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世界中の本好きのために

金田一秀穂

Profile

1953年東京都生まれ。祖父の金田一京助(言語学者) 、父の金田一春彦(国語学者)に続き、自身も日本語研究を専門とする。東京外国語大学大学院を修了。その後、中国大連外語学院、コロンビア大学などで日本語を教える。1994年、ハーバード大学客員研究員を経て、現在は杏林大学外国語学部教授を務める。また、インドネシア、ミャンマー、ベトナムなどでも日本語教師の指導を行う。独特のキャラクターでテレビ出演も多く、「NHK日本語なるほど塾」で『ようこそ!言葉の迷宮へ』、「世界一受けたい授業」「雑学王」「Qさま」など、お茶の間でも親しまれている。

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ある時は励まし、ある時は慢心をいさめる。それが自分にとって良い本



金田一秀穂さんは、祖父は言語学者の金田一京助、父は国語学者金田一春彦という日本語研究者として著名な学者の家系に生まれ、現在、ご自身も大学で日本語学の講義をする傍ら、国語学者として研究を重ねておられます。日本語に深い理解があり、関連の著書も多数著されている金田一さんの、本に対する考え方やとらえ方、本とのつきあい方などについて、また電子書籍についてのお考えなどを伺いました。

現在は大学での日本語教育と日本語研究が主な仕事


―― 一般の方がイメージされる金田一先生のお仕事と、実際のお仕事にはずいぶん開きがあると思うのですけれども。現在、どんなお仕事をされているのかお話しいただけますか?


金田一秀穂氏: 本来の仕事は、大学で教えるということですね。それから日本語教育という外国の人に日本語を教えること。そして、日本語を教える先生を養成する、いわゆる日本語教師養成というのが基本的な仕事です。それが大体、週3日〜4日ですね。で、それ以外の仕事では「心地よい日本語とはどういう日本語か」というようなテーマで話をする地方公演などの仕事があって。3つ目に、ものを書く。それは雑誌の連載や、連載していたものを本にまとめるという仕事がいま、うんざりするぐらいあります。それ以外の時間にテレビに出たり、このような取材を受けたりということです。

――では普段のお仕事は、やっぱり大学の研究室でなさるのですか?


金田一秀穂氏: そうですね。研究室か、自分の家の書斎でします。

――書斎は、どのような感じなのでしょうか?


金田一秀穂氏: パソコンはありますけれども、本もありますね。ただ、本は必要なものだけが側にあって、あとはもう、どこかへしまい込んで(笑)。

――お持ちの本は、どのぐらいの量ですか?


金田一秀穂氏: 膨大だから困りますね。後で見つからないから大騒ぎするんです(笑)。でも、ともかく、しまい込まないとあふれちゃいますからね。最近、引っ越したんですよね。新しい家に引っ越したのはいいんですが、本は全然出していない。段ボール箱が幾つあるって言ったかな、忘れちゃった、何十とか。何百かもしれない。それはいまだに開けていません(笑)。どこに何があるかも、忘れていますよね。で、自分の本というのはもうキリがないですから。困っています。でも、自分の本・・・蔵書を電子化できればすごいですね。

仕事上の研究には電子化データを駆使


――電子書籍自体は、先生ご自身は利用されたりしますか?


金田一秀穂氏: もちろん使うこともあるんですけれども、あんまり利用しないですね。「コーパス」という言語学の電子化データがあって、言葉について調べないといけないことがある時は、インターネットの電子図書館である『青空文庫』などに行って、この言葉を調べたいと入力して、ということはしますね。そういう意味では使う。だから調べるために使うのであって、いわゆる楽しむための電子図書の利用はないですね。何か知りたいと思った時に、仕事上の研究のために使う。

――その場合に使用する機器というのは、パソコンですか?


金田一秀穂氏: はい、パソコンです。PCです。ええっと、学校ではいま、古いのを使っていますね(笑)。昔のですね。Microsoft WindowsNTでしたっけ、Windowsの、かなり古いのです。家ではWindows7です。あとはiPadを時々持ち歩いています。

――iPadには、書籍やPDFデータなどの資料も入っているのですか?


金田一秀穂氏: いや、そういうのは入っていないですね。インターネット辞書・事典検索サイトのジャパンナレッジというところへつなぐと便利なので(笑)。あとはメールとかで使いますけれども。

――iPadを使うことによって何お仕事のスタイルは変化しましたか?


金田一秀穂氏: いや、スタイルは変わらないですね。せいぜいプラスアルファちょっと便利になったかなぐらいで、あんまり関係ない(笑)。目的の場所をちょっと調べたい時とか、肝心な時に接続がよくない。ネットとか使うというのは、大事なものに対しては、いまだに自分の中でどうしても不安が残るんです。もし、いざという時にうまく接続できなかったらどうしようとか。だからネットとかバーチャルな世界って嫌いなんです。

話すこと、議論することが、考えることにつながる


――そういう意味では、地図もそうですが紙には絶大な安心感がありますね?


金田一秀穂氏: そうなんですよね。頭ひとつというか、口ひとつですよね。だからPowerPointとかね、「使いますか?」と聞かれるんだけど絶対使わないです。授業でも使う人が多いんですけれども、ダメなんですよ。使えないんです。使うことの意味が分からない。

――金田一先生はどういったスタイルの授業をされるんですか?


金田一秀穂氏: PowerPointにビデオを入れて講義をする先生方は多いですが、実物を見た方が分かりやすいというのがあるんですよね。だから使いはするんですけど、私はしゃべるだけです。

――書いたりはされないのですか?


金田一秀穂氏: 黒板を書きながらしゃべる。授業の時はね。それだけです。プリントも配らない。

――プリントを配らないというのは、何か理由があるのですか?


金田一秀穂氏: 昔ソクラテスという人がいましたね。ソクラテスはプラトンにいろいろなことを話す。でも、ソクラテス自身は絶対に本を書かない。文字を書かないんです。どうしてかというと、ソクラテスは文字が大嫌いなんですよ。本が嫌いなんです。どうして本が嫌いかというと、本というのは記憶力をおとしめると。要するに、書いちゃえば覚えなくて済むじゃないですか。だから記憶力が悪くなるんだっていう。それから文字で書かれた本は、間違いを訂正しないというわけ。

――間違いを訂正しないとはどういう意味でしょうか?


金田一秀穂氏: 本には文字が書いてあるでしょう。書かれちゃった文字は同じことしかいわないじゃないですか。だからけしからんというわけ。間違いを訂正できない。それから、文字で書かれたものに対して、「私はここを聞きたい」と思っても答えてくれない。つまり文字にしちゃった途端に内容は非常に固定されてしまう。それから誰がいったかもよく分からない。で、アノニマスである、要するに無名性がある。ソクラテスは、本当にインターネット批判と全く同じことをいうんですよね。

——では結局、ソクラテスはどうやって勉強したのですか?

金田一秀穂氏: 賢い人がどこかにいるという話を聞き、そこへわざわざ行くわけですよ。その先生といろいろ話をして、分からないことを聞き、批判もする。すると向こうが反論し、という形で、しゃべりながらお勉強するわけですね。この先生がこういったということも覚えておかなくちゃいけないし、そうやって人というのは学ぶのだと。大学で教えていて、そういうことはすごく思うんですけれども。例えば本で習うこと、覚えればいいことであれば教室へ来る必要がないんですよね。

――先生もソクラテスと同じご意見ですか?




金田一秀穂氏: だから、今や教室でやることの意味が問われているわけですよ。放送大学とかって、それは先生との距離が離れてどうしようもなければ、それはしょうがないですけれども、もしそれでいいのだったら学校なんて解体していいわけですよ。そんなの必要ない、コンピューターでやっていればいいわけでしょう。家でやっていればいい。私も、大学に行かずに家でカメラの前でしゃべっていればいい、みたいになるじゃないですか。でもそれは教育というか、人が本来、考えている、考えるということへの自殺行為でもあるわけですよ。だからネット学習だとかネット大学だとか、そういうのももちろんいいんですよ、しょうがなくてすることはあります、学校に行けないからって。でもそうじゃない限りは、やっぱり人と会って、知恵ある人に学ぶ。で、知恵ある人に対して自分の知恵を出して、お互いに切磋琢磨し合って、人というのは賢くなるのだと。それがソクラテスのいうことだし、それはいまでも基本的には変わらないだろうと思うんですね。だから、そういう意味であまり文字とかインターネットとか便利な道具には頼らないことにしているんです。(笑) 偉そうだっていわれるかな、まずいな(笑)。

著書一覧『 金田一秀穂

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