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世界中の本好きのために

伊藤元重

Profile

1951年生まれ。静岡市出身。1974年3月、東京大学経済学部経済学科卒業、1978年5月、M.A.(ロチェスター大学)、1978年7月、ロチェスター大学大学院経済学部博士課程修了、1979年2月、Ph.D.(ロチェスター大学)。1982年4月、東京大学経済学部助教授、1993年12月、同教授、1996年4月、同大学院経済学研究科教授。2006年2月、総合研究開発機構(NIRA)理事長。国際経済学と産業経済の二分野を中心に周辺分野も含めて研究。近著に『「通貨と為替」がわかる特別講義 経済ニュースがスラスラ読める!』( PHP研究所)など。

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「いい本を何度もゆっくり、じっくり考えながら読む」。スローリーディングのススメ



経済学を学んだことがある人ならば、絶対に一度は耳にしたことがある。そういっても過言ではない、日本を代表する経済学者の伊藤元重さん。現在、東京大学を中心に教鞭をとられている伊藤さんは、『経済学入門』などの専門書から一般書まで著書も多数の経済学関連書をご執筆されています。「本を書くために、たくさんの本を読む」と語る伊藤さんの読書法について、お話をお伺いしました。

実は飽きっぽいので、10~20冊の本を平行して読んでいます


――伊藤先生は、本当にたくさんの本を書かれていますが、それと同時にたくさんの本を読まれるとお伺いしております。日ごろはどういった本の読み方をされているのでしょうか。


伊藤元重氏: 我々のような研究者だと、いくつか異なったタイプの読書を同時並行しているんです。まず、一つ目は自分の専門に関する本や論文を大量に読みます。たとえば、私の場合は、経済学の本ですね。研究論文を日々読み続けることが、研究者の仕事のようなものですから。私なんか、大学院時代や助教授時代などの若い頃には、だいぶ無茶をしてまして、「一日に最低1本の研究論文を読む」ということを自分に課していました(笑)。

二つ目には、専門分野そのものではないけれども、自分の分野に関連する少し幅広い読書を心がけていました。経済や歴史、政治学の本などですね。

そして、三つ目には、みなさんと同じように、自分の楽しみのためにする読書ですね。推理小説や歴史小説。あとは、ノンフィクションとか。若い研究者だと、やっぱり一つ目、二つ目の読書が多いと思うのですが、私のように還暦を超えると、この部分の読書はかなり増えましたね。

――幅広いですね…。これまで、どのくらいの冊数本を読まれているんでしょうか?


伊藤元重氏: 正直、数を数えたことはないですね。そんなに読んでいないと思いますけど、若い頃から「論文を大量に読む」という経験から、読書癖がついているので、いつも鞄か手元に本がないと不安ですね。依存症かもしれません(笑)。



このようにいろんな本を読むので、常時10~15冊ぐらいの本を平行して読んでいます。多分、これは性格の問題だと思うんですけど、私はとても飽きっぽくて、集中力が20分以上続かないんですよ。原稿もそうなんですよ。常時3~4本抱えていて、これらを同時並行で書いていきます。もちろん締切が差し迫っていたら、集中的に書くわけですけど、その前段階となるプロットの部分では、3~4つの構成をずっと平行して考えていたりしますし。

でも、最近は、Kindleを常時鞄のなかにいれているので、同時にたくさんの本を持ち歩けるので、楽ですけどね。いま読んでいるのは、ダニエル・ヤーギンという世界的なエネルギー研究の権威の人が書いた、『The Quest: Energy, Security, and the Remaking of the Modern World』という本です。いまは日本語版(『探求――エネルギーの世紀』)も出ているようですが、私は原書で読んでますけど。これが、800ページぐらいある本で…。2か月前に読み始めたんですけど、まだ読み終わっていませんからね。

あと、小説でいまKindleのなかに入っているのは、ケン・フォレットっていうイギリスの作家の小説です。歴史ものなんですが、『The Pillars of the Earth(大聖堂)』という本と、その続編にあたる『World Without End(大聖堂-果てしなき世界)』という本。12~14世紀のイギリスの歴史小説なんですが、とてもおもしろいですね。あとは、『Fall of Giants(巨人たちの落日)』とか。

――読まれる本は、基本的には洋書が多いんですか?


伊藤元重氏: Kindleに入っている本は洋書が多いですね。日本語の本は実はそこまでたくさん読みません。別に避けているわけじゃないんですけど、英語の本のほうが、自分が読みたいと思う本が多いものですから。日本人作家だと、好きなのは浅田次郎さんぐらいでしょうか。

日本語の小説ではありませんが、最近日本語で読んだ小説といえば、映画も公開されたスウェーデン作家の書いた『ミレニアム』はおもしろかったですね。こちらはあまりにおもしろすぎて、最初に単行本を買ったんですけど、読み終わった後に捨ててしまって。その後、映画を観たらまた興味が沸いてきて、今度は文庫版を買ってしまいました(笑)。

あとは、たまに昔の本を引っ張りだして読んでみたりもします。先日も家の掃除をしていたら、加藤周一さんの『羊の歌』が出てきて。学生時代に読んだ本だったのですが、またそれを機会に読み直してしまいました。こうやって、ふとした機会に昔の本を読み返すことも、結構多いですよ。

経済学の巨人が教えてくれた、究極の読書法


――読書法について、少しお話を聞かせてください。一般人で先生のように真剣に本を読んでこなかった人たちが、なにかを改めて学びたい…と思ったときに、どんな本の読み方をしたらいいんでしょうか?


伊藤元重氏: 昔、アメリカのとても有名な経済学者のチャールズ・キンドルバーガーという先生と、スイスの湖畔で一緒になったことがあるんです。その先生が読書に関して、すばらしいお話をしてくれて。

彼は本を読むときに、なんとなく気になったところにアンダーラインを引いたり、本の隅っこのほうに気になったコメントを書いたりするんです。普通の人だと、読み終わったら本はそのままになってしまうと思うんですが、彼はそこから自分が本に記したアンダーラインや書き込みがある部分をピックアップして、それをタイプライターで新たに打ち直すんです。そうすると、ノートでいえば10ページから20ページぐらいになってしまう。本を10冊、20冊読むと、かなりのページ数になりますよね。そして、またタイプライターで自分が集約したものを読み直して、再度アンダーラインや気になったことを書きこんでいくんです。そして、また自分のノートにそれを集約する。こうやって、「ノートのノートのノート」が出来上がるころには、1冊の本になっているわけですね。

このようなやり方は、とても真似はできないけれども、でも「自分の筆で字を書く」っていうのは、すごく重要なことなんですよ。だから、私自身も、複雑だけれども本当にいい本に出会ったときには、ページに線を引いたりメモしたりしたいと思いますし、チャンスがあればそれを手帳に自ら書き写したいとも思っています。

人生で何度でも繰り返し読むに堪えうる名著を、人生で見つけよう


――日々学生さんたちなどにお会いすることも多いと思うのですが、若いうちは「こうした読み方をしたほうがいい」などの読書法はありますか?


伊藤元重氏: 学生によく言う話としては、「大学のときに、その本1冊だけで世の中がわかるような本を読んでもしかたがない」ということですね。むしろ、もっと自分の思考能力とか、頭を鍛えるような本を読んで欲しいし、そういう読み方をしてほしいと思っています。

たとえば、2~3年前から私の寝室のベッドの横に1冊の本を置いてあるんです。それは、フリードリヒ・ハイエクというオーストラリアの経済学者の『自由の条件(The Constitution of Liberty)』という本なんですが、この本はとても難しい本で。1ページ読むのに1時間ぐらいかかるような本なんですが、こういう本を一日寝る前に20分、30分読むんですよ。

すごくゆっくりだと思うんですけど、このスローリーディングって実はすごく大切なことなんですよね。「読む」んじゃなくて、「読みながら考えさせられる」本なんですよね。そして、そのスローリーディングに耐えるような本を人生のなかで何冊も持つ。こういうタイプの読書をもっと推奨したいと思っています。私の場合、30~40冊ぐらいはこういう本に出会ってきていますから。

19歳の時には、1日1冊、違う本を読んでいました


――世の中では、速読が大事…という風潮もあるように思うのですが、それについてはどう思われますか?


伊藤元重氏: 速読は速読でも大事だと思いますよ。たとえば、先ほど話に出てきた加藤周一さんですが、私が19歳で大学に入ったばかりのころ彼が書いた一般向けの読書法を書いた『頭の回転をよくする読書術』という本に出会って、その内容にすごく影響を受けたんです。

そのなかに書いてあったのは「1日1冊新しい本を読む」ということ。1日1冊って、実はすごく大変ですから。当時は、文庫本とか軽い本をたくさん読むようにしていました。結果、30日で挫折したんですけど、後になって考えてみると、1日1冊読んだ経験というのはとても貴重でしたね。早く読むということが、なんとなく身についたような気がします。

日ごろ、私は本を読む速度などは特に意識はしていないんですが、早く読もうとその気になれば、普通の人よりは早く読めるんじゃないかと思います。

ただ、一方で、最近は1冊本を読み切るっていうことがあまりなくなっちゃったんですよね。一番多いのは、100ページぐらい読んで、次の本に移ってしまう…とかね。本で、最初の50ページぐらいはとても内容に濃度もあるし、書き手の熱意も伝わるんですが、読み進めていくとだんだん内容が薄くなってきてしまう。だから、そういう意味で先ほどあげたようなスローリーディングに適していて、何度も繰り返し読むのに耐えられる本を探すというのはとても大変なことかもしれませんね。

――先生ご自身は、どうやって何度も読むに堪えうる本をどうやって見つけていたんですか?


伊藤元重氏: 私の場合は、同僚で本を読んでいる人が多いというのもありますから、本に詳しい知人との会話で出会うことが多いですね。だから、もし近くに読書や本について語ることができる人がいたら、その人に聞いてみるのがとても手っ取り早いと思います。周囲に読書の達人がいない人であれば、読書関係の書評を読んでみたり、本の専門雑誌を読んでみるのもいいかもしれませんね。

あとは、アメリカだとよく見かけるのは、「ブッククラブ」というカルチャーですね。仲間何人かで集まって、1か月に1冊本を選んでみて、そこからみんなで1時間とか1時間半ぐらい本に関するお話をするんです。80歳ぐらいのシニアコミュニティの人たちがしゃれたレストランなどで集まってやっているのをよく見かけますね。

世界各国に、お気に入りの本屋さんがあります


――先生は、本屋さんで本を買われることはありますか?


伊藤元重氏: 私は本屋に行くのが昔は大好きだったんですけど、いまはほとんどの本はAmazonで購入しています。でも、相変わらず本屋にはよく行っていて、本を大量に衝動買いしたりはしていますね。よく家内と近所の本屋に行くのですが、1回で10冊ぐらいまとめ買いしたりします。
あとは、海外に行ったときは確実に本屋さんに行きますね。世界の主要都市には、やっぱり何か所かいい本屋さんがあるんですよ。たとえば、「ワシントンだったら、この本屋。ニューヨークならこの本屋。ボストンだったらこの本屋」……とかね。それと、大学の近くにもいい本屋さんが多いので、ハーバードに行ったらそこのブックストアに行きますね。

でも、最近、日本では大型書店や駅の構内の本屋さんは売っている本やレイアウトが似ているでしょう? だからあまり面白みがないんです。そうした一般書店の均一化が進む中で、東大の生協の本屋さんはかなりおすすめですね。書籍担当者の目が肥えているのかもしれませんけど、やっぱり東大生が選ぶ本はおもしろい本が多い。彼らの好みが反映された本棚作りをしているから、結果的におもしろくなってるんじゃないかなと思っていますが。一度、お時間がある人は、ぜひゆっくり見ていってほしいですね。

一番有効な情報収集術は、実は自分で「書く」こと


――いまでは本だけでなく、テレビやラジオ、インターネット、雑誌などさまざまなメディア媒体が存在しますが、そんななかで先生が一番情報収集に使われている媒体はなんですか? 


伊藤元重氏: インプットの情報源として一番多いのは本ですね。もちろんウェブの文章も読むんですけど。そのときに手掛けている仕事にもよるんですが、私の場合は、そんなに時事性の高いものを常に追いかける必要がないんです。言ってしまえば、一週間新聞を全く読まなくてもいい。

ジャーナリストの人ならばまた別だと思うんですが、私みたいに、研究者の時間軸で仕事をしている人たちにとっては、「橋下市長がこういうコメントをした」「アップルの社長がこんな発言をした」ということは、大事ではあるけれども、直接的にはそこまで必死に追いかける必要がないんですよね。

そして、私の場合、一番大切な情報収集は「自分でモノを書くこと」なんですよ。なにかを書く場合、その前に「調べる」という作業がすごく大事になる。だから、書きながら読み続ける。その繰り返しです。あとは、活字以外で足りない部分は、人と交流して、そこから情報を引き出す。これもすごく大事なことだと思います。

手に入るときは、極力本は紙で読むようにしています


――続いて、電子書籍のお話をさせていただければと思います。現在、先生は電子版も紙も両方読まれていらっしゃるようですが、いま、読書比率として、紙のものと電子のものだとどちらが多いんでしょうか?


伊藤元重氏: 電子も紙も、どちらも同じぐらい購入していると思います。ただ、紙でも電子でも両方どちらでも読める場合は、私は紙で読むことが多いですね。やっぱり古い人間ですから。そして、そもそも、専門書の場合、電子版はとても手に入りにくいんです。電子版だと値が下がってしまうからなんでしょうか、私が読みたいと思ういい研究をしている専門家たちの本は、依然として紙が多いですよね。

もっとも、最近は日本版のAmazonでも洋書はラインナップが結構充実していますから、洋書でも注文してからそんなにタイムラグが発生しない。だから、読みたい本を探してみて、紙版があれば、そちらを購入するようにしています。そして、もしも電子版でしかない場合は、Kindleで購入しています。

ただ、最近は、紙だと本が読めない環境も結構多いんです。毎日、パソコンや大きな手帳を持ち歩いているので、鞄に本が入りきらないんですよ。そういうときに、Kindleが一台あるととても楽です。以前だったら、2週間アメリカに出張に行くとなると、前の晩になると「どの本を持っていこう?」と悩んで、読みたい本をスーツケースに詰めていたんです。でも、いまはなにも考えずにKindleを一台持っていけばいい。そうした手軽さがあるので、電子版で本を読むこともとても多いんです。時間の割合で言えば、多分紙と電子はフィフティフィフティじゃないでしょうか。

本が多すぎて、家内にはよく怒られています


――お話を伺っているとかなりの読書家とお見受けします。紙で購入した場合、本はどうやって所蔵してらっしゃるんですか?




伊藤元重氏: 家はものすごい状態です。だから家内にはよく怒られるんですけど。いまは、自宅や大学、研究室などいろんなところに本が散らばっているんですが、とにかくものすごい量になってしまってますね。

――自炊など、お手持ちの本の電子化をご自分でなさったたりはしますか?


伊藤元重氏: 自分ではやらないですね。ただ、先ほどお話したように、専門書は電子化されていないものが多いんです。だから、どうしても自分にとって大事な本や資料はいつでも持ち歩いていたいから、PDFでコピーしてもらって、パソコンの中に入れて保存しています。

私の同僚の東京大学の先生のなかには、「研究室がキレイなほうがいいから」と言って。
自分の持っている重要な専門書を全部データ化してしまって、本のほうは捨ててしまっていますね。多分、40~50冊ぐらいだと思うんですけど。

――家が広い人はいいと思うのですが、どうしても収容スペースがなかったり、いつでも持ち歩きたい…と思って、自ら本を自炊する人は多いと思います。先生の紙の本を自分たちで電子化する人たちについて、どう思われますか。


伊藤元重氏: それは、構いませんけどね。コピーして、売られたりするようなことがなければ、いいんじゃないでしょうか。別に、「紙じゃなければ読んでほしくない」というような、こだわりは特に持っていませんから。

実際、私自身の本もいくつか電子版で出ていますね。あと、これは電子書籍ではないんですが、漢検の過去問に挑戦できるiOS向けアプリ「漢検に挑戦」などを販売しているイマジニアという会社があるんですが、そこで電子媒体を意識した経済関連コンテンツを作っていて。先日、そのなかにある「経済史クイズ」という経済史が学べるクイズの監修協力をしたんです。電子だからカラーも使えるし、グラフも自由に使える。あと、クイズなども間違えたら「ブー」と音が鳴ったりと、紙ではできないことにいろいろ挑戦していて、可能性はいろいろあるな、と思いました。

――たしかに音や拡大できるグラフなどは、紙ではできない電子書籍ならではの醍醐味ですね。今日は貴重なお話をどうもありがとうございました。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 伊藤元重

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