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世界中の本好きのために

貫井徳郎

Profile

1968年生まれ。早稲田大学商学部卒業。93年、第4回鮎川哲也賞最終候補作となった『慟哭(東京創元社)』が、予選委員であった北村薫氏の激賞を受けデビュー。2010年『乱反射(朝日新聞出版)』にて第63回推理作家協会賞受賞、『後悔と真実の色(幻冬舎)』にて第23回山本周五郎賞受賞。著書に、『プリズム(東京創元社)』、『悪党たちは千里を走る (幻冬舎)』、『空白の叫び(文藝春秋)』、『夜想(文藝春秋)』、『灰色の虹(新潮社)』などがある。近著に『新月譚(文藝春秋)』、『微笑む人(実業之日本社)』。

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横溝正史賞目当てで書き始めて、小説を書く楽しさを知る


―― 執筆をされるきっかけというのは、どのようなことだったのでしょうか?


貫井徳郎氏: 高校生の時に、当時まだワープロがなかったので原稿用紙と万年筆で書きました。大まかなプロットは考えて、その通りに書いたって感じです。でも、ミステリーはその一作だけで、次からはSFを書いていたんです。

――なぜ書こうと思われたんですか?


貫井徳郎氏: 横溝正史賞の賞金が当時50万円で、その50万円が欲しくて書いたんですよ(笑)。高校生にとって50万円は大金ですから。賞金目当てという不純な動機から始めました(笑)。で、書いている途中で小説を書くのは面白いなと思って、「将来これを仕事にしたい」というふうに後から考えたんです。でも社会に出る前にはデビューができなくて、不動産屋に就職してからもずっとコンスタントに書いていて、ようやくデビューできたのが25歳のときなので、書き始めてからデビューまで10年かかったことになります。

――読書に関するお話を伺っていますが、近ごろの書店の変遷といいますか、こんな風に変わったなという印象はございますか?


貫井徳郎氏: 僕自身が変わったので、書店さんに対しての印象が変わった部分は当然あります。ただ、書店さんの変遷というのは正直分からない。昔はもう書店に行けば、行くたびに知らない本が見つかるという感じですごく楽しかったですけど、いまは新刊が出たら行くぐらいになっちゃいましたから。

―― いまでも書店に通われることはありますか?


貫井徳郎氏: 行きますけど、頻度は落ちました。新刊情報はインターネットで手に入るので、出たと知ったら行くって感じだから、何か読む本ないかな、みたいに思って探しにブラッと入ることはなくなっちゃいました。4、5年前に出た本だと店頭にはないので、資料本はネットで探すことになるし。今は新刊本の点数が多いから、書店さんも古い本は物理的に置いておけないんでしょう。

読者が長い小説を読まなくなってきたことには、危機感を覚える


―― 文学にしても、世間で読まれている本にしても中身が変わってきたという印象はございますか?




貫井徳郎氏: その時々のはやり廃りはありますよね。ですから、もちろん変わっているといえば変わっているんですけど、はやりはいずれ廃れると思っています。軽い文体のものがウケていても、数年後には絶対変わっている。だから昔に比べてというよりは数年サイクルで変わっているという印象はあります。ただ、最近特に実感するのは、分厚い本は読者が受けつけないという現実ですね。15年、20年ぐらい前は、分厚ければ分厚いほどいいという風潮があったんですよ。分厚いと力作感があるので。それがもういまだと…。今年4月に僕が出した本、『新月譚』(文藝春秋)は、分厚い分厚いとさんざん文句を言われました。長い長いって。

―― そうなんですか。


貫井徳郎氏: はい。でも、僕の本の中では特別に長いわけではないんですよ。昔はそれより長いものを出しても文句は言われなかったのに、いまは言われてしまう。読者が長い小説を読めなくなってきているんだという感触があります。

―― いわゆる活字文章に触れる機会が少なくなったということでしょうか?


貫井徳郎氏: すぐ楽しめるものを好む人が増えたのではないでしょうか。長いものを読めなくなったという読者の変化に対しては警戒心があるので、対応を考えなければと思っています。これまで僕ははやり廃りは全然意識しないで書いてきたんですけど、今回ばかりは意識して、これからはあまり長い小説を書かないようにしようと考えています。

―― それはそれで何かさみしい気もしますね。


貫井徳郎氏: 長いものは本当に売れないんですよ。だから文庫も今後、分厚い文庫は厳しくなるだろうと思っています。僕の本は分厚いのが多いので、マズいですね。

――「長いですね」という意見は、編集者とのやり取りの中でもあるんですか?


貫井徳郎氏: いや、Twitterとかで聞こえてくる声が多いです。あとまあ実際の売れ行きですね。4月の『新月譚』と8月の『微笑む人』を比べると、『新月譚』が二倍以上厚いんですが、薄い『微笑む人』の方が二倍以上売れている。

―― 冷静に分析されるんですね。


貫井徳郎氏: 僕はかなり分析して「次に何を書くか」を考えるタイプです。

―― Twitterなどの登場によって読者の声や顔が見やすくなったというのがあると思うんですけれども、そういうのは書き手に影響はございますか?


貫井徳郎氏: 聞こえてこない方が幸せだったのかもしれませんけど、読者の声を聞く手段があるならやっぱり耳を傾けて自分の仕事に反映させようとは思っています。読者の好みに合わせるという意味ではなく、あくまでも自分が書きたいものがベースにあってこそなんですけど。僕は常に、誰もやっていないことをやりたいんですよ。何か新しいことに挑戦したいんです。そのためには、いまの小説はここが主流というフィールドが分かっていないと新しいことには挑戦できないですから、そのフィールドを知るために読者の声を聞いているわけです。

ネタはパッと出なければ、無理やりひねり出す


―― 色々な構想や、ネタは頭の中でたくさんあるのですか?


貫井徳郎氏: ううん、全然ないですよ(笑)パッと出ないと、ひねり出してるという感じです。ほとんど使い切った歯磨き粉のチューブを、もう出ないのに、それでもギューッと絞ってなんとか出そうとしているみたいなものです。

―― アイデアが出ないときに、何か気分転換の方法というのはあるんですか?


貫井徳郎氏: 今年の前半に、デビューして以降最悪というくらいアイデアが出ないときがありました。ぜんぜん駄目なので、開き直って考えるのをやめちゃいました。1か月間、充電期間にしようと思って、ほかの小説をたくさん読んで、自分の小説のことは考えないで過ごしました。あれは本当に最悪でしたね。

―― 小説を読もうと思われたんですか?


貫井徳郎氏: はい。何か刺激を受けようと思って。ここのところ読書する時間がすごく減っちゃっていて、話題になっている本でも読めていなかったんです。だからそういう作品をまとめて読みました。

―― 1か月を経て、スランプからは抜け出せたのですか?


貫井徳郎氏: 充電が何か役に立ったかというと、全然役に立っていません(笑)。それぐらいだったら、何か違う仕事をすれば良かったなと思いました。長編の構想を練っていたんですけど、そうではなく短いものを書けばよかったです。

著書一覧『 貫井徳郎

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