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世界中の本好きのために

佐々木俊尚

Profile

兵庫県西脇市生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科中退後、1988年毎日新聞社入社。警視庁捜査一課、遊軍などを担当し、殺人事件や海外テロ、コンピュータ犯罪などを取材。1999年、アスキーに移籍。『月刊アスキー』編集部などを経て2003年退社後はフリーの作家・ジャーナリストとして活躍中。IT関連を中心に様々な雑誌、媒体に寄稿。主な著書に「当事者の時代」(光文社新書)「キュレーションの時代」(ちくま新書)「電子書籍の衝撃」(ディスカヴァー21)など。総務省情報通信白書編集委員。

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―― まずはBOOKSCANをお知りになった経緯と、使ってみようと思われたきっかけをお聞かせ下さい。

佐々木俊尚氏: 4社ほどのスキャンサービス使ってみたのですが、BOOKSCANさんのものが一番しっくりきたというのが理由ですね。

―― ありがとうございます。具体的にはどんな点にメリットを感じましたか。


佐々木俊尚氏: 一番の理由は、Kindleが読みやすかったという点です。

―― チューニングラボですか。


佐々木俊尚氏: そうです。スピードはどの会社もそんなに差はないと思うのですが、結構出来上がりに大きな差があって。スキャンのムラ、読みにくい、解像度が低い、何も指定できないなどいろんな差がありました。あと、あまりにも遠隔地にあるため、届くのにものすごく時間がかかるところと。そういうことがあった中で一番使いやすかったですね。基本的にKindleで読みやすい仕上がりになるってことは、あんまりないのですよ。だからBOOKSCANさん以外の会社で『Kindleにチューニングしてあります』って謳っている割に、どこが? と思っちゃうところもあって。そんな中でKindleを読めるっていうのがかなり画期的で、具体的な理由になっています。

―― ほぼKindleを使ってらっしゃるのでしょうか。


佐々木俊尚氏: そうですね。iPadをはじめとするマルチタブレットって、何でもできるくらい何でもできてしまう、というデメリットが結構大きいのです。Kindleの場合はどんなシチュエーションで本を読むかという問題もあるのだと思います。僕の場合は書く仕事なので、パソコンは手放せないのですよ。出歩く時はほぼ100%、ノートPCを持ち歩いているくらい。そしてもう一台って時にiPadだと、でかくて重すぎる。一応持っているのだけど、iPadとMacBookAirの両方を持つのはツライ。Kindleはやっぱり軽いので、MacBookAirと一緒に持ち歩いても苦痛ではないかな。かばんの中に、本の代わりに1冊ぽんっと放り込んでおくというメリットがありますね。そういった感じでKindleが読めるものとなると、BOOKSCANのサービスが最適かなと思います。

―― Kindleの使用頻度が高いとのことですが、佐々木さんが最近読んだ本をお聞かせ頂けますか。


佐々木俊尚氏: 最近読んで面白かったのは『ブーメラン』という本ですね。『マネーボール』っていう映画が話題になったでしょ? あの映画と同じ原作者です。アイスランド、ギリシャ、アイルランドといった、リーマンショック以降に破綻しつつある国を取材して、そこで何が起きているのかを克明に調べてくれているのですね。

―― 小説とかではなく、実録ノンフィクションを主に読まれるのですね。


佐々木俊尚氏: 僕は小説だとほぼ海外文学しか読まないのです。といっても、翻訳されたものが中心ですけれど。日本の小説は実はあまり読まないのです。

―― それは、なぜでしょう。


佐々木俊尚氏: 日本の小説だから好きとか嫌いなのではなくて、今書かれている日本の小説の多くは。(ここで少し考え質問を受ける)じゃあ何のために小説読むのかって、考えたことあります?

―― 暇つぶしとか娯楽といった感じでしょうか。


佐々木俊尚氏: そうだと思います。 娯楽としてですね、日本の小説は。でも僕自身時間がないので、暇つぶしで本を読むっていう感覚はあまりないのです。本を読む、という行為はそこで新しい世界観や価値観みたいなものが開眼されるかどうか、そこが分かれ目になっています。そういう観点からすると、日本の小説というのはそれに応えてくれるものがすごく少ないように感じます。もちろん例外はあって、『1Q84』などはそういった部分がとても多いと思っています。村上春樹さんの本は大好きで、いっぱい読んでいますね。村上龍さんの本もそうです。それから伊坂幸太郎さん。それ以外では小説ってあまり読まないですね。一方、海外文学っていうのは、そういう意味で新しい世界の見方みたいなものを提示してくれる小説が多いと感じています。ヨーロッパに限らず、ラテンアメリカなどの小説もそうですね。あとはどれだけ新しい哲学を語ってくれるかが、いい本かどうかの分かれ目になっています。



―― 日本は母国語で世界中の本がたくさん読める国と聞いたことがあるのですが、やはりいろんな国の本が翻訳されているのでしょうか。


佐々木俊尚氏: そうそう、翻訳文化は盛んですよね。これは、日本語っていう言語の市場がそこそこ大きいことが理由に挙げられます。いろんな説があるのですが、ある言語を使う人口が3,000万人〜4,000万人くらいいないと、市場として出版が成り立たないといわれています。日本は1憶2,000万人いるでしょ。韓国も4,500万人くらい。それぐらいの人がいれば市場として成り立つのだけど、それより少ないと成り立たないということがあります。

―― そうなんですね。


佐々木俊尚氏: 1,000万人くらいしか市場がないと、本を出しても部数がすごく少なくなっちゃう。だから英語圏はチャンスがいっぱいある。イギリスやアメリカ、オーストラリアなど英語を母国語にしている人だけを挙げても、5億人くらいいると言われていますからね。ただ、英語を喋る人を合わせると10憶人から15憶人になると言われています。大体日本の約10倍。だから日本で100万部くらい売れる本が、英語圏だと1,000万部ぐらいになるのですよ。

―― 重要ですね。続けて子供の頃の読書状況についてもお伺いします。本は好きでしたか。


佐々木俊尚氏: ものすごく読んでいましたよ。

―― その時のジャンルはどういったものだったんでしょう。


佐々木俊尚氏: その時は、何でも読んでいました。小説から哲学書まで。うちは肉体労働系の家庭だったので、本を読みすぎて「もう本読むなって怒られたぐらいです。

―― どういった所で読まれていたんですか? 学校の図書館とか。


佐々木俊尚氏: そうですね。あとは古本屋とか、そういうところで読み漁っていました。

―― なかなか今では、古本屋巡りができないと思うのですが。


佐々木俊尚氏: そうですね。でも、アマゾンのマーケットプレイスとかだと古い本がすごく入手しやすくなっています。

―― たしかに。直送してもらえるし、すべて完結しますよね。


佐々木俊尚氏: 先般、『当事者の時代』という新しい本を出しました。それは1960年代に遡って、日本のマスメディアの源流を考える内容の本なのですが、やはり膨大な量の60年代の書籍を資料として読まなくてはいけなくて。普通だったら図書館で探すか、神田神保町で探すかどちらかしかない。それって結構手間がかかって大変なのですが、今回その手間は全くかけていません。ほぼすべての本が、アマゾンのマーケットプレイスか、『日本の古本屋』という古書店のネットワークからなるWEBサイトの2つで揃えられたのです。

―― 『Webで必要図書が全て揃えられた』ことは大きな意味を持ちますね。ちなみに資料を読まれる時は、どういった読み方をされるのですか? 普通の人だと最初から読んでいくっていう感じになると思います。




佐々木俊尚氏: そうですね。とりあえず何が書かれているか、というのを目次やまえがき、あとがきなどで一通り眺めます。それだけ見れば、大体中身がわかるので。自分にとって必要なパーツがあるかどうかをまずそこで確認して、あると分かったらちゃんと読みます。それからさらに大事なのですが、そこに書かれていることがまた別の本へと導線を引いているのです。ある本を引用していたり、参考文献が書かれていたり。自分が書いているテーマの資料を集めようと思ったら、そうした引用や参考文献を丁寧に見て、その本をまた取り寄せるというように、どんどん芋づる式に手に入れていくといい。

―― キーワードを自分の中で見つけて、その参考文献を辿っていくと、確かにそれだけで何冊分にもなりそうですね。


佐々木俊尚氏: ものすごい量の本が積み上がってくる。だから、先週出した本でも参考資料として購入した本だけで、200冊くらいはありました。

―― そんなにですか・・・


佐々木俊尚氏: すごいですよね。なんでそうなるかというと、事前に読めないから。電子書籍になってくれれば楽なのに。検索できればそこまでしなくて済むのだけど、どうしても検索しようがないので、とりあえず買ってみるしかない。買ってみて駄目だったというのが結構あるんですよね。半分以上はそうです。

―― そうですか。購入された本というのは、どういった所で保管されるのですか。


佐々木俊尚氏: 一応、本棚に置いていますが、いらない本に関しては随時BOOKSCANさんに送っていますね。

―― 毎回購入する冊数がとんでもなくて、置き場所に困りますよね。


佐々木俊尚氏: そう、どんどん増えていますね。困るのは本棚もどんどん増えていくということなのですよ。別に、持っておきたいということではないのですが、資料なので後からもう一回参照する可能性は十分にある。何年か経ってまた別の本を書くとか、何かの原稿を書く時に、読まなきゃいけなきゃいけなくなることは十分にあり得るわけです。それで80年代、70年代、60年代の本をもう一回手に入れようと思っても、手に入らないわけですね。そうすると手元に置いとかなきゃいけない。けど置いておくと汚くなるから、スキャンしておくといいんじゃないかと。まあ要するにデジタルデータ化することによって身軽になる。

―― そうですか。作家さんは四方に本棚を並べられていて、本を取っておくことが普通だと思っていたのですが意外ですね。


佐々木俊尚氏: 私はあまり抵抗ないですね。コンテンツありきなので、別に外見には興味がない。

―― なるほど。では電子書籍の今後について伺いたいと思います。『あなたは紙派ですか? 電子書籍派ですか?』などという質問もありますが、電子書籍の利便性の観点から伺えますか。


佐々木俊尚氏: 紙と電子は対になるものではないと思っています。結局、重要なのはデータをデジタル化してどうするかということです。例えば販売するのにネットで配信するほうが楽だとか、もしくはデジタル化によって場所を取られないとか、そういうことの方が重要なのですよね。デジタル化したものを管理・配信するというレイヤーと、それを何で読むかというレイヤーは実は別なのです。例えば、三省堂の神田本店に行くと、エスプレッソブックマシンっていう、プリントオンデマンドの機械が置いてあります。これはグーグルブックスの本をデジタルダウンロードして、それを印刷・製本してくれるものなのです。買いたい本を画面上で選んで15分くらい待っていると、印刷されたものが出てくる。これは電子書籍なのか普通の本なのかって言われると、見た目は紙ですよね。でも、配信はデジタル。実はこれも電子書籍なのですよ。そうすると、電子書籍の定義って一体何なの? ってなりますよね。要するに液晶などで読むものを電子書籍と呼んで、紙で読むものを紙の書籍と呼ぶのであれば、エスプレッソブックマシンは紙の書籍。エスプレッソブックマシンは紙のものだけど、配信はインターネットによるデジタル配信であることを考えると、要するに媒体じゃなくて配信システムの方が重要ということです。だから、媒体は読みたいもので読めばいいんですよ。僕は、本を執筆するときは全部パソコンで書いていきます。でも、書き終えてからそれを推敲するわけですよね。結構時間を掛けて推敲するのですが、その時は必ずプリントアウトしています。1回プリントアウトすると、かなり分厚くなりますよ。それから赤いペンで修正を入れていく。そっちの方がやり易いのです。そういうのはやっぱり紙の方が向いている。だから好きなようにすればいい。デジタルで管理されていたとしてもプリントアウトして見るか、iPadのような液晶で見るか、あるいは電子ペーパーやKindleといったもので見るか、それは個人の自由だと思います。

―― リーダーと配信システムっていうのはレイヤーが分かれているんですね。


佐々木俊尚氏: そう、レイヤーは別だということですよね。メディアのビジネスというのはコンテンツと、配信システムであるコンテナ、さらに配信システムが何の媒体に乗っかるかというコンベアの3層に分けられているんです。例えば新聞っていうのは新聞紙がコンベア、媒体なのです。そして配信している印刷物流が、コンテナ。テレビも同様で、テレビっていうのは1日の編成に分けて、番組を無料で見せて広告で儲けるっていう仕組みがコンテナ。その番組を配信する電波がコンベア。だから配信システムとコンベアは同じなのです。

―― なるほど。


佐々木俊尚氏: 別に僕は紙が嫌いだとか一言も言ってないけど、なぜか紙派じゃないみたいなことを言われているのは、そういう意味でちょっと違うのではないかなと。

―― いま電子書籍は過渡期にあると思いますが、どういった段階にあると思われますか。


佐々木俊尚氏: 今はまだ何も始まっていないですよね。英語圏であるアメリカ市場で起きている現状と、日本の現状とではあまりにも差がありすぎるので、どの段階って言うのは非常に難しいかな。アメリカの話で聞くところによると、やっぱりセルフ・パブリッシングが普及してきていて、去年のKindle Eストアのベストセラーランキング ベスト10のうち、3〜4作品というすごい数がKindle DIGITAL PUBLISHING(KDP)から出版されたものになっているようです。

―― そうなると、ますますプロアマの垣根がなくなっていくということですね。




佐々木俊尚氏: そうですよね。それは定められた方向性じゃないかなと思います。あとは、よくTSUTAYAでビデオを借りる時に、テレビシリーズの1作目だけ無料で映したりしていますよね。ああいう感じでシリーズ小説の1作目だけKindleストアで無料配信して、2作目から有料にするとか。今までの書籍にはない販売方法がすごい勢いで増えてきている、というのは事実ですよね。日本はまだKindleストアも始まっていないのでどうなるかわからないのですが、もしそういう条件が整備されれば、同じようになる可能性は極めて高いんじゃないかな。ただ、日本でなぜ電子書籍が普及しないか、ということもよく言われています。全然普及しないじゃないかって怒る人もいるぐらい。国産のプラットフォームがちょうど1年くらい前から出てきたのですが、電子書籍といえどもやっぱり書籍なので、蔵書感覚っていうのがとても大事ですね。要するに自分でこの本を持っている、という感覚。国産のプラットフォームはその安心感がまったく無いと感じます。例えばシャープのGALAPAGOSは、一時撤退報道とかされましたよね。あの時みんなどう思ったかというと、「GALAPAGOSで買った本はどうなるの?ということ。アンドロイドのアプリでやっていますよと言っているのだけど、今後GALAPAGOSリーダー向けの本が追加されない状況の中で、いつまでそのアプリが使えるかどうか。一生読めるの? と聞きたくなるのもわかります。本は買って10年後とかに読んだりすることもあるわけじゃないですか。そんな息の長い商品なのに、安心感がなくてどうなのか、というところはあります。ものすごい勢いで自炊サービスが都市部で流行っているというのは、その辺りが強い影響を与えているのではないかな、と思います。

―― リーダーはどれでも構わないということでしょうか。


佐々木俊尚氏: そう、PDFだと永久に所有できる。この安心感はすごく大きいです。GALAPAGOSやソニーを持っているよりも、PDFの方が断然安心感があるというのは、逆転的。例えばKindleストアのブラウザサービスが出てくると、その安心感は相当あるのではないかな。今までアマゾンのやってきたサービスが信頼感を蓄積しているから、そこを期待している人は非常に多いと思います。仮に今春くらいに、Kindleストアのブラウザサービスが進む可能性も考えられますよね。

―― そうですね。では10年先20年先の読書スタイルはどのように変わっていくと思われますか?


佐々木俊尚氏: 方向性は2種類あると言われていて、間違いなく進むのはクラウドですよね。でもこれはもうKindleが実現している。Kindleクラブリーダーみたいなものも実現しつつあるので、この方向性は間違いないでしょう。ただその先は、読む側の問題というよりもプロダクト側の問題だと思うのだけど、本の作られ方がどう変わるのかという所がとても重要ですね。多分、ユーザーの読書スタイルはそんなに変わんないのではないかな。タブレットがもっと進化して、より薄く軽くということはあるかもしれないけれど、それは些細な話。さきほどの話で出てきたように、今は配信システムをデジタル化するという大変な進歩をしている。今まで印刷物流だったのが、デジタル配信になったわけです。 これはすごく大きな変化ですよね。その上で何の媒体で読むかというのは、多少違いはあってもそんなに大きな変化はないと思います。例えば紙みたいにくるくる丸められますよっていう商品が出てきたとしても、そう変わるかというとそんなに変わらないと思いますよ。

―― そこは些細なことなのですね。


佐々木俊尚氏: そう。読み手側からすると媒体の変化は些細な話ですよね。だから重要なのはプロダクトの評価です。そして、いま書籍のWEB化っていうのは大きいのではないか、といろんな人が言っていますよね。ひとつはマルチメディア的な、画像とか音声とか動画みたいなものが組み込まれた、いわゆるリッチコンテンツになっていく可能性。また、WEB化っていうのはリッチコンテンツ化とは別にもう1方向あって、WEB化によってコミュニケーション媒体となり、書くことによって人が反応する。コメント欄やツイッターで反応があるとか。そういう反応が起きて結果的に最初に書かれたもの、だけではなくてそれに対する反応も含めてひとつの大きなコンテンツになっていく、というのがWEBの文化の特徴なわけです。 書籍っていうものはそうじゃなくて、間接的だと思う。本は単体で存在している。そこでいろんな人が反応する、あるいは議論も起きる。そういうことも含めた2次コンテンツ化みたいなものを、書籍に組み込まれるかどうかというのは、結構大きなテーマですよね。

―― 読者の顔が明確に見えてくるわけですね。それによって執筆スタイルが変化することは?


佐々木俊尚氏: あり得るでしょうね。将来のコンテンツはただのパッケージではなくて、コミュニティー化するのではないかと言われるようになったのです。コミュニティー、もしくは“場”と置き換えることもできるかと思います。今までのコンテンツというのはひとつの単体でした。 単体だったものがある日、“場”になる。つまり、真中にコンテンツがあって、そこから沸き起こってくる議論の全体図をひとつの場として考える。その場というコンテンツが生まれてくるのではないかなと思います。ある本を読んだ時、その本に対してどう反応するか。その反応に対してコンテンツがどう動き、どう反応するのか、そこまで含めて消費される。そうなってくると、本の書かれ方から劇的に変わってくると思うのです。読者との掲示板上でのやり取りそのものが本の在り方を変えていった。そういう方向性はこれからも出てくる可能性があると思う。ただ、それは携帯小説のようなベタな形じゃなくて、もっと洗練された形になると予測できるでしょうね。具体的にどういったものになるか、はっきりしたことはよくわかりませんが。

―― 私もちょっと想像がつきません。


佐々木俊尚氏: そうですよね、生まれて来ないものは想像できない。

―― 音楽で考えた場合、パソコンの中にデータがあって聴ければいいという感覚が私にはありますが、それを電子書籍に置き換えると、生まれた時にすでにインターネットがある今の10代は、私たちがあえて『電子』って枕言葉をつけるようなものを、ブックとして捉えるようになるかもしれないですね。我々が小さいと思っている携帯の画面で読むことも、当たり前になっていくかもしれません。


佐々木俊尚氏: そう、いろんな変化が起きてくる可能性はある。音楽の世界ではiTunesがありますが、最近は月額いくらで聴き放題っていうのが流行っていますね。あれも書籍の世界で起こり得るのではないかと思っていて。実はもうKindleがプレミアム会員向けに、10冊まで無料で本を貸すレンタルサービスを始めていますよね。要するに月額アプリにして、その範囲内で本が読み放題になるっていう。その場合、執筆者は無料レンタルに本を提供してしまえば、本の売り上げがなくなる。でも、その場合はアマゾン側がレンタル数に応じて報酬を提供している。そうした経由でものすごく収入を得ている人もいます。だから無料の本を読む場合、レンタルで読む場合、自分が1冊1,000円出して読む場合、というように本の購買行動が変わる可能性がありますよね。



―― 読み手側のスタイルも変化するということですね。こうしたスタイルを変えていくのは我々と、インターネットネイティブ世代の果たす役割が大きそうですね。


佐々木俊尚氏: もちろんそうですね。電子書籍出して『売れない』という声が聞かれます。電子書籍はソーシャルメディア上で宣伝するのが有効だと思いますが、Twitter使ったり、Facebookやブログだったり、そういうのを全くやらないでいてそれで「売れませんって言っても、売れるわけない。そういう存在を知らない世代が電子書籍を牽引していくのは、難しいでしょうね。

―― 紙の概念から抜け切れてないということですね。


佐々木俊尚氏: そうそう。だからこれからの電子書籍ビジネスを担うのはベンチャーだと思います。だから、Kindleのような安定したプラットフォームが出てきたら、それに付随して新しいビジネスを考える人達がたくさん現れてきた。今までもそういう人たちはいたのだけれど、何かやろうと思っても古いシステムの壁があって、全然参入できなかったわけです。それも大きく変わる可能性はあるのではないかな。

―― そうなると絶版っていうのもなくなりますよね。


佐々木俊尚氏: うん、そうですよね。

―― 最後に、書斎とワークスペースのこだわりをお聞きかせ願えますか。


佐々木俊尚氏: 片付けることですね。極力ものは減らして、まったく何もない状態にしています。だから積み上げるのは資料の本くらい。あとは片付けています。散らかっていると落ち着かないので、何もない状態で書いています。

―― ありがとうございます。最後にBOOKSCANに対して今後期待される点を伺えますか。


佐々木俊尚氏: クラウドを進めてください。大分やってらっしゃると思いますけどもっと使い易く。

―― 更なるクラウド化を?


佐々木俊尚氏: そう。あとはちゃんと継続していただければ。日本ではどんなに電子書籍化が進んだとしても、古い本の電子化はなくならないと思いますね。100年は大袈裟かもしれないけど、数十年は。昔の書籍に関しては契約書さえ交わしていなくて、二次使用の規約が契約書に盛り込まれてないケースも結構ある。そうすると、そういった本を電子書籍化するのは大変な訳です。結局その問題があるから業界としてもデジタル化する動きを始めたわけですが、ああいうことをやらざるを得ないですね。古い本に関しては、すべてが電子化されるのは当分先なのじゃないでしょうか。とはいえ、全部テキストに起こすと逆に膨大な手間がかかるのでそこまではできません。だからいま行われている出版業界の試みも、画像で電子化させるというところまでです。国会図書館もそういうところまでしかやってません。

―― そうですね。


佐々木俊尚氏: 国会図書館もそれらを、OCRにかけるのはできない。一応、実験は去年くらいから始めているようですが、膨大な手間がかかる。古い活版のものをOCRにかけてもほとんど読み取れない。それを人力でやるってなると、またものすごいお金かかるし。だから、当分は古い本は画像で処理するしかない。ということは、実はBOOKSCANさんがやっていることとあんまり変わらない訳ですよ。

―― そうですね。


佐々木俊尚氏: ものすごく遠い先にはスキャンされた書籍を何らかの形で共有できないだろうかって話が出てくるだろうし、その時に初めて自炊ビジネスが巨大な市場になって、国会図書館や出版業界とも、何らかの折り合いをつけるような話も出てくるんじゃないかな。そのくらいになるまで成長していただきたいなと。最大手としてメジャーに入ってきて欲しい、と非常に期待しています。

(聞き手:沖中幸太郎)

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