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世界中の本好きのために

神田敏晶

Profile

1961年、神戸市生まれ。ワインの企画・調査・販売などのマーケティング業を経て、コンピュータ雑誌の編集とDTP普及に携わる。その後、 マルチメディアコンテンツの企画制作・販売を経て、1995年よりビデオストリーミングによる個人放送局「KandaNewsNetwork」を運営開始。ビデオカメラ一台で、世界のIT企業や展示会取材に東奔西走中。SNSをテーマにしたBAR YouTubeをテーマにした飲食事業を手がけ、2007年参議院議員選挙東京選挙区無所属で出馬を経験。早稲田大学大学院、関西大学総合情報学部で非常勤講師を兼任後、ソーシャルメディア全般の事業計画立案、コンサルティング、教育、講演、執筆、政治、ライブストリーム、などをおこなう。

Book Information

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読書とは、イマジネーションを引き出すもの


――今までのご自身の行動に影響を与えているような1冊はありますか?


神田敏晶氏: そうですね、いくつかあるんですが、何が一番なのかな。結局その本を読んでみたくなるっていう意味のことを考えると、やっぱり少し昔話になりますけどポプラ社の『少年探偵・江戸川乱歩シリーズ』(ポプラ社)ですね。『怪人二十面相』というお話があって、それをたまたま図書館で目にして、それまで文字とかは大嫌いだったんですけども、そこから本にハマりました。それから『アルセーヌ・ルパンシリーズ』(偕成社)『シャーロック・ホームズシリーズ』(偕成社)アガサ・クリスティーのシリーズを、ほとんど読破しました。でも少年探偵団のあのワクワク感はほかの本にはありませんでした。ホームズのシリーズを読んでいて「アヘン窟」とかあるわけじゃないですか。アヘンを吸ってる中毒者のシーンとかもさんざん出てきて、「なんなんだこれは!」って。子どもながらに大人の世界観を疑似体験できた。映画もそうだったと思うんですが、映画はもうビジュアルイメージができて完成品っていうものなんですけども、やっぱり本っていうのはイマジネーションをすごくかきたててくれると思うんですよね。今の時代、本は今までは単体としての読み物だったんですけども、今はウェブ上で色々な情報を検索して知ることができる。ひょっとすると今までノートに書いてクラスでしか回覧できなかったものが、色々なサービスが出てきて、PDFもできるだろうし、セリフを回せる人はポッドキャストで出すこともできるだろうし、色々なことができますよね。そういう経験をこれからの子どもたちは自分の中でふ化させることができると思います。

かわぐちかいじさんの漫画『僕はビートルズ』にハマり中


――今気になる本とか読んでみたいなという本はなんでしょうか?


神田敏晶氏: 『僕はビートルズ』っていう漫画なんですけども、『沈黙の艦隊』とかを書いているかわぐちかいじさんが書いていらっしゃるんですが、先週たまたま10巻まであるのを一気に漫画喫茶に入って読んだらハマっちゃったんです。話は単純で六本木でビートルズのコピーパンドのお店に出ている人たちは、ビートルズのコピーバンドとしては日本で一番うまいっていう人たちで50年前にタイムスリップしちゃうんです。ビートルズのデビュー前の世界に。それで、ビートルズのデビュー前に自分たちがその楽曲を発表しちゃうんですよ。面白いんです。

――『僕はビートルズ』を手に取られたのはたまたまですか?


神田敏晶氏: 偶然ですね。僕は漫画も読まないんですが、本屋へ行くと自分の読まないコーナーに行くんですよ。料理本とか哲学書とか、資格試験の本とか。どんな本を今、誰が読んでいるのかっていう人間観察も面白いし、書店をぐるぐるまわって、2時間まわったら1冊ぐらい買わないとまずいだろうみたいになります。だから書店にいすが欲しいですね。置いているいすじゃなくて、ゴロゴロ移動できて、そのまま動いて選んで、それでコーヒーとか置けるようなものをつけて、そのかわりいすに乗っている人は「買うよ」という意志があるという(笑)。

――電子書籍に戻りますけど、紙の本も電子書籍も、読書には色々と幅がありますね。


神田敏晶氏: 日本人はカバーが好きだから、まず電子書籍はそこからまず受け入れられないのかなと思います。本はカバーがなくても読めるのに、ハードカバーは表紙があって、帯があってしおりがある。紀伊國屋へ行くとさらにその本にカバーをつけてもらえたりとかするわけです。包み込んで大切にする気持ちがあるんでしょうね。僕も自炊するときの本を殺す感覚があって、自分ではやりたくないなと思うんで、スキャン業者さんにお願いしますね。やっぱり自分で牛を殺して食えないよな、とか鶏を自分で絞めてそれは魚でも嫌なのに、みたいな。本なんて断裁できないよなあと思います。

脳外への「クラウド化」のようなものは大昔からあった



神田敏晶氏: 実は、人間が文字を発明していなかったら実は人間は滅びているらしいって脳科学者の方がおっしゃっているんですよね。なぜかというと記憶することが多すぎて脳がもっとでかくなっちゃって子宮の産道を赤ちゃんが通れなくなるっていう説があって、だから人類がこの頭の大きさでいられるのは、文字を起こして自分の脳の覚えておくバッファを全部書き起こしたからなんです。だから外脳というか文章をメモすることによって自分が忘れることができて、やっぱりそれは紙というものが安くなってきたことによって、そこまで至っているわけですよね。物を何らかの形で残すというのは、クロマニヨン人の壁画の時から残しているし、メソポタミアの時の象形文字なんかもそうだろうし。紙の発明があって、昔は源氏物語とか枕草子とか清少納言とかの時代って、紙が高いから誰かがスポンサーにならないと作家になれなかったんですよね。今は紙も庶民の手に入るから、メモやノートは誰でも取れるようになりましたね。

日本はモノフォニックな世界だからこその細やかさを持つ国


――そして電子の時代になったら自分で発信したいことがあれば、もっと手軽に発信していけるようになります。


神田敏晶氏: そうですね。そうなってくると、大事なのは中の文章じゃなくてタイトルと装丁と最初の頭サビですよね。最初にこの本はどういう本ですよというあらすじが勝負です。だから週刊誌の記事と同じように、中身2割タイトル8割みたいなことが起きてくるでしょうね。Yahooニュースみたいに13文字ですべてを語れないとダメだとか。そこの要素が変わってくる。そして読み手が書き手を選ぶ時代ですね。昔からそうですが、いっときは書き手のランキングで読み手が選ばれていた時期があった。やっぱり日本人ってランキングが重視なんですよね。ランキングでビジネスも動いているし、だからみんながみんな大衆と呼ばれる妄想を意識して、自分の直感よりもデータが物語っている調査会社のデータで、市場規模がこれぐらいになるっていうそこだけの勝負で来ているんですよね。

――では、ソーシャルで色々な意見を聞けるという環境は日本人にとっていいことなのでしょうか?


神田敏晶氏: でも日本人は多様化しているっていうことを認めたがらない人種でもあると思うんですよね。例えばインド人とルームシェアしていると常識だろうと思っているところが常識じゃない。インド人ってカーストが高いと自分でお皿を洗わないんです。ほったらかしで、後の人のことを考えないんですよね。日本人だと自分の使ったものを自分で洗うのは当然だろうと思うんですけども、思わず僕が「常識」という言葉を使うと「おれのところではそういう常識じゃない」と言われる。常識なんていうものもグローバルで考えて行かないといけないんだと思いましたね。ただ、グローバルコモンセンスっていうのは実はないから戦争も起きたりとかするんですね。

――国によって常識というものが違ってくるんですね。


神田敏晶氏: あとはインド人に道を聞くと、うそを教える時もある。なぜうそをつくかというと、インドの人は「知らない」って言うのは失礼なことなんです。せっかく道を聞いてくれたのに知らないっていうよりは四方向のどっちかを言えばどれかあたっているから、「あっち」とか教えてくれるんです。だからそういう意味ではわれわれはモノフォニック(同時に色々な音が出せず、一つの音しか出ない)な世界で生きてきているんですよね。モノフォニックな文化だからこそ研ぎ澄まされて、ひとつひとつがすごく深いんですよね。それでいて実は自分たちのオリジンってどこにもなくて中国からきたものだとかアメリカからパクってきたものだったりとかするんですけれど、歌舞伎と一緒で男性が女性を演じたほうが女性以上の女性観が描けるんですよね。だから日本人ってそういう芸の細やかさとかいろんなモノがあるわけなんですよね。

未来の書籍は電子がスタンダードになってくるはず



神田敏晶氏: 先ほど『少年探偵』の話をしましたけど、『第3の波』(中央公論社)アルヴィン・トフラーを大学時代に読んで、やっぱり影響を受けましたね。第1の波で「農業」っていう波が来て、第2の波で「工業」っていう波が19世紀に来ていて、第3の波が「情報化」なんですね。ちょうどプロシューマーっていうプロフェッショナルのコンシューマーみたいな。それを知った時にがつんと来ましたね。言葉とか色々概念的には変わってきているんですけども、今ノマドっていうと「遊牧民のノマド」じゃなくてデジタルノマドのことをノマドっていうじゃないですか。やっぱり電子とかデジタルとかついてる間は偽物なんですよね。だから電子書籍って言ってる間はダメなんです。普及しないと思いますね。

――むしろあえて「紙」のとかつけるくらいでないといけないと。


神田敏晶氏: そうなんです。だから書籍っていうのはこちらがスタンダードになってくるんです。今は利権関係が多いから音楽出版の世界と全く一緒なんですけども、Appleというひとつのプレーヤーがあまりにもどぎついやり方でユーザーのところで協力してくれるいくつかの会社とやり始めた。でもそれはMP3の海賊文化というものがあって、海賊に取られて何も利益を生み出さないよりはおれたちと組んだほうがいいぜっていうのがあったので、多分そこらへんから来ると思うんです。違法コピーがあったからこそ音楽も広まったんですよね。本は、家族で電子書籍だったらシェアもはじめるんですよ。子どもたちの間では図書館状態ですよね。それで、「次の問題」が電子書籍って絶対に起きるんです。回し読みが起きて、コピーの意識もなくクラウドで共有して、みんながDropboxに入れて読む。それは今の時代では違法ですけども、それよりもユーザーの方が先回りしてきていて、法律のほうが追いつかないっていう状況が未来は絶対有り得ると思うんです。

――神田さんはご自身の書籍をスキャンされるっていう心理的な抵抗はありますか?


神田敏晶氏: 抵抗は全然ないですね。あるのはダウンロードが面倒くさいですよね。納品されるときに待たされるダウンロード。3G回線でダウンロードしているから。ひとつ提案なんですけども、スキャンした順番で送ってきてほしいんです。完成してどさっと送って来られるのが嫌なんです。もうできたものから送ってほしい。僕はiPadを3台持っているんですけども、どれにデータを入れたかがわからなくなるんですよね。

本は「紙」対「電子」ではなく、協業していくもの


――最後にお聞きしたいと思います。神田さんにとって本というものはどういう存在ですか?


神田敏晶氏: 僕は本というのは、人間の存在のWikipediaだと思うんですね。過去作ってきたもののキュレーション(収集した情報を分類し、つなぎ合わせて新しい価値を持たせて共有すること)されたWikipediaといったほうがいいかもしれない。

――Wikipediaですか?


神田敏晶氏: なぜWikipediaなのかというと、多分電子書籍になってきた時、その側面が強くなってくると思うんです。ハードディスクの容量がますます安くなって、自分で購入したものがWikipedia状態で検索可能になる。それを考えていくとあのWikipediaの便利さで本が読めるんですよね。それはプラットフォームが何になるのかわからないけども、自分の検索窓にたたきこめば自分の持っている本の何ページと何ページが関連していますという風にずらっと結果が出る。だから次にお願いしたいのは、スキャンだけじゃなくて文脈まで管理してもらえるといいですよね。僕はIT系なので、今までの新しいものとこれから出てくるメディアと人とのかかわり方はすごく興味があるんですよ。



――新しいメディアと人との関わりとはどういったことでしょうか?


神田敏晶氏: 新しいメディアが登場してから30年間くらいは本物になれないので、電子書籍の場合、今ここでもっと加速していくと、今生まれてきた子どもたちがアメリカの小学校に入学して、大学生になるころには6割は新しい産業に従事するんですよね。そういうふうに今言われているんです。それを考えていくと、今までの既得権益の商売を守るっていうことよりももっと新しいことを考えなければいけない。今は、カメラが出てきた時に似顔絵師の仕事がなくなると言われたときと一緒ですね。そのころ、カメラが出てきたんだから似顔絵書かなくていいだろうってことで、似顔絵師がカメラマンに転職したんですよね。でも似顔絵を描くっていう文化は残っています。テレビが出てきた時も、家で映画が見られるっていうのは、映画業界にとって戦々恐々だったって言うんですよね。でも映画とテレビはうまく住み分けができていますよね。今、映画はDVDに予告編だった時代からネットになって変わってきて、映画はネットでダウンロードとか見放題にされるものを作らないとダメとか、今また作り方が変わってきているんですよ。

――今の概念でとらえてしまうと、紙対電子じゃなく、一緒に融合していて過渡期の中において協業していくものだということですね。


神田敏晶氏: 21世紀のメディアのインターネットが、まだ20年です。あと10年かかって本当のインターネットのメディアが完成する。あと10年後にすべてのメディアが統合されてきたインターネットメディアというのが本当に登場すると思うんです。



取材場所:渋谷コワーキングスペース コネクティング ザ ドッツ

(聞き手:沖中幸太郎)

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