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飯間浩明

Profile

1967年生まれ。香川県高松市出身。早稲田大学第一文学部卒業。早稲田大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得。現代日本語を専門とし、国語辞典の編纂に従事。早稲田大学などで非常勤講師も務める。NHK Eテレ「使える!伝わる にほんご」の講師を担当。 著書に『三省堂国語辞典のひみつ』(三省堂)、『辞書に載る言葉はどこから探してくるのか?―ワードハンティングの現場から』(ディスカヴァー携書)、『辞書を編む』(光文社新書)、『ことばから誤解が生まれる―「伝わらない日本語」見本帳』(中公新書ラクレ)など。

Book Information

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読者と一緒に言葉を楽しむために、辞書の面白さを広めていく



国語辞典編纂者で、『三省堂国語辞典』編集委員を務める飯間さん。辞書の資料とするため、新聞や雑誌、テレビ、インターネット、それに街の中などから、日本語の実例を広く収集しています。その成果は、国語辞典本体だけでなく、著書『ことばから誤解が生まれる』『辞書に載る言葉はどこから探してくるのか?』『三省堂国語辞典のひみつ』などに反映されています。特に、実際に辞書ができる過程をつづった『辞書を編む』では、国語辞典の編纂にかける情熱と、辞書の面白さを語っています。その一方、NHK Eテレ「使える!伝わる にほんご」では講師を務め、同局の「ことばドリル」でも監修を担当しています。文章の言葉、会話の言葉、若者言葉、子供の言葉など、とにかく日本語に関するものには何でも興味を示し、片っ端から記録する毎日。日本語をこよなく愛する飯間さんに、国語辞典の多様性や、辞書の世界に入るきっかけになった“ある出会い”、そして今の時代における辞書の役割や使い方について語っていただきました。

辞書にはそれぞれのカラーがある


――執筆活動のほか、テレビやラジオなどでも発言されていますね。


飯間浩明氏: 編纂者として、国語辞典というはこういうものだ、ということを伝えたいんですよ。三省堂の人から「エヴァンジェリスト(伝道師)のように、辞書の面白さを広めようとしていますね」と言われたこともありますが、私自身もそのつもりでいます。一口に国語辞典と言っても、その個性は色々です。複数の辞書を横に置いて読書や勉強をすることの楽しさを分かってほしい。「辞書はコモディティ(日用品)化した書籍だ」と、ある人がTwitterでつぶやいていましたが、たしかに、今はインターネットで、誰もが同じ辞書を、しかも無料で使っています。「Yahoo!辞書」「goo辞書」などがそうですが、ここに入っているのは、実質的には『大辞泉』または『大辞林』という辞書です。約26~27万語を収録しています。それで、「これだけあれば、もう事足りる。他の辞書は要らない」という意見もあります。でもそれは、信頼できる1人の友人としか付き合わない人間関係のようなもの。例えば、『大辞泉』君というよくできた友達がいて、何かあったら「君はどう思う?」と頼りにする。それは悪くないし、実際、『大辞泉』は本当に優れた辞書なのですが、もっと他にも友達を作ってはどうですか、ということを言いたいのです。

――「1人だけ」の意見を聞いているのは、もったいないですね。


飯間浩明氏: そうでしょう。辞書にも、誤りや不十分な説明もあるかもしれない。あるいは、正確ではあっても、説明がどうもストンと腑に落ちないとか、もう少し違うニュアンスの説明を聞きたかったとかいうこともあるかもしれません。色々な人と付き合えば、それだけバランスの取れた考え方が養われるようになりますよね。辞書も人間と同じで、それぞれカラーが大きく違うのですが、一般の人にはなかなか理解してもらえません。「多少言い回しが違うだけで、似たようなものでしょう?」と思っている人も多いようです。

――読み比べてみないと、なかなかわからないでしょうね。


飯間浩明氏: では、比べてみましょうか。例えば『大辞林』で「鶏」という言葉を引いてみると、“キジ目キジ科の鳥。原種は東南アジアの密林にすむセキショクヤケイ。農耕の開始とともに家禽として飼養されるようになり、用途に応じた改良がなされ、多くの品種が生じた。弥生時代にはすでに日本に渡来していた。採卵用の白色レグホン、食肉用のブロイラー・名古屋種、闘鶏用のシャモ、観賞用のオナガドリ・チャボなどの品種がある。くたかけ。とり”と非常に詳しく載っています。『大辞林』は百科事典的な性格が強いのです。でも、この「鶏」という言葉を隠して、“キジ目キジ科の鳥、原種はアジアの赤色野鶏です。弥生時代には渡来していました”と聞いて「鶏のことですね」と分かる人がどれだけいるでしょうか。つまり、百科事典的な文章は、言葉としての鶏を必ずしも説明しません。その点、『三省堂国語辞典』(通称『三国』)は別の書き方をしています。“たまご・肉をとるために飼う鳥。頭に赤いとさか(鶏冠)があり、あごの下にも肉がたれている。ほとんど飛べない”、そして“「こけこっこう」を見よ”と書いてあります。それで「こけこっこう」の項目をめくってみると、“ニワトリの鳴き声”と書いてある。百科事典的ではありませんが、イメージは浮かびやすいでしょう。

ものの見方を示した辞書を作る


――辞書によって切り口や目的といった性格が、全く異なるんですね。面白い。


飯間浩明氏: 切り口も、編纂の目的も違うんです。例えば文学作品で少し難しい鳥の名前が出てきた時に、これは一体どういうイメージでこの文章を読めばいいのだろうと悩むことがあります。何科の鳥という情報が書いてあっても、小説の中の一場面は浮かんできません。百科事典的な説明よりも、ものを描写するタイプの説明が必要な場合があります。『三国』の「アザミ」の項目は、かなり大胆ですよ。“とげの多い野草の名。タンポポに似た赤むらさき色の花をひらく”。タンポポを赤紫色に塗って、とげをつけるとアザミのイメージができあがるというわけです。多くの人は辞書を1冊ぐらいしか持っていないし、人によってはネットの辞書しか見ていません。でも、今は、『三国』を始め、数種の辞書がスマートフォンのアプリになっています。今お持ちの辞書以外に、カラーの異なる辞書をもう1つ加えることを勧めたいですね。



――飯間さんは、どんな辞書を目指しているのでしょうか。


飯間浩明氏: 『三国』は小型辞典なので、語数では二十何万語の大型辞典には太刀打ちできません。私たちは、語数よりも、ものの見方を示したいのです。『三国』がひそかにライバル視しているのは、同じく三省堂から出ている小型辞典の『新明解国語辞典』です。例えば「凡人」という項目にはこうあります。“自らを高める努力を怠ったり功名心を持ち合わせなかったりして、他に対する影響力が皆無のまま一生を終える人”。少し言い過ぎのような気もしますが、面白いですよね。こういう辞書だと、「これを1冊、家に置いておこう」という気持ちになります。こんなふうに、『新明解』は、“読者をニヤッとさせる”というキャラが立っていて、実に羨ましい。一方、『三国』の「凡人」は、“ふつうの人”“つまらない人”と、要点のみを簡潔に書いています。ただ、例文には“偉大なる凡人”というのを載せました。普通の人でも偉大な場合もあるという、『新明解』とは違った見方を示しました。また、インターネットでよく取り上げられるのは「恋愛」です。『新明解』の「恋愛」は詳しいですよ。“特定の異性に対して他の全てを犠牲にしても悔い無いと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと”とあります。一方、『三国』は、“(おたがいに)恋をして、愛を感じるようになること”と短いですが、その「恋」を調べると、“人を好きになって、会いたい、いつまでもそばにいたいと思う、満たされない気持ち(を持つこと)”と書いてあります。このうち「満たされない」という部分に共感してくださる人が、けっこう多いんです。恋が満たされれば、愛に変わります。「恋しい」とは、基本的に目の前にいない相手への感情で、“不満足”の要素があります。それを念頭に置いて説明を書きました。新しい言葉を辞書に入れるということも大事ですが、すでにある言葉に関して「この説明でいいのかな」と吟味することも重要です。説明の語句の細かいところまで大切にしたいと思っています。

著書一覧『 飯間浩明

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