょ。そこに共通事項を見つけると、より理解できるんですよ。そうすると、稲盛さんまで行かなくても、同じ様なことがすこしづつできるようになる。そして長年稲盛さんができなかった未開拓の分野に取り組んで、できる様になることも時にはある。そうすると稲盛さんもうれしいはずなんですよ。だからいまも新幹線で偶然会ったりすると「おぉ」とかやってくれますからね。



そして、僕の師匠であるゴールドラット博士は、人に考えることを教えるプロです。僕はね、ラッキーなことに、この世界で最も優れた二人と言ってもいい程の人に教わって、この人たちにできることには理由があるはずだと思って、一生懸命リバースエンジニアリングをしながら、因果関係をつかみ、同じ様に再生できないかと思って考えて、例えば「三方良しの公共事業改革」は、ゴールドラット博士が「私のつくった理論で、そんなことができるのか」って感動された。京セラの人たちの中にも、「お前と一緒に働いたことを誇りに思うよ」って言ってくれる人がいるんです。

繰り返し人に教えることで成長してきた


――自分で実践して結果を出すことと、本を書いたり、人に教えたりすることの関係はどのようなことでしょうか?


岸良裕司氏: 「知ること」と「やれること」 どちらが難しいでしょうか? もちろん、知ることよりもやれるようになることの方が難しい。では、「やれること」と「やれるように教えること」どちらが難しいですか? 自分でやれるようになっても、他の人にやれるように教えることは、極めて難しいことに気がつきます。「直感」という言葉がありますが、「説明や証明を経ないで、物事の真相を心でただちに感じ知ること」と広辞苑にあります。つまり、「やれること」では、まだ論理的に説明できない状態とも言えます。それを誰でもわかるように説明するのは本当に難しい。誰でもわかるという状態というのは、論理に飛躍がない状態なんじゃないかと思っています。考えてみてください。論理に飛躍があるとわかりやすいと思いますか? 

実は、論理がしっかりし、飛躍がないと、実はわかりやすくなるんだと思うんです。それをプレゼンなんかにまとめて他の人に見せると「これはおもしろい。わかりやすい」って言うんで、本を書く機会をいただく。でも、口で説明するよりも、本を書くってはるかに難しい。文章に起こすと「俺は何が言いたいんだ?」って思うことありませんか? 書くことで自分が何が言いたいかより考えるようになり、より理解できる。僕は本では、全部ノウハウも吐き出すんです。そうするとフィードバックがもらえます。そうするともっと学べるんです。TOCを何万回も教えて、同じことを説明してるのに、いまだに「そうだったのか」っていうのがありますからね。「わからない」って言われると、どこか僕の説明のロジックに穴ぼこ、つまり論理の飛躍がある。それを見つけて、埋められれば、みんなにもっとわかってもらえる様になる。そうするとより良い知識ができるんだと思っています。僕みたいにもともとずっと実務者をやっていた人間が本を書くっていうのは難しいんです。だって成果を出すのが仕事で、どうして成果を出したかを説明するのは仕事じゃなかったですから。むしろ、どうして成果を出したのかわからなくて、僕だけしかできないってことが強みになるじゃないですか。

しかし、ゴールドラット博士から、「人に説明できないというのは、わかったとは言えない」と指導されたんです。人に教えようとして、初めて自分がよくわかっていなかったことに気が付く。相手がわかってくれないのは相手がバカなのじゃなくて、自分がわかってない。誰よりも数多く人に教えて、繰り返し悔しい思いをしているうちに、今の自分があるというのが実態なんです。人に教えることで自分が成長したんだと思っています。

――最後に、今後の執筆活動の予定があればお聞かせください。


岸良裕司氏: 1つは、ゴールドラット博士の日本への遺言とも言える本をまとめています。『エリヤフ・ゴールドラット 何が、会社の目的を妨げるのか』という本で、ダイヤモンド社から、2月25日に発売されます。読者の方々には、ゴールドラット博士の日本に関してのインタビュー、著作、論文を通して「日本企業が捨ててしまった大切なものは何か」を考えながら、読んでいただきたいと思っています。読み進めているうちに気づくのは、ゴールドラット博士が本当に伝えたかったこと、それは、「日本はこれからも飛躍的な成長ができる。再び世界に模範を示すべきである」というメッセージです。読んでいて、勇気が沸いてくる本です。多くの方々に読んで頂きたいと思っています。

もう一つは、『考える大人になるための3つの道具』という本を執筆中なんです。僕は本を書いていて、違和感があって、ずっとわからなかったことがあるんです。それは僕の本の読者が、「勇気が出て、毎日が楽しくなった」とか、「成長した」っておっしゃることでした。感動して涙を流す人もいるんですね。僕はそのために書いてるんじゃないんですよ。ビジネス書ですし、問題解決したり、プロジェクトの工期を短くして、成果をあげる、つまり、利益を上げて欲しいんです。ところが、たちどころに数億円儲けたというのに、儲けたことを成功と言う人は意外に少ない。それより「人材が育成され、社員がやりがいを感じている。こんな会社にしたかったんだ」と感激して、人材の成長とかモチベーションとかコラボレーションの向上を成功とおっしゃる。つまり、僕も本当はまだわかってないってことなんですよ。成果は出したけど、本当はもっと別のことやっていたようなんです。すると、いままで僕がマネジメントとして使っていた全体最適のマネジメント理論TOCは、本当は人を育成するものじゃないかと気がついたんです。ならば、ちゃんと考えられる大人に成長するための本が書けるんじゃないかと。TOCは、教育のための知識体系もあるんです。(「教育のためのTOC」http://tocforeducation.org/)これが本当にすごい知識体系で、ものすごい勢いで日本でも広がっている。この最新の知識体系を盛り込んだ本を書いています。

大人向けの本なんですけど、大人が自分の子どもに教えられる本にしようかと思っています。テキストブックよりも柔らかく、絵をいっぱい付けて、今年出したいと思ってるんですよ。やっぱり世の中の方々に役に立つ様な本を書きたいじゃないですか。僕の場合は、マネジメントサイエンスと言われる、再現性のあるロジックを教えているわけですから、やっぱり多くの方々に使っていただいて、世の中をよくすることに、少しでも貢献できる価値のあるものにしたいですからね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 岸良裕司

この著者のタグ: 『コミュニケーション』 『海外』 『コンサルティング』 『飛行機』 『シンプル』 『絵本』 『問題解決』

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