BOOKSCAN(ブックスキャン) 本・蔵書電子書籍化サービス - 大和印刷

世界中の本好きのために

小宮一慶

Profile

1957年生まれ。京都大学法学部を卒業し、東京銀行(三菱東京UFJ銀行の前身の一つ)に入行。同行から派遣されてダートマス大学エイモスタック経営大学院でMBAを取得。本店でM&Aなどを担当した後、1991年、岡本行夫氏が代表を務める岡本アソシエイツに移籍し、同社の取締役に就任。1995年、現職。企業規模、業種を問わず、幅広く経営コンサルティング活動を行う一方、年100回以上の講演を行う。経営、会計・財務、経済、金融、仕事術から人生論まで多岐にわたるテーマの著書を発表。その数80冊以上、累計発行部数は220万部を超え、新聞・雑誌の執筆、テレビ出演も数多くこなす。近著は「こんな時代に会社を伸ばすたった一つの法則」

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
経営コンサルタントとして350社ほどの会員企業を抱え、年に200カ所ほどの講演や研修を行っている小宮一慶さん。他にもこれまで85冊の本を著すなど、執筆業も精力的に行っておられます。多忙を極める小宮さんが普段どうやって情報を得ているのか、また、読書をする上では何に気をつけているのか。仕事をする際の心構えとともに伺ってみました。

「書く」ことを身構えない、「書く」ことと「話す」ことは同じ


――早速ですが現在のお仕事について教えていただけますか?


小宮一慶氏: 仕事は経営コンサルタントで、内容は経営のアドバイスをするということです。実際に月に5社程度は顧問先企業の取締役会などの経営の現場に行くことも少なくありませんが、それにプラスして今350社ほど会員企業さんがいらっしゃって、その人達に向けてセミナーを開催しています。もう一つは経営コンサルタントだけではなく、企業に行って研修も結構やらせてもらっていますね。それと物書き業も別にやっています。

――かなりお忙しいと思いますが、睡眠時間はどのくらいですか?


小宮一慶氏: 普通の日は6時間半くらい、疲れているときは7時間くらいですね。睡眠を優先してますね。睡眠時間を削って仕事をするということは絶対やらない。頭を使う仕事なので、頭が鈍ることはしない。僕ほど忙しい人は少ないと思いますよ(笑)。僕はこの小さい会社を経営しているんだけど、その他に今7社非常勤の役員をしていて、年に講演とか研修を200ヵ所、週にすれば5回くらいはやっています。その他にテレビに月2回大阪でレギュラーに出ていて、役員している会社以外にも顧問している会社が7社ほどあります。僕は新幹線に片道一回として年に110回乗りますし飛行機は80回乗る。それにプラスして、連載を月15本持っていて、本を年に10冊くらい出しています。だから普通の人の何倍も忙しいと思います。

――そんな中、きちんと睡眠時間を確保されてるんですね。


小宮一慶氏: 僕らくらいの年齢になるとアウトプットでしか評価されないので、寝ないで頑張っているなんて言うのはほとんど意味のない話なんです。どれだけ良質のアウトプットを出すかが大事。講演もそうだし、本もそう。だから良く寝るんですよ。寝ないといいアウトプットできないから(笑)。先ほどの仕事にプラスして、僕は月2回メルマガも出しているんですね。それがだいたい1500字前後ですけれど、調子良かったら20分で書きますよ。僕は、書くの早いですよ。

――20分で書くんですか?!


小宮一慶氏: うん、推敲2回して書き上がりまで20分。調子悪くても30分で書く。30分かかったら本当に調子悪いと思う。慣れですよね。

――コツをお伺いしてもよろしいですか?




小宮一慶氏: 書く前に考える。考えながら書かない。だからテーマだとかを書く前に決めているの。そうすると書くのは作業だから、手を動かしていればいいだけですね。テーマさえ決まればそんなに難しくないです。あとは、起承転結を考えない。起承転結を考えたら文章に手間が掛かっちゃうから、思ったことをバーッと書いて推敲していく中で変えていく。あともう1つは、バリューとインパクトを考える。バリューは読み手にとって価値があるか、あとは読んだ時にインパクトがあるかどうか。だから最初と最後をある程度決めて、言いたいことを真ん中でバッと言って、最後にどんでん返しみたいな結末で終わらせるというのが僕の文章のパターンなのね。だから書くのにそんなに時間かからないの。

――新聞の連載している記事だとどのくらいですか?


小宮一慶氏: 今新聞の連載は2つ持っていて、読売新聞に毎週と、日経の夕刊も2週間に1回書いてるんですけれど、どっちも600字くらいだから5分くらいです。原稿用紙1枚ちょっとだから多分5分かからないと思う。これもやっぱり書くことは最初に決めてから書いてる。書くこと決めていないといくら唸ってても時間が過ぎるだけですからね。600字くらいの文章なら、1本書くのに5分というか、10分はかかることはないと思いますね。

――早く書くための手法というのは、いつぐらいから確立されたんですか?


小宮一慶氏: 手法は考えてない。こうやって喋っているでしょ、喋っているのと同じトーンで書くの。だから書くことと話すことと区別がない。同じなんだ。口から出てくるか、指から出てくるかの違いだけ。普通の人でも1分で400字くらいは喋っていると思います。だから5分もあれば、本当は原稿用紙5枚分くらい出てるはずなんだけど、書くってことにみんな身構えちゃうから、時間かかっちゃうんでしょうね。

目の前のことを一生懸命やりましょう、若いうちは難しい本を読むべし


――研修をされる際は、主にどういった方々を対象にされてますか?


小宮一慶氏: 経営者か経営幹部が多いですね。でも頼まれて新入社員さんの研修をするときもある。対象は別に誰でもいいんですよ、同じことを言っているから。対象の方の社会的なレベルによって中身の複雑さや難しさは変えますけど、それほど内容は変わらないね。生き方だとかそういう話をするから。

――新入社員となると若い方が多いと思いますが、若い方たちのいい点も悪い点も含めて変わってきているなという部分はありますか?


小宮一慶氏: 今の子たちはみんな素直ですよ。すごく素直で言われたこときちっとやる。ただ恵まれて育っているから、チャレンジ心というのが若干少ないかもしれないですよね。自分からガーッとやろうと思うようになればもっと良くなると思います。歳を重ねてくると、そのうち誰も指示してくれなくなるからね。

――若い方たちに向けてはどういったことを伝えてらっしゃいますか?


小宮一慶氏: まず僕が若い人たちに話すとき、必ず言うことは「目の前のことを一生懸命やりましょう」ということですね。実力が十分じゃないので一生懸命やったって評価してくれないんだけれど、手を抜くと余計評価されなくて実力も上がらない。若い頃の習い癖で目の前のことを一生懸命やるという習慣を持っていれば、もっと年を重ねても成功すると思うんです。あとは深く考えるってこと。今の時代、便利で考えなくていいようになっちゃっている。だから深く考える癖をつける、難しい本を読むということが大事ですね。みんな難しい本を読まないよね。言ったら悪いけど、出版社もさーっと読める本しか作らないから。難しい本を作ると売れないんですよ。

「売れる本をつくる」ために。出版社の問題点とは


――出版社も分かりやすい簡単な本を出すことが多くなってきたんですね。


小宮一慶氏: テレビ観ているのと一緒なんですよ。若い人が注意しなくちゃいけないのはね、「月に100冊速読しています」なんて人がたまにいますけど、僕が必ず言うのは「月に100本テレビの番組観てますよ」ということと一緒だということ。立ち止まって考えない本なんか読んだってダメなんだよ、情報得てるだけだから。ダメだとは言わないけど、それを読書してると思っちゃってるのが間違いなんだよね。こちらは作る側だからわかるんですよ。難しく書くと編集者が「優しく書いてくれ」って言ってきますから。それで編集者が内容を簡単に変えちゃうから、僕が書いたものより漢字なんかがすごく減っています。

――本の中の漢字が減っているんですね。


小宮一慶氏: みんなひらがなだもん。「良い」までみんな「いい」になっちゃって、ほとんどひらがなですよ。編集者に聞いたら、迷ったら「ひらく」って言うの。「ひらく」っていうのは、ひらがなで書くっていうこと。それはおかしいんじゃない? って思うんですよね。難しいものは、若い人達だけじゃなくて一般の人たちの論理的思考力が落ちているので、受け入れられないんですよ。内容や文章を簡単にしたら売れるんですよ。出版社は売れりゃいいってなったら、内容を簡単にしてひらがなを使わないとだめなんだよね。

――そういった部分が出版社の問題点ということでしょうか?


小宮一慶氏: 言ったら悪いけど、著者も薄いし読者も薄いんですよ。だから全体の思考力がどんどん落ちてきて、出版もいい物が残らないから儲からない事業になっちゃっているんですよ。いい物を出すより短期的に売れるものを出すという風に多くの出版社がなっちゃった。問題はそこだと思うね。

出版社の存在意義、これから出版社が果たすべき役割とは


――出版社は、今はどういった存在でしょうか?


小宮一慶氏: 言ったら悪いけど、すべてではないけど、多くの出版社が売れる本を出す単なるマーケッターですよ。

――電子書籍が普及する中で、出版社はどういった役割になりますか?


小宮一慶氏: 出版社の役割というのは著者を探して、本を書いてもらって、編集して流通に流す役割なんですよ。そのうち電子書籍になれば、著者でも目ざとい人は自分で本を出し始めますよ。そうでしょ? 編集も、編集者としての腕がなければ、別にそんなの自分でやれることですから自分でやりますよね。流通に流すというのも、アマゾンとかが著者から直接買い付けたら出版社はいらなくなっちゃうじゃないですか。

――出版社は編集という役割が大きいんですね。


小宮一慶氏: あともう一つは本にするということ。一般の人は印刷して本という形にできないから、本の形にするというのが出版社の役割だったんですよ。つまり印刷屋さんに頼んでカバーをつけて、本の形にするということね。でもそれが、電子書籍ではやろうと思えば著者がやれる時代になってしまったということですよ。その辺の所を出版社はよーく考えた方がいいですよね。もっと言うと、著者の才能を引き出して、さらに、世の中に何を訴えかけようとしているか、きちんと把握して本を作っていかないと、単に右から左へ本を流すだけだと出版社の存在意義というのは無くなってしまいますよね。

思考力と行動のパターンの変化、世の中が「バカ化」している!?



小宮一慶氏: 世の中が、言ったら悪いですけれど「バカ化」しているんです。それはマスメディアの影響もあるし、世の中が本質として簡単になっているんですよ。取材場所に来るときは電車で来ました? タクシーで来た?

――電車とタクシーで来ました。


小宮一慶氏: それで、パスモとかSuica使っているでしょ? あれは人を"馬鹿"にしてしまう道具なんですよ。今までだったら目的地に行こうと思ったら、駅行って路線図見て、いくらかなと確認して券売機にお金入れて、場合によってはつり銭確かめて、小さい切符失くさないようにしてたけど、今はパスモやSuicaでピッとやって改札入って、改札出る時もピッとやるだけでしょ?つり銭のことも路線図のことも、ほとんど気にもしないでしょ?そういうこと1つとっても、人が物を考えなくなっているんですよ。例えばパソコンだってそうだけど、僕は出張多いから、ちょっと前まではホテルでインターネット接続するの大変だったんですよ。でも今なんて僕のレッツノートは勝手にWi-Fiを探し出してインターネットに接続しちゃう。物考えないんですよ。iPad使っていたって、開けば勝手にWi-Fiに接続しちゃってるじゃないですか。デジタルカメラだってそうでしょ、昔だったらフィルム使っていたから、もったいないので角度見て枚数も決めて撮るじゃないですか。今だと全然気にしなくても何千枚ってメモリに入るから、「とにかく撮っておこうか」になっちゃうわけ。だからね、物を考えなくなっちゃっているんですよ。

――考えずに出来ることが多くなってきたんですね。


小宮一慶氏: 深く考えなくてもいいから、思考力とか行動のパターンが大きく変わってイージーになっちゃっている。もう1つは、アマチュアでもプロのように振る舞えるんですよ。どういうことかというと、僕もブログもFacebookもやっていますけど、主婦の人でも同じように書くもんね。アマチュアもプロ気取りしている部分もあるでしょ。そういう時代なんですよ。その中で出版がどうやって生き残っていくかということですよ。編集者がプロとアマチュアの差を見つけられるかというところもあるだろうし。出版点数はどんどん減っているもんね。

厳選される時代へ、編集者の能力が問われる


――時代が変わってくる中で、電子書籍はどういったメリットがありますか?


小宮一慶氏: 電子書籍というのは書店の棚がいるわけじゃないから、出版点数が増える点で、いいんじゃないですかね。今は出版点数が減っているから、昔だったら紙の本を出せたような人が、出版社が儲からないから出せなくなってるんですよね。それで自費出版するかというと、自費出版でも何百万かかかっちゃうわけでしょ。そうすると昔はどうしようもなかったけれど、今は電子媒体で出版すれば、出版社もリスクは少ないし、個人でだって掲示板に載せようと思えば載せられるじゃないですか。そういう点ではアマチュアの人にもいいかもしれない。もっと言うと、出版社の人でも目利きの人は素人の人のブログを読んで出版してもらったこともあると言っている編集者もいる。言い方を変えると編集者の能力差というのがすごく出る時代になっているんですよ。当てる編集者はむちゃくちゃ当てる。確か「もしドラ」だってそうでしょ。ブログの小説読んでいて面白いって言うんでダイヤモンド社が出したら、ダイヤモンド社始まって以来のミリオンセラーになっている、そのお陰でドラッカーの本までミリオンセラーになっているという。誰でも書けるようになっているから、編集者の目利き力がすごく重要なんじゃないかなと思いますけれどね。

――書き手や編集者個人個人にフォーカスがより当てられているんですね。


小宮一慶氏: もともとそういうものじゃないですか? 本なんて誰が書いたってどこで出したって売れるってものじゃないから、著者によるでしょ。その能力を引き出してやれるかも編集者の能力による。ただ昔は紙の流通で、出版社の営業力とか、書店さんへの力だとか、広告の力とかによる部分は大きかったけれど、今はもっと中身が厳選される時代になっちゃったんではないですか?

電子書籍と紙書籍の差別化、電子書籍の利便性


――電子書籍になった時に、書き手として何か変わることはありますか?


小宮一慶氏: 一つ懸念しているのは、電子書籍になると値段がすごく落ちるんですよね。そうするとそこそこ売れた著者が費用対効果の問題で書かなくなっちゃう可能性があるんですよね。本を書くことって結構大変じゃないですか。でも講演料が減るわけじゃないから、そういう意味では本を書くより講演をしていた方がいい。だから紙の媒体でそこそこの値段で出たものを電子書籍化するということじゃないと、いきなり1冊500円とか言われたら書きたくなくなるというのがあるんじゃないですか。

――紙と電子というのは並行して存在していくと思われますか?


小宮一慶氏: わからない。ただアメリカなんかは電子書籍しか買わないという顧客層がいて、紙の本を作っている人たちは、そういったところとどう差別化していくのかということですよね。日本人はいまだに紙で読みたいという人はいて、新聞もそうなんですけれど、両方の使い方を切り分けている。アメリカなんかでは「Kindleでしか読まない」「もうここ何年も紙の本を買ったことない」という人が結構いるんですよね。日本がアメリカみたいになっていくのかいかないのかは、ちょっと僕にはわからないですけれどね。

――小宮さんは紙の本が残ってほしいと思われますか?


小宮一慶氏: 著者としては、紙媒体は残って欲しいなというのはあります。僕らはもともとそういう世代だし、紙で読みたい人達だから。紙の新聞ももちろん読みますが、どこでも読めるからという理由で、新聞は電子版も読むんですけどね。ただ、電子書籍があると便利だなと思うのが、本を何千冊と1つの媒体に入れておけるところ。僕はいつも持って歩きたい本というのがあるんですね。例えばドラッカーの『マネジメント』。エッセンシャル版じゃなくて元の本です。あれは千ページくらいあるんですよ。本では重すぎて持ち歩けないけど、電子媒体だったら簡単に持ち運べるでしょ。あと例えば六法全書とか。そういうものが電子書籍化されたらすごい便利だなと思いますよね。

――参照用としての書籍ということですか?


小宮一慶氏: そうそう。僕は同じ本を何回も読みたい人なので、電子化されていたらどこでも持っていけますよね。例えば僕は松下幸之助さんの『道をひらく』という本がすごく好きなので寝る前に必ず読むんですよ。ただ東京の自宅に置いていて、年に90泊くらい出張で外泊するので、その時は読めないわけですよ。でも電子書籍なら持って行けるだろうなと思いますよね。

至れり尽くせり新聞の電子版、電子書籍の未来


――電子書籍は実際に使ったことはありますか?


小宮一慶氏: 電子書籍一回も読んだことない。僕は本に書き込みしたいし、線を引きたい人なんですよ。それができないから電子書籍は読まないんですよ。新聞は別に線がいらないので電子媒体でも大丈夫なんですけれど。

――今少しずつ書き込めるソフトが増えてきているようですね。


小宮一慶氏: 多分あと何年かのうちに私が希望に合うくらいに書き込める、線が引ける物が出来てきて、有機ELがもっと普及して軽くなってということになれば、一気に電子書籍が普及する可能性はあると思っていますけれどね。

――電子書籍の未来、進んでいくべき方向はどういったところでしょうか?


小宮一慶氏: 電子書籍しかできないことをやるべきですね。僕は法学部出身なので法律書を読む。例えば憲法9条とか出てくるところをクリックすると、憲法9条の条文や判例がそのままポップアップしてくるとか、そういうことは電子書籍しかできないじゃないですか。それからある単語や内容そのものに関係するところに、ネットでそのままつながっていろんな物が表示されるというような、電子書籍でしかできないことをしている本がたくさん出てくることに、期待していますね。

――新聞は電子版を読んでいらっしゃるんですね。


小宮一慶氏: 新聞の電子版を読むのは、関連記事がいっぱいいっぺんに表示されるからです。例えばユーロ危機の記事を読むと、過去に出てきたものだとか、日経の電子版を読んでいるとフィナンシャルタイムズの関連記事だとかの項目が、ページの下にずらーっと出てくるんですよ。そんなのは紙ではできないことでしょ? 新聞がいいのは即時性がすごくあるということで、今出たニュースが即流れてきて、随時更新されているでしょ。僕は日経の電子版を読んでいるんだけど、紙でも読んでいるのよ。朝刊を読んで、夕方は夕刊を読んで、その間に電子版を読んでという。

――電子版の新聞を使ってみていかがですか?




小宮一慶氏: 一つは深く読めるいうこと。新聞って紙面が限られているじゃないですか。さっき言ったように関連記事なんて覚えていない限り読めないでしょ。でも電子版だといくらでも過去の関連記事が読める。それと電子版は容量に制限がないから、誰々さんのコメントだとか学者のコメントがいっぱいあるわけですよ。そういう点では新聞の電子版というのは使い道があるんですよ。それともう一つは記事のクリッピングができるんですよ。日経だと250件、読売だと1000件かな? 全部取っておいてくれる。

――スクラップみたいにできるんですね。


小宮一慶氏: それともう一つは、日経だとキーワード入れておくと、それに引っかかる記事を毎日自動的に選んできてくれるんですよ。だから見落とすことがない。すごく素晴らしいんですよ。だから新聞というよりも情報のかたまりですね。それからもっといろいろあって、株式の欄に自分の持っている株を登録しておくと、今日いくらですよと計算して出てくるんですよ。他にも電子版しかやれないことがいくつもあって、地方面ってあるじゃないですか。電子版は全国の地方版が読めるんですよ。例えば僕がこれから九州に出張するとしたら、九州版が読めるんですよ。九州版を読んでから九州に行ったときに、地元の人に『こういう話ですよね』と振ると相手はびっくりするわけです。

――地元の人しか知らないと思うような内容を話していらっしゃったら驚きますね。


小宮一慶氏: すごいでしょ。日経の電子版はかゆいところに手が届くように、すごい作りこんであるんですよ。プラス1000円でこれだけの機能というのは、安くて便利ですよ。だから本もそういう物がそのうち出てきますよ。本か週刊誌か新聞か差別化できないようなものも出てくるんじゃないですか?

――コンテンツとしてですか?


小宮一慶氏: そうそう。書籍というから本をそのまま電子化したように思ってしまうけれど、そういう点で言えば、重い本を持ち歩かなくていいようになるし、それにプラスして速報性だとか動画を組み込むというのは電子書籍しかできないよね。

仕事の報酬はお金じゃない、一生懸命仕事をする利点とは


――小宮さんはそういった電子版新聞のような便利なものの情報はどこで得てますか?


小宮一慶氏: 僕は人の何倍も仕事するから、会う人の数も違うわけですよ。そうすると会った人が教えてくれるの。電子版をよく使うようになったのは、実は日経新聞の夕刊の記事の1つで、電子版の使い方を連載して欲しいという依頼があったから。だから日経新聞の電子版を使うんですよ。仕事がきっかけになって使うというのは結構多いんですよね。それで僕はiPadを買って電子版の日経新聞を読んでいる。パソコンよりiPadの方が、ずっと読むのは便利ですから。あとは情報を得るための時間を節約したいと思って、普段から少しずついろんなところにアンテナを張っているといろいろなものが出てくる。

――目の前の仕事を一生懸命取り組んだら、いろいろな情報や結果を得られるんですね。


小宮一慶氏: 仕事の報酬は次の仕事。仕事していると次の仕事がやってくるじゃないですか。そうしたらまたいろいろな人と知り合えて、いろいろなことを教えてもらえる、ということですよ。そうやっていると仕事が増えてきて忙しくなるから、より効率化するにはどうすればいいかということで、機械を使うか、違う何か新しいやり方をするかということになるじゃないですか。だからとにかく一生懸命仕事したほうがいいですよ。そうすると次のことが出てきますから。

個人の価値とは、どこに属しているかではなく、個人として何ができるか


――ご自著の中に子供が生まれて今までの自分とは違うようになってきたという箇所がありましたが、子供ができてどういったところが変わりましたか?


小宮一慶氏: 「結局自分って何だろう」と考えたんですよね。生物として子孫を残すという役割があるけれど、子供ができたということで、一応それを果たしたことになりますよね。じゃあ、大企業のサラリーマンをしていて、役割はあるけれど、自分がいなくても会社は回りますよね。それでいろいろなことを考え出すと、「自分しかできないことをやった方がいいんじゃない?」って考えるようになった。自分の能力、強みを活かせることをやろうと。

――考え方が変わったのはお子様が生まれたことがきっかけでしたか?


小宮一慶氏: 子供ができたのも一つのきっかけでしたよね。あとは、その前にアメリカに留学していたというのもきっかけだった。留学前は、いい学校出ていい会社に入ってそれに属しているのがステイタスだと思っていたけれど、向こうじゃそれって尊敬されないんですよね。別にいい会社にいるのは悪いことではないんだけれど、そこであなたは何をしているのかということが重要なんです。つまり団体としての尊敬はもちろんあるけれど、個のレベルまで落とし込まないと尊敬されないんですよ。

――その人の実績ということですか?


小宮一慶氏: 個人。全体でもいいというのは悪いことじゃないんですけれど、個人が大事ということですね。アメリカっていい意味でも悪い意味でも個人主義なんですよね。それは行ってみて気が付いた。アメリカから帰ってきてから「いい所に属していたらそれでいいか?」というところで、自分としては「物足りない」と思っていたというのもあります。銀行員は給料もいいし仕事も面白かったんですけれどね、何か自分でやってみたいなというのはありましたね。

――そんな中でいろいろな方たちと出会ってこられたんですね。


小宮一慶氏: 僕は結構運命論者なんですよ。だから全てのことは神様が決めていると思っている。出会って、お互いその出会いを活かせるか活かせないかということだと思うんですよね。だから縁を知って縁を活かすと言うじゃないですか。出会いや出来事を活かせるかどうかというのは、普段からいろんなことを考えているかとか、準備しているかということが大きいんじゃないでしょうか。

読書は安直に知識を得るものではない、読書が必要な本当の理由とは


――そういった準備する作業の一つとしての読書というのは重要ですか?


小宮一慶氏: いい本を読むというのはすごく大事ですよ。安直に知識を得るのではなくてね。知識に関して言えば、これだけネットが発達してくれば動画とか画像で得た方が早いと思うんですよ。そうじゃなくて、何度も何度も読み返して心に訴えかけるとか論理的思考力というのは、読書でしか得られないと思うんですね。「読書でしか得られない物とは何なのか」というのを良く考えた方がいいと思う。単なるノウハウだとかはビデオで見た方が分かりやすいと思うんですよね。

――想像力を鍛えるためにも読書は必要ですか?


小宮一慶氏: 文章というのはイメージ化しないといけないと思うんです。イメージでもらっちゃうと自分でイメージ化するという作業がもともとないんですよ。イメージはイメージの良いところがあるけれど、文章は自分の想像力を高めるという意味でも、そして難しいところでは論理的思考力を高められるという訓練だと思って読書するということですよね。

私が本を書く理由は、著作を通じて多くの人に役立つ喜び


――最後に2点お伺いしたいことがございます。今後やりたいなと思うことはなんですか?


小宮一慶氏: 本を100冊出したいですね。今85冊目まで出ているんですよ。もともと100冊という目標でやっていて、それは数年内に達成するんじゃないですかね。

――驚異的なスピードですよね。


小宮一慶氏: 書くことは好きだし、書くと形として残るでしょ。だから多くの人に喜んでもらえる可能性がある。それはとてもいいと思うんです。喋るのも嫌いじゃないんだけど、喋るのはその時限りじゃないですか。

――本だと、より多くの人に届けられますね。


小宮一慶氏: 例えば本を読んで喜んでくれた人がいて、「自分の人生が変わりました」とか、たまにお手紙を頂くのね。そうすると「その人に役立った」とすごく嬉しいですもんね。僕は経営コンサルタントだから経営の本もたくさん書いていて、その本を読んで「会社が良くなりました」と言ってくれる人も結構いるわけね。そうすると自分の存在意義というか、生きていて良かったなと思いますね。僕はたまたま物書きをしているので、自分の著作を通じて多くの人に喜んでもらえると大変ありがたいですよ。

読書は量より質、本は心と頭の糧


――最後に、小宮さんにとっての本、読書というのはずばりどういったものですか?


小宮一慶氏: 心と頭の糧ですよ。つまり心を豊かにする、頭を良くする、その両方の糧というのが本であり、読書ですね。さーっと本を読む人がいるけれどもったいないよね。僕はそんなにたくさん本を読まないんですよ、月に数冊ですよ、ちゃんと読むのは。その代わりきちんと読みます。何冊読んだかというより、どこまできっちり、深く読んだかが問題だと思うんですよ、深く読まないとね。

――そういう意味では、今月何冊読むという目標はあまり意味がないですか?


小宮一慶氏: 読まないより読んだほうがいいとは思いますが、私の場合には意味ないと思いますよね。それを競うのは勝手だけど、僕はそういう読み方をしないから、そういう読み方をするのはもったいないと思いますね。読んで自分の物にならないと意味ないですよ。自分の物になるというのは、読んだ内容を自分の言葉で喋れるということですよ。読んでわかったというのは、テレビを観て面白かったと言っているのと一緒なんですよ。そうではなくて、読んで自分の物になって、自分の言葉で喋れて、自分の生活とか人生に活かせないと意味がない。もっと言うとそういう本を読まないとだめなんですよ。テレビのニュースを見ているような本を読んでいたって仕方ないと思いますけどね。テレビ見た方が映像だってメッセージだって全然多いんだもの。さっきも言ったけれどイメージそのものをくれるから。そういうテレビのニュースを見ているのと同じような情報を得るだけの本も、もちろんあってもいいと思いますけれど、僕はそういう情報を得たいならテレビや画像、ネットで情報を得ますね。さっき言ったように、読書は心と頭の糧だから。イージーな時代だから余計に、「深く読んで、深く考える」といった読み方をした方が若い人には特にいいんじゃないかなと思います。

(聞き手:沖中幸太郎)

著書一覧『 小宮一慶

この著者のタグ: 『コンサルタント』 『海外』 『コンサルティング』 『学者』 『考え方』 『生き方』 『アドバイス』 『インターネット』 『可能性』 『紙』 『ノウハウ』 『テレビ』 『アウトプット』 『新聞』 『お金』 『人生』 『法学部』 『雑誌』 『世代』 『才能』 『セミナー』 『経営者』 『リスク』 『サラリーマン』 『現場』 『メリット』 『マスメディア』 『マネジメント』 『経営コンサルタント』 『自費出版』 『ミリオンセラー』 『仕事術』 『速読』

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
著者インタビュー一覧へ戻る 著者インタビューのリクエストはこちらから
Prev Next
ページトップに戻る