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上野千鶴子

Profile

1948年富山県生まれ。京都大学大学院社会学博士課程修了。シカゴ大学人類学部客員研究員、国際日本文化研究センター客員助教授、ボン大学客員教授、コロンビア大学客員教授、メキシコ大学大学院客員教授等を経る。1993年東京大学文学部助教授(社会学)、1995年東京大学大学院人文社会系研究科教授。専門は女性学、ジェンダー研究。1994年『近代家族の成立と終焉』(岩波書店)でサントリー学芸賞を受賞。おひとりさまの老後』(法研)など著書多数。東京大学大学院教を2011年退職し、現在はNPO法人 WAN理事長にとして、介護とケアの領域へと研究範囲を拡大。

Book Information

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WAN(NPO法人ウィメンズアクションネットワーク)のサイトを立ち上げたわけ



上野千鶴子氏: 私たちがこのWeb事業(WAN)を始めたのはどうしてかというと、私たち、フェミニズム界隈の女性たちは、ミニコミの紙媒体でずっとつながってきたんですね。そのミニコミが、高齢化やコストの問題で、しだいに休刊、終刊になってきています。それに若い人が入ってきてくれない。ミニコミをやっているところは、どこも弱小団体なので、このままでは高齢化とともにジリ貧なんです。その危機感から、「若い人に受け継いでもらうためにはネットというツールに乗るしかない」ということで、満を持してスタートしました。今、4年目に入っています。やってみたら非常に潜在的な可能性が大きいことがわかったし、その潜在力を私たちまだ10パーセントも使っていないんですよ。例えば今、動画をサイト上にアップしているんですが、動画はハードルが低くて、低コストで制作できるし、スキルもたいしていらないということがわかりました。私たちはプロを育てようというわけではないから、素人が明日から情報発信者になれる情報の民主主義の媒体をつくりたい。ですから今までプロに外注していたものを、内部で人材を育てて、誰でも情報発信者になれる仕組みをつくっています。このサイトをやっている最大の理由は、フェミニズムを若い世代にどうやってつなぐかということですが、それを始めたら、20代、30代の女性が入ってきてくれました。そこで色々なチームを作って、You Tubeに映像コンテンツをアップしたり、ミニコミをデータ化してアーカイブ化するプロジェクトを進めたり、メディアが取り上げないニュースコンテンツを報道したりしています。サイト上にはアートギャラリーがあり、上野研究室があり、それから政策的提言もあり、ブックストアはAmazonアフィリエイトになっています。相談室もあり、それからマーケットの物販もあり、という多様な活動をやっています。これを今、全部で100人以上のボランティアが動いて制作しているんです。

――このウェブサイトもかなり見やすいですね。


上野千鶴子氏: Webマスターだけはプロにお願いしています。コンテンツ制作は、100パーセント素人。理事長以下、全員、無償のボランティアです。相談室も、心理相談の回答者がフェミニストカウンセリングの第一人者、河野貴代美さん。キャリア相談がキャリアカウンセラーのパイオニアの福沢恵子さん。法律相談はプロの弁護士。全部タダ。NPOの会員が会費を払ってこの活動を支えてくださっています。ユーザよりも会員の年齢層が高いです。その方たちは世代的にデジタル・ディバイドの上の人たち、ネットを使わない人まで会員になって応援してくださっています。

―― このサイトをやることで、20、30代の人たちが新規で入ってきてくれるんですね。


上野千鶴子氏: 敷居が高いとか使い勝手が悪いとか色々ご批判を受けておりますが、ようやくここまでこぎつけました。でもね、これを始めたおかげで、担い手の年齢が今の私の年齢(還暦を過ぎていますが)よりマイナス20歳くらい、若返ったのよ。それをさらにマイナス20歳若返るのが目標。20代はこれからです(笑)。



次の目標は「スマートフォン」で情報発信すること


―― 今後の新しい取り組みや世の中に発信していきたいものなどを伺えますか?


上野千鶴子氏: WANは、フェミニズムのオルタナティブ・メディアです。フェミニズムは、マスコミに嫌われているんです。大新聞のデスクのおじさまたちはジェンダー系が嫌いで、記事を載せてくれないんですよね。しょうがないから自分たちで自前のメディアを作ってきたんですが、紙媒体からWebに引っ越したわけです。情報の発信と受信に関してかつてと根本的に違うのは、誰でも情報発信者になれるという情報の民主主義です。それまで紙媒体だったらコストもかかるし、「活字になる」ことへのプレステージもあって、クラブ財的な希少財だったのが、そうじゃなくなってきた。今、WANでは次のプロジェクトとして、スマートフォンで3分映像を撮影・編集して、全国から情報発信してもらう発信者を育てようと考えています。

―― どういったものなんでしょうか?


上野千鶴子氏: 各地のイベント情報などを、地方から発信してもらおうと思っています。脱原発だって東京だけでやっているわけではありません。この前はドイツのデュッセルドルフ在住の日本人による脱原発デモを配信しました。それに、東京の人って地方のことをあんまりよく知らないんですね。でも日本って多様性があってすごく広いところでしょう?こういうミニコミの発信や女の運動は、地方の草の根の女性たちがやってきたんです。だから、地方で何が起きているかということをちゃんと情報発信していくことが必要なんです。
WANの本部は京都にあります。京都は、日本で最初の女性専門の書店、ウィメンズブックス、香堂の発祥の地。その初代店長である中西豊子さんが、WANの言い出しっぺですが、今78歳。彼女は書店経営者だから、本が売れなくなったことをとてもよくわかっていて、「これからはITの時代だ。web事業をどうしてもやりたい。私はこれをやらないでは死ねない」って言いだして、私たちはみんな巻き込まれました(笑)。素晴らしい先覚者でしょう? 

「私はこれをやらないでは死ねん」と78歳のオバサマに言われては、後には引けない


―― やはりそういう発信は女性からなんですね。


上野千鶴子氏: やっぱり、女性には既得権と資源がないからですね。失うものがないから、前に進むしかない。「私はこれをやらないでは死ねん」と78歳のオバサマに言われりゃ、それは後に引けんわな(笑)。彼女が台風の目で、私たちが全員巻き込まれたわけですが、いざ始めてみたらWebの潜在可能性は、紙媒体なんか問題にならないくらい、大きいことに気がつきました。情報発信の敷居の低さ、容易さ、そして場所を選ばない拡がり。

―― すべての人が発信者になりえるんですね。


上野千鶴子氏: そう。それを考えたら、やっぱり発信者になってもらおうって思いました。あとはね、時間資源は貴重だから、15分の映像だったら長すぎるのね。見ていられない。3分スマートフォンでいい(笑)。例えば、広島で原爆の記念日に女の子たちが何かイベントをやってるとしましょう。その場で映像を撮って、すぐに投稿してもらってアップしていくようなことを展開したいなというのが次の希望ですね。

―― そうすることによって多様性が生かされますよね。


上野千鶴子氏: 今、脱原発には、日本中で色々な動きがあります。今年、ちょっと面白いことをやったんです。「3.11つながるWAN」といって、3.11に福島以外の全国各地で、脱原発のイベントをTwitteでも投稿でも映像でも何でもいいから、24時間同じサイトに集めようという試みです。仕掛けがある強みですね。仕掛けがあればアイデアが出て来る。だから仕掛けをつくるにはインフラ投資したほうがよいと思いましたね。「3.11つながるWAN」では実際にはものすごくローテクなことをやりました。Twitterにハッシュタグを入れて投稿したものを、24時間スタッフが2人張り付いて手作業で拾いました。

―― まとめサイトをされたんですね。


上野千鶴子氏: まとめサイトです。インターネットというのは、こういうことを思い付けばすぐできてしまうという敷居の低さがすごい。何も福島に行かなくても、自分の地元で情報発信したらいい。やりたいことのアイデアを思い付く人たちは、それなりにITスキルのある人なのね。私は理事長だから、たった一つの仕事は、「やれば?」と言うのが仕事(笑)。

―― ある意味アナログとデジタルの融合というか、初めてそこでデジタルが活用されるのかもしれないですね。


上野千鶴子氏: そうです。やっぱり情報の民主主義です。メディアをマスコミに独占されない、させないというね。地方で、すごい才能があってお金にならない人たちがいっぱいいるから、その人たちをこうした活動でもっともっと掘り起こしていきたいですね。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 上野千鶴子

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