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高橋信

Profile

1972年新潟県生まれ。九州芸術工科大学(現・九州大学)大学院芸術工学研究科情報伝達専攻修了。民間企業でデータ分析業務やセミナー講師業務に長く従事した後、現在は著述家。何事に対してもわかりやすい解説に定評がある。「マンガでわかる統計学」シリーズ(オーム社)が代表作。第1作の『マンガでわかる統計学』は、刊行予定も含め、2012年12月時点で11の翻訳版が存在する。
【HP】
http://www.takahashishin.jp/

Book Information

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数学は道具、それを使って何をするかが重要



ロングセラーであり、海外で数多く翻訳されている「マンガでわかる統計学」シリーズ(オーム社)の著者。1972年新潟県生まれ。九州芸術工科大学(現・九州大学)大学院芸術工学研究科情報伝達専攻修了。民間企業で統計学セミナー講師業務やデータ分析業務に長く従事した後、独立。現在は著述家。「マンガでわかる統計学」シリーズのほか、『入門 信号処理のための数学』(2007年・オーム社)、『すぐ読める生存時間解析』(2007年・東京図書)など著書多数。理系の著述家、高橋信氏に、数学教育の問題点や本を書くようになったきっかけ、電子書籍についてなど、お聞きしました。

全貌を、そして何に役立つかを明確にすべき


――早速ですが、近況を教えていただけますか?


高橋信氏: 基本的には毎日を著述で過ごしておりまして、週に1回、千葉県の大学で非常勤講師をしています。執筆はすべて自宅の仕事部屋です。昔、会社勤めをしていたのでそれの延長線上で、誰にも頼まれていませんけど毎日9時~5時という感じで仕事をしています。一応、土日は休みと思っていますから、土日は何となく少し気分がいいですね。

――幼少期の読書体験、本を書くようになったきっかけなどをお教えいただけますか?


高橋信氏: 特に書くことが好きなわけではなかったし、本もそれほどは読まない子どもでしたね。ただ、数学の教材については色々思うことがありましたので、子ども向けに自分で学生時代から作ってはいました。

――数学の教材について、どんなことを思われていたのですか?


高橋信氏: 数学教育、特に大学以降の数学教育が、私はあまりいい状態ではないと思っています。私が卒業して20年ほどたっていますので、少しは良くなっているかもしれませんが、おそらく劇的には変わっていないと思います。数学教育の問題点は、大まかに言って二つ。一つは全貌がわからないこと。もう一つは、これを勉強することが「自分の何に役立つのか」、あるいは「世の中にどう役立つのか」を教えてくれないこと。もう少し具体的にお話しします。例えば数学の世界をクジラに例えましょう。すると、いまの教育は、「クジラはこれぐらいの大きさです」といったことを一切教えてくれないんです。いきなり顕微鏡で毛の1本1本を見て、ああだこうだいう。全体はとてつもなく大きいのに、その毛の1本1本の話だけしかされないわけですから、学んでいるほうは何のことかサッパリわからない。いつこの話が終わるのか予想もつかない。これが例えば「いまは背中の黒い部分の毛について注目しています」とか、「目の周りの毛について注目しています」とか、そう言ってくれれば少しは雰囲気がつかめると思いますが、それさえも一切言わずに、いきなり毛1本1本の話を始めるので、ウンザリしてしまいます。しかも下手をすると、「クジラについての話をしている」ということさえわからなくなっていく。要するに、全貌がよくわからないんです。もう一つ、何の役に立つのかわからない。これは大工の世界に例えましょう。例えば、大学の教育では、世の中にカンナやノミがあることは教えてくれるんです。カンナの使い方、ノミの使い方も教えてくれる。ただ肝心の、これが何の役に立つかを一切教えてくれない。自分にどう役立つのか、あるいは自分に役立たなくても社会のどの辺でどう役立っているのかを教えてくれないんです。その2つが大きな問題点というか、気になる所ですね。

社長が言ったひと言。「高橋君、やってみるかね」


――著書の『マンガでわかる統計学』(2004年出版・オーム社)は、わかりやすいですね。


高橋信氏: いま言いました2つの点を、私は常に気にしています。ただ、一つ目の「全貌」については数学にはさまざまな分野があって、私はすべてを知っているわけではありませんから、執筆の上で乗り越えるには限度があります。2つ目の「何に役立つのか」は、必ず読者に目標を示すよう常に念頭に置いて書くようにしています。とにかく先に目標・ゴールを立て、ゴールに至るためにはこの知識とこの知識が必要だと、まず書きます。読者は当然、頭から読むわけで。このゴールに行くためにはこういう知識がないとダメなんだと、わかってもらえているんじゃないかと思います。

――統計について出されている著書の中には、海外で翻訳出版されているものも多くあります。こういった本を書かれるきっかけは何でしたか?


高橋信氏: これはめぐり合わせですね。私はもともと会社勤めだったんです。勤めていた会社の社長が、非常にわかりやすい統計学の本をお書きになる方だったんです。ある日、社長が本を出していたオーム社の編集者が会社に来られて、その時に社長から急に「高橋君も来なさい」と言われました。わけもわからず行ったら、オーム社の方が「マンガで統計学のような本を書けないか」という企画を持ってきていたんです。編集者は社長に話を持って来られたんですが、社長が「高橋君、やってみるかね」って。社長がどういうつもりで私に任せてみようと思ったのかわからないのですが、大変ありがたい機会を頂いたと思っています。



――普段の仕事で統計学に関することをされていたんですか?


高橋信氏: 会社では、社会人向けの統計学セミナーをやっていました。私は講師として話す機会がたびたびありましたので、題材自体は頭の中にあったんです。そのマンガを書く1年ほど前には、社長と大学の先生と共著で本も書いていました。

――『マンガでわかる統計学』を書いたのはおいくつのときですか?


高橋信氏: 32歳です。そんな機会が得られるとは考えたこともありませんでしたので、本当に恵まれていたと思います。

数学は電子書籍に向いていない


――仕事でお使いになる資料、本や書籍はどこで手に入れますか?


高橋信氏: 私は書店に行くのがとても好きなので、池袋のジュンク堂書店によく行きます。私の仕事は理工系で、町の書店では資料になる本を置いていない。図書館にもそういう本は入庫されていないんです。ですから必然的に大きな書店に行かなければならない。Amazonのようなネット書店は中身を知っている人には便利ですが、理工書というのは大体4、5千円しますから、買って失敗するのは痛い。そういう意味で、非常にまれな内容の本、普通の書店には置いていないような本があるところがありがたい。そうなると、家の近所だとジュンク堂の池袋店という感じがします。

――では、本を購入するのは、ほとんどリアルの書店ということになりますか?


高橋信氏: ただ、やはり理工書って高いんですよ。パラパラめくって調子がいい時はその場で買いますが、迷って家に戻ってから結局ネット通販で買う場合もあります。

――電子書籍についてお伺いしたいのですが、理工系の本を読まれる、もしくは書かれる立場として、電子書籍の可能性をどう思われますか?


高橋信氏: 私は理系の著述家を名乗っていますが、ほとんど数学寄りなので、その観点でお話しします。率直に言って数学という観点では、電子書籍は向いていないと思います。なぜなら、1ページ当たりの情報量が多いからです。数学の証明とかを理解するのはかなり時間がかかったりするわけです。そうなった時に、やはり紙の方が見やすい。もう一つ、向いていない理由として、パラパラとできない。数学の本を読む時には、証明の詳細がよくわからなくても大体こんなことが書いてあるだろうと思って読み進めるわけです。ところが、甘く読んでいると後でつじつまが合わなくなって、やはりわかっていないなということに途中で気が付くんです。じゃあこれを初めからもう一回読み直そう、この証明は3ページ前から始まったなって、その時にパラパラとめくることができないのは、痛いと思います。

――現状では、理工系の本を電子書籍でというのは難しいんですね。


高橋信氏: リーダーが色々出て騒がれてますが、あれは基本的に普通の本をターゲットにしていると思うんです。理工書をどうしようという話を私はほぼ聞いたことがないので、まだまだこれからのところがあるのではないでしょうか。もちろん理工系の出版社は、努力されたり実践されたりしていると思いますが、やはり出版社の数も本の絶対数も普通の著書に比べれば圧倒的に少ないでしょうから。もっと時間と人をかけてやっていけば、良いものになっていくとは思います。

――最近読んだ本はどのようなものでしょうか?


高橋信氏: 小熊英二『社会を変えるには』(講談社)です。私が想像するに、彼が『単一民族神話の起源』(新曜社)から『1968』(新曜社)までを書いた動機は、世の中が現在のようになったまでの過程を純粋に個人として知りたかったからではないでしょうか。それが『社会を変えるには』では、書くうえでの姿勢を変え、これまでに培った彼の知識を世の中に発信しようとしているように思えます。立派な人です。

――今まで読んで特に印象深かった本はありますか?


高橋信氏: 3冊あります。長沼伸一郎『物理数学の直観的方法』(通商産業研究社)、加古里子『だるまちゃんとてんぐちゃん』(福音館書店)、ウィリアム・ウッドラフ『社会史の証人』(ミネルヴァ書房)です。『物理数学の直観的方法』は、学生時代からの畏友である田中宏治君の家でたまたま見つけ、衝撃を受けた本です。衝撃を受けたのは本編でなく「序」と「後記」でして、そこで彼は現代の教育を批判しています。ここで詳しくは述べませんが、ああいったことを二十代半ばで書くのは相当に勇気が要ったはずです。立派な人です。私がものを書く際に、ひとつの指針にしています。『だるまちゃんとてんぐちゃん』は素晴らしい本です。どう素晴らしいかと言えば、たとえば、世の中には多様な選択肢がありうるという点を押しつけがましくなく示していることです。そして、だるまちゃんの先輩格であるだるまどんが大事な場面で失敗してしまうのですが、「そういった立場の人でも誤る可能性はある」ということも押しつけがましくなく示していることです。非常に深遠な作品です。ちなみに、こういった絵本を工学博士である彼が描くようになった動機が『絵本への道』(福音館書店)にあり、勉強になります。

『社会史の証人』の内容をひとことで言うと、イギリスの貧しい家に生まれたものの最終的に大学教授になった、筆者の自伝です。読んでいると、先進国の筆頭のような感のあるイギリスでさえ、100年前はこんなに貧しかったのかと思わずにはいられません。勉強になりました。ちなみに私は最近、イギリスのAmazonから、イギリスのドラマのDVDを輸入することに凝っています。観ていると、90年代とか下手をすると2000年代だというのに、さすがに家具調とまでは言わないものの、やたらと大きなブラウン管の古そうなテレビが劇中で登場したりします。そういった場面を見て初めて、日本は豊かだと諸国から思われているという意味が理解できました。ともあれ、読んだのはごく最近ですけれど、私の物の見方に大きな影響を及ぼした本です。

数学は「面白い」とか「美しい」という対象ではない


――高橋さんご自身は電子書籍は利用しますか?


高橋信氏: 自炊をお願いしたことは過去にあります。1年ほど前に引っ越して本を置く場所がなくなったので、100冊ぐらい。ほとんど理工書でしたが、それを電子化してもらいました。先ほどの話と少し矛盾しますが、一度読んだものであれば、電子化するのは非常に便利でいいと思います。何々っていう概念について、あの本はわかりやすく解説してあったなというのをパッと探したりするのに便利ですね。

――電子書籍で、こういう機能があれば読みやすい、便利というのはありますか?


高橋信氏: そこがですね、私が電子書籍が理工系の書籍に向いていないと思うところであり、言い換えればこれから伸びる余地がある部分なんです。例えば証明を見ているとしましょう。そうしたら途中で「ここについては15ページを参照」と書いてあって、ページを戻る必要が出てくるわけです。そういうのは多分、リンクを張ることでPDFの方がパッと飛ぶから便利だと思われるかもしれないんですが、私にはそうは思えないんです。15ページの内容だけを確認するのであれば単に15ページに戻ればいいだけの話なのですが、いま読んでいる所から15ページまでの内容が全体的に関連している内容だったりするわけです。そうした時にさっき言った紙の本のパラパラとめくって、おおよそどこに何が書いてあるのかわかるといい。それがPDFではできないんですよ。そこがうまくいくと、伸びてくるんじゃないかと思うんです。

――まだまだ改善の余地が残されていますね。では、最後に今後の活動、取り組みについて伺えますか?


高橋信氏: 私は、数学は「面白い」とか「美しい」という対象ではないと思っているんです。数学は道具。だから数学そのものを目的にするという感覚が、私にはないんです。あくまでも、ノミでありカンナであり、それに習熟することによって家が造れるようになる。そうしたら、家を建てたがっていた家族は大喜びする。あるいは、恵まれない地域に行って小学校を建てることができる。数学を使って結局どうなるかということの方が、重要なことだと思っています。数学は単なる道具にすぎないのであって、それを使ってどんないいこと、魅力的なこと、世に役立つことができるのか、そういったことを著書に何とか盛り込んでいきたいなと考えています。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 高橋信

この著者のタグ: 『漫画』 『海外』 『数学』 『可能性』 『紙』 『テレビ』 『研究』 『子ども』 『理系』 『セミナー』 『リーダー』

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