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世界中の本好きのために

後藤武士

Profile

1967年、岐阜県生まれ。青山学院大学法学部卒。執筆・講演のほか、教育評論家・活字講談家・世相評論家・平成研究家などの一面を持つ。学習法、読解力育成、などのメソッドでも一世を風靡。代表作「読むだけですっきりわかる」シリーズは累計280万部超。とりわけ2008年文庫化出版の『読むだけですっきりわかる日本史』はミリオンセラーであると同時に超ロングセラーとなっている。他に監修本として、『NHK麻里子さまのおりこうさま! 篠田麻里子の150字で答えなさい!』(アスコム)や『まんがと図解でわかる世界史』(別冊宝島)など。 http://www.takeshigoto.com/

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電子書籍は、出版界におけるライブハウスだ。


――電子書籍が普及してくる中で、後藤さんが、電子書籍に期待するものはどんなことでしょう?


後藤武士氏: 電子書籍というのは、自分自身で全部できる。ぼくは自費出版というスタイルを取ったけれども、そんな選択を取らなくてもいい、というものですね。

――その当時に電子書籍があれば、後藤さんも利用していましたか?


後藤武士氏: おそらく利用したでしょうね。電子書籍は、出版界におけるライブハウスだと思っています。本を出したいという人にとってはすごく門戸が開かれていて、武器になるツールであるし、登竜門になるべきだと思う。だからね、ライブハウスをホール級のアーティストが使うことに抵抗があるんですよ。荒れちゃうから。ファンのために、たまにはいいけれども、次に育ってくるべきアーティストのためのハコ(箱)がなくなってしまう。だから偉そうかもしれないけど、ぼくは、これから出て来たい人や、いま書いているけど出版社から声を掛けてもらえるだけのものがないという人たちのために、ライブハウス的な場所はとっておくべきだと感じているんです。

――登竜門としての場が「電子書籍」であれば、武道館やホールという場は「紙の本」として書店に並ぶことですか?


後藤武士氏: やはり電子書籍よりも紙の本にした段階で、お金が余計に掛かるわけですね。キンドルが向こうで流行り始めた頃、ほとんどの作家さんや編集者さんがもろ手を挙げて電子書籍を歓迎していて、「これで何でも出せる!」みたいなことを言っていたけど、ぼくにはそうは思えなかった。つまり、編集者がいなくてもいい本を書けるのだったら、彼らのいる意味がない。編集者と突き合わせている限りは、それだけ出来上がったモノが良くなってなきゃいけない。当然、編集者というのは有能な人たちだから、それだけの人件費もかかっているわけですよね。だったら、そこも含めてPayできる質にしなきゃいけない。

――そういった経費の部分を考えなくて済むという点が、やはり電子書籍の売りになるでしょうか?


後藤武士氏: そう、だからいまの段階で、書店が同じ売り方をする必要はないでしょう。あともう一つは図書館。ぼくは図書館が新刊を扱うのはどうなのかなと思っています。書店さんが1つや2つしかない町であるとか、地元の書店さんがあまり大きくなくて、ベストセラーとかが少量しか入荷しないとか、離島とか、そういう地域はもちろん別だけど。「じゃあ図書館は要らないか」というとそうではなく、ある程度、版を重ねて利益を十分に得た本や、逆に絶版になって出版社も増刷に手を掛けない本、あるいは取りあえず採算度外視で世に問いたいという人たちの本などを、取り扱うべきだと。自費出版とは限らなくて、メジャーな版元さんから出た本の中にも、そういう本はある。ロットは大きくないけれどもニーズは確実に存在している本というものね。

――例えば大学教授の研究書や学術書や、極めて狭いマニア的な趣味の本など、ということですね。


後藤武士氏: そう、例えば釣りの本よりもルアーフィッシングの本の方が、当然ロットは小さくなるけど、確実に存在しているわけ。ロックの本より、タンゴの本、タンゴの本よりもアルゼンチンタンゴの本の方がターゲットとなる読者層もニーズも狭くなっていく。これを売るには商業的に厳しいから、そこを何とかするために、というところで図書館が有効な空間だと思っている。適材適所でやればいいのであって、逆に言えば紙媒体でもできることを電子書籍でやってもどうなの、という話ですね。

――紙と同じような戦略で電子書籍を出しても、意味がないということですね。


後藤武士氏: うん、なのに同じことを考えている。紙で大ヒットになっているものを電子は欲しがるじゃない?だけど、それはあまり意味が無いよ。それぞれに役割があって、分けるべきだと思う。ただ、どうしてもそうしたいのだったら、やっぱり料金的なことも考えなきゃいけないよね。

紙の「ホンワカポン」、電子の「テカテカ・ツルツル」


――数年前にKindleが入ってきた時、後藤さんの考えはどのようなものでしたか?電子書籍が本の中心になると思いましたか?


後藤武士氏: さきほどもちらっとお話したけれど、当時はみんな「黒船の襲来だ、これで一挙に日本の出版事情が変わる」なんて言われていたわけです。そういう予想した評論家やジャーナリストをここで晒してやりたいくらい(苦笑)。でも、ぼくは電子書籍をテーマに月刊宝島から取材受けた時「そんなことにはならない」とお答えしました。なぜかというと、日本にはまず文庫本という存在がある。欧米のペーパーバックより小さいでしょ? 要するに世間で言う「携帯性」という意味で、決してiPadとかに負けていない。なおかつ日本人というのは、文庫本にブックカバーを付けるでしょ。カバーが付いているものにさらにカバーを付ける。そういう人たちが、この電子化の状態に耐えられるかといえば、無理だろうと。

――文庫本にブックカバーをつけて大切にしますよね。


後藤武士氏: あとは何を読んでいるのか「隠したい」という気持ちもある。でもiPadでは、使っていない人には開けっ広げに見えちゃう気がするから、そのハードルを越えるまではそう簡単には普及しないと、ぼくは思っていました。ノートパソコンのモニターは弁当箱のフタだと思っていましたから。

――電子書籍を必要としている層と、紙を必要としている層は違いますか?


後藤武士氏: 紙を必要としている層なんか、書庫まで作って本をとっておきますよね。まあ僕もそうだけれども(笑)。そういう人間がこの電子書籍の中に冊数が入っているだけで満足するかというと、絶対しないですね。電子書籍を喜ぶ人たちは確かにいるけど、その人たちというのはネットでコンテンツを読むことに慣れている。ところがネットのコンテンツというのは、無料が仕様なわけで。先に無料に慣れちゃっている人に「これから有料にしますよ」なんて言っても、そう簡単には「はい、そうですか」とはならないでしょう。このあたりも当時ベストセラーになった「FREE」の影響もあって、見誤ってた人が多かったものです。

――世代によって、慣れ親しんだものに違いがありますね。


後藤武士氏: だから「電子書籍が来た、じゃあみんな電子書籍へ行こう!」という風にはならない。ただ、生まれた時からiPadやノートパソコンがある世代というのは、ナチュラルに電子の方へ流れていくと思う。はじめからネットコンテンツが有料前提で育つであろう今後の世代なんかもね。現にいま、英和辞書なんか、高校生は紙と電子のどっちの方が多いかと言えば、みんな電子辞書を使っていて、しかも彼らには抵抗感がまるでない。

――どのようになれば、紙の本が好きな方たちが電子書籍へ移行できるようになると思いますか?


後藤武士氏: 一つは、付せんやマーキングがもうちょっとうまく貼れるようにしないといけない。書き込みが紙並みに貼れるようになったら、話が別だと思う。あとは、モニターを通しての文字というのは、テカテカ、ツルツルで目に優しくない。紙媒体の文字ってやっぱりジンワリっていうかシンミリと読める。本の文字は、ホンワカポンっていうかね。その2点を満足させるツールとか仕掛けを考えて、うまくいけば、電子書籍も一気にいけるんじゃないかと思う。もう一つ、電子書籍コンテンツにコレクションツールとしての性質を持たせること。例えばぼくのシリーズを全部そろえると何か秘蔵画面が出てくるとかね(笑)。
もちろん時間や世代は電子書籍に味方する可能性が高いでしょう。

――この先、電子書籍が普及しても紙の本と共存していくと思いますか?


後藤武士氏: データは同じで、それを印刷するか、そのままコンテンツの形にするかというだけの違いですから、紙も当然残ると思います。ただね、電子書籍は動画も静止画も音声も組み込めるわけだから、新しい動きとして必ず出て来るだろうなというものはある。例えば、昔はやったシミュレーション、アドベンチャーブックというのがあるじゃない? 読んでいるとここから3番へ行けとか。あれなんて電子書籍だったらもっといいのが作れますよね。

――ゲーム感覚としての本ということですか?


後藤武士氏: そうそう。紙媒体だけでしかやっていない版元に、新たなスタイルの「本」というものを提案できる企業がいつかは出てくると思う。それが出版社側から出てくるのか、いわゆるIT業界から出てくるのかというのは今のところわからない。だって出版社の中でも、メディアの多店舗展開に積極的なところもあるわけでしょう?自分のところで開発するノウハウもあるだろうし、昔で言う編プロの代わりに「デジタル編集プロダクション(デジ編・デジプロ)」みたいなところが出てきてもおかしくない。あ、これは造語だからね(笑)。そこに気が付いた有能な人が、それをやりだすと面白いかもしれませんね。あとは疑似図書館・擬似書庫みたいなのもいいと思います。購入した本で、ライブラリを自分のウルトラブックやiPadの中で形成できるんだったら、これは一つの楽しみですね。そして、埋もれてしまっている本、絶版になってしまった本に関しても、電子書籍をうまく生かして発掘するべきですね。ただ、そのためには、ハードの進化が逆に足を引っ張るかも。進化するときは前規格を引き継ぐことができるようにする必要があるだろうね。映像メディアやゲームメディアみたいにせっかくコレクションした映像が、ハードが進化したことで、スクラップ同然になってしまうようではつまらない。やっぱり規格の統一が課題でしょうね。

――教育において、教科書的な意味で電子書籍、電子媒体というのは助けになると思いますか?


後藤武士氏: 使い方さえ間違わなければね。例えば地球儀であるとか、あるいは日食のメカニズムだとか、いままで板書という2次元で書いていたものを、電子なら疑似的な3次元で表現できるわけじゃない? だったらそれは生かさないといけない。ただ、いま存在しているものって、正直2次元の焼き直しでしかないから。なぜ、3次元を表現できるもので2次元にとどめているんだって話ですね。2次元だったら2次元に任せておけばいいわけで、それぞれにしかできない特性を生かすべきですよね。

著書一覧『 後藤武士

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